ある楽師の物語
第十話 ソニー・フラット
その日は朝から兄さんは店を空けており、私と数名の従業員で店を切り盛りしていた。
「マコさん、マチェットさんの所に配達行ってきますね」
「ええ、お願いね」
私の名はマコ・キャンベル。兄のマオ・キャンベルと共にこのハンター街イリオスで素材屋キャンベルを営んでいる。
「マコさん、なんか表の方が騒がしいですね」
「あら何かしら」
「ちょっと見てきましょうか」
「いいわ。私が行ってくる」
店の外に出てみると何やら人だかりが出来ていた。
「何かあったんですか?」
「ああマコちゃん。どうも行き倒れらしいんだ」
「行き倒れ?」
人混みをかき分け前に進むと、そこに居たのは泥だらけの服で地べたに横たわる一人の男、旅人のようだが顔に生気はなく、どうやら気を失っているようだ。
「この人を店の中まで運ぶので誰か手を貸して下さい」
「おうよ、任せときな」
その場に居た力自慢のハンター達は男を軽々と持ち上げると、そのまま店の奥まで運び込んでくれた。
長椅子に寝かせ介抱していると、やがて男は目を覚ました。
「こ、ここは……」
「ここは素材屋キャンベルよ。あなた店の前で行き倒れてたの」
「行き倒れ……」
目が覚めたばかりでまだ混乱しているようだった。無理もない。
「何か食べ物持ってこさせるからそこで安静にしててね」
「え、ええ……」
従業員の一人に世話を任せ、私は店に来ていたお客の対応に戻った。
やがて夜になり男もだいぶ落ち着いたようだった。
「何があったか話せる?」
「私はソニー・フラットと申します。旅の途中で他の人達とはぐれ、あてもなく何日も彷徨っていました……。生きるのに必死で自分がどこを歩いてるのかも分からぬまま、何日も何日も……そして気がついたらここに居たのです」
「あなたはなぜ旅をしていたの?」
「旅をして見聞を広めたかったのです。旅先で演奏し日銭を稼ぎ、意気投合した他の旅人や商人、ハンター達に同行させてもらい旅をしていました」
「要するに旅の楽師なわけね」
「その通りです」
その時ソニーは何かを思いついたように慌てて手荷物を探り始めた。
やがて何かを見つけると突然悲鳴のような声をあげた。
「ど、どうしたの?」
「私の楽器が……」
そこには折れた一本の笛があった。
おそらく彷徨っているうちに何かの拍子で折れてしまったのだろう。
「直せないの?」
「こうなってしまっては新しく作るしか……とはいえ商売道具がこれではお金を稼ぐことも出来ません」
ソニーはすっかり意気消沈してしまった。
「なら、仕事を探すしかないじゃない」
「……え?」
「だってそうでしょ。このまま何もしないままじゃ解決しないわ。あなた音楽の他に何か出来ることはないの?」
「そうですねぇ……料理なら多少腕に覚えがあります」
「ならこの街で料理出来る仕事を探しましょう。私も手伝ってあげるから!」
「おお、あなたはまさに救いの女神だ!」
「女神じゃなくてマコよ。マコ・キャンベル。それじゃ明日から早速仕事探しに取り掛かりましょう」
「分かりましたマコ様!」
こうして旅の楽師ソニーの仕事探しが始まったのである。
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