第十一話 宿屋ハンターズレスト

 イリオスの街で飲食に関わる店で、かつ私が行ったことのある場所となるとそう多くはない。

 しかし最初からどこに向かうかは決めていた。


「ここが酒場、ドラゴンスケイルよ」

「おお、まさに大衆酒場といった感じですね」

「ここなら年中忙しいしきっと働かせてくれるはず……たぶん」


 扉を潜ると早速ロゼリアが出迎えてくれた。


「マコちゃん! こんな早い時間からどうしたの?」

「あ、えっと、ロゼリアさんにお願いがあって」

「あら、マコちゃんの頼みならなんでも聞いてあげるわよ」

「実はこちらの旅人のソニーが働き口を探していて、ここで働かせて貰えないかなって」

「初めまして麗しのマドモアゼル。旅の楽師のソニー・フラットと申します。以後お見知りおきを」


 そう言って仰々しくお辞儀をするソニーだがロゼリアは特に気にする様子もない。


「ロゼリア・イアハートよ。よろしくね。ところであなた料理は出来るの?」

「もちろんでございます」

「ならいいわ。うちで働かせてあげる。丁度猫の手も借りたいと思ってた所だから」

「良かったわねソニー!」

「ええ、これもマコ様のおかげでございます!」

「マコ様はやめてよね」

「なんだかよく分からないけど喜んでもらえてなによりだわ。それじゃ早速明日にでも来てもらえるかしら」

「かしこまりました!」


 ロゼリアと別れを告げた後、次なる問題はソニーの滞在先の確保だった。

 兄さんの許可なしにキャンベルに泊めるわけにもいかないので、一先ず旅人がよく利用する宿屋へ向かうことにした。


「ハンターズレスト……ここね」

「旅人はよくこの宿屋を利用するのですね?」

「そのはずよ。私はこの街の住民だから来たことないけど……」


 木造の少し古い建物の中に入ると、受付に居たのは少し膨よかな中年の女性だった。


「いらっしゃい」

「あのー……初めての利用なんですけど、部屋空いてますか」

「ええ、まあ一応空いてますけど、何日くらいの滞在ですか?」

「それがまだ決まってなくて、泊まるのはこちらの男性だけなんですけど」

「長期滞在なら一ヶ月毎に金貨五枚頂きますよ」

「金貨五枚……一先ず一月分は私が立て替えるからちゃんと働いて返してよね」

「何から何までありがとうございます。この御恩一生忘れません」

「困ってる人を見たら手を貸すのは当たり前じゃない。特にこの街の住人は、人情に厚いのよ」


 別れ際、ソニーは何度も何度もお辞儀をして私を見送っていた。

 兄さんが帰って来たらこの変わった旅人の話しをしてあげよう、そんな事を考えながら私は帰路についた。

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