第二話 酒場ドラゴンスケイル

 仕事を終えた俺はマコと共に早速ハンター達の集まる酒場ドラゴンスケイルへと向かった。

 ハンター街ということだけありこの酒場の客もハンターが多い、そこに目を付けたのだ。


「ここなら何か良い情報が集まるかもしれない」

「良い情報って例えば?」

「最近発見された新種のモンスターの情報、流行りの防具に使われる素材、とかね」

「そう上手くいくかなあ」

「駄目でもともとさ。マコは飲むのはジュースだけにしとけよ」


 店内はまるでお祭りのような活気で満ちていた。


「マオ! それにマコちゃんじゃないか! 仕事はもう終わったのかい?」

 

 声をかけてきたのはこの酒場の店主であるロゼリアだ。

 街でも評判の美貌、それでいてハンター達に負けない程の逞しさを合わせ持つロゼリア、その彼女が若くしてこのような立派な店を築けたのには理由がある。

 もともとこの店は十年前の事件で彼女が難民に対して行った炊き出しから始まったのだが、最初はただ街の復興の手助けとして始めたそれがいつしか評判になり、彼女の料理に励まされた者達が力を合わせて作り上げたのがこの店というわけだ。


「ちょっと情報収集を兼ねて飲みに来たんだ」

「相変わらず仕事熱心だね。あんたら食事はちゃんと食べてるの?」

「そういえば晩飯もまだだったな……マコは何にする?」

「じゃあライ麦パンとドラゴンテールのシチュー、あとミルク」

「さすが食べ盛りね。マオはどうする?」

「じゃあ俺はエールとソーセージとパンを貰おうかな」

「あいよ。仕事も良いけど食事は欠かせちゃいけないよ」


 出来たての料理に舌鼓を打ちつつ周囲を見渡してみると歓喜に沸くハンター達の集団が見て取れた。


「あそこの一団は何かあったのか? まるでお祭り騒ぎのようだが」

「ああ、なんでも多額の懸賞金がかかった真名の付いたモンスターを倒したとかでさっきから大騒ぎしてるよ」

「なるほど……話を聞いてみる価値はあるかもしれないな」


 真名とはあまりにも強い、または希少な個体を区別する為に古い時代の言葉を用いて付けられた名である。

 手早く食事を終えるとエールを片手にハンター達の集団に接触してみることにした。十数名からなるその集団はおそらく同じハンターギルドに所属するハンターなのだろう。だいぶ酒も進んでいるらしく今であれば情報を得ることも容易そうだ。


「やあ皆さん随分と景気が良さそうだ。聞けば懸賞金の付いたモンスターを倒したとか、いったいどんなモンスターを倒したのか一つ聞かせてもらえませんかね」

「おうおう聞いてくれるか俺たちの武勇伝を」


 そう応えたのは一団の中で最も年長のハンターで、その体に散見する傷跡の数々が戦いの凄まじさを物語っていた。


「やつは東にある深い渓谷を根城にしているモンスターで名をブラヴェントゥス。意味は黒き風だ。やつは身軽でな、普段は強靭な爪で壁に張り付いて獲物を待っている。谷の深い所はあまり日も差さず薄暗いから黒い体のやつは目立たないってわけだ。そして一度獲物を見つけると前足の飛膜を使って滑空し一気に襲い掛かるのよ。俺たちは何ヶ月も掛けてやつを追い続けてきた。そしてついに討伐することに成功したのさ」

「かなり凄まじい戦いだったようですね」

「おうよ。やつの鱗は丈夫だからなかなか刃も通らない。それでもなんとか追い詰めて最後に罠に嵌めてやったのさ。もちろんこっちも無傷じゃ済まなかったがな。だが傷はいつかは癒える。傷跡が残ることもあるがそれも生きてさえいれば勲章よ!」

「なるほど……ところでその倒したモンスターは今どうなっているのですか?」

「ああ、懸賞金を付けた首長の代理人が討伐の確認にギルドに来てな、てっきり俺は賞金と引き換えにモンスターの亡骸も接収されるかと思ってたんだが、どうやら目的は素材じゃあなく討伐そのものにあったらしい。おかげで全身丸ごと俺たちのギルドのもんってわけよ。今頃解体されてる頃じゃねえかな」

「もう買い手は付いているんですか?」

「いや、そういう話はまだどこにも持ちかけてねえな」

「そういうことなら話が早い。是非一度そのモンスターを見せてもらえませんか?」

「お前なにもんだ?」

「申し遅れました素材屋キャンベルの店主マオ・キャンベルと申します」

「ああ、その名は聞いたことがある。兄妹で素材屋をやってるんだってな。まあ俺らは基本的に狩った素材は自分達で使っちまうが、値段次第では売ってやってもいいぜ」

「私達が求めている素材であれば高値で買い取らせてもらいますよ」

「なら明日にでもここに来な」


 そう言って渡されたのは彼らのギルドの位置が書かれたメモだった。


「ありがとうございます。必ずお伺いします」

「ああ待ってるぜ」


 別れの挨拶を済ませると俺はロゼリアに捕まっていたマコを連れ戻し家路につくのだった。

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