素材屋はじめました!

teru

黒き風 ブラヴェントゥス

第一話 素材屋キャンベル

 俺の名前はマオ・キャンベル、ハンター街イリオスで妹のマコ・キャンベルと共にモンスターの素材屋キャンベルを営んでいる。

 このイリオスの街は十年前、巨竜侵攻と呼ばれた歴史的大災害により一度壊滅の危機に瀕した。けれども周囲の街からの支援、そして力強く生きる街の人々の力によって今この街は以前よりも活気に満ちている。


「よお旦那。良い毛皮は入ってるかい?」


 素材屋ではハンター達が狩ったモンスターの素材の買い取り、販売を行っている。

 ハンター達にとっては大事な収入源の一つであり、一般の客からすれば貴重なモンスターの素材を安全に入手出来る場所でもある。したがって素材屋はこのイリオスの街にとっては無くてはならないものなのである。


「毛皮でしたらこちらのアイスウルフの毛皮なんてどうでしょう。毛皮なのに冷気を帯びているので身に纏うと涼しくなるという珍しい品ですよ」

「なるほど、これで夏用コートを作れば一儲け出来るかもしれないな……よし買った!」

「まいどありー、ついでにこちらのアイスウルフの牙もいかがです? 水晶のように綺麗ですので加工すればアクセサリーにですね……」


 どんな素材も無駄にしない、それが俺のモットーだ。

 接客を終え一息ついているとマコから呼び出しがかかった。どうやら大事な用件らしい。


「兄さん、鍛冶屋のマチェットさんが来てるわよ。相談したいことがあるって」

「そうか、鍛冶に使う素材の話だろう。すぐ行くよ」


 マチェットはイリオスの街にいくつかあるハンター用の武器や防具を作る鍛冶工房の一つを営んでいる。

 見た目は大柄で筋骨隆々、巷ではそこらのハンターよりも腕っ節が強いのではとさえ言われており、性格も職人気質で素材に一切の妥協は許さない、それゆえ度々こうして相談を持ちかけてくるのだ。


「おお、無理を言ってすまんなマオ。実は先日ある貴重な鉱石を入手したのだがこれの扱いに困っていてな、デュラン鉱石というのだが、非常に頑丈で軽く防具にするのに適している。既に防具の注文も入っているのだが、依頼人はこれに何かしらのモンスターの素材を組み合わせた鎧を作れと言ってきている。金に糸目を付けないとも言っているのだがどのような素材を組み合わせるべきか悩んでいてな……何か良い案はないだろうか」

「その依頼人というのはどのような方なんですか?」

「とある貴族の御抱えのハンターで腕も非常に立つという歴戦の猛者だ。専属の鍛冶職人もいるようなのだがその職人が事情があって今は仕事は出来ないそうだ」

「なるほど……分かりました。こちらでもいくつか候補を出しておきますので後日またお越しいただけますか」

「助かるよ。他に何か聞きたいことがあればいつでも言ってくれ」

 

 この手の依頼は珍しいことではない。客の求める条件にあった素材を提供するのも素材屋の役目なのだ。


「それで兄さん、素材を欲しがってる客はどんな人なの?」

「とある貴族の御抱えハンターで腕も優秀、金に糸目は付けないそうだ」

「へぇ……じゃあ火山地帯に生息するゴールデンワイバーンの鱗なんてどう? いかにも貴族様が好きそうじゃない」

「いや、あくまでもこの防具を着るのはハンターだ。コレクションとして飾るならまだしもこれじゃ派手過ぎる。それにだ、貴族の御抱えハンターなら貴族の狩りに付き合ったりもするはずだ。そんな時に主を差し置いてこんな派手な防具を着ていたら目立ってしょうがないさ」

「なるほどねぇ……じゃあどうするの? 派手過ぎるのは駄目、かといって地味過ぎるのも貴族の御抱えハンターには合わなそうだけど」

「俺たちだけで考えても埒が明かないな。そうだマコ、今日の仕事が終わったら少し出かけないか」

「私は良いけどどこに行くの?」

「そりゃ仕事終わりに行くところと言えば決まっている。酒場だ!」


 ハンター達が夜な夜な集う酒場、そこはモンスターに関する生きた情報が集まる場所なのだ。

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