第八話 リリア・クラウゼン

「まず今回使用した素材についてですが、これはグレイハウンドというギルドが狩猟したブラヴェントゥスというモンスターの素材を使用しております。このモンスターは真名付きということもあり、素材の価値に関しては通常のモンスターと比べ物になりません」

「確かに、それ程のモンスターであれば予めマチェット殿に渡しておいた金額では足りないでしょう」

「とは言え、不足額をこちらで立て替えるようなことはしておりません。素材を使うにあたりグレイハウンドのギルドマスターから出された条件は別にありました」

「と、言いますと?」

「まずはこちらを見て下さい」


 例の宝石は厳重に施錠されたケースに入れていた。

 俺はケースを取り出すと鍵をサミュエルに手渡し開けるように促した。


「こ、これはなんて大きな……一体これをどこで?」

「これはブラヴェントゥスから採取されたモンスタージェムです。額の中央に第三の目のような器官があり、実際瞼のように開閉してこれを外部に露出出来たのでしょうが……そこにあった物です。ギルドマスター曰く暗闇で光を反射するこれで獲物を誘き寄せたのではないかと」

「なるほど、本体がこれだけ黒く暗闇に溶け込むモンスターなら疑似餌として利用した可能性はありますね」

「ええ、その通りです。そしてギルドマスターはこの宝石を売りその売上金から今回の素材の使用料を支払うという条件を付けてきました」


 サミュエルは少し考え込んでいるようだった。

 無理もない、恐らくこの宝石の価値はサミュエルが想定していた金額を軽く越えるだろう。


「……その条件、恐らく我が主でなければ満たすことは出来ないでしょう。マオ様、あなたには是非一度我が主と会って頂きたい」

「もちろん、こちらとしてもお断りする理由はございません」

「でしたら明日、もう一度屋敷に来て頂けますか。私の方から話を通しておきますので」

「かしこまりました。では明日、再びお伺いさせて頂きます」


 その日はそのまま昨夜泊まった宿に戻り、翌日約束通り再び屋敷を訪ねた。

 前日同様に出迎えてくれたサミュエルに案内され、ついに屋敷の主と対面することとなった。


「お嬢様、お連れ致しました」

「あなたね、サミュエルから話しは聞いているわ」

「マオ様、こちらが我が主、リリア・クラウゼン様でございます」

「お会いできて光栄ですリリア様。私めは素材屋のマオ・キャンベルと申します」


 第一印象のリリアは見た目は気品溢れるお嬢様、しかしその身に纏う雰囲気はおしとやかというよりは高飛車という感じがした。


「それで、商談に来たということだけれど、どのような物なのかしら? 早く実物を見せてちょうだい」

「はい、こちらでございます」


 先日と同じケースから件の宝石を取り出しリリアの前へと差し出した。

 リリアはじっとそれを見つめていたがその表情には明らかに驚愕の色が見えた。


「マオ! こ、これを一体どうやって手に入れたの!?」

「これは今回の防具の素材となったモンスターから採取された物です。そして、そのモンスターを狩ったハンターギルドのマスターから、この宝石の販売を委託され、こうしてお持ちした次第です」

「信じられない! こんな素晴らしいモンスタージェム今だかつて見たことないわ!」


 リリアは感嘆の声を上げながら宝石を手に取りまじまじと見つめていた。

 やがて落ち着きを取り戻すと宝石をケースに収め、再びこちらへと向き直った。


「私は美しい物が好きよ。それがモンスター由来の物であるならばなおさら」

「はい、私も専属のハンターを雇うようなお方であれば、この品の素晴らしさを理解して頂けると思っておりました。そしてその考えはこの屋敷に入ってすぐ確信へと変わりました」

「入り口の剥製を見たから、ね?」

「その通りでございます」

「あなた気に入ったわ。庶民とは思えない程の洞察力、そして何よりこの素晴らしい品を真っ先に私の所へ持ってきたこと。良いでしょう。このモンスタージェム私が買い取ります」


 そう言うとリリアはサミュエルに金貨を持ってくるように命じた。


「金貨二千枚、これで足りるかしら」


 今までこれ程の大金を見たことはなかった。

 そのあまりの輝きに思わず息を呑んだ。


「も、もちろんでございます」

「それとマチェットと言ったわねあの鍛冶屋。彼にも後ほど報酬を届けさせなくてはね、サミュエル」

「はいお嬢様。すぐに手配しておきます」

「マオ、このモンスタージェムはなんというモンスターの素材だったかしら?」

「ブラヴェントゥスでございます」

「ならこのモンスタージェムはヴェントゥスアイ(ヴェントゥスの瞳)と名付けるわ。いいわね?」

「もちろんでございます。ヴェントゥスアイ……素晴らしい名前です」

「そうでしょう、そうでしょう。マオ、もし今後このような物を再び手に入れたらまた私のもとに来なさい。いくらでも買い取ってあげるわ」

「かしこまりました」


 そう言って俺は深々と頭を下げた。

 

「マオ、商談は上手くいったのか?」

「ええ、これ以上ない程の成果ですよ」


 屋敷を後にした俺はマチェットと合流し、意気揚々とイリオスへの帰路についたのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る