第十八話 動く丘

 翌朝、ダインの案内で私とザック、ヴォルク、ソニーは森の奥へと向かった。

 鬱蒼とした森の中は日があまり差し込まず、湿った空気が肌に纏わりつくような感覚に私は強い不快感を覚えた。


「気をつけろ。ここの森に生息する生き物の中には毒を持ったやつもいるからな」

「ど、毒ですか」

「まあ迂闊に触ったりしなければ平気っすよ」

「マコ様は何があっても私がお守りします」

「ははは、立派な心がけだな」


 先頭に立つダインは私達が進みやすいよう障害物となる植物を鉈で切って道を作りながら進む。


「ここから少し上り坂になるな」

「あとどれくらいかかるんですか?」

「分からん。そんなに遠くはないと思うんだが」


 進むにつれあたりに生えている植物の様子が代わってきたことに気づいた。

 鬱蒼としたことに変わりはないのだが、それは普通の植物とは違いまるで……。


「これです! 私の求めていた素材はこれですよ!」


 ソニーの歓喜の声に合わせたかのように急に地面が揺れだした。

 立っているのもやっとの状態で私はなんとか近くの木に掴まって体勢を立て直した。


「なんてこった。いつの間にかプラントタートルの背に乗っていたのか」

「嘘……こんなに大きいなんて」

「やっとお目当てのやつが見つかったっすね」


 今まで体の大部分を地面の中に潜らせていたプラントタートルはそのままゆっくりと巨体を持ち上げた。

 立ち上がってみればその大きさはアルバトロス号よりも大きく、ちんけな私の想像など軽く越えていたのは言うまでもない。


「これ、危なくないですか?」

「プラントタートルは温厚な性格だ。こちらが何もしなければ何もしてこないさ」


 ヴォルクとザックはすぐさま進行方向を確認しに行った。


「あっちが頭のようだな。移動してみるか」

「どうやら川に向かってるみたいっすね」


 プラントタートルはゆっくりと歩を進めながら川へと向かう。

 途中口元に届くまで高く伸びた木々の先端をまるでつまみ食いするかのように食べていた。


「ここらの木々の天辺部分はみんなこうしてこいつに食われてるのさ。だからそれ以上木が高くなることはない。その分横に横にと枝を伸ばすからジャングルの下は日の光が差し込む隙間もないんだがな。逆にこいつの背に生えた草木は地面に生えた木より高い位置で目一杯日の光を浴びれるからよく育つのさ」


 ダインの説明を聞きながら、地面が動くという奇妙な感覚に戸惑いつつも、私はそれと同時に抑えきれない高揚感を感じていた。

 やがてプラントタートルが目的の川へ辿り着き、水を飲む為再び地面に腰を下ろしたのか揺れはそこで収まった。


「今のうちに採取するっす」

「笛に適した物となると細長くなるべく節が少ない物が良いのですが……なかなか見つかりませんね」

「もっと奥まで探してみましょう」


 手分けして探したおかげか、条件にあった物をすぐに数本見つけることが出来た。

 またプラントタートルが動き出す前に手早く採取を済ませると、一同は村へと戻ったのだった。

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