第四話 モンスタージェム
マチェットから防具完成の報せが届いたのはそれからおよそ一ヶ月後のことだった。
「マオ、例の防具が完成した。約束通り納品する際は依頼人に会わせるつもりだがいつなら都合が良い?」
「こちらとしてはいつでも問題ないですよ」
「そうか、では明日の朝迎えに行く。数日は帰れないからそのつもりでな」
マチェットの話を聞いて早速旅支度を始めた。
依頼人の住む場所はイリオスからだいぶ離れており馬車でも片道で丸二日はかかるとのことだった。
ヴォルクに託された例の宝石は鍵を掛けたケースの中に入れておいた。
「俺が留守の間、店番頼んだぞマコ」
「私一人じゃないし大丈夫、それよりちゃんと商談成功させてきてよね」
気合を入れて背中を叩くマコ、今回の商談が今までのものと性質が異なることを理解しているのだろう。
翌日、マチェットは馬車を伴って店の前まで迎えに来た。
二人と荷を乗せる馬車の他にも大人数が乗れる大型の幌馬車も用意されていた。
「あの馬車はどうしたんです?」
「依頼人が手配してくれた。大きい方は護衛のハンター達を乗せる馬車だ。道中何が起きるか分からんからな」
目的地への旅は存外快適なものだった。
馬車に揺られながら外の景色を眺めていると遠くにモンスターの姿も見える。
「あれらは襲ってこないんだろうか」
「今見えてるのは比較的温厚な種類ですね。あそこにほら、クリスタルエルクが、あの角は名前の通りクリスタルで出来ています。毎年生え変わるのでハンターでない人でも生え変わる時期に探せば比較的楽に入手出来ます」
「ほう、それは面白い」
「大きさによっては結構な値段で売買もされていますね。ああいったモンスターから入手出来る美しい鉱石の類は総じてモンスタージェムと呼ばれています」
普段素材として見かけるモンスター達が生きて動いている様子はとても新鮮だった。
マチェットも同じ気持ちだったのだろう。道中はずっと外を眺めモンスター達の様子を観察していた。
「ここらで少し休憩しましょうか」
道の近くに小川を見つけた護衛のハンターがそう提案してきた。
人間同様、朝からずっと馬車を引いてきた馬達も休ませる必要があるのだ。
「マコちゃんは店番か」
「ええ、マコは行きたがってましたけどね。お店のこともありますんで」
「あの小さかったマコちゃんがすっかり立派になったもんだ」
「今のマコにならいつでも店を任せられますよ」
そう言いながら俺は昔のことを思い返していた。
マコが生まれてすぐ母は病気でこの世を去り、巨竜侵攻という事件でハンターだった父をも亡くしたこと、そしてマコと二人で生きていく為に素材屋キャンベルを初めた時のことを。
「そろそろ昼食にしませんか。用意は出来てますので」
マチェットと話している間にハンター達が昼食の準備をしてくれていた。
近くで獲ってきたウィングラビットを捌いて香草を入れたスープにし、ライ麦パンをナイフで切るとそれを皿に乗せて手渡してくれた。
「ほう、ウィングラビットか」
「この翼の部分から良い出汁が出るんですよ」
「シンプルな味付けなのに美味しいですね」
「所謂ハンター飯ってやつです。現地調達が基本になるのでシンプルな料理が多いんですよ」
昼食を終えると一行は目的地を目指し旅を再開したのだった。
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