第二十一話 アンナ・ルーデン

 仕事を終えた俺は足早にドラゴンスケイルへと向かった。

 アンナは先に着いていたらしく、二人分のテーブル席を確保してくれていた。


「お疲れ様、まずは乾杯しましょ」


 グラスを掲げエールで乾杯。

 店内は今日も大賑わいだがアンナはどうもそんな気分ではないようだ。


「何か悩みでもあるのか?」

「どうして?」

「いや、あまり元気なさそうだから」

「マオには全部お見通しなのね」


 アンナは少し思案した後、ゆっくりと口を開いた。


「私のお父さん、若い頃は仕事一筋って感じで結婚するのもだいぶ遅かったの。だからもう結構高齢で、この前自分はそろそろ隠居して牧場の経営を私に任せようかって言ってたの」

「まだまだ元気そうに見えたがなぁ」

「まあね。でもやっぱり若い頃みたいにはいかないみたい。モンスターを相手にする仕事だからなおさらなのかしらね。正直この仕事は好きだしいつかはこういう日が来るとは思ってたけれど、やっぱりどうしても不安になるのよね」


 一先ず腹ごしらえをする為料理を注文することにした。

 ウィングラビットのピザとソーセージの盛り合わせ、追加のお酒はルビーアップルを漬け込んだ果実酒だ。

 

「ねえ、マオは素材屋キャンベルを開いた時不安とかなかったの?」

「そりゃ俺も不安だったさ。でも病弱だった母さんをマコが産まれてすぐに亡くして、十年前のあの事件でハンターだった父さんも亡くした。まだ幼いマコを守る為には俺が頑張るしかなかったんだ。泣き言なんて言ってられなかった」

「そっか。そうだよね。なんかごめんね……」

「いや、でも実際俺一人じゃどうにも出来なかったんだ。父さんの昔のハンター仲間やマチェットさんにロゼリアさん、それにアンナの両親もそうだ。色んな人に支えられたおかげでここまでやってこれたんだ」

「父さんと母さんが……」

「そうさ。最初の頃なんて赤字同然の価格で素材を卸してくれてたんだ。感謝してもしきれないくらいさ」

「ふふ、確かに父さんならそれくらいやりそうね」

「だからアンナ、不安になる気持ちも分かるがお前は一人じゃない。色んな人が支えてくれるはずだ。もちろん俺もな」

「マオ……もう、カッコつけすぎ!」


 顔を逸らし目を擦ったかと思うと、今度はぐっと顔を上げる。

 その表情はもう先程までのアンナとは違い、いつもの明るい笑顔をこちらに向けていた。


「ありがとマオ、何か元気出たみたい」

「いつものアンナに戻ったみたいで何よりだよ」

「ねえ、せっかくだからもっと飲みましょ! 店員さーん!」


 その日は夜遅くまでアンナと二人で楽しく飲み耽った。

 翌日二日酔いになったのは言うまでもない。

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