イリオス祭

第二十話 牧場ルーデンファーム

 年に一度イリオスでは街を挙げての大きなお祭りが催される。

 もちろん地区ごとのイベントは他にもあるが、街全体が合同で行う祭事となるとこれ限りである。

 年に一度ということもあり遠方からもたくさんの観光客が訪れる為、商売人としてはこれ以上ない稼ぎ時でもある。

 その為様々な素材の需要が一気に高まる時期でもあるのだ。


「兄さん。素材の依頼がこんなに来たんだけど……」

「ああ分かってる。とりあえず納品可能な物からどうにかするしかないな。それ以外はグレイハウンドに捕獲依頼を出しておこう。後は……」

「牧場の方にも連絡してみる?」

「そうだな。時期的にも収穫出来る素材があるだろうし、明日にでも行ってくるよ」


 翌日イリオスの郊外にあるモンスター牧場、通称ルーデンファームへと向かった。

 ルーデンファームはジャック・ルーデンとその妻リサ・ルーデンが経営する牧場で、ここでは家畜化に成功した様々なモンスターを飼育している。

 いつまでも元気な二人だが高齢ゆえに最近では一人娘であり俺の幼馴染でもあるアンナ・ルーデンも牧場の経営に携わっている。

 先日マコが連れてきたプラントタートルを預けたのもこの牧場だ。

 牧場へ向かう前にルーデン一家が住む家を訪ねるとリサ夫人が笑顔で出迎えてくれた。


「あらマオ君こんにちは、よく来たわね」

「どうもこんにちは。ご主人は今牧場ですか?」

「ええ、主人は朝からロングホーンシープの様子を見に行ってるわ。そろそろ毛刈りの時期ですしね」

「丁度良かった。シルバーウールの依頼もたくさん来ているんです」

「あらあら、そういえばそろそろお祭りの時期だったわね」

「他にもゴールデンダックの卵、レインボーフィッシュ、タイガーブルの毛皮等色々と……」

「毎年のことながら大変そうね。ひとまず牧場の方に行きましょう」


 リサ夫人に連れられて牧場へ向かうと、既に一仕事終え泥まみれになりながら休憩しているジャックとアンナに会うことが出来た。


「おやおや、マオじゃないか。どうだい今年のモンスター達は皆立派に育ったろう」

「このロングホーンシープ、毛並みが見事ですね。それに養殖が難しいとされているレインボーフィッシュがこんなにたくさん、しかもどれも大きい」

「毎年この時期の需要が多いからな。思い切って養殖池を拡張したのさ」

「どれもイリオスが初めて家畜化に成功させたモンスター達ですから観光客にも大人気ですよ」

「マオ、この前連れてきたプラントタートルの様子見てく?」

「そうだな、順調に育ってるかい?」

「もちろんよ。あの子達とっても食欲旺盛なの」

「ところでアンナ、すっかり仕事が板についたみたいだけど、いい年した女性が顔に泥付けたままってのはどうかと思うぞ」


 俺の言葉に不意を突かれたのかアンナは顔を真赤にしながら慌てて顔の泥を拭い取った。

 プラントタートルはアンナの言葉通り順調に育っているようだった。

 背中で作物を育てるにはまだしばらくかかるだろうが、どのような作物が育つのか今から非常に楽しみでもあった。


「それでマオ、どの素材がどれくらい必要なんだ?」

「こちらの目録に全て書いてありますが、中にはわりと急ぎな物もあるみたいです」

「ふむ……まあ問題なかろう。期日までには全て届けるよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 用事を済ませ帰路に着こうとした時、アンナが声をかけてきた。


「ねえマオ、もし今日この後時間あったら一緒に食事でも行かない?」

「俺は構わないが、牧場の方は大丈夫なのか?」

「ええ、お父さんには許可もらったから大丈夫」

「ふむ、それなら今夜、場所はドラゴンスケイルでどうだ?」

「ええ、良いわね。それじゃあまた後で、楽しみにしてるわね」


 嬉しそうに駆けて行くアンナを見送り、俺もキャンベルへと急ぐのだった。

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