第十五話 ソニズキッチン
旅の間ソニーはアルバトロス号の厨房を任されていた。
食料庫には保存の効く様々な食材が積まれており、調理に使う器具も新品で店の厨房と比べても遜色ない物であった。
「ハーブに香辛料、塩漬け肉まであるとは。料理のしがいがありますねぇ」
「今日は何を作るの?」
「この塩漬け肉を使ってシチューを作りましょう」
「それじゃ私も何か手伝うわ」
「ではこのじゃが芋の皮を剥いて頂けますか?」
「任せてちょうだい」
グレイハウンドは少数精鋭とはいえ全員分の料理を作るとなるとその分量は必然的に多くなる。
その為、使う食材の量も普段家で作る料理と比べかなり多くなっていた。
「さすが、包丁の扱いが上手ですね」
「一応家では料理もちゃんとしてるのよ」
材料はじゃが芋と豚の塩漬け肉の他にニンジンやタマネギ、トマト、風味付けにニンニクやローリエも加える。
そしてこの料理で一番のポイントはなんと言ってもデミグラスソースである。
「このソースはお店で仕込んでいた物を持ってきました」
「じゃあこれさえあればドラゴンスケイルの味がどこに居ても再現出来るってわけ?」
「その通りです」
「いっそソースだけで販売したら良いのに」
「なるほど! それは良い案ですね。帰ったらロゼリアさんに提案してみましょう」
トマトの皮は湯剥きし、食べやすい大きさに切った食材を巨大な寸胴に入れ煮込んでいく。
火が通ってきたら赤ワインにニンニク、ローリエ、最後にデミグラスソースを加える。
「後はしばらく煮込んで最後に味を整えて完成ですね」
「ふう、疲れた。この量の料理を作るって大変なのね」
煮込んでいる間に皿やバゲットを用意しておく。このあたりは普段から酒場で働いているだけあって手際が良い。
「マコ様、皆さんを呼んできてもらえますか?」
「ええ、すぐ呼んでくるわ」
私はすぐさま呼びに行こうとした。ところが空腹なハンター達は私が呼びに行く前から美味しそうな匂いを嗅ぎつけ食堂の周りに集まりはじめていた。
「呆れた。あなた達暇なの?」
「いやあ面目ないっす。美味しそうな匂いに釣られてつい」
「リヴィエラあなたまで……」
「いえその、私はたまたま通りかかっただけでして、その……」
「まあいいわ。もうすぐ準備出来るから中で待ってて下さいね。私はヴォルクさんを呼んでくるから」
「マスターと他数名は飛空艇の操舵があるから来れないっすよ。自分が後で届けるっす」
「そう、じゃあ先に頂きましょうか」
ソニーの作ったポークシチューはハンター達に大好評だった。
「美味いっす! リヴィエラの料理とは大違いっす!」
「どういう意味ですかそれ! ああでも本当に美味しい……」
「もっとしずかに食べれないのかしら。ねえ、ソニー」
「でも私はこういう賑やかな食卓も好きですよ。まして自分の作った料理をこれだけ喜んで食べて頂けたら、それこそ料理人冥利に尽きるというものです」
「ま、それもそうね」
「ソニーさんおかわりっす!」
「あ、あのソニーさん私にもおかわりを……」
「はいはい、いくらでもありますよー」
大人数での食事はとても楽しく、ハンター達はまるで本当の家族のように見えた。
そんな光景を見ながら私もソニーのシチューを存分に味わったのだった。
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