第十六話 山奥の村クレムナ

 飛空艇アルバトロスには食堂や宿舎だけでなく、娯楽施設や風呂まで完備されていた。


「ほんとなんでも揃ってるし何より装飾が綺麗ですよねこの船」

「もともと貴族たちが乗るような船だからな。外装も内装も派手だろう。いずれもっと俺たち好みに塗り替えるつもりだがな」

「ヴォルクさんはどうして飛空艇を?」

「ハンターをやってるといつも思うのさ。飛んで逃げていくモンスターを見てどうして俺は空を飛べないんだと。あと一歩ってとこで取り逃がしちまう、あの悔しさったらねえからなあ。だが飛空艇さえあればどこまでだって追っていける。今まで捕まえられなかったモンスターもこいつさえあれば捕まえられる。それだけじゃない、まだ見ぬモンスターにも出会えるかもしれない」

「まだ見ぬモンスター?」

「ああ、人力じゃ行けないような高い山の上や谷の向こう側、普通の船じゃ越えられない海流のその先、そんな過酷な所にいるモンスターはどいつもこいつも普通じゃねえはずだ。この前狩ったブラヴェントゥス、あいつもそういった所から来たんじゃねえかって俺は思ってる」

「過酷な場所で生き残った強いモンスターが弱いモンスター達の生息域に踏み込めば、たちまちその生態系の頂点に立つってことですね」

「ま、そういうことだな」


 雲間を抜けて先へ進むとやがて険しい山岳地帯が見えてきた。

 山と言っても草木はなく、まるでモンスターの背に生えた棘のような鋭い岩山の頂き付近は雪に覆われており、とてもじゃないが人力で越えるのは不可能のように思えた。


「陸路ならこの山は大きく迂回しなきゃならん。が、飛空艇ならその必要もないわけだ」


 ヴォルクから手渡された望遠鏡で山を眺めていると驚くべきことにこんな険しい山にもモンスターの姿が見えた。


「あれはアイスウルフの群れだな。寒い地域を好むから温かい時期はああやって雪の積もる山頂付近に移動するんだ。集団で自分たちより大きな獲物にも襲いかかる厄介なやつらだ」

「山頂付近にも何か飛んでる」

「あれはアイスワイバーンか。体に冷気を帯びていて迂闊に近づけば氷漬けだ。恐らくあの山の生態系の頂点だろう」


 飛空艇はなおも高く上昇し続け、山のさらに上空を越えて進む。

 雪山を越え、深い谷を越え、濁流の川を越えたさらにその先へ進むと、やがて深い緑に覆われた大地が見えてきた。


「見えてきたっす。あれがクレムナっす」


 森の中を流れる小さな川の付近に人々が住む木製の家屋が見えた。

 街というよりは村、いくつかの集落の集まりのようだった。


「昔ながらの暮らしって言えば響きは良いっすけど、要するにあんまり発展してないんすよ。山奥だから滅多に人も来ないし外の文化の影響を受けないんす」

「あの家の素材、もしかして」

「ああ、あの笛と同じ材料を使ってるっすよ」

「やっぱり。イリオスの建物とは随分雰囲気が違うのね」

「まあ地域によって建築様式は様々って感じっすかね」

「私イリオス以外の場所に行ったことなかったから知らなかったわ。ところでこれ、どこに着地するの?」

「もうちょい下流の方にいけば開けた場所があるはずっすよ」


 ザックの言う通り下流へ進むと彼の言う通り開けた場所にでた。

 雑草は生い茂っていたものの大きな樹木はなかった為、ひとまず飛空艇をそこへ着陸させた。


「ここはもともと畑だったんすよ。でもだいぶ前の大雨で川が氾濫してみんな流されちまったんで、それ以降畑は別の場所に移したんす」

「なるほど、それでここだけ木が生えてないのね」


 ヴォルクはハンター達を飛空艇の見張りと村へ向かう者の二手に分けた。

 そして私とソニーも村へと同行することになったのだった。

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