第六話 サミュエル・クライン

 翌朝、マチェット共に再び馬車に乗せられ依頼人の待つ屋敷へと案内された。

 マチェットは昨夜泊まった宿にいたく感激したらしく、道中ずっとその事ばかりを話していた。

 案内された屋敷はこの美しい街の中でも一番の豪邸で、御者の話しではこの地域を治める領主の娘が住む屋敷とのことだった。

 屋敷の門を潜ると眼前に広がる見事な庭園に目を奪われた。

 余程腕の良い庭師が居るのだろう、綺麗に剪定された木々や色とりどりの花々、水が豊富な地域だからだろうか、ここでも豪華な装飾が施された噴水が勢いよく水を噴き上げていた。


「お待ちしておりました」


 出迎えてくれたのは執事風の黒いフロックコートを着た長身の男性だった。


「これはこれはサミュエル殿、お出迎え感謝致します」

「マチェット様、遠路はるばるようこそお越し下さいました」


 サミュエルと呼ばれたこの男性とマチェットは既に面識があるようだった。


「マオ、こちらは依頼人のサミュエル殿だ。サミュエル殿、こちらは素材屋のマオと申します」

「初めましてマオ様、サミュエル・クラインと申します。以後お見知りおきを」

「あ、ああ申し訳ありません。突然のことで少し驚いておりました。素材屋キャンベルを営んでおります。マオ・キャンベルです。どうぞよろしく」


 マチェットには依頼人はハンターと聞かされていた。しかしこのサミュエルというハンターは、今まで出会ってきたどのハンターとも違う印象を受けた。

 今まで関わってきたハンターと言えばどちらかと言えば粗野で逞しいイメージだが、サミュエルは紳士的で洗練された執事のようである。


「屋敷内ではこの服装でいるよう主から仰せつかっているのですよ」


 こちらの考えを見抜いたかのようにサミュエルはそう言って微笑んだ。


「さあさあどうぞ中へ、早速依頼の品を見せて頂きたい」

「そうでしたな」


 屋敷に一歩踏み込むと真っ先に目に入ったのは天井から吊るされた今にも動き出しそうな黄金のワイバーンの剥製だった。


「見事な物でしょう。主はモンスターに関する品を集めるのが趣味でして、これもその一つです」

「これはあなたが狩ったのですか?」

「ええまあ、私一人ではありませんがね」

「コレクションは他にもおありで?」

「ええ、展示用の別室に保管されております」

「それはまた、是非とも見てみたいものですね」

「後ほど、主に頼んでみましょう」


 案内された部屋もまた別の意味で展示室のようだった。

 部屋中に様々な武器、防具が飾られており、そのラインナップは実用的な物から観賞用の宝飾が施された物まで様々であった。


「ここは武器庫になっています。中には観賞用で実際には使わない物もありますが」

「これらを制作した人物は相当腕の立つ職人だぞ……」


 マチェットですら関心するような作品の数々、それらはサミュエルが懇意にしている職人が作った物だと言う。


「非常に腕の立つ職人なのですが、最近は歳を取り後身の育成に励みたいとおっしゃっておりまして」

「それで私に依頼したのですな」

「その通りです。マチェット様の作品は一度この目で直に見せて頂きました。どれも素晴らしい作品の数々、新しい防具の制作はこの方に頼むしかないと主に進言したのです」


 そう語るサミュエルの仕草にどこか違和感を覚えた。


「サミュエルさん、もしかしてどこかお怪我を?」

「……気づかれましたか。三ヶ月程前に狩りで少々怪我をしてしまいまして、その際防具も大きく破損してしまったのです。幸い命に別状はありませんでしたし、傷ももうほとんど良くなっておりますので、今は療養で鈍った体を鍛え直す為に少しずつ鍛錬をしているところです」

「破損した防具はどうしたので?」

「それならそこに飾ってありますよ」


 サミュエルが指さした先にはモンスターの牙か爪によって破損したであろう防具が飾られていた。

 見事な防具ではあったが、長年モンスターの攻撃から主を守るうちに耐久力が落ちたのだろうとの見解をマチェットは示した。


「どんな物でもいつかは壊れる。この防具も最後まで役割を全うしたわけだ」

「ええ、これが無ければ私も怪我では済まなかったでしょう……」


 愛おしげに見つめるサミュエル、彼がどれほど装備を大切にしていたかはマチェットにもしかと伝わったようだ。


「あなたのような方に我が子のような作品を託せることを光栄の思いますぞ」

「ありがとうございます。では早速見せて頂けますか、その作品を」

「ええ、もちろんですとも!」


 マチェットがそう言うと部屋の中に厳重に封がされた防具を収めたケースが運び込まれてきた。


「この装備の名はそう、デュランブレードアーマーだ!」

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