第13話 天狗
利三は、腰の
(
利三は、周囲に気を配ったが、それらしい気配は感じられなかった。
(まさか、一人で来たのか?)
そう思っている
(面。
利三がそう思ったのも
天狗は、光秀のところは素通りして、利三めがけて
天狗が迫る。腰の太刀に手を掛け、抜刀の構えのまま
利三も、抜刀の構えを崩さない。相手より先に抜き、一撃で仕留めるつもりでいた。天狗が利三の目の前まで来た。利三は抜刀した。すり上げて相手の胴を斜め下から斬り上げようとした。
(すさまじく速い。)
利三は、その速さに付いていくために体を右回りにひねって太刀の軌道を修正し、天狗の右の
ギィン!
天狗は、地に
迫る天狗の前に、甚介が立ちはだかった。抜刀して構えた。やはり、甚介には隙がない。既に天狗は抜刀している。天狗と甚介との距離が縮まった。甚介が踏み込んだ。水平に太刀を運び、斬りかかった。次の瞬間、天狗の跳躍。甚介の
天狗は、甚介の斬撃をも躱すと、やはり一直線に新吾に肉迫した。新吾は動揺しているようで、まだ抜刀していない。利三も甚介も間に合わない。天狗は、新吾の後ろに回り込んで、その左腕をつかんで背中にもっていき
(新吾が死ぬ!間に合わぬ!)
利三は、全身から汗が噴き出してきた。
そのときだ。
「いい加減にせよ!
光秀の
左馬助と呼ばれたその男は、新吾の腕を放すと、その天狗の面をとった。いたずらをした少年が叱られて苦笑いをしているような表情だった。
「いや、
左馬助にそう言われた新吾は、まだ
「光秀殿、この者は?」
利三が尋ねる。
光秀は、厳しくしていた顔をほころばせて言った。
「明智左馬助
「新吾が斬られそうになったのには、
利三は、光秀に笑顔を向けると同時に、
(明智城落城の際、光秀殿と共に城を脱出した、もう一人の明智の生き残りか。)
と考えていた。
「利三殿も、甚介殿も、すまなかった。お二人とも、やはり従兄者の書状に書いてあった通り、すぐれた剣の遣い手だ。剣を交えてよく分かりました。」
言って、左馬助は太刀を鞘に収めた。
「左馬助殿の速さには驚いた。あれほど俊敏に動ける者は、この美濃で会ったことがない。」
利三は、まだ、左馬助が目の前で利三の体の横へ跳び込んだときの速さが頭から離れない。
「利三殿こそ、抜刀した後の
左馬助は、こういう闘いに飢えているのか、いかにもすがすがしそうな表情でしゃべった。
「私のことなど・・・。利三様と比べること自体おこがましいほどの腕です。」
甚介は、左馬助の言葉に恐縮しているようだった。
光秀が話に割って入った。
「この左馬助はな、今、織田家に心を寄せ始めている美濃の武士の間を回ったり、美濃や尾張を往来し、織田家中とおれとのやりとりの仲立ちをしたりしている。それで、尾張の一部の若い武士の
「尾張で前田
利三も、
「かぶくのも、ほどほどにしろよ。それより、左馬助よ。ここに現れたということは、なにか知らせをもってきたのだろう?」
光秀が言った。
「はい。
「そうか。見せてくれ。」
光秀に言われて、左馬助は
読み終わって、光秀が息を
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます