第4話 対座
光秀の顔は、
「明智殿、先ほどはご加勢、かたじけなかった。」
利三は、頭を下げ、銚子を光秀の
「いや、かつて世話になった庄左衛門殿に頼まれれば断るわけにはいかなかった。あまりに急いで来たので、喉も渇いたぞ。」
光秀が利三に清酒を注ぎ返す。
利三は、あの修羅場の跡で、悠然と水を呑んでいた光秀の姿が頭に浮かんだ。神業と言える射撃の腕を見せた後、酒ではなく水を呑む姿がやはり滑稽な感じがしたし、いかにも怜悧そうな頭脳をもったこの男にしては意外な姿に思えた。
また、利三は、光秀が流浪している理由も知っている。この
だから、
「
利三は、先年、この
この明智攻めのとき、利三は、義龍にこの陣触れが無益であることを訴え、諫言した。義龍は、長良川で父・道三が落命したとき、恩賞にありつこうとした武士どもが道三の身体に地獄の餓鬼のごとく殺到し、それを切り分けて自らの手柄としたのを、嫌な顔をするどころか、それを殊勝とし、認めたような男だ。道三に
「乱世だ。乱世ではよくあることだ。だが、叔父上や一族は武士らしく
光秀は、視線をやや斜めに落とした。この男に会ってから一度も見られなかった寂しさと暗い影がその表情に表れていた。
「力がほしい。このどうしようもなく救い難い乱世から争いをなくす力がほしい。明智一族の死を無駄にせんために。」
光秀は、利三から注がれた薄い清酒を一気にあおった。
「利三は、おれの射撃の腕、どう思った?」
不意に光秀は、まっすぐ利三を見つめて尋ねた。
「20間先から、跳んで宙にある者の腕を射貫く。人間業とは思われません。」
「そう思うか。だが、射撃などいくら上達し、神業だの、
「確かに。」
「おれは、射撃の腕は天下無双と思っておるが、同時にそれが何ほどのことやある、とも思っている。明智の城の戦のとき、確かにおれは種子島で30人は撃ち抜いた。
「利三、剣の腕も同じだ。今申したことと変わらぬぞ。だから、力がほしいのだ。国を治め、争いをなくすための力がほしい。」
「光秀殿は、力とは武のことと思っておいでか。」
利三は、いつのまにか明智殿と呼ばず、
「武だけではない。それに和、
「それは?」
「道三公。・・・斎藤道三公だ。」
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