第12話 火縄銃
利三は、
この狩りでは、
隣に立つ光秀が正面を見たまま静かに声を掛けてきた。
「その
「わかりました。砲術は、剣術と似ているところがありますな。」
利三は、右眼で先目当て・前目当を覗いたまま言った。左眼は閉じている。利三が、剣術と似ていると思ったのは、剣術も打ち込む箇所ばかり狙おうと気持ちがそればかりに縛られれば、隙もでき、姿勢も崩れるからだ。
「獲物が大物である場合は、
光秀が言葉を言い終えるか終えないかというところで、藪の中から巨大な黒い
利三は、焦ることなく気を静め、息を吸い込んだ。利三と猪との距離が縮まってくる。距離が3間(約5.4メートル)まで縮まったとき、利三には前方の空間という面の中に猪の頭という一点を見いだした。引き金を素速く引く。
「見事。」
光秀が利三の方に笑顔を向けた。
「このひと月の間、光秀殿に砲術の
利三がそう言ったとき、周りの藪や竹林から勢子たちが集まってきた。撃たれた猪を見て、興奮している者もいる。甚介が猪を
「利三の上達は、まことに早いな。剣術によって
光秀は嬉しそうだ。
米田城で
剣術は、利三が教える役だった。
木刀を用いての稽古だが、光秀と立ち会ってみて、なかなかの腕であることがわかった。光秀は、40に近い年齢ということもあり、息が切れることはあるが、利三も、ひやっとするような打ち込みを見せた。
新吾は、構えに隙があり、打ち込みの動き出しも遅い。利三は、新吾が打ち込んで来るたびに何度でも
甚介の腕は、新吾はもちろん、光秀よりも上をいっていると言えた。お互いに構えた瞬間に感じる気がその2人とは違った。利三が見込んだとおりの遣い手だ。立ち会っても隙がなく、難敵であった。ただ、まだ16歳ということもあり、利三と比べ、
このひと月は、剣術や砲術の稽古に明け暮れた。この狩りも、砲術の稽古として行おうと光秀が提案したものだ。米田山の隣にある
新吾が利三のところへ駆けてきた。
「利三殿、すばらしい腕前です。これで、いつもお世話になっている玄蕃殿にも、よい
「あまり持ち上げるな。上には上がいる。光秀殿には遠く及ばん。それよりも、お前の言うとおり玄蕃殿に持って帰るのだ。甚介ばかりに持ち帰る用意をさせてはならん。お前は、今日は勢子としてここに来ている。早く手伝ってやれ。」
「分かりました。この斎藤新吾、勢子にだって何にだってなれますからな。」
新吾は元気よく言うと、猪の前足と後ろ足を棒きれに縄でくくりつけている甚介の方へ駆けていった。
利三と光秀は、勢子として来ていた肥田家の小者たちに少々の銭を与え、礼を言って米田城へ先に帰した。小者が大勢抜けたままだと、米田城の雑務に支障が出て玄蕃に迷惑がかかると考えたからだ。
新吾と甚介が猪を棒きれに縛りつけ終わったので、光秀が先導となり、米田城へ帰ることにした。
先頭を光秀が歩き、その後を利三、その後ろを猪を
と、ぶなが林立する林で、光秀が立ち止まった。どうしたのかと尋ねようとした
次の瞬間、
(種子島!)
ふり向くと、後ろで地面に伏せた新吾の頭の上に若葉が数枚ひらひらと舞い落ちてきている。新吾は無事のようだが、その上を見ると、木の枝が半分残って、残り半分は吹き飛んでいた。
(義龍の刺客!)
利三は、向き直ると太刀に手を当てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます