第3話 邂逅
その瞬間、利三の耳をつんざくような
利三は、眼を開いた。
猛獣のごとき勢いで跳躍していた年嵩の刺客は、宙で一瞬動きが止まったようだ。そして、利三めがけて振りおろそうとしていた
そのとき雷光があたりを包んだ。この土井庄左衛門の居館の近くに落ちたようだ。刺客の顔がはっきりと見えた。その顔は苦痛にゆがみ、年季の入った
なおも刺客は、動かせる右腕で
利三は身を起こし、先ほど
(くそっ。ここで仕留めねば。)
よろめきながらも二、三歩進んだとき、
「利三殿!」
庄左衛門の声。そして、その家臣だ。三人とも抜刀して駆けてくる。それを見た刺客は、身体を起こすと無言で駆け出した。
「追うな。追ったところで捕まらん。それよりも、こやつを縛り上げよ。」
庄左衛門が家臣を制止した。庄左衛門もなかなかの遣い手だ。3
「利三殿、ご無事で。さすがの腕ですな。よくぞ斬り抜けられた。」
「いや。正直申して危うかった。
「申し訳ござりませなんだ。小者が急を知らせに来なければ、気づかぬままでござった。」
庄左衛門は、今晩、
「その小者にも後で礼をします。庄左殿だけでなく、小者にも救われたな。」
利三は、庄左衛門の安堵した顔に笑顔で応えた。
その後、濡れ縁の下に腰を抜かして座り込んでいる男に眼を落とした。先ほど庄左衛門が言った「こやつ」だ。
その男は、庄左衛門の家臣に縄をかけられ、縛り上げられている。何も抵抗することなく、一言も発しない。もちろん
「我が小さき居館には牢がござりませぬ。
「・・ああ、そうしてください。」
利三は、修羅場を越えた後でもあり、疲労感に包まれていたし、こんな軟弱な男に関心はなかった。利三は武門の家に生まれた自分を誇りに思っている。同じ武士として、こういう男がいることが恥ずかしい。この場で命のやりとりをし、死んでいった3人の刺客。大けがを負いながらも、自分を仕留めようとすさまじい殺気と執念で迫ったあの年嵩の刺客。
年若の刺客は、厩へ引き立てられていった。部屋の中では、すでに小者や
利三は、もう休みたい気分だったが、先ほどから気になることを尋ねなければゆっくり休めない。
「庄左殿。おれがあの逃げた刺客に襲われたときに聞こえた音。あれは
庄左衛門が戌亥の方角の塀をふり向いた。利三がその視線の先を追うと、塀際の
「あそこから撃ったのか。20
利三は、心から驚嘆した。
「射撃の腕、
「その鬼神、仕事が終わればその場で酒を
「いえ。酒は、からっきし呑めませぬ。中身は水でございましょう。」
利三は、樫の木の
「名は?」
「明智十兵衛光秀。」
種子島を片手に立ち上がった光秀が、こちらへ歩んでくる。
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