第24話 ラブレター
「さあ、やってまいりました。抜き打ちカバンの中身チェックのコーナー!! 最後の参加者は朝比奈涼介くんで~す」
「はっ?」
「さあ、これを見てください? これがみなさんのカバンの中身です」
ちゃんなかが俺にデジタル画像を見せてきた。
やつが証拠品押収のために撮ったものだろう。
ち、地球のできたて? みんなのカバンの中はことごとく汚かった。
「箱ティ(箱ティッシュ)と一、五ペットボトルをカバンに隠してたのはなにを隠そう。そうグリムくんで~す!!」
「いやぁ、それをいわないでぇぇ!? くだしゃんせぇぇ!!」
こ、こんな
「しかもですよ。ペットボトル本体とキャップが別の種類。写真を見てラベルとキャップロゴの違いを楽しんでくださ~い。もう、この鑑識泣かせ!! グリムくんはなんてズボラな男なんでしょう」
「キィィ!! サイケデリックにキィィィ!!」
グリムはハンカチを噛みつづけた。
自分かっこいいフィルターがかかってるために汚いカバンを許せないんだろう。
まあ、ブスの中ではかっこいいほうだと思うぞ俺は。
となると日本一かっこいいブスということになる。
だが、ちゃんなかが振り回した自分のカバンの中から手紙のようなものがポロっと落ちた。
……ん? おっ、あっ、リアルガチに慌ててなにかを隠した。
はは~ん墓穴掘ったな? あれを奪いとればこっちのもんだ。
形勢逆転ってことになる。
「おい、隠すなよ?」
ちゃんなかは、その便箋の上に覆いかぶさり必死に手をシャカシャカと動かしている。
「カ、カバーしたんだよ」
「なんのカバーだよ!?」
「……ん? なんのこと? 僕知らな~い」
「シラを切るな?」
「カバーといえば、それはオリジナルをカバーする以外にはあるまい」
「意味わかんねーな」
「ええーい、そこをどけーい」
俺はお代官ふうちゃんなかをどかそうとしたが、ちゃんなかはトボけたままでそこを動こうとしない。
「いつまで、そのお手紙と触れ合いコンサートしてんだよ!?」
「いや、はや」
「いやはやなんていう人間いるんだな?」
「さんざん俺らをもてあそんだんだ。髑髏山と寮長はどうした?」
「お、お部屋で泣いております」
「なんて極悪非道な。よく見ろ? グリムなんてまだハンカチ噛んでるぞ?
さあ、その便箋の中身を読め」
「いやです」
「おまえのタイミングでいい」
「わ、わかった。長縄跳びに入るときのタイミングでいいか?」
「いつだよ。それ」
「俺って長縄跳び苦手だから山でしばらく修行してくる。それからだ」
「そんなに待てるかっ!!」
すると、ちゃんなかはカバンからねしけしをとってネリネリしはじめた。
ほんと手癖の悪いやつだ。
「いや~なんか、ねりけしってでっかくなるにつれて硬さがウェルダンになってくるよな~」
完全に現実逃避してる。
たしかにねりけしってときどきダイヤか!?ってくらい硬くなるけど。
「おい、なにしてんだ。早く読め」
「心が大型連休で読めそうもない」
「じゃあ、代読決定!!」
俺はちゃんなかからその便箋を奪いとった。
意外や意外ちゃんなかは抵抗しなかった。
なんだ? みんなへの罪の意識があるのか? その手紙の内容は人気声優YURAに当てたものだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
はじめましてYURA様。
僕は中村賢二といいます。
職業は社長。
仕事の内容はよくいる四天王を派遣するお仕事です。
世の中の四天王はたいていが非正規雇用だと覚えておいてください。
ご要望があれば、
週刊誌等で使いたいときは、ぜひうちの事情シリーズをご
僕は中学校に入学するときに数え切れないほどの思い出を作ろうと決意しました、が、結局数えるほどしか残せませんでした。
それを校長先生に相談すると「人生の道に迷ったら、帰っておいで」というから高一のときに本当に帰ったら、渋い顔されて以来僕は誰も信じていません。
それを糧に社長にまで上りつめました。
でも、それを支えてくれたのがYURAさんです。
家族構成ですが僕は男ばかりです。
ライト兄弟は右なので、僕らは地元でレフト兄弟と呼ばれていました。
戦国時代の末期に浪人たちが暴れた”浪人の乱”を制圧したは僕のおじいちゃんに当たるような人です。
特技はナイル川横断と天の川散弾です。
尊敬する人は、あの人気レスリングのレスラーのグレコローマンです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺はそれを声を
あまりの内容にグリムにも復活の兆しが見られた。
ちゃんなかの手紙にはそれほどの破壊力があるってことだ。
内容の大半は自分を大きく見せ、かつ泣ける要素をまぶしつつYURAの心を掴もうって魂胆が見え見えだった。
内容はぜんぶうそだけど。
「そ、それは書き損じバージョンだ」
ちゃんなかがごまかしはじめた。
「じゃあ、本気バージョンをだせ?」
――そうだ。そうだ。
グリム、こ、小声の援護射撃。
徐々に回復してきてるな。
「き、今日のところはこれくらいで許してやる」
ちゃんなかはジャブていどのダメージを受けつつ
※
ある日、ちゃんなかの郵便受けに見知らぬ人物からの手紙が届いてた。
中村賢二様と書かれたピンク色の一枚の封筒だ。
なぜか定型外サイズ。
「おい、なんだそれ?」
「な、なんでもないって」
「目泳ぎすぎ……往復してるぜ?」
「えっ、いや俺の目最近暑いから泳ぎにいってんだよ」
目を泳がせつつも逃げるようにちゃんなかは部屋に戻っていった。
※
ちゃんなかが部屋に戻ったのを確認した俺と寮長とグリムと髑髏山の四人。
俺が代表で
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突然のお手紙ゴメンなさい。
けれどあたしの気持ちを届けたくて書いちゃいました。
あなたの手紙を読んでからあたしの心はあなたでいっぱいです。
賢二くん、あなたがス・キです。
あなたを奪い去りたい 。
あなたの必須アイテムYURAより
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俺たちはちゃんなかの部屋の前でそれを読んだ。
「ぬうぉぉぉ!!」
ちゃんなかの部屋から、そんな叫び声が聞こえた。
「そなたらなぜこの手紙の内容を知っておじゃる?」
ちゃんなかは言葉が平安時代になりつつ部屋から顔をのぞかせた。
「だってそれ書いたの俺らだし」
「な、な、な、おのれぇぇぇ
ちゃんなかは怒り狂ってグリム部屋のドアを蹴った。
「俺らの手紙で舞い上がるとはご飯オカズにご飯食うようなもんだな?」
グリムの一撃。
「そうだ。犯人みつけたのに
髑髏山の一撃。
「実家から寮の自分に年賀状だして――あっ、年賀状一枚きてるっ!!ってのと同じだよね~」
寮長の一撃。
「てか、グレコローマンは人じゃねーよ!!」
俺はあのときの手紙の隙をついた。
「その
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