第18話 バトル散歩

 さあ、今日は土曜日学校も休みだし朝の散歩でもいくか。

 俺は朝からプリンをダブルストローしながら歩いていた。

 これが俺の朝のバランス栄養食だ。

 ちなみにプリンのダブルストローとはプリンひとつに対して二本のストローでプリンにいどむたしなみだ。


 さきにカラメルをいただくのはいただけない。

 カラメルソースとプリン本体を一緒にいただくのが正攻法のダブルストローだ。

 寮の周辺の人たちは朝でもこのあたりを散歩している。

 つい、さっきすれ違ったのは煮詰まった様子の志後さんだった。


 ――はじめたときからオワコン。というオワコンを復活させるという逆説。


 そんな悩み吐き出されたけど、俺には難しくてわかんなかった。 

 ……ん? 道の曲がった角に謎の人影がある。

 もうすでにシルエットからして怪しい。


 「おい、俺の前でダブルストローとはいい度胸だな?」


 こんな爽やかな朝なのに、ちゃんなかが張り合ってくる。

 それはいつぞやのことだった。

 学校に傘を持っていく日は傘振り回す系登校か? 傘バット系登校かでモメた。

 傘振り回す系登校なら傘をグルングルンさせながら登校していくスタイル。

 傘バット系登校なら道の要所要所で傘をバットにしてフルスイングする登校スタイルだ。

 それ以来、やつは朝俺に絡んできたりする。

 ちゃんなかは腰にぶっとい茶色のベルトを巻き鼓笛隊なのか?っていう支柱つきの鉄琴を支えていた。


 「俺はトライアングリアンだからな」


 そのかっこうで朝の散歩してるなんて日本初じゃね? その金属音を鳴らして練り歩くのか? でも、それトライアングルじゃなく鉄琴だけどな。


 「朝っぱらからキンカン、キンカンうるせーよ!? 甲高かんだけーんだよ!!」


 「俺は時代に警鐘けいしょうを鳴らす役目があるんだからしょうがねーだろ。この中村賢二をみくびるな」


 リアル、警鐘か。 

 そういや警鐘を鳴らすっていっても本気で警鐘を鳴らしてるやつをみたことがない。

 警鐘とはその腰で支えてる鉄琴のことだったのか? 勉強になったぜ。

 だが、その日の朝ちゃんなかはめずらしく静かに引き下がっていった。

 


 翌日。

 俺は今日もプリンにダブルストローでいどむ。

 これが日本で流行れば、俺、発祥ということになるけど基本的にエージェントは顔出しNGだから悩む。

 そこはギャラ交渉ということになるかもしれない。

 マネジメントもケンタゴンだろう。

 顔バレしたら、敵対組織に情報が流れて俺が不利になってしまう。

 すこしヘコむな。


 さっき、ハカセもヘコみながら散歩していた。

 なんでも原稿が全没になったらしい――前とテイストが同じなんだよね。って一言でTKO。

 あの、ハカセでさえそんなダメージを受ける世界だ。

 まあ楽しくいこう。


 ただ、おかしい。

 今日にかぎって辺りが静かすぎる、と思ったのが間違いだ。

 やつはやつでヨーグルトをトリプルストローをしながら俺の真正面から歩いてきた。


 「俺のマネすんなよ?」


 「いいだろ別に。あんま偉そうにしてるとおまえを厳重に処罰するぞ?」


 「そもそもちゃんなかはラクトフェリン摂りすぎなんだよ!!」


 「その物質は体に良いんだろう……たぶん」


 さてはヨーグルトにラクトフェリン入ってんの知らねーな? ちゃんなかはヨーグルトを地面に直置きすると舞い散る木の葉を人差し指と中指で挟んだ。

 な、なんだ、こいつ? そして地面のヨーグルトからストローを一本抜き――ふっ!!っと軽く息を吹きかけてからヨーグルト本体で木の葉になにかの文字を書いていった。

 おもむろに目をつぶって、さらに指で五芒星を宙に描く。

 

 「オンキリキリ・オン ・キリギリス。 オンキリキリ ・オン ・キリタンポ 。オンキリキリ ・オン ・キリガミネェェ!!」


 陰陽師ふうの技を俺にかけてきた。

 おまえはグリムリスペクトかよ。

 だが俺にはなんの変化もない。


 「オンキリキリ・オン ・キリギリス。 オンキリキリ ・オン ・キリタンポ 。オンキリキリ ・オン ・キリガミネェェ!!」


 やつと目が合った。


 「くそっ、ひとつトーンを上げるか」


 おっ、まだやる気か?

 

 「オンキリキリ・オン ・キリギリス。 オンキリキリ ・オン ・キリタンポ 。オンキリキリ ・オン ・キリマンジャロォォでどうジャロ!?」


 ちゃんなかは勝手に呪文を唱え勝手に疲れてグランドフィナーレを迎えようとしてた。

 とりあえずトドメ刺しとくか? 俺も地面にプリンを置いてゼロ式のデコピンを見舞った。

 ゼロ式の場合は溜めなしでデコを弾くことができる。

 おっ!?

 ばっちーんと良い音したな。


 「ぐぬぅ!!」


 ちゃんながデコを押さえながら俺を見た。


 「デコがニュイ~~~ンってなったっぺよ!?」


 「それが俺の必殺技だ」


 「涼介。おまえは貧血で倒れた生徒を見てもなお話しつづける校長か!? 教頭になっておしまい!!」


 もう一発お見舞いしてやるか? いくぜ、ゼロ式デコピン。

 はっ!! 

 お~クリーンヒット、きたぁぁ!!


 「ぐはぁぁ!! ロープレなら三ターンは動けないほどの威力」


 「三ターンか。下手したら戦闘終了だな?」


 「そのあと五ターンぶん麻痺した」


 「それって下手したらボス倒せるな?」


 「そ、う、だろ、うな。つーかガタガタうるせーんだよ!!」


 おっ、逆ギレか?


 「ちゃんなか、それは俺の部屋にきて冷蔵庫にいってやってくれ?」


 「そうそう冷蔵庫って真夜中にブ~~~ンってなってガタガタって鳴るからね。って違~~~う!!」


 おう、今度はノリツッコミか。


 「涼介。俺は忘れてねーぞ。先週俺のミルクコーヒーにシェービングクリームを入れたことを。あの苦さだけは忘れねー。寮にきたばっかりの日は大人しいやつだったのに猫被ってやがったな? 猫は被るのか? 踏むのか? はっきりさせろやぁ!!」


 猫踏んじゃったのことか? そもそも猫は人類すべてででろよ!!


 「おまえだってスゲーカプチーノっていって飲んでたじゃねーかよ!?」


 「あれが大人の味だと思って我慢して飲んだんだよ。けどあの苦さは間違って洗顔で歯磨きしたときと同じ味なんだよ!!」


 「シェービングも洗顔も結局石鹸類なんだから我慢しろ。それに俺はあのあとすぐに砂糖入れてやっただろ!!」


 「涼介よくいうよな? あのときおまえは新種の砂糖といって葛根湯かっこんとうを入れたんだ、わかるか? かっ、こん、とう。それがまた中国三千年の漢方の味で苦げーのなんのって。俺はあの日なに食っても苦みしか感じなかったぞ」


 「おまえなんてもとからバカ舌だろう? 砂糖のとうも葛根湯のとうも同じ”とう”だ」


 「そうなの? 葛根湯のとう砂糖とうの真逆にあるくらいの苦さだったぞ!? しかもあの日俺が弱ってるのをいいことに髪型をフレミングの法則ふうセットにしたろ。俺の髪は三方向にビュンだ」


 「ハカセがリアルフレミングしてたから試してみたかったんだよ」


 そう俺がいったとき、ちゃんなかは謎のデッドボールを受けた。


 「ぶっ、ほっ!?」


 なんだ? でっかいスイカが飛んできた。

 推定約十五インチ? セリか? ついに初セリがはじまったか?


 「あいつです」


 この辺りの住民がちゃんなかを指さしていた。

 ちゃんなかは謎の反射神経を発揮して逃走した。

 なんだ心当たりあったのか? 住民の後方からお巡りさんが駆けてきた。

 あの人はITおばあちゃんのときにきた警察の人だ。

 俺は住民の人が持ってる回覧板を見てようやく謎が解けた。


 【朝から鉄琴を鳴らす。変出者が出現してます。ご注意ください】


 けっきょく警鐘を鳴らしてたちゃんなかのほうが、ヤベーやつってことで町内全域で警鐘を鳴らされてたってことか? まあ、自業自得か。


 けど、あの人良いスイカ玉たま投げるな。

 ちょっと落ちたしスライダーかな?

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