第28話 ハカセのスカウト

 「グリムくん。わたしと一緒に市民会館で開催される世界小物会議せかいこものかいぎに出場してくれないか?」


 な、なんとグリムがハカセに一位指名されている。

 この俺をさしおいてしかもハカセは本物の博士っぽく”わたし”っていってるし。

 くっ、これが一位を奪取られたときの悔しさなのか。

 涙を飲むとはこのことか。

 これなのかぁぁ!? 

 家をでて三分で靴の裏の滑り止めが紛失したときと同じ衝撃が俺の心を駆け巡っている。

 つ、辛すぎる、てか世界小物会議とはなんぞや?


 「いや俺、この首のボンボン洗濯しないと。さすがに汚れてきてさ~」


 そんなもんいつでも洗えるだろーが!?


 「きみなら一位指名も夢じゃないんだ?」


 や、やっぱり一位指名かよ。


 「きみの座右の銘は?」


 「服は肩で着る。小物をバカにするやつは小物に巻かれて死になさい。かな」


 「そう、そのセンスが欲しいんだ。いつだったか巻寿司まきずし巻くやつをスネ当てにしておしゃれを楽しんでいただろ?」


 「ああ、あれはふうつだね。でもハカセ昨日まで三つあった口内炎が合体してデッケー一個になったんだよ。これが痛いてーのなんのって。フリーダムのときに負った古傷も影響してるかもしれない」


 「じゃあ、なにか果物でも食べるかい? ビタミンCでもDでも好きなのを摂るといいよ」


 「それは無理。口そのものが痛てーし。なにより俺の体はイブプロフェンとエテンザミドを求めてる」


 そんな回りくどいこといわないで風邪薬っていえよ。

 風邪気味で体力が低下してるって状態なんだろ、フリーダムの傷は関係ねーよ。


 「わたしの永遠のライバル樺野穴竹かばのあなたけがくるんだ。たのむ一緒にきてくれ」


 ハカセが誰かの名刺をグリムに見せていた。

 くぅ~博士界のライバルってエモいな。


 「この樺野穴竹かばのあなたけって誰? 俺よりもかっこいいの?」


 グリムいい加減その自分かっこいいフィルターはずせよな。


 「やつはその名前がお茶になるほどの天才なんだ」

 

 「えっ? お茶?」


 「聞いたことはないかい。カバノアナタケ茶」


 「カ、カバノアナタケ茶ってあのカバノアナタケ茶!?」


 「そう、あの、カバノアナタケ茶だ」


 「それをこの名刺の人が発明したの?」


 「そうじゃ。そうじゃ」


 ハカセの――そうじゃ。が博士らしい。

 しかもグリムの驚きもいいよ――伝説のそいつがなぜ!?感がでてる。

 これは風向きが変わってきたか?


 「さらに小物グッズの世界的権威ペペ・ロンチーノ博士もくるんだ。ほかにもそうそうたるメンバーが集う。グリムくんきみはコモニストになりたくないのか?」


 ペペ、ロン、チーノ、だとぉぉ!!

 スゲー博士がいたもんだ。

 そうそうたるメンバーの誰ひとり知らねーけどさ。


 「コ、コモニスト?」


 「そうだ」


 「小物が似合ういきなてやんでえってことさ。ひとつくらいそんな称号を持つのも悪くないだろ?」


 「欲しい。ぜひとも、欲しい」


 「それに前からきみの小物のセンスをすごいと思ってたんだよ?」


 「や、やっぱりか。そういや涼介が『メンズサイエンス』読んでるハカセのことかっこいいって褒めてたよ!!」


 バ、バカ、俺の名前だすなよ照れるし。

 けど褒め合いの会話たまに使われた気しかしない。


 「そ、そうか。わたしと彼はたしかに仲はいい。ただ今回だけは彼じゃないんだよ。彼もセンスが良い。だが今回ばかりは……すまない朝比奈くん」


 くそっ!?

 く、悔しいがグリムの小物の使いかたは俺も負ける気がする。

 あのグラサンやデフォルトのボンボンには勝てない。


 「わ、わかったよハカセ」


 「とりあえずそのサングラスをはずしてもらえないか?」


 「ああ、しょうがねーな」

 

  グリムは44マグナグラサンをはずした。

 そしてハカセは小さめのグラサンいや水中眼鏡を手渡す。


 「とりあえず、これをかけれみてくれないか?」


 「わ、わかったよ。ど、どう?」

 

 か、完全にジャストフィットしてる。

 あれだけデカかったグラサンを小物として圧縮させた見本のようだ。

 ここにいま本物の男たちが集ってる。


 「完璧な小物使いだ」


 「そ、そう? いや、はは」


 「ああ。日本中のコモニアンたちが一同に会したレセプションでどの流派にも属さないわたしたちの力をみせつけようじゃないか」


 「そ、そうだな。ハカセには前にベロの仮面も直してもらったし」


 「だろう。さあ、用意してきたまえ?」


 悔しいが、今回のハカセの相棒はグリムしかいない。

 なんたってハカセの最後の言葉が――たまえ。だよ? 突出した博士感に俺は近づけなかった。 

 俺はふたりの背中を見送るしかできない。

 いつか俺もそこへ招待されることに思いを馳せながら。


 「こうでいいのハカセ?」


 グリムが見せびらかすように腕を上げた。

 小さめの腕時計が巻かれている。


 「そ、そうとも、そうとも。そこでなにかひとことを?」


 ハカセがいつも使わない――そうとも。を使ってるし。


 「俺の腕でときを刻むことは許さん。時間とは俺自身が刻むものだ!!」


 「いいよ、いいよ。グリムくん、それそれ!! 小物の腕時計と科学的アプローチからのときへの叛逆はんぎゃく。もっと腕時計を高く上げて」


 「こう?」


 「そう、そうだ、バッドォォ!! 有酸素運動的に腕を上下させろー!!」


 ああ、またハカセのバッドスイッチ入っちゃったよ!?

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【(すぐに笑える)ハイスピードギャグ小説】青春魔改造 ネームレス @xyz2

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