【(すぐに笑える)ハイスピードギャグ小説】青春魔改造

ネームレス

第1話 寮生活

 俺の人生はこの町にきたことで百八十度変わった。

 なんでこんなやつらに囲まれて暮らさなきゃなんないのか? いまでも不満だ。


 「チャモロ・パーンチ!!」


 ズバッと壁紙が突き破られる音がした。

 でた。

 いま壁の中から登山服と登山用具一式であらわれたのは中村賢二なかむらけんじ

 中村はみんなから“ちゃんなか”と呼ばれている。

 ちゃんなかは天才的なバカだ。

 なにがバカかってやることなすことすべてバカなのだ。

 

 「またバッケンレコード越えてしまったか!? 前回のK点越えにつづき二冠かよ」

 

  毎度毎度、越えてくんなよ。

  ちゃんなかは右拳を突きだしたままのモーションでドヤ顔をしている。


 「あ~あ。中村くん。本気でチャモロパンチしちゃダメだよ~」


 いまちゃんなかをなだめてるのはこの寮の寮長こと寮長・・

 あだ名と役職を兼ね備えたスゲー便利な呼び名を与えられてる人だ。

 俺たちは一軒家を改築した寮に住んでいる寮生。

 ちなみにこの寮には俺を入れて六人の寮生がいる。

 ただし、とあるひとりだけはいまだに未確認で寮の中のUMA指定されている。

 本当に住んでるのかも謎だ、おそらく、と意味深にいっておく。


 「いや~ついつい。けど寮長今回は単独無酸素チャモロパンチっすよ!!」


 なんで無酸素なんだよ。吸え。吸え。O2オーツーを。なんならもうひとつOをたして、O3オースリーを吸え。


 「べつに無酸素でも有酸素でもどっちでもいいよ。でも壁はきちんと直してね? 朝比奈くんも中村くんにいってあげてよ?」


 「は、はい」


 朝比奈とは俺のことだ、朝比奈涼介あさひなりょうすけ、それが俺のフルネームだ。

 寮長はあきれた顔をしながも自分の部屋に戻っていった。

 まあ、いつものことだからな。

 この寮ではこんなことは日常茶飯事だ。

 ちゃんなかはご満悦という顔で壁の破れをダンボールで補修しはじめた。


 いちおう直す気はあるみたいだな。

 ちゃんなかは背負っていたリュックからガムテープをとりだすと上下左右の角に仮止めのように貼っていった。

 といっても、破れたのはちゃんなかの部屋の壁だから俺には関係ないけど。


 「涼介。手伝え」


 そういって、ちゃんなかは俺を見た。

 俺を巻き込むなよ。


 「ヤダよ。それくらいひとりで直せ」


 俺がそういったときだった、ガチャンと寮の玄関扉が開かれる音がした。

 あまったるい声の女が「け」そうひとこと発したところでかなりのタメが入る。


 「んちゃ~~~~~~ん」


 ~が長げーよ!?

 この声の主はちゃんなかの彼女で花咲子はなさきこ

 花咲子は三和土たたきで刃渡り約十センチのヒールと先の尖った銃刀法違反の靴を脱ぎ捨てて寮のなかに入ってきた。

 はっきりいってこの寮のセキュリティはゼロだ。

 ときどき野良ネコが寮の廊下を歩いてることもあるし花咲子の靴でクワガタがすべり台をしてることもある。

 たまに露店がでているときもある、まあ、そのときは焼き鳥が食べられるからいいんだけど。


 「おっ、咲子。きたか」


 「うん。咲子きた」

 

 ちゃんなかも、ふつうに花咲子を迎え入れた。

 どうなってんだよ? この寮。


 「賢ちゃん、咲子ね。来週の休みはドンロン・・・・にいきたいな~」


 「咲子。どこの?」


 「イギリスの」


 「ああロンドンか」


 ……この花咲子も、ちゃんなかの彼女らしく優秀なバカだ。

 なんたって今日服装からしてヤバい。

 ワシントン条約をものともしないものすごい毛皮を着ている。

 あれは絶対に密輸だろう。

 いや密輸なんて生やさしいものじゃねー、闇ルートだ、もしくはダークウェブ経由で買ったに違いない。

 

 花咲子は毛皮を着てるのか毛皮から産まれようとしてるのかわからないほど、もっくもっくの毛皮を着ていた。

 羊の毛を刈らずに三年ほど寝かしたくらいのやつだ。

 ほぼ球体の羊といっていいだろう。


 「そう。イギリスのドンロン・・・・


 「咲子。そのためにオシャレしてきたのか?」


 「そうだよ」


 「かわいいやつめ」


 ちゃんなかは花咲子のデコをつついた。


 「やだ。賢ちゃん。咲子、嬉しい」


 「そんなことより咲子。ちょっとここ押さえててくれ」


 ちゃんなかは壁の修復作業を彼女にも手伝わせはじめた。


 「賢ちゃん、わかった。けど、この毛皮邪魔だから脱ぐね」


 花咲子は着ていた毛皮をおもむろに脱いで、放り投げた……というかぶん投げた。

 その毛皮は俺たちが共同で使っている斜めドラム式洗濯機の中に上手く収まる。

 毛皮どうでもいいかんかい!?

 花咲子は聞き分けよくて大人しくダンボールに手を当てて、ちゃんなかのサポートをしている。


 「おっし。いまから俺がここセメントで埋めるからな」


 「うん」


 そういうとちゃんなかは、いったん正式(?)なドアから部屋へと戻っていった。

 中でなにかやってるガサゴソという音が廊下に響く。

 

 ――あったぜ!! そんな声とともにみかん箱くらいプラケースを抱えて部屋からでてきた。

 箱の中には黄色、赤、オレンジとカラフルな注射器に似た物がごっそりと入っていた。

 ほかにはドライヤーみたいな機械も二、三台入ってる。

 なんだあれ? でも、ちゃんと壁修復用機材を用意してたのか。

 ちゃんなかは、壁の前にいく、その箱を足元においてパカっとふたを開いた。


 「咲子。俺が合図したら中から一本ずつとってくれよ」


 「かしこまったであります」


 花咲子はそういって敬礼をした。


 「よし、では、さっそくCRシーアール


 ちゃんなか、花咲子に向かって手のひらをさしだした。


 「賢ちゃん。どの色?」


 「それは咲子、おまえのセンスで」


 「咲子ピンクがいい」


 「残念だけど、ピンクは切らしてる。つぎまでに入荷しとくよ」


 「わかった~。じゃあ咲子がつぎに好きなオレンジさん・・で」


 「よし」


 ちゃんなかは花咲子から注射器を受けとると、ダンボールと壁の隙間に注射器のさきを押し込んで中身を押しだした。

 中から粘着性あるの白っぽい物体がでてきた。


 「咲子。箱の中からハンディライトとって俺がいま埋めたとこに当ててくれ」


 「了解」


 花咲子は箱の中からドライヤーのような物をとりだして手元のスイッチを入れた。

 ドぎつい青の光と――ピッ。という音とブワーンと送風するような音がした。

 

 「咲子、上手いぞ。さてはプロだな?」


 「いや~ん」


 おいおい、あれって歯に詰めるやつだろ? どっから持ってきたんだよそんなもん。

 ちゃんなかはもう二本目にいっていた。

 そして三本目、その都度花咲子はライトを当てていく。


 つーかCR何本使うんだ業者かよ!?

 壁にあんなデケー穴を開けておいて歯に埋めるセメントを使うなよ!!

 コスパ悪すぎ、費用対効果に見合ってんのか?


 「咲子。つぎCR、三本いくぞ」


 「さ、三本も大丈夫? 三本なんてA級ライセンスないと無理だよ」


 A級もなにもちゃんなかはなにひとつ国家資格を持ってねーよ。


 「バカやろー。俺をなめんな。大丈夫だ」


 「ごめん。咲子、賢ちゃんがとっても心配で」


 「大丈夫だ俺を信じろ。さあ、さらに三本追加だ」


 「さ、さらに三本も?」


 「ああ。右手三、左手三でいく」


 「じゃあ、三三さんさんってこと」


 「たりめーよ」


 裁判官が驚いて一段下に座るくらいの薬機法違反が俺の目の前で行われている。

 これは法務省と厚労省に電話したほうがいいか? けど電話番号わかんねーし、まあいっか。

 俺が電話してもどうせたらい回しにされるだけだよな。


 「わかった。咲子は賢ちゃんに従う」


 「さすがは助手だぜ」


 「うん」


 「さあ、この壁を助けるんだ」


 おまえが突き破ってでてきたんだろ。

 チャモロパンチで。

 いつかはバッカルコーンだったな。


 「はい。先生。でもこの壁さんの損傷個所が大きすぎます。先生」


 「やむおえぬ。禁じてを使うしかない」

 

 「先生なんですか?」


 「JAVAジャバスクリプトを埋め込む」


 「先生なんですか。それは?」


 「それはせんせいにもわからない。ネットの中でときどき使われてる魔法の言葉だ。きっとスゲーんだ」


 「先生。咲子は先生を信じます。きっとそれを埋めると傷の治りが早くなると咲子は思うのです」


 「そうだ咲子。意味なんて求めるな。俺はーチェこえてサンチェになる男だからな」


 花咲子よ、よくちゃんなかのその言葉で「尊敬の最高到達点」みたいな表情ができるな。


 「せ、先生。もしこの手術が成功したら。私といっしょにHONGホング KONGコングにいってください」


 「ホングコングだと? よくわからんが連れてってやるよ」


 「咲子感激!! 先生、そのジャバスクリプトはどこにあるんですか?」


 「日本ではまだ認可はおりてないはずだ」


 「じゃあ先生。どうするんですか?」


 「おい、天才外科医」


 ちゃんなかは俺にそう呼びかけてきた。

 うわ~、関わりたくねー。


 「はっ? なんだよ」


 「頼むおまえの腕が必要なんだ」


 ちゃんなかは医療ドラマのピンチからの逆転シーンっぽく俺を頼ってきた。


 「なにが?」


 「おまえならできんだろ。JAVAスクリプト」


 そういう術式みたいにいうなよ!!


 「知らねーよ」


 「ふっ。隠すなよ大将」


 大将ってなんだよ。


 「だから俺は知らねーよ。とりあえずそのジャバスクリプトってのがあるなら、壁の補修を手伝ってやるよ」


 「ほ、ほんとだな?」


 「ああ」


 「じゃ、じゃあ、まずはJAVAスクリプトを買ってきてくれ」


 「どこで?」


 「コ」

 

 ちゃんなかは間をおいて――コンビ。までいいかけた。


 「まさかコンビニなんていわないよな?」


 「えっ!?」


 ちゃんなかの声が裏返る。


 「あっ、あれだ。電機屋いって。JAVAスクリプトくださいって」


 「……」


 「たぶんパソコン関係っぽいから売ってると思うんだ。あと、あんまり高かったらJAVAスクリプトじゃなくて、ふつうのJAVAで」


 スクリプトってはトッピングなのか?

 そもそもジャバを手に入れて本当に壁が直るのか?


 「おい、ふつうにガムテで直せよ」


 「えっ!?」


 ちゃんなかと花咲子は俺のまっとうな意見に固まった。

 はぁ~毎日毎日こんなんばっか。

 ……俺がなぜこんな生活をしてるのか?それは数ヶ月前にさかのぼる。

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