第9話 近隣住民

 ハンズに売ってるのは銀色のトロフィーだよな?と思いながら俺は妹に背を向けた。

 結局俺は管理人姉妹からこの寮についてのことはなも聞けなかった。

 逆に寮とは無関係な話しかしてないし。

 ただドリルねーちゃんには気をつけなきゃなとは思った。

 レディオが壊れかける・・・ほどの戦闘能力はあなどれねー。


 やつが地球にくるまであと一年か? 俺の戦闘力でなんとかなるのか?

 早く伝説の戦士たちを集めないと。

 まあ、寮長のほうがしっかりしてるし寮長に寮に訊けばいいか。

 俺は一目散いちもくさんに寮の玄関まで走って扉を開く、一枚ドアがぶわっと迫ってきた。


 「どう説明訊けた?」


 寮長が――店もう開いてる?ふうに廊下を歩いてきた。


 「テニスがなぜ一回で十五点入るのかくらいわからないっす。必殺シュートを打てば三十点くらい入るんですかね? 火が出て壁にめり込めば五十点くらい入りますかね?」


 「そっか、まあ、ゆっくり覚えていけばいいよ」


 俺の疑問は寮長の”寮長スルー”という形で打ち返された。

 寮長ナイスショットだ。


 「そっすね。僕家電買っても説明書読まない系男子なんでやれると思います!! なんか雰囲気で消灯時間とか察します」


 だから俺もスルーで打ち返す。


 「べつに消灯時間なんてないよ。各々おのおのの部屋の照明機器はそれぞれ独立してるし」

 

 で、ですよね~べつに監獄なわけじゃない。 

 あっ、これは義理の兄あにさんに引っ張られたか、俺。


 「じゃあ、まず寮の住人を紹介するね~。一号室が僕で、えっと、あとのみんなはっと」


 寮長は周囲を見回した。

 だが寮のなかは閑散としている。

 俺は嵐の前の静けさを感じた。

 この町のこの寮がこんなに平穏なわけがない。


 「あれっ? ほかの寮生いないみたいだ。じゃあまずはご近所さんでも紹介しようかな」


 なるほどそういうことか。

 寮長もったいつけるね~。

 まあ他の寮生はあとのお楽しみにとっておこう。 


※ 


 俺と寮長は寮の周辺を散策しはじめた。

 町並みを見るかぎりはいたってふつうの町だよな。


 「おーい」

 

 寮長に声をかけてきた、ガウチョパンツを穿いたモード系のチャラいおっさんがいた。

 何者だ?


 「今日もこのガウチョの調子がいい。さすが僕の義理の姉のガウチョが流行らせただけのことはある」


 義理の姉ガウチョ……? なんか似てるな義理の兄サルエルと。

 俺はここで複雑な人間関係を想像した。

 これは絶対にこじるパターンだ。


 「あっ、小比井こぴいさんこんにちは。彼、今日から入寮するんで以後お見知りおきを」


 誰っすか? 


 「そう、じゃあシクヨロ」


 その、ガウチョのおっさんは名刺をだしたあとにスマートに手を伸ばし握手を求めてきた。

 俺も名刺を受けとりそれに答える。


 「あっ、はじめまして。朝比奈涼介といいます」


 てかシクヨロとか古いな。

 名刺を見ると「コピーライター:小比井雷太こぴいらいた」と書かれていた。

 俺が名刺を見たあとにガウチョのおっさん、もとい小比井のおっさんは自分のガウチョのすそを広げはじめた。

 ところどころになにかで切られたような穴があいてる。

 なんだよそのファッション的ダメージ感。 


 「これ。ドリルねーちゃんをギリギリでかわしたときのやつでさ~」


 でた、ドリルねーちゃん。

 だから何者だよ!?

 小比井のおっさんはしばらく武勇伝を語りだした。

 それが武勇伝なのかはわからねーけど。


 ――高校の前にね、古豪こごうってつけとけば、まあまあデキるふうの雰囲気はでるんだよ。


 ――生放送の番組なのにラテ欄に内容ネタバレが書いてあるってどういうことだ?って電話してやったさ。


 ――詳しくは明日の朝刊で。ってやつで朝刊にチラシが挟まってたことはないね。


 小比井のおっさんが、ぜんぜん統一性のない武勇伝(?)を語り終えようとしたときだった。

 

 「ほら映画館のポスターのコピーを考えたのもこの小比井さんだよ」


 寮長が小声でそういって肘打ちしてきた。


 「えっ、あれを書いたコピーライター!?」


 「おっ、僕のこと知ってくれてるんだ。この町ここ出身のフィギュア選手“氷上の学年主任”ってキャッチフレーズも僕が名づけたんだよね~」


 「あっ、あれもですか?」


 聞いたことねーし、まったくキャッチもされねー。

 本当にプロか? 選手よりスベりが上手じゃねーか?


 「まあ日本のコピーの八割の三パーセントが僕の作品だね」


 「そ、そんなにですか?」


 数の全体像がわかんねー? だが俺は小比井のおっさんの気持ちを思いやった。


 「この町は本当に才能の宝庫なんだよ~」


 寮長がそういって、なぜだか夕暮れ間近の空を見つめている。


 「おっ、また新しいフレーズ浮かんだ!! ”アイスクリームたちの避暑地、それは冷蔵庫”。きたぁぁぁ!? これはつぎのコンペとったんじゃないの!! 僕の才能はベンチャーすぎる」


 避暑るなら冷凍庫・・・じゃないとダメだろ? 冷蔵庫じゃアイス死ぬぜ? 小比井のおっさんは自分の家(?)らしきところに駆け込んでった。

 そこは平屋戸建ての市営住宅だ。

 なぜ、市営だとわかったのか? それは壁におもいっきり【市営A】と書いてあるからだ。

 どうやらAからCまで住宅があるみたいだ。


 寮長はなぜか小比井のおっさんに親指を立て――グッジョブ。とエールを贈った。

 な、謎……だ……?


 「まずこのA住宅の左には死語復活師の志後しごさんが住んでる」


 たまたまその表札が見えた、おどろおどろしく「志後」と書いてある。


 「死語復活師ってなんっすか?」


 「最近使われなくなった死語にふたたびスポットを当てる仕事だよ」


 世の中には変わった仕事があるもんだ。


 「それになんか意味あるんですか?」


 「いつかその意味がわかる日がくるよ」


 スゲー意味深な寮長は志後さんの隣の隣・・・の部屋を指さした。

 そう真ん中は小比井のおっさんの部屋だからだ。


 「いちばん右がハカセの部屋。この絶滅危惧種だった博士ハカセというあだ名も志後さんが復活させたんだよ。あっハカセはかたかなでふつうにハカセね」


 おっ、いきなり死後復活師の仕事が判明!!


 「あっ、ハカセがでてきた」

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