第14話 ハウスサイエンティスト
現状の状況を説明すると、ちゃんなかはベロ掬いの店主となっていて花咲子とふたりでウェイウェイやってる。
グリムは愛するお面が死亡と同時に想いを寄せる花咲子の登場でほとんど404エラー。
本人もしめやかに死亡。
髑髏山は部屋で潜入捜査中。
寮長はこんなことには動じずに部屋でひとりテレビを観ている。
だが俺は密かに寮長の秘密を掴んでいた。
それもこれも俺がエージェントだからできた芸当だ。
なんと寮長は部屋にポストカード貼りまくる系の人だった。
ざっぱり(大雑把の略)いうと、センスがダセーの一言につきる。
海外のふつうの景色カバー率は高いし、どんだけハシゴすんのよ?ってくらい
それでも、まあ、みんななんだかんだ楽しくワチャワチャやってます。
1号室が「寮長」、2号室が「ちゃんなか」、3号室が「俺」で、4号室が「グリム」、そして5号室が「髑髏山」で6号室が「佐藤」、5号室と6号室は連結した一部屋で住人も同一人物だ。
これで寮生は全員集合。
結果この寮には俺をふくめて五人の寮生が住んでいることになる。
そう、寮生
時代に逆行しすぎだろう、セキュリティがザルすぎる。
いまだって『メンサイ』を片手にハカセが入ってきた。
そうさこの寮は年中開放中、たとえばここにハワイがやってきてもこの開放感に負けて帰っていくだろう。
おっ、ハカセ最新号じゃん!!
やっぱオシャレだな~。
俺はハカセのセンスにちょっと憧れがあった。
秘密組織の一員にもなるとあの
俺のエージェント仲間がいままで何人散ったことか。
赤か青の線を切るときに違う線の上に初上陸して爆死したやつもいた。
一兆ジンバブエドルを巡る、世界の経済事件に首を突っ込んで帰ってこなかったやつもいる。
前代未聞、芥川賞と直木賞をW受賞した暗号解読のスペシャリストもいる。
そいつは特殊部隊の中のさらに特殊な部署に引っ張られて異動していった。
やっぱり特別なスキルがあると出世は早い。
「朝比奈くん。寮の玄関ドアの蜂の巣感いいね~」
寮の玄関は組織のブツを横流ししてボスに――やれ。といわれたような無数の小穴が空いている。
というか穴は扉の表裏を貫通していて、この時期はドリル姉ちゃんも穴をあけていくらしいが俺は見たことはない。
市民たちの噂ではドリル姉ちゃんの低年齢化が叫ばれているとか……ますますわからん? ドリル姉ちゃんってなんなんだ? マッドサイエンティストに憧れるハカセはいまだに玄関扉をながめている。
「ああ、また穴増えたみたいっすね~」
「いいな。僕の家もあんなふうに変えたいな~」
ハ、ハカセ、市営住宅の玄関をこの自動小銃ぶっ放しデザインにしたら苦情がくるよ。
「そうそう。朝比奈くん、これ見てよ」
ハカセが上機嫌で『メンサイ』を開いた。
「おっ。すっかりレギュラーですね?」
「へへ」
ハカセは照れ笑いした、ハカセと出会ってからはや数ヶ月、俺とはフィーリングが合う。
俺はさっそく『メンサイ』を受けとった。
「ハカセ、もう
「ええ。でもさ~」
「ハカセならできますよ。チューバーめざしましょうよ!?」
「でもな~」
「ハカセのマッドファッションコーデと、あとはえっと、そうだな
「えっ。きょ、今日の実験か~。それはちょっと興味あるな。へへ」
「【レンジで回してみた】ってシリーズどうですか?」
ハカセは食いつく。
「どんなの入れて回すの?」
「それはもうマッドなやついきましょうよ? 最終的にはブラックホールができてビックバンするくらいの」
「うわ~悪そう。完全にマッドサイエンティストだね? なに入れて回してやろうかな~」
「ハカセってヤバければヤバいほど燃えますよね?」
「うんうん。高まるね」
「じゃあBSアンテナとかどうですか?」
「あっ、そうそうBSアンテナの代用で中華鍋を使うと意外と電波受信できるよ」
「へ~そうなんですか? さすがハカセ物知り!! 中華鍋でBSが見れるならBSアンテナでホイコーローが作れるって式も成り立ちますね?」
「そうそう。朝比奈くん、飲み込みいいね~」
「へへ、ありがとうございます」
ハカセに褒められると、またひとつ高みに登れた感じがする。
俺はなんだかよくわからない知識を得てどんどん賢くなっていく。
「けどBSアンテナってレンジに入るかな?」
ハカセが両手を広げて架空でBSアンテナのサイズを計っている。
「細かくすれば大丈夫ですよ。きっと」
俺はまったく根拠のない提案をした。
「朝比奈くんがいうなら。やれそうだな~。じゃあ
「シ、
「そう」
「やりますねハカセ。CSにはクライマックスシリーズって意味もありますしね?」
ハカセは俺より、さきをいっていた。
くぅ!?
セ、センスが違う。
「だよねー!! 宇宙クライマックスになるかな?」
「きっとなりますよ。レンジごと超新星爆発っす!!」
「ちょっと別案も考えてみるね?」
「はい。待ってます」
ハカセがつぎの案を考えてるあいだに俺は『メンサイ』に目を通す。
今月の読者博士のコーナーにも
スゲー、セミレギュラーじゃん!!
これは闇科学界も放っておかねーんじゃねーの? 今回は理科室の崩れ落ちた机と机のあいだで机の端を掴んで、もう片方の手は床に置いたショットだった。
そしてその態勢のままカメラに向かって”くっ”って睨んでいる。
「カ、カッケー!! ハカセ。この口の”くっ”がいいです!! ”くっ”が」
「えっ、ほんと? ちょっと意識しすぎかなって思ってたんだけどそうでもない?」
「いや、自然、自然、ナチュラル、オーガニック」
「そっか~」
「はい。この――おまえらよく聞け? 自然と科学は絶対に交わらない。ってセリフが聞こえてきそうです」
「そうそう。僕もその感じで演じたんだよ。この膝が重力に引かれてる感じもポイントかな」
「ああ、わかります」
わかってしまうんだな、これが。
なんつーのこの反骨精神、九州にいっても醤油ラーメンを食う
「朝比奈くんとは合うな~じつに合う」
「やっぱりですか!? てかハカセ、ここで本物の”くっ”を見せてくださいよ」
ハカセは俺のリクエストに応えて”くっ”をやってくれた。
「おお、本物だ!! 本物の”くっ”だ。おかわりで」
ハカセはおかわりでもう一発”くっ”をくれた。
「
俺は拳をマイクふうにしてインタビューする。
「へへ。ま、まあね」
「本物ですか?」
「そ、そうだよ」
「一枚いいですか?」
よし、写メ撮っておこう。
「僕で良かったら、ど、どうぞ」
「これ寮の中の出店でチェキとして売ります」
「え~売れるかな~?」
まんざらでもなさそうだ。
そのあと俺とハカセで会議をしてお互いの案を揉んだ結果、大きい電子レンジの中に小さい電子レンジを入れてマックス暖める動画を撮ることにした。
その発想はもう宇宙ができる予感しかない。
科学や化学はよくわからないけどなんか波長と波長がガンガンぶつかる絵が浮かんできた。
「朝比奈くんに相談なんだけど。つぎの書籍原稿案 ”扇風機は毎年売り切れるけど消耗品なのか?”と”何百年に一回の月食とか日食って毎年あるよね?”どっちがいいかな?」
「おー扇風機を毎年買うってことは前年のぶっ壊れたってことになりますもんね? それは消耗品ですね」
「そうなんだよ。日本の扇風機の普及率を考えたらそんなことにはならないのにね」
「ブルータスお前もか?のペンネームの原稿ですよね? う~ん。そうだな~」
俺が悩んでるところに――ハカセ。頼むよ~。そうハカセに泣きついてきたのは404エラーから復帰したグリムだった。
なぜに?
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