第20話 死闘
俺が昼過ぎ寮に帰ると俺の目に飛び込んできたのは地元の卓球愛好会のメンバーと試合というか死合(?)をしているちゃんなかだった。
やつの背中には選抜メンバーのゼッケンがあるが、あんまり選抜されてないのがうかがえた。
卓球愛好会の
追っかけもついてきたのか? へ~この寮もついにそのレベルの客員を迎えような施設になったか。
ちゃんなかいずれ民泊をはじめたりしねーだろうな? 管理人ブチ切れるぞ? ある意味
俺はしばらく試合を観戦することにした。
ちゃんなかはカコ~ンと慣れた手付きでピンポン玉を打ち返した。
寮が完全に競技施設だ。
いつぞやは俺の布団の横でカーリングもどきを開催していたくらいだからな。
将来はアリーナレベルまでいこうか、俺の向上心もハンパないな。
「いや~上手いですね~」
ちゃんなかが対戦相手に褒められていた。
あいつにかぎってそれはない、
「あっ僕高校時代卓球やってたんですよ~」
マジか? ちゃんなかがサラっと告白した。
「へ~そうなんですか?」
「ええ。体験入部してからそのままずっと籍だけ置いてます。体はべつのところにありますけど。ファンタジー映画よくあるでしょ?――体と魂は別々なのさ。みたいなの、だからいまだに卓球部です」
それを入部といわん。
だがやつの服装ときたら下はトランクスで上はノースリーブのシャツ。
おまえは盗賊に追い剥ぐられたのか? それでも一進一退まあまあいい具合に試合は進んでいった。
※
ちょっとダレてきていたから俺は飲み物を買っていま戻ってきたところだ。
やっぱりというか
「なんで二刀流がダメなんだよ!?」
ちゃんなかは右手にラケット左手にスリッパを握って相手を威嚇している。
もう化けの皮が剥がれたのか? すみません客人、あとで俺がデコピンしときますんで。
「いや……あの、だって……」
「うちの家系は代々二刀流なんだよっ!!」
「そういわれましても。卓球はもともとラケットを一本しか持てないルールで……」
客人のファンからもブーイングが飛んでいる。
「つーかおまえはプロのくせに俺のようなパンピー相手に手加減なしかよっ!?」
「いや~あの僕は別にプロじゃなくて卓球愛好会なんですよ」
「プロじゃないのにあの片足打法みてーな構えは納得できね~? それに天井サーブとかどうみてもプロの技でしょ~が!?」
本物のプロがなぜおまえごときの相手をするんだよ? 時間の無駄だし、おまえと関わるストレスを懸念して一見さんお断りの看板だすわ。
「えっと、別にプロじゃなくてもあれくらいのサーブできますよ」
「おう、俺がここまでいってもダメかい? ならこっちにも考えがある」
ちゃんなかはどこに隠したのか謎だけど部屋の中からもう一台、卓球台をガラガラと転がしてきて変形させた。
そして自分の陣地に縦にくっつけた、そうすることによってちゃんなかの陣地が伸びた。
「こっち側が俺の陣地だ。台が狭めーからワリーんだ。オメーのほうが上手いんだからこんくらいのハンデは当然だよな?」
ちゃんなかは引きつった笑顔で脅迫している。
客人も
「えっ、は、はい。わ、わかりましたよ。どうぞ」
客人は渋々納得した。
ちゃんなかはサーブを打つ、パサッっとネットに玉がひっかかった。
台が二倍になったので相手の陣地までピンポン玉が届かない……。
客人、そいつはバカなんです、自分が不利になったことをわかってないんです。
「くそっ!!」
ちゃんなかはもう一回サーブを打つがやっぱり相手側までピンポン玉は届かなかった。
――パサッ、パサッ、パサッ、何度サーブを繰り返しても届きそうもない。
「チキショー!!」
ちゃんなかは悔しさを露にした。
その悔しさを込めてもう一度サーブを打ったけどやっぱり届かない。
――パサッ。
ちゃんなかはついにサーブを諦めピンポン玉を手に持って相手側までテクテク歩いていてった。
「おまえから打ってこい? それを俺が弾き返してやるっ!!」
「えっ、あっ、はい」
サーブ交代か? 客人はピンポン玉を受けとる。
ちゃんなかはその隙を狙い、左手のスリッパを天高く振りかぶって客人の後頭部をおもいっきりぶっ叩いた。
バチコ~~~ン!!
客人に悪いが良い音だ。
「いっ、いったっ!?」
客人は声を上げた。
マンガなら絶対に目が飛びでてるぞ。
ちゃんなかはサーブが入らずに相当ストレスを溜めていたみたいだった。
「な、なにするんですか~?」
「いや、あの、なんつーかおもいっきり玉を打ち返せないストレスが俺をそうさせたみたいだ」
「もう~勘弁してくださいよ~」
ちゃんなかも自分の陣地へと戻っていく。
客人はそれをきっちり見届けたあとにサーブした。
さすがはスポーツマン。
オレンジ色のピンポン玉がネットを越えてきれいにちゃんなかの陣地に飛び込んでいった。
ちゃんなかは飛んできたピンポン玉を打ち返そうと身を乗りだすが、二台分のスペースがあるためにまったく手が届かず、卓球台の端で腹を激しく打った。
「ブベッ!!」
卓球愛好会のかたを困らせた天罰だ。
ズルはするなという
ちゃんなかは舌をだして絵画の”叫び”のような顔をしてから
「お~腹いてぇぇぇぇ!! なにかがグリッってなったぁぁ!!」
客人の――だ、だ、大丈夫ですか? が掻き消されてる。
しばらく蹲ったあとちゃんなかが頭を上げ追い打ち、追い焚きでふたたびラケットを振りかざした。
ゴツッ!!
おお、またもや良い音で、ちゃんなかは手を卓球台にぶつけた。
「いってぇぇっ!! 台にスマッシュされた!!」
ちゃんなかは目を見開く、昇天間近か?
だが、ちゃんなかは意外と打たれ強い。
あながちいままで俺と死闘を繰り広げてきたわけじゃない。
この空気を引き裂くように寮の玄関扉が開かれた。
そこに現われたのは謎の人物だ。
そいつは自前のチャリに
日本の”土足厳禁”という文化が死んだ瞬間だ。
「このスリムなシルエットと車体のディテールは最高のできだ!!」
そう車体を撫でる謎の人物。
また、チャリ関連だよ。
この町のやつはいつもいつもほんとに、男ってバカ。
そいつは耳に結構使い込んで短くなった赤エンピツの――お前も競馬すんの?バージョンを挿していた。
その上から
もう、44口径のグラサンで正体わかるし。
着ているパーカーには夕暮れ間近のハワイアンビーチに立つ母親(?)とのツーショット画像が合成されている。
だ、だ、だ、ダセー!!
手首には金魚すくい用のポリ袋に入った色とりどりの大小さまざまなスーパーボール。
年ごろだからなのかジーパンの膝から下をぜんぶ破いてある。
だがそのオシャレが仇となりかなりもっさくなっていた。
おまえは道で野良犬に噛まれつつここまで辿り着いたのかテイストだ。
でも、案外、時代を逆行して『メンズサイエンス』に載ってしまうかもしれない。
それはそれですこし嫉妬だ。
「きゃぁぁぁぁぁ変態よ~変態が現れたわ~!!」
おっ、客人のファンが騒ぎはじめた。
ポンポンを振って逆に応援してるみたいじゃん!!
「すご~い!! あんな絵に書いたような変態初めて見たわ~!!」
「どうやったらそんなコーデが実現するの~? 奇跡だわ奇跡が起きたのよ~」
「そうよ。あんなのしようと思ってできるものじゃないわ。ひとつひとつの奇跡が重なったのよ~」
「ううん。あれは
「きゃぁぁぁ警察。警察呼んでぇぇぇ!!」
「ダメェェあんなの警察じゃ手に負えないわ。
「隊でも無理よ。
グリムの自分かっこいいフィルターは客人ファンの悲鳴じゃはずれない。
そんな声もどこ吹く風でグリムはさらにチャリの後輪をスピンさせてかっこいい技を披露した。
客人のファンが自分を応援していると勘違いしたみたいだ。
あまりに調子に乗ったためにスーパーボールがこぼれた。
そんな悪条件なのにさらに自転車をスピンさせ、スーパーボールがタイヤの中に
そのまま運転手のグリムもスーパーボールの様にすっ飛んでいった。
「と、飛んだわ。ついに変態が変体飛行したわ~!!」
「きゃぁぁぁ変態のV字ジャンプよ~」
「なんか靴も飛んでった~」
「あ~。私あの靴『スーパー・バーゲン・セール・フェア』の衣料品売り場で見たことあるわ~たしかか百二十円で売ってた~」
「あんな靴ならボーリングの靴のほうがまだオシャレよ~」
グリムさんざんないわれようだな、俺まで心痛むぜ。
「でもボーリング場の靴だって結構レモン味よ」
「あの変態からもレモンの臭いがする~しかもK点越えたわぁぁ!!」
グリム、終わったなナム!!
高僧のボンボンは供えてやるからな。
ちゃんなかのTゾーンとUゾーンにもチャリをデコっていたパーツが直撃してるし。
今日のちゃんなかはもらってばっかりだな。
もう、この欲しがりさんめ。
グリムは
グリム本体とともにチャリの遺留品がそこら中にバラ撒かれている。
立ち上がったちゃんなかも転がるスーパーボールの上に乗り上げ、玉乗り状態から、さらにまたじっくりコトコトこけた。
これは卓球じゃない。
紛れもない死闘だ、ザ・バトルロワイヤルだ。
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