エピソード60~エピソード61

###エピソード60



 9月4日、朝のニュースでは一連の事務所が起こした事件に関して扱っていた。

しかし、その内容は『芸能事務所AとJには不祥事はない』や『彼らのような失敗は起きない』と言った、炎上マーケティングその物である。

それを報道したのは――長時間放送の感動をねつ造とネット上で毎年炎上している生中継番組を放送していたテレビ局であり――出演アイドルの宣伝を兼ねて、あの事務所を炎上させているのだろう。

それ程にマイナーアイドルは不要と切り捨てているのだろうか? 実際は広告会社や芸能事務所の指示と言う可能性もあるが――真相は定かではない。

【やはりこうなったか】

【芸能事務所と広告会社が手を組んでいる疑惑は、前々からあった。それを改めて――という具合だろう】

【噂によると芸能事務所AとJのOBが国会へ進出しようとしている】

【それこそ、WEB小説のネタだろう? そこまでやったとしたら――】

【結局、芸能事務所AとJのアイドル以外を不要と考える数百人程度のアイドル投資家が国会を動かしている――そう言う感じかもしれない】

【まさか?】

【それが現実化したら――】

 つぶやきサイトでも、こうなる事は想定内という様なつぶやきが相次ぐ。

しかし、あまりホットワードになるような状況ではなく、これも炎上マーケティングやマッチポンプと切り捨てられた。

実際にそれを確定させたのは、アフィリエイト系まとめサイトのURLを引用していたり、明らかに芸能事務所Aから裏金を受け取っているようなつぶやきユーザーが炎上させている事が――証明だろうか。



 そうした流れを叩き斬るように、コンテンツ流通の可能性を示唆するような記事が発表されたのは――午前10時である。

『これは――どういう事だ?』

 この記事を草加市役所でチェックしていたのは、鹿沼零(かぬま・れい)である。

今回の彼は特に大きな用事もないので、市役所へ一部の業務に関して相談をしようと思っていた。

しかし、この内容は相談しようとしていた業務にも影響を及ぼす物だったのである。

「鹿沼さん、これは――」

 男性職員の一人が、鹿沼の所へと駆け寄る。

彼も応接間から出る所だったので、丁度――という気配か。表情も落ち着かないので、かなり大きな事なのだろう――と鹿沼は考えた。

しかし、その内容は鹿沼の想像を超えるような物――ある意味でも想定外と言っても過言ではない。

『完全な先手を打たれたという事だ。運営側も一部の暴走した事例ばかりに注目した結果と言うべきなのか――』

 その記事とは、ARゲームをふるさと納税の返礼品にしている草加市にとっては問題となるような物である。

この記事を見る前に相談しようとしていたのは、他の周辺エリアにも返礼品として提案しようと言う物だっただけに――計画は白紙になったと言ってもいい。

【ARゲームに関して、新たなクラウドファンディングガイドラインの緩和とルール追加】

 記事の内容は、ARゲームの運営にクラウドファンディングを用いる事に関して緩和すると言う物である。

ARゲームをプレイしないようなプレイヤーにも、ARゲームの技術がどのようなものに使われているか――それを理解してもらう為の緩和なのだろう。

実例としては、新規ARゲームでプレイ料金とは別に個別の寄付やカンパ等を認める物だった。

今までは投資家等による投資だけというのも、今回の事例がコンテンツ流通の可能性を導き出したと言える物だろう。

こうした事例はクラウドファンディングサイト等でも実例が存在していたが、サイト側がARゲームの実体的な物を警戒して禁止していた経緯もある。

過去に芸能事務所側が圧力を賭けた事もあるので、仕方がないと言えるのかもしれないが。

 その一方で、いわゆるソーシャルゲームの様なアイテム有料タイプのサービスやふるさと納税方式に関し、廃止を含めてルールを変えると言う物だった。

草加市にとっては寝耳に水と言うべきなのだが、これは他の市町村で詐欺まがいの資金集めが週刊誌でピックアップされたのも理由の一つだ。

鹿沼は、この件を芸能事務所AかJによる炎上マーケティングの戦法と訴えたのだが――草加市が方針転換をする事はなかったという。

『この提案をしたのが誰なのかは知らないが――代償は高くつくぞ!』

 この声はミュートにより、役所の職員やスタッフなどには聞こえない。

それ程に今回の件は鹿沼にとっても切り札の一つを失ったと言えるだろうか。

ARゲームでも一時的に問題視されていた特定の投資家に関する行動が炎上を呼ぶ事があり、それを踏まえてふるさと納税にすれば炎上しないと提案したのは鹿沼の方である。

それ以外でも様々な提案を行い、ここまで発展してきた経緯もあった。

だからこそ――今回のルール追加は鹿沼にとっては寝耳に水であり、致命傷と断言出来る。



 この件に関して、もう一人寝耳に水の人物がいた。

今の彼は潜伏活動を行い、ネットでも炎上マーケティング等を誘導している存在としてブラックリスト入りしている。

「山口飛龍――まさか、奴が武者道にいたとは予想外だった」

 その彼とはジークフリートである。数日前に山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)とのバトルで敗北後――密かにネットで情報を拡散し続けていた。

あの時は、あくまでもゲームの決着で敗北しただけなので――仮に気絶したと言っても問題なく逃げられた。

しかし、レイドバトル中に行動を起こそうとしたのは大失敗と言える。

ネット上でも炎上勢力が、ガーディアンに鎮圧されている事を考えると一目瞭然だろう。

 彼の居る場所は竹ノ塚のネットカフェであり、ARゲームとは無関係の場所だ。

下手にスマホで情報を拡散すれば、アキバガーディアンが駆けつけるだろう。ARガジェットで拡散すれば、チートキラー等が現れる。

アキバガーディアンは物量で来られると勝ち目がない。チートキラーであればデンドロビウム等の有名プレイヤーでなければ、何とか勝てるかもしれない――と。

「しかし、このままで終わると思うなよ? こちらとて、まとめサイトのパイプラインを――?」

 目の前のパソコンは個室仕様であり、犯罪行為でもなければ強制シャットアウトされる事はないはず。

実際、ネットカフェの注意事項でも書かれており、そこに触れるような事はしていない――そう彼は考えていた。

【ARゲームに関して、新たなクラウドファンディングガイドラインの緩和とルール追加】

 彼が発見した記事、それにはARゲームのクラウドファンディングに関する部分の緩和と別のルールを追加したという記事が載っていた。

ルール追加には、今まで魔女狩りと批判されていた特定キーワードを含むつぶやきの強制削除機能に関して廃止する事も書かれている。

それ以外には――彼にとっては致命的なルールも新たに追加されていた。

「ネット炎上及び炎上マーケティングの規制――だと!?」

 思わず大声を上げてしまうが、あくまでも個室なので周囲には聞こえていない。

しかし、カラオケ並の大音量だと聞かれてしまう可能性はある。防音仕様の壁でも限度があると言う事だ。

「このままでは、ARゲームは大きく注目される事無く――歴史の闇に消えるだろう」

 ジークフリートは青騎士の都市伝説を初めとして、様々なARゲームに関する都市伝説を生みだした。

それに加えて、適度に炎上させる事でARゲームに潜んでいる問題も浮き彫りにしてきている。

情報屋と言うポジションにい続けたのは、そうした経緯もあると言ってもいいだろう。

「そうだ――あの人物とコンタクトを取ればいいのだ」

 ジークフリートは、ある場所へとメールを送り――該当する人物にコンタクトを取ろうと考える。

その人物とは、毒を以て毒を制すると言うべき存在でもあった。


 

###エピソード60-2



 午後1時、鹿沼零(かぬま・れい)のスマホにメールが入っている事に気付いたのは――昼食後である。

『なるほど――こちらが接触してきたか』

 鹿沼に接触をしてきた人物は、何とジークフリートだ。一体、どういう経緯で彼は鹿沼にコンタクトを取ろうとしたのか。

しかし、そのメールに返答する事はなかった――だけでなく、鹿沼は予想外の行動を起こす事になる。

『しかし、まとめサイトは既に用済み――芸能事務所AとJに便乗するだけのサイトは、ARゲームには不要だ』

 彼は――今回のガイドライン変更の一件を受けて、スタッフから様々な意見を聞く事になってしまった。

それらの意見を聞いていく内に、彼はこれから行うべき事を修正していく羽目になる。

その一つが、ふるさと納税からの脱退――アーケードリバースのクラウドファンディング化だった。

これに関しては手続きに時間がかかる為、すぐに出来ると言う訳ではないのだが――その間に混乱が起こるのも承知の上で。



 メールの返信が来ない事に対し、ジークフリートは別のアンテナショップへ向かっていた。

ここで情報屋に合流し、ある一大作戦を実行しようと言う話を既にしてある。

それに関して鹿沼にも同調するように協力要請をしたのだが、その返事は未だに届かない。

ネットカフェに居続けたとしても、利用料の関係もあるので――時間を無駄には出来ないだろう。

「まとめサイトが集まれば、それこそ芸能事務所AとJに抵抗する事も可能だと言うのに――」

 自分の言っている事に自信を持てない状態であり、今回のガイドライン変更に関してのダメージは未だに回復していない。

それに加えて、このままではアフィリエイト長者になると言う真の目的も――。

「全てはこういう事だったのか――」

「貴様は――!!」

 ジークフリートが他のメンバーに合流をしようとした矢先、視線に入って来たのは橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)だった。

何故、彼がここにいるのか――今頃は秋葉原のまとめサイト勢力を対処しているはずなのに。

「まとめサイト勢力が何か企んでいるという話は、WEB小説でも使い古されたテンプレ戦法だ。こちらが見破れないと思ったのか?」

「馬鹿な――こちらは見破られやすい行動パターンは使っていないはずなのに!」

 橿原に対し、ジークフリートはARグレートソードで対抗するのだが――手持ちの大型巻物で弾き飛ばす。

そして、次の瞬間には巻物から呼び出した戦闘機型のARウェポンに、ジークフリートが対抗できる手段はなかった。

戦闘機と言っても実在する戦闘機ベースではなく、架空戦闘機の為かデータが不足しているのも原因だろう。

撃ち落とそうとハンドガンやバルカンを撃つも、それらは全て戦闘機に当たる事がない。

「どういう事だ――こちらの攻撃が読まれているのか?」

 しかも、橿原は他のメンバーを撃破した際に行動パターンをある程度把握しており、それがジークフリートの攻撃が当たらない理由なのだろう。

彼が分かりやすい負けフラグを立ててしまったのも――敗因と言えるかもしれないのだが。

「直撃――なのか!?」

 戦闘機から放たれたのはホーミングレーザーなのだが、スタン性能を持っている物である。

明らかにチートの部類と考えた。それ位に威力のケタが違いすぎる。

「チートプレイヤーを倒すのにチートを使うと言うのか? お前は!」

 ジークのこの発言を聞き、橿原は無言で更なるガジェットを呼び出した。

そのガジェットは、どちらかと言うと剣に近いのだが――形状は銃剣と呼ばれるタイプだろうか?

その剣を振り下ろし、レーザーソードが命中する。その後、見事にチートキラー効果が発動し――。

「行動パターンが既に使い古されているパターンの応用であれば、あっさりと見破れる手段がある――と言う事だ」

 橿原の一言を聞く間もなく、ジークフリートは気絶する。まさか、一撃で倒されるとは予想外の展開だ。

周囲を見回したジークフリートは、他のメンバーも気絶していた事に今更気づいたのが――後の祭りである。



 5分後、橿原はある人物から通信が入っていた事に気付いた。サウンドオンリーと言う事で、顔が表示される事はない。

『手間をかけてすまなかったが――心配する必要性もなかったな』

「こういう汚れ仕事は他に押し付けるのか――政治家と言う人種は」

『政治家? 私は政治に興味が全くない――と言っても信じてもらえないか』

「当たり前だ。市議会議員と言う事は、草加市に関係していると言っても問題はないだろう」

『ジークフリートを遂に倒した事で、まとめサイトは閉鎖をしている。アフィリエイト系サイトの一掃は、時間の問題だ』

「確かに、こちらも手を焼いていたまとめサイトの首謀者を確保出来たのは大きいが――」

『それとこれとは話が違うと言いたいのか?』

「当然だ。貴様が今までやってきた事――ニュースサイトでも有名な部類を含めて、かなりの数に及ぶ」

『それら全ては草加市が決めた事――私個人だけで動かせると思うのか?』

「ARゲーム課とは――うまくごまかした物だな」

『何の話をしている?』

「こちらとしても――貴様の行動を無視するわけにはいかないのだ、草加市のふるさと納税の一件を含めて」

 橿原は謎の人物に対し、ジークフリートの情報提供を受けたとしても――それで帳消しに出来ると言う事ではない事を言うのだが――。

それに対して、彼の方は自分のやってきた事を棚に上げているような気配さえ感じる。

『ふるさと納税の一件は――こちらの一存ではないのは分かっているだろう? それでも――』

「確かに、反対者もある程度の人数がいたのは知っている。しかし、それでも賛成派を増やす事は可能なはずだろう?」

『不正を疑っているのか?』

「デンドロビウムであれば、真っ先に貴様を狙ってもおかしくはなかったが――鹿沼」

 橿原は連絡を入れてきた人物が鹿沼である事を最初から分かっていた。

その上で、敢えて誘いに乗ってジークフリートを撃破したのである。

『まとめサイト勢力を倒せば、次は芸能事務所を潰す気か?』

 鹿沼の一言を聞き、さすがの橿原も我慢できない状態だったが――それこそ芸能事務所の思う壺かもしれない。

しばらくして、橿原は鹿沼が他にも言いたそうな雰囲気だったのだが、即座に通信を切る。

「まとめサイト、芸能事務所、アイドル投資家、悪目立ちするアイドルファン――全てを一掃しなくては、ARゲームが運営できないと言うのか」

 橿原は思う所はある一方で、これ以上の大規模テロまがいの行動を起こされてもまずい為か、アキバガーディアンへ情報を送るのだった。




###エピソード60-3



 午後1時30分、草加市役所では緊急会議が行われる事になった。

ARゲーム課のスタッフだけでなく、ふるさと納税に関係する部署の人間もいる。

会議室を用意する事が出来ないほどの緊急性を持っていた為、ARゲーム課の防音施設と言うか応接間で行われた。

『今回集まってもらったのは他でもありません。一連のガイドライン変更に伴う、方針転換です』

 鹿沼零(かぬま・れい)の口調も、何時もとは違っている。ARメットの影響で素顔が見えないのは変わりないのだが――。

方針転換と言う鹿沼の発言を聞き、集まった周囲のスタッフなどからも動揺が広まっている。

これに関しては鹿沼にも思う部分はあるらしいが、自分達だけで何とか出来る事にも限界があるのは間違いなかった。

実際、鹿沼の腕も震えているように見えるのだが――。

『これ以上は我々だけで進める事は不可能だと言う事を認め、ARゲーム側の運営に従う事になるでしょう』

 議員の一部からは反対意見も飛び出す。鹿沼が言いだした事なのに、ここで急な手のひら返しである。

しかも、フラグもないような唐突感さえ感じさせるような光景に――スタッフからも反対意見が飛び出した。

『下手にこちらが強硬策を続ければ、芸能事務所AとJの二の舞になる――そう判断した次第です』

 この一言で、全てのスタッフが黙り込む事になる。

声のトーンは激怒しているような物ではない事もあって――尚更だ。

芸能事務所AとJがやってきた炎上マーケティングの事例は、草加市側も知らない訳ではない。

そうした悪しきマーケティングノウハウとは別の物を――と言う事でふるさと納税を提案したのだが、最終的には黒と認識されたと言ってもいいだろう。



 この会議の内容は、すぐにホームページ上で発表され、またたく間にネット上でも話題となった。

該当するホームページを見た山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)は――。

「手のひら返しと言うよりは――自分の行為がブーメランだと自覚したのだろう」

 鹿沼の過去にやってきた事、それが芸能事務所AとJの2社と同じだった――そう自覚し、態度をあらためたと考える。

ホームページを見る前は、アーケードリバースを山口はプレイしていた。

当然ながら、レイドバトルではなく通常のマッチングモードである。この辺りは関係者と言う理由もあるのだろう。

「お前達は――相手を間違えたのだ。炎上マーケティングは、二度と起こさせない!」

 自分に襲いかかって来たモブのプレイヤーが倒れている光景を見て、山口は静かな闘志を燃やしている。

リザルト画面でも、山口がスコア1位である事から――大体の事は察する事が出来るかもしれない。

【何て事だ!?】

【デンドロビウムも未だにレイドバトルのランキングにいない――】

【レイドバトルに有名プレイヤーが流れている内に、ランキング荒らしでもしようとしたのか?】

【山口飛龍を相手にしたのが、運の尽きだったのだろう】

【チートキラーの異名を持っているという話も聞く。まさか?】

 つぶやきサイト上では、今回のバトルを見て驚く様子がタイムラインで一目瞭然だった。

今までプレイしているような動画も確認されないような人物が、唐突に動画をアップしてアピールを始めたと例えられそうな気配も――。

 


 鹿沼の手のひら返しに関しては、ネット上でも話題となっている。

しかし、まとめサイトの半数以上は話題のニュースなのに取り上げない。

逆に、有名アイドルの不倫や不祥事と言った物でアフィリエイトを稼ごうとする様子が――非常に分かりやすかった。

「レイドバトルには有名なプレイヤーも流れていると聞いているが――」

 タブレット端末でランキング票を見ていたのは、ヴィスマルクだった。

彼女もレイドバトルに参戦し始めたのだが、スコアの方はランキング集計対象外である。

 何回かレイドバトルをプレイはしているが、肝心な所でレイドボスを便乗勢力等に落とされてしまう。

こうしたプレイが続いていく内に、スコアが獲得できない負の連鎖に突入しつつある。

重戦車や小型ロボ辺りは撃破出来たのだが、あまり大きいスコアは期待できない部類なので――まだランキング集計対象にはなっていない。

その状況下で、ヴィスマルクは上位のスコアがどれ位なのか、どの辺りであればランキング集計対象になるのか、ランキングを調べていた。

「この人物は――まさか?」

 ヴィスマルクが発見したプレイヤーネームは、プレイヤーIDの番号を照合しても間違いないという人物だった。

プレイヤーネーム被りがある程度は可能なARゲームの中で、唯一の被り禁止ネームを持つ人物は――彼女しかいない。

《ビスマルク》

 そう、あのビスマルクである。

自分がネームエントリーしようとしても、ネーム被りを理由に登録出来なかった事情が――彼女にはある。

 実はビスマルクがプロゲーマーだったと言う衝撃事実――それをまとめサイト等で知った時には、声も出ない状態になっていた。

単純に情報集めを初期の段階でミスしていたのは、今更言っても遅いだろう。

それが今となっては、プロゲーマーではないがある程度の知名度は持つようになった。怪我の功名と言えるのかもしれない。

「しかし、ビスマルクがいたとしても順位は――!?」

 ランキング順位を見て、ヴィスマルクは固まる。何故かと言うと、その順位は2ケタ――50位だった。

1位のプレイヤーは見た事もない名前なので、モブプレイヤーなのだろう――とヴィスマルクは考える。

プロゲーマーであるビスマルクでも10位に入るとネット上で言われている中、この順位なのは炎上対象になってもおかしくない。

「一体、何が起きていると言うのか――レイドバトルで」

 ここでヴィスマルクは、あるミスを犯していた。

それは、1位のプレイヤーをモブプレイヤーと心の中で決めつけてしまった事である。いわゆる、レッテル貼りだ。




###エピソード60-4



 鹿沼零(かぬま・れい)による、今までの方針を転換するような流れは――彼にとってブーメランだったのは言うまでもない。

実際に気付き始めたのは、ふるさと納税が成功の軌道に乗り始めた頃よりも、超有名アイドル商法に関して規制が叫ばれた辺りだったようだ。

その後も特にツッコミが入る事もなかったので、問題はなかったと判断し――現在までに至る。

「ここまで放置され続けたのには、どういう意図があったのか?」

 ビスマルクは一連の鹿沼に関する行動を問題にはしていたが、目立って言及するようなことはなかった。

ARゲームの運営批判はネット炎上の観点からガイドラインでも禁止されている。

 しかし、この運営批判は新たなガイドラインでは指摘や改善案という形であれば問題がない――という変更が加えられた。

つまり、この変更が今回の方針転換につながったのではないか――と言われている。

「ARゲームは単純な炎上マーケティングで売り上げが上がるようなコンテンツ――そうした部類とはケタが違う」

 山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)は再びマッチングバトルで、向かってくる敵をなぎ払っていく。

それらのプレイヤーは、大抵が悪乗り便乗やタダ乗り勢力のような存在であり――ARゲームのガイドライン上では追放の部類とされた存在でもある。

 しかし、そうした存在も悪意を持って実力行使をする事を禁止したのも、非常に大きい。

あくまでも実力行使と言うのは無差別テロ等に代表される部類、それこそカルト宗教でも問題視された一件等――警察沙汰になる行為を禁止する事になった。

さすがにARゲームで殺傷行為やデスゲームを禁止していると言うのに――とツッコミが入りそうだが、念には念を入れるようである。



 午後2時辺り、草加市近くのARフィールドで多数のギャラリーを集めたバトルがあった。

それはレイドバトルなのは間違いないだろう。しかし、そこに参加していたのはデンドロビウムではない。

「デンドロビウムかと思ったが、違うのか」

「アルストロメリアも、やっと名前が出た辺りだ。更に様子を見るのだろう」

「しかし、7日には中間発表がある。いつまで行われるか不明な以上、スロースタートは致命的だ」

 ギャラリーからはレイドバトルに期限こそ設定されていないが、中間発表が控えていると言う発言が聞こえた。

初日からRTA(リアルタイムアタック)勢力が荒らした事もあり、様子見を決めていたプレイヤーがいるのは知っている。

しかし、遅く参加してもスコアの差は開くばかりだろう。最悪でも5日には参加しなければ、7日の中間発表は間に合わない。

一方で――レイドバトルの攻略情報を扱ったウィキには、興味深いであろう上場もあった。

【レイドバトルのレイドボスはレベルの数値が高いほど、スコアが高い】

【やろうと思えば、1000レベル以上のレイドボスの止めだけを刺す事も可能だろう】

 無茶な話だが――レイドバトルの予想外とも言える攻略パターンが掲載されたのである。

これが運営にチェックされた場合、この攻略法は使えなくなるが――現状ではノータッチだった。

 その結果が、このギャラリーを集めたバトルなのである。

「まさか、あのウィキの攻略法を試す人物がいたとは」

「しかも――まだ有効なのか?」

「これでアイドル投資家辺りがランキング上位に入ったりでもしたら――」

 動揺に交じり、このような声が聞こえていた。しかし、彼女にはそうした声は全く聞こえていない。

今回のレイドボスを撃破した事で、彼女のスコアは急上昇し、気が付くと1位のプレイヤーを――。

「こんな馬鹿な事があるのか?」

「信じられない!」

「下手をすれば、レイドボスのパターンも変更される可能性が高いぞ」

「これが、プロゲーマーのやる事か?」

「ハイエナは超有名アイドルファンだけがやると思っていたが――」

 周囲の声があまり聞こえていないとはいえ、ここまで言うとブーイング等と変わりない。

正々堂々としたバトルに水を差すような発言が相次いだ事に対し――彼女は一言叫ぶ。

『お前達が望む結果とは何だ? システムの穴を突くようなプレイをしているのは――どっちだと言うのだ!』

 彼女としては、感情を抑えているつもりなのだが――ある意味でも本音が出ているのだろう。

白銀のモノアイタイプバイザーに特徴的なARアーマーから判断して、明らかにこの人物がガングートなのは予測できる。

だとすると、今回のマッチングに参加したプレイヤーの目的はガングートの炎上狙いなのか、それとも今回のプレイを不正と申告するつもりなのか?




###エピソード60-5



 9月5日、前日のガングートの一件がワイドショーで取り上げられる事はなかった。

何故と言われると――それ以上に視聴率が取れる案件が出てきたからだろう。

どのような内容なのかは、現実の読者にも悪影響を与えかねない観点から割愛する。

超有名アイドルのファンは、FX投資をしているのと同じと言う例えをした所で――。

「相変わらずのまとめサイトと言うか――そこまでして超有名アイドルのCDやグッズと言う名の株式投資をして――」

 テンプレ通りの書きだしやニュース記事を扱うまとめサイトを見て、削除申請をしていたのはスレイプニルだった。

今回に限っては谷塚駅にARインナースーツも装着せず、私服で姿を見せている。

 しかし、身長が170辺りなぽっちゃり女子を――誰もスレイプニルと分かる人物は、誰もいなかった。

外見に関しても素顔が一切判明しておらず、過去に目撃された人物も影武者説が浮上している。

それだけでなく、AR技術を応用した変装を得意とするというデマ情報がある程に――彼女の素顔は都市伝説とも言える程の物になっていた。

黒髪のツインテールと言う髪型を見ても、おそらくは誰も気にはしないだろう。

「どちらに転んでも、アルストロメリアのシナリオ通りに事が進むのは――納得できないけど」

 彼女はアルストロメリアの行動原理に理解を示しつつも、やり方が回りくどいとも考えていた。

それこそ、物理攻撃で芸能事務所を襲撃すると言う過激派発言が炎上しそうなのに、アルストロメリアの方が炎上すると言うレベルで。

『シナリオも、いよいよ佳境と言う事か』

 そして、スレイプニルはいつものARメットを被り――近くのアンテナショップへと向かった。

メットを被っただけではARスーツが装着される訳ではないので、私服はそのままなのだが。

『芸能事務所を壊滅させるのと、今までの行動を謝罪させるのでは――どう違うと言うのか』

 鹿沼零(かぬま・れい)の方針転換、それが芸能事務所AとJのそれと類似案件かどうかは不明だが――。

現状で言える事は、力で圧力をかけるような方式で芸能事務所を黙らせても、それこそネット炎上はリアルウォーへと変化するだろう。

だからこそ――何処かで妥協する必要性がある訳だが、その妥協は芸能事務所への忠誠や圧力などで使われるべきではない。

過去に超有名アイドル商法が賢者の石と揶揄された事は――あながち間違いではなかったのである。

 それを踏まえれば、ガングートの一件は政治家を巻き込んで大規模な事件になり過ぎた――そう言えるのだろう。

ARゲームコンテンツが前途多難となったのには、ガングートの一件があったからというのもある。

実際、ゲームメーカーもVRゲームやソーシャルゲームの方が利益を得られると考え、ARゲームには消極的だったのは――この為かもしれない。



 午前11時、レイドバトルで首位に立ったのはガングードだった。

その後もスコアを稼いでいき、順調に首位固めをしているのだろうか。

一方で、昨日の一件を引き合いにして不正プレイをしたと通報する偽アカウントも続出している。

これに関しては運営側も捨てアカウントに関して、ガイドラインでも禁止している事を引き合いにしてスルーを決め込んでいた。

ネット炎上や超有名アイドルファン等による超有名アイドルの人気上昇に、ARゲームが利用されるのは何としても阻止すべきである。

一連のARゲームに関するガイドラインが変更になったのは、この為なのかもしれない。



 午前12時、何人かのプレイヤーは昼食を取り始める事である。

それでもレイドバトルを今の内に……と考えるプレイヤーは存在するだろう。

レイドバトルにおける最後の一撃におけるスコアはバランス調整が行われる方向になり、ハイエナ狙いのプレイヤーも減ると思われていた。

 しかし、今度はレイドボスの防御力が調整され、ワンパンチ程度では沈まない様な調整が入ったのである。

これに関しては賛否両論あるのだが、便乗勢力等が止めだけを刺すような事は減るので、歓迎する方向の意見が多い。

【ソシャゲのレイドとは違う意味で調整されている予感がする】

【ARゲームの場合、ソシャゲの様なアイテム課金方式ではない。それを踏まえれば、平等なバランス調整が図られるのは自然なことだ】

【逆に課金方式が違うソシャゲと同一扱いするプレイヤーのマナーを疑うな】

【やはり、超有名アイドルファンによるフィールド荒らしなのか?】

【芸能事務所は組織的関与を否定しているが、自分達のアイドルをタダで宣伝してもらう事を条件に――と言うのもあるだろう】

 やはりというか、ネット上には様々な意見が飛び交っている。

中にはアフィリエイト収益や超有名アイドルの人気上昇狙いで、特定コンテンツを炎上させるような煽りを行う様な人物も存在しているのだが――。

こうした勢力に共通するのは、自分が行っているのは正義であると断言し、その他を悪と断罪している事だろう。

『これも――か。何処まで悪質なまとめサイトを増やせば気が済むのだ――アルストロメリア』

 こうした状況にしている犯人がアルストロメリアだとスレイプニルは気づき始めている。

それ以外のメンバーでも、アルストロメリアの行動に変化が生じ、それが一連の動きに繋がっているのでは――と考える人間もいた。



 その一方、焼きそばパンを食べながらテレビのニュースを見ていたのはデンドロビウムだった。

彼女は今日から参戦しようと考えていたのだが、様々なニュースを見て情報を集めていると言ってもいい。

 しかし、民放のニュースでは芸能人の不倫疑惑や不祥事、地下アイドルのメンバー脱退と言った物ばかりで、ARゲームは取り上げる気配がなかった。

天気に関するニュースはあるのだが――雨天でARゲームが中止になるようなジャンルは一握りで、アーケードリバースは含まれない。

場所によっては雨天で使用エリア制限がかかる場所もあると思うが、大きな影響があるとは思えないだろう。

ただし、レイドバトルを開催中なので混雑する場所が雨天だと増えるのは、間違いないと思うが――。

「懸念すべき事はガングートではない。おそらく、アーケードリバースをフィールドにして何かを起こそうとした人物が――」

 デンドロビウムも真相に若干気付き始めていた。

犯人は分からないが、ARパルクールのアニメに類似した事件、アカシックレコード等の存在――。

何かしらの理由でネット炎上しないコンテンツは――もはや存在しないと言いたそうな、その状況を生み出しているのは間違いない。

「犯人は、ネット炎上がどのようにしてコンテンツ流通を阻害するのか、フジョシや夢小説勢、アンチ勢力がどのようにして暴走するのか――」

 彼女は近くのテーブルにあったコーヒーの入ったカップを手に取り、そのまま口にする。

コーヒーの方はブラックなのだが、既に冷えているような感じだ。

「マナーを守り、ルールも守って正しくプレイすると言うのはホビーアニメでも言及されているはずだが――」

 過去に似たような事を体験した事のある彼女にとっては――非常にマナーと言う単語は耳が痛いほどに聞きなれている。

全ては超有名アイドルのゴリ押し商法の仕業と言う風に言うのは簡単だろうが――それでARゲームで起きた事件を表現できるかと言うと、それは難しい。



###エピソード61



 午後1時、スレイプニルに唐突な通信を入れてきた人物がいた。

人物名は非表示だが、匿名の人物――と言う訳でもなかったのは、通話時に表示されるアイコンで分かる。

『そのマークは、キサラギか?』

 スレイプニルはあからさまにメーカーのロゴをアイコンにするような人物がいるのか――と考えたが、そこにはツッコミをしない。

キサラギと言えば、アーケードリバースの開発にも関与しているゲームメーカーだ。

ここ出身のプロゲーマーは数名存在し、アルストロメリアも過去に所属していた時期がある。

 しかし、ゲームメーカーが直接接触してくるとは――しかも、レイドバトル開催期間中だ。

それを踏まえると、明らかに何か狙いがあるようにも思えるのだが――。

『そう思ってもらって構わない。我々は、君に重要な情報を提供しておかないと――そう思っただけだ』

 まさかの展開だった。その情報の内容はメール等で代行すると思ったが、そう言う流れでもなかったのである。

一体、キサラギは何を情報提供しようと言うのか?

『見返りはあるのかしら?』

 スレイプニルも、キサラギのやり方などを全く知らない訳ではない。

それを踏まえた上で――少し試すような口調でキサラギに疑問をぶつける。

『我々は、次世代ゲームの開発データを得る為にも――今回の一件は放置できないと判断した。これで良いか?』

 向こうで何者かとの話声も聞こえたようだが、それをスレイプニルは気にしない。

それに加えて、この人物の声もボイスチェンジャーで男声になっている事も言及する様はなかった。

『ARゲームの次世代データ集め――他のメーカーも考えそうだけど、一理あるわね』

 スレイプニルの方はボイスチェンジャーで声を変えていないのだが――そこに向こうはツッコミを入れる気配がない。

声は周囲のギャラリーに聞かれないように、システムを変更しているので問題がないようだ。

『君に話したいのは、アカシックレコードに関してだ』

『アカシックレコード?』

 スレイプニルはかなり驚いているのだが、それもそのはずである。

アカシックレコードの存在は、一部の勢力しか確認出来ていないからだ。

 しかも、そのアカシックレコードは複数存在する。

キサラギの方でもアカシックレコードと言えば、あのオーパーツと言えるようなデータが眠るサイトかもしれない。

『君はアカシックレコードが何か、知っているのか?』

『多分、そちらとは違うサイトかもしれない。続けてくれ』

 下手に慌てれば、向こうも察する可能性が高いだろう。

ポーカーフェイスは苦手だが、ここはこらえる事も重要と判断した。

『話を続けよう。実は、アルストロメリアがとあるサイトを開いている事を掴んだのだが、そのサイト名がアカシックレコードだったのだ』

 キサラギのスタッフを名乗る人物が告げたのは、アカシックレコードと言う名称のサイトをアルストロメリアが立ちあげていた事だった。

これに関しては、完全にノーチェックである。おそらく、向こうだけしか知らない可能性も高いだろう。

『一体、どんなサイト?』

『表向きは小説投稿サイトと言うべきか。しかし、そこに投稿されている作品は――』

 キサラギのスタッフが語った事は――スレイプニルにとっても衝撃的な内容だった。

投稿されているであろう作品の予想は、ある程度出来ていたのだが――告げられた真実は、想定外と言ってもいい事実だろう。

『この事は他言無用で頼む。最低でも、2日間――9月7日までは黙っていて欲しい』

 日程指定で他言無用とは――キサラギは何を考えているのか?

ニュースでは様々な週刊誌が炎上目的のサイトを鵜呑みにして、炎上したという話題も存在する。

おそらくは――何らかの発表が9月7日にあるのかもしれない。

スレイプニルは、そう判断して他言無用である事を約束した。実際は、既に別の何者かが同じ情報を手に入れたとも知らずに。



 一方でアキバガーディアンは青騎士の真相に近づこうとしていた。

その理由の一つとして、悪質な炎上行為に青騎士と名乗る勢力が関与し始めた事による物である。

ガーディアンの方も無対策ではなく、様々なエリアで青騎士と戦闘状態やARゲームに挑む展開にななっていた。

青騎士の正体は、揃いもそろってバイト感覚で雇われただけの低レベルなネット住民だったのだが。

 結局はハズレくじを引かされた感じのするアキバガーディアンだったが、その中で思わぬ人物からの情報提供があった。

【青騎士騒動は以前にも類似の事件が存在していたが、その時と今回は犯人が別にいる】

 ショートメッセージで送られたものだが、これは非常に重要なものと考えていた。

何故なら、撃破した青騎士から回収したガジェットには特定のプログラムやメールが存在し、メールに書かれているアドレスの――。

「メールのアドレスは既に削除済みか。削除されたURLをたどれば、何かのヒントが得られると思ったが」

 橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)は、鹿沼零(かぬま・れい)からの情報だけでは不足と考えている。

芸能事務所AとJを物理的に消すと言う考えは――危険思想なのかもしれないが、ネット上で炎上するような気配がない。

単純に芸能事務所から告訴されるのを恐れて発言しないだけという可能性も高いが、実際は違う可能性もある。

「しかし、芸能事務所に謝罪させるのと物理的に潰すのでは、謝罪の方が手荒いとは思えないのに――そちらが炎上する」

 橿原は、とあるネットのニュースを既にチェック済みだった。

それは――アルストロメリアの真の目的が芸能事務所の謝罪を求めているという物だったのである。

謝罪とは炎上マーケティングに関してとは書かれていたが、具体的に何を指すのかは不明のままだ。

具体的に書けば芸能事務所を敵に回すと言う事で書かないのか、煽りを利用して炎上させるのが目的か―ー。

「全ては、もうすぐ判明する――と言う事か」

 橿原も何となくだが、真相が語られるのはもうすぐと察していた。

何故、そう断言出来るのかは別として。



###エピソード61-2



 秋葉原某所にあるアキバガーディアン本部、そこではガーディアンメンバーが青騎士のデータ収集を行っている。

しかし、真犯人と思わしき人物にたどり着けずに――数週間が経過していた。

 ネット上で青騎士と明言されたのは100人とされているが、正確な数字は定かではない。

その後にタダ乗り便乗や自分の名前を有名にしたいが為に――という人物もいる為、正確に計算されていないのだろう。

一部の青騎士はガーディアンが泳がせている事実も、知っているのはごく少数であり――正確な人数も把握できているのは、数える程度か。

 その便乗青騎士を潰しに回っていたのが、実はデンドロビウムと言う話が存在している。

実際、そうだったのか――と言われると疑問に残る箇所もあるのだが。

「どちらにしても、青騎士の行動原理は――」

 ガーディアンのメンバーの一人は、便乗青騎士の行動原理に関して疑問に持っていた。

明らかに芸能事務所AかJにバイトで雇われたような――事務所側が否定していたアレである事を考えている。

「あの人数だと芸能事務所に雇われたのか、独自の行動をしているのかでさえ判別が難しい」

 何とも複雑そうな表情でネットの掲示板を見ていたのは、橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)である。

青騎士の何人かは明らかに芸能事務所に雇われた感じがしたのだが――闇サイトでバイトを知ったという証言もあった。

果たして、どちらが正しいのか――?

「しかし、既に100人以上は目撃例があるのでしょう?」

「それはそうだが――」

「これ以上の芸能事務所による財力に物を言わせるやり方を許せば、それこそコンテンツ市場は超有名アイドルというチートの独占を許す事になるでしょう」

「しかし、芸能事務所が仕掛けたという証拠が出ない限りには――」

 スタッフと橿原の話は続くが、真犯人が見つからない事には――という結論に至るのはお互いに同じのようだ。

そして、ニュースでも報道しないような出来事があるのではないか――とも考えるようになる。

「今回の青騎士騒動は、本当にコンテンツ市場を変えてしまうのか」

 橿原は、芸能事務所AとJが全てを独占するようなコンテンツ市場になった時――日本のクールジャパンは虚構で終わるともアキバガーディアンの会議で断言している。

しかし――ここでいうクールジャパンは日本の政治家主導ではなく、企業体等による政治的な動きとは分離した物を指している。

だが、そこにはARゲームのメーカーは何処も参加していない。何故と言われても――その真相は不明のままであり、取材拒否を貫いていた。



 9月6日、初回集計の直前でデンドロビウムはようやくレイドバトルに姿を見せた。

しかし、ここから参戦して間に合うかどうか――ギャラリーの不安は、そこにある。

【ここまで遅れての参戦と言う事は、上位狙いではないだろう】

【RTA勢力や一部の不正プレイヤーも排除されているが、それを踏まえても遅すぎる】

【もしかすると、集計は無視してのレイドバトル参戦だろう】

【確かに、集計を考慮しない場合ならば特に注目は浴びる事はない】

【しかし――彼女の問題は、知名度が高すぎることだ。レイドバトル参戦は、ファンの後押しと言う説が浮上しているほどだ】

 ネット上ではファンの後押しで参加したという説もあるのだが――デンドロビウムがネットのつぶやきサイトや掲示板の反応で動くとも思えないので、これは否定されたと言ってもいい。

他のプレイヤーも様子見をしていたのは事実であるが、デンドロビウムはイベント系のバトルに参加するとは思えないという事情もあった。

 RTA勢力や一部のチートプレイヤーがスコア荒らしをしていた関係で様子見していたのは、ネット上のニュースでも言及されている。

だからこそ、デンドロビウムが今回のタイミングで参加したのはファンの後押しと言われるのは――こういう事情があるのかもしれない。

【なんだ、これは?】

【どういう事だ?】

【信じられない――】

【以前にデンドロビウムと思わしき人物がレイドに参加していた話もあるが――どういう事だ?】

【あれが、デンドロビウムの実力か?】

 確かにデンドロビウムは6日以前にもレイドへ参戦していた形跡が存在する。

しかし、それはネット上で偽名や成りすましという情報が拡散されており、このタイミングでエントリーしたとまとめサイトで言及されていた。

つまり――この展開はまとめサイト等が作りだした演出であると言ってもいいだろう。

「この数日で、ここまで調整が入る物なのか?」

 プレイ後、デンドロビウムはARガジェットの挙動が変化したと錯覚する。

レイドバトル開催中に細部調整やバランス調整は告知され、何度か修正はされていた。

それもRTA(リアルタイムアタック)勢力や一部のチートプレイヤーが行った仕様の穴を利用したプレイが理由と考えられている。

 しかし、それだけでは方が付けられないようなプレイを――デンドロビウムは行っていたのだ。

これに関しては周囲から歓声が聞こえる事から、相当な物だった事が分かる。

「イベントは様々なゲームで報酬等目当ての不正やチートプレイが横行すると聞いていたが――」

 デンドロビウムがレイドバトルを様子見していたのは、ソーシャルゲームやアプリゲーム等で報酬目当てのチートプレイ等が横行していた現状に――と言う事らしい。

そして、本当の意味でレイドバトルの幕が上がろうとしていた。全てはある人物のシナリオ通りと知らずに――。

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