エピソード64~エピソード65

###エピソード64



 午後2時30分、ARゲーム課の一室でタブレット端末と向き合っていたのは――ARメットを被った鹿沼零(かぬま・れい)である。

本来であれば、ARゲーム課に来客があると言うのだが――その姿は未だに確認出来ず。

突然のキャンセルと言う訳ではなく、草加市役所に行けなくなったとの事らしい。

『向こうも事情があるとはいえ――』

 鹿沼は来客予定の人物がキサラギの関係者である事を察する。

キサラギの方でもネット炎上勢力等の対処で忙しいのは分かっているのだが――。

【そちらへ足を運べなくなったお詫びではありませんが、あなたが最も知りたいと思われる情報を提供します】

【その情報とは、アルストロメリアの真の目的だ】

【彼女がARゲームのフィールドを守る為に、様々な行動を起こしているのは周知の事実だが――】

【それと違う方法で類似目的をもった人物は、もう一人いる】

『同じような人種が――もう一人だと?』

 メッセージを見ていく中で、もう一人いるアルストロメリアと同じ目的をもった人物の存在に驚く。

【アルストロメリアは、ARゲームと言うフィールドを侵す人物の存在を許さない――】

【その一方で、彼女は別ゲームで起きてしまった悲劇をARゲームでも繰り返さない――】

【それを踏まえれば、考えている事は同じだ。同じ穴のムジナとはよく言った物だろう?】

【その人物とは、おそらくは君も知っている人物だ。会った事もあるかもしれない――デンドロビウムだ】

『何となく察する部分はあったが、そう言う事か――』

 メッセージに書かれていたもう一人の人物、それはデンドロビウムの事だった。

それを見て、鹿沼は逆に欠けていたパズルのピースが見つかったような表情をする。

デンドロビウムがARゲームの為にチートプレイヤーを次々と撃破していく様子は、ARゲーマーにとっても衝撃のニュースとして迎えられた。

今までの流れを踏まえると、彼女のやっていた事は本当であればチートプレイヤーの様に営業妨害と認識されかねない。

『これを今更のタイミングで教えた所で、キサラギは何を――!?』

 メッセージを閉じ、タブレット端末をテーブルに置く。ニュースの方で気になるような話題が耳に入ったので、テレビ画面の方を振り向いた。

そして、そのニュースの内容に鹿沼は言葉を失ったのである。

『先ほど、青騎士と名乗る人物から脅迫状が届きました。その内容によると――』

 中継先は竹ノ塚と思われるが、今から駆けつけようとしても遅いかもしれない。

脅迫状の内容よりも、竹ノ塚のアンテナショップで喧嘩が発生していた事の方に驚いた。

何故、このタイミングで騒動を起こしてネット炎上を誘発させるのか?



 青騎士騒動 それに便乗した脅迫状なのかは分からない。

ただし、竹ノ塚で起こっている喧嘩は物理的な物である。本来であれば警察が駆けつけてもおかしくはないのだが――。

「こういうのは警察の仕事だろう? ガーディアンが介入してよいものではない」

 アキバガーディアンの一人が喧嘩を起こしている人間の一人を取り押さえる。

それに使用しているのはブレード型のARガジェットだが、ゲームで使用するタイプと言うよりはゲームフィールド用の発生装置を借りて、ガジェットを実体化するタイプだろうか?

「警察の方が、脅迫状の送られた芸能事務所の警備に向かっている関係で、出動出来ないそうだ」

 別のガーディアンはビームライフル型ガジェットで襲撃者を止めているが、あくまでもARゲームなので多少の衝撃はあれど、直撃しても重傷となるような事はない。

ある意味でも、ARガジェットが殺傷能力を持ったとしたら――と言う話になるかもしれないが、彼らの狙いは何なのか?



 一連の事件を受け、レイドバトルは緊急停止――をする事なく続行される。

これはレイドバトルの中止を狙ったアイドル投資家や一部のネット炎上アフィリエイト勢力が、今回のレイドバトル中止を狙っていると考えているからだ。

『何も考えずに、ルールを守ってゲームを楽しめ。イライラして、それをゲームにぶつけたら――誰だって面白くないだろう?』

 ガングートがあの時に言った言葉、それを思い出していたのはアルストロメリアだった。

今回の事態を起こしてしまったのは自分に責任がない――とは言い切れない事もあり、単独で全てに決着を付けようとしている。

大規模――それこそ日本全国にいるであろうネット炎上勢力を1人で駆逐出来るかと言うと、それは無理な話だ。

この事態を鎮圧する為にも、各地のガーディアンに協力要請をする必要性がある。

【このメッセージを見ているプレイヤーで、ARゲームの未来を守りたいと願う者は――力を貸して欲しい】

 アルストロメリアは、覚悟を決めてメッセージを送信する。

その内容はまとめサイトに利用されないように、別のツールで拡散を行う事にした。

「やはり、今回の事件を起こしたのは芸能事務所なのか? そうだとしたら、それこそ元の木阿弥に――」

 さすがに最悪のケースは思いたくないのだが、アルストロメリアは芸能事務所が見せかけの謝罪だけで何とか乗り切ろうとしている――とも考えていた。



###エピソード64-2



 午後3時、デンドロビウムは数回ほどのプレイで切り上げようと考えていた。

スコアに関しては未だにアルストロメリアがトップに降臨してから、変動するような展開がない。

彼女にチート疑惑が出る事自体、炎上マーケティングだと言う人間がいるが――この流れは当然だろう。

一方で有名税と言う様な意見も存在する。理由は、彼女の今までの行動を考えるとブーメランだと言う意見も多い。

「青騎士は、現状でチートとは無縁の行動をしている。こちらには関心が――」

 別のモニターで青騎士を撃破している上位ランカーの映像が出ると、デンドロビウムにとっては無関心と言う表情を見せる。

今回の青騎士は、どちらかと言うと今までの騒動よりも青騎士のネームバリューを利用した宣伝行為と言ってもいい。

だからこそ――彼女は青騎士に関心を持たなくなったのかもしれないだろう。

他のプレイヤーの中には青騎士を積極的に狩ると言うチートキラーの様なプレイヤーもいるが、賞金が出る訳でもないのに――と言う声がある。

 しかし、今回の青騎士はリアルでARゲームのフィールド外で実害が出てしまっており、ネット炎上以上にやっかいな存在なのも事実だ。

それでもデンドロビウムが関わらない事には、何かおかしいと――思う人物が出ても不思議ではない。

「青騎士の名前を使っている以上、何らかの考えを持って動いているならば分かる。しかし、あの連中は――」

 スポーツドリンクを片手にデンドロビウムが小休止する。

そして、彼女はかつての青騎士騒動で話題となった人物と、今の青騎士を比較していた。

彼らには『ネット上で目立ちたい』や『芸能事務所の為にライバルをつぶす』と言う考えしかないのだろう。

それこそ――悲劇の繰り返しであり、リアルウォー待ったなしとも言える。



 その証拠に――おかしいとネット上で言及するコメントやつぶやきが存在しない中で、ある人物は不思議に思っていた。

「彼女だけが――出てこない」

 その人物とは、ジャック・ザ・リッパーだった。デンドロビウムとは別のアンテナショップにいるので、実際に会ってはいないのだが。

彼女がデンドロビウムの話題が出てこない事に疑問を持ったのは、レイドバトルの前半終盤辺りである。

この時はアルストロメリアも参戦し始め、お互いにライバルを意識していたと思われたのだが――実際には違っていた。

「話題に上がればネットが炎上すると言う事で意図的に――と言う訳でもないのだが、どういう事なの」

 彼女も思わず――と言う位にセンターモニターをチェックして驚く展開である。

デンドロビウムの信者やファンは0と言う訳ではないのだが、あまり目立って言う様な信者はいない。

彼女の行動に関して賛否両論と言う事もある一方で、それ以上に芸能事務所を敵に回す的な行動も――理由の一つだろう。

【アルストロメリアも大概だが――】

【芸能事務所が更に過激思考で暴走していけば、それこそリアルウォー一歩手前なのに】

【超有名アイドルの様なナマモノが唯一無二のコンテンツになるのは、何かが違う様な気がする】

【もしかすると、ナマモノジャンルを唯一神コンテンツにしようと言う、芸能事務所AとJの差し金?】

 案の定というか、ジャックも言葉を失う様なコメントが――飛び交う。

これらのまとめサイトも次々と削除申請を受けて削除していくのだが、それでも――ループしているのは間違いない。

「この状況化を都合よく終わらせようと考えているのは、芸能事務所の鶴の一声と言うべきなのか?」

 彼女は思う。芸能事務所AとJと言うデウス・エクス・マキナが今までの日本経済を――と。

しかし、その時代は終わらせないといけないのだ。芸能事務所AとJは、ARゲームでいう所のチートと言う存在なのだから。

「しかし、芸能事務所の鶴の一声をチートと考えたのは、誰なのか」

 彼女は鶴の一声をチートと発想する事自体、全く考えていなかった。

ソシャゲの廃課金をチートと認識するような人物はいたのだが、そこまで考えると被害妄想待ったなしと言うか、ある意味で風評被害とも言える。

まるで、超有名アイドルが該当する単語を使えば『それがチート』と言う位の勢いで。



###エピソード64-3



 9月15日、この日は晴天となった。昨日までの天気が嘘の様な――。

晴天だからと言って、ARゲームが混雑するとは限らない。一部機種では定期メンテナンスが行われており、肩すかしをくらう光景もあった。

 ARゲームに関しては24時間営業のコンビニみたいに何時でもプレイ出来るものではない。

機種によってはARリズムゲームみたいに防音施設でプレイ出来る仕様になっている物もあるが、基本的に午後10時以降はプレイ出来ないのがお約束だ。

この辺りは屋外プレイの作品であれば、ARサバゲの様な例外はあるが――近隣住民の騒音になると判断している為だろう。

 こうした営業時間外のタイミングでメンテナンスを行い、不測の事態に備えるARゲームは半数に及ぶ。

草加市でサービスしているARゲームは80%近くが午後10時終了になっており、アーケードリバースも午後10時終了の対象となっている。

【午前10時開始で、午後10時終了――半日と言う事か】

【ソシャゲでも24時間プレイ出来る作品がある中、半日だけとは】

【ARゲームは簡単に言えば遊園地のアトラクション施設と同じようなものだ。怪我人が出て営業中止になる方が痛い】

 この他にも、様々な書き込みが拡散する。ARゲームが24時間営業にしないのは、営業怠慢なのでは――という意見も飛ぶ。

しかし、ARゲームで怪我人が出たりデスゲーム化する方が大打撃と反論するユーザーは圧倒的に多い。

ARゲームのデスゲーム化は、VRゲームを題材としたWEB小説がヒットしており、そこでデスゲーム化されている事を踏まえると――明らかだろう。

これらは当然フィクションだが、ARゲームは現実に存在している。

 下手にネットで風評被害に該当するような話が拡散すれば――ブランドイメージの回復には時間がかかるだろう。

それこそ――芸能事務所の3次元アイドルが王道ジャンルになるような世界が現実化するのだ。

【今回に限れば、昨日の天気が関係してレースゲーム系が軒並み中止だった。そちらは混雑するだろうな】

【レースゲーム系はイベントと言っても突発とか土日と言うのが多い。道路を歩行者天国みたいに確保しなくては、無理だからな】

【それを踏まえれば、アーケードリバースのプレイ環境は恵まれているのか?】

 天気に左右されないARゲームは、イベント関係でメンテナンスが行われない限りは半日プレイ可能である。

ARゲームではアイテム課金形式を禁止しているので、アンテナショップでプレイしているのはモラルの悪いようなネット炎上勢力ではなく、純粋にゲーマーと言う事が多い。

 一方で、わずかなマナーの悪いプレイヤーがピックアップされる事でARゲームが炎上する事もある。

こうした現象はガイドライン変更前には皆無と言ってもいいような物で、炎上と言っても芸能事務所による個人攻撃と言う側面が多かった。

やはり、ARゲームのガイドライン変更は早すぎた判断だったのか?



 午前10時30分、ARゲームのセンターモニターでも話題になったのが――アルストロメリアの首位陥落だった。

これには、他のプレイヤーも驚く個所があったのだが、チート等の不正以外で何が起こったのか?

【アルストロメリアが2位になっているな】

【1位のプレイヤーは聞いた事のないネームだが――】

【不正なマクロやチートで稼いだとしても、そのプレイヤーは非表示になっているはずだ】

【一連のRTA勢力の事か?】

【それもある。しかし、ネームが公開されている以上は――?】

 アルストロメリアから首位を奪った人物、その名前を見て周囲は驚きを隠せなかった。

その人物の正体とは、何とガングートだったのである。プロゲーマーという肩書もある関係上、実力者なのは間違いない。

しかし、彼女もレイドバトルに参戦したのは――。それを踏まえると、唐突に出てくる事には疑問が残る。

【良く見て見ると、通算スコアではない。通算ならば、アルストロメリアの首位は変化していないな】

【まとめサイトでは、意図的にスコア等を自分達がコンテンツ炎上させ、芸能事務所AとJのアイドルを都合よく宣伝できるようにしていると聞く】

【やはり、まとめサイトが躍起になっているとしか思えない】

【実際に長時間のバラエティー番組は、批判殺到で炎上したらしいな】

【そこには芸能事務所AとJのアイドルが大量に出演していたと聞くと、内容以前に――】

【まるで、小説サイトにおける人気ジャンルの二次創作で上位独占した時の様な光景だ】

 ガングートの首位は、あくまでも週間スコアによる首位だったのである。

それを通算で首位を取ったかのように――まとめサイトが偽装していたのだ。

「これも、デンドロビウムの言っていたチートと言う物か――」

 センターモニターで一連のまとめサイトが扱った話題に触れていたのだが、それを見たガングートも落ち着いていられない。

だからと言って実力行使に出れば、ますます状況の悪化を招くだろう。下手に手出しを出来ないのは――この為だ。

 その一方で、ガングートはキサラギにもアクセスを試みている。芸能事務所AとJが行っている事は、明らかに犯罪行為であり――立派な営業妨害だ。

はっきりと証拠を突きつければ、今度こそ芸能事務所は破産に追い込まれ――黒歴史になるだろう。

しかし、それを行った所で――アルストロメリアに言った事がブーメランする事は分かっていた。

キサラギへのアクセスは、あくまでも芸能事務所絡みではなく――アカシックレコードに関して尋ねるだけにとどめる事に。


 

###エピソード64-4



 アルストロメリアの首位陥落、それはネット上でも話題になっていた。

まとめサイトの様な取り上げ方もあったが、大抵は誰でも首位を手に入れる事は可能と言う事の現れでもある。

広告会社が芸能事務所A及びJとの関係を週刊誌に報道された事があり、そこでも炎上マーケティングに関して取り上げられていた。

そうしたノウハウを利用し、更なる炎上を起こそうとしたのが――今回の青騎士の行動理念と言える。

ただし、この行動を起こした理由はちっぽけ過ぎて、まとめサイトでも『幼稚な発想』と切って捨てられるような物だった。

「悲劇のヒロイン気取りとは――聞いて呆れるな」

 ビスマルクは、犯人に関するニュースを見ており、その理由があまりにもアレ過ぎた事に呆れかえっていた。

彼女は芸能事務所AとJによって解散に追い込まれた歌い手グループを助けたいという趣旨の供述をしたようだが、それが悲劇のヒロインを発想させる物だったと言う。

「今度こそ、一連の事件は解決してくれるとありがたいが―-テンプレネタやマンネリと言う意味でも」

 ビスマルクにとっては、超有名アイドル商法と言うノイズが何度も繰り返され、それがリアルウォーとも揶揄されている事に対し、不快感を持っていた。

だからこそ、一連の事件が触れられない状態となり、最後の決戦で思わぬ水入りが起きて欲しくない――とも考えている。

それが物語的にも理想なのだが――それは、アカシックレコードのみが知っている事であり――。

「しかし、そうした物を好む人間がいる限りは終わる事はない。視聴率競争の様な勝利者のいないリアルウォーが過去にあったように」

 ビスマルクはモニターを見て思う。流血を伴う戦争は70年以上前には終わり、それを禁止する法案も成立した。

しかし、戦争は姿かたちを変えて存在し続けている。それがテレビ番組の視聴率競争、超有名アイドル商法から始まったコンテンツ流通、炎上マーケティング――。

こうしたデスゲームの要素が全くないような物が、今の時代では戦争とも言われているのだが――それはまとめサイトがサイトの閲覧数稼ぎに使用している単語に過ぎない。

「ネット炎上をリアルウォーとして煽るような勢力がいる限り、一連の事件が決着する事はないのか――それこそ、ユーザーのモラルに任せるべきなのか」

 何でもかんでもルールで縛る事で、一連のネット炎上を防いでいたアーケードリバースだったが、一連のガイドライン変更でネット炎上も起こり始めていると言う。

まとめサイトや一部の煽り系つぶやきアカウント等は、芸能事務所AとJから裏金を受け取って――と言うのも、警察の捜査に一任される事になった。

だからと言って、一連の事件がアーケードリバースの――しかも、レイドバトル中に再燃しないとは限らないだろう。

ビスマルクは、炎上騒動が起こらない事を――祈る事にした。



 首位陥落をしたアルストロメリア本人は、その事でストレスを抱えたりする事はなかった。

逆に首位を維持し続けると言うプレッシャーから解放された――と言う様な印象さえある。

【まさか、ガングートが首位になるとは】

【一連のアイドルファンが宣伝として便乗ランクインするよりはマシと言える】

【しかし、プロゲーマーが参戦するのは反則なのでは?】

【ARゲームにプロゲーマーが参戦するのは禁止していないし、実況者も問題はないと言われている】

【禁止されているのはアイドルや芸能人だ。ただし、芸能事務所AとJが絡む部分だけだが】

【しかし、アルストロメリアが首位陥落は予想外だな】

【どちらにしても、スコアの集め方が異常な人物も数人いる。彼女のようなプレイスタイルでは追い抜かれる可能性はあった】

【異常と言っても――チートは禁止、身代わりプレイもARゲームのセキュリティ的に不能、フィールドを店員に操作させるのも違反行為に該当している】

【どちらにしても正攻法以外でレイドバトルを勝ち抜く方法はない。ズルは出来ない――】

 ネット上でも、かなり騒ぐと思ったが――騒いでいるのは芸能事務所AとJの話題と比較しようという人間だけだった。

逆にARゲームの性質を知っている人間は、騒ぎ立てても変化するとは思えないと割り切っている感じさえするだろう。



 午後1時頃――昼食を終えてアンテナショップに到着した彼女の目の前に、ある人物が姿を見せた。

それは、アルストロメリアにとっては避けて通れないような存在――デンドロビウムだったのである。

「デンドロビウムか――何故、青騎士の一件に協力をしようとしない?」

 アルストロメリアから、まさかの発言が飛び出した事にデンドロビウムは驚く。

彼女はARゲーム用のインナースーツを既に装着しており、これからプレイする所だった。

その状況で、2人は鉢合わせをする事になったのである。

「青騎士――そういう連中もいたな。あくまでも、今の連中は警察の仕事だろう?」

 デンドロビウムは、今の青騎士に関しての本音をアルストロメリアにぶつける。

それに対し、表情を変化させないが――アルストロメリアは、落ち着いていられない様子にも見えた。

「アレを警察に任せるだと? そんな事をすれば、コンテンツ流通は――」

「以前の青騎士ならば、こちらも行動はした。しかし、あの時に決着したはずではないのか?」

「青騎士を名乗る勢力が出た以上、動くのは我々だ! 外部の人間に任せれば、それこそフィールドは荒れ放題になるぞ」

「ARゲームをプレイ出来るのは、基本的には『大人』ではないのか?」

 デンドロビウムの発言を聞き――アルストロメリアは若干大型のガトリングを転送してきた。

しかも、その銃は瞬時にして斧へと変形――どうやら、ガトリングアックスとも言える武器らしい。

「そうやって力で何でも解決すると思い、子供みたいに力を振りかざして目立とうとする――いつから、ARゲームは『子供』の遊戯になった?」

 デンドロビウムはガトリングアックスを自分に向けられても、表情を一つ変えようともしない。

彼女はアルストロメリアの言葉は戯言として切り捨てているのか?

「ARゲームは、あくまでもゲームとして提供されている。ここはストレスを発散する為の場でもなければ、芸能事務所の無料アイドル宣伝スペースでも――ないのだがな!」

 次の瞬間、デンドロビウムはギャラリーの一人に視線を向け、そこに瞬時転送したARガジェットである蛇腹剣を突きつけた。

動揺するギャラリーは、ネット上でも炎上系煽りを得意とするネット住民であり、アキバガーディアンからもブラックリストに登録されている。

 ネット住民が怯えて逃げようとしたのをデンドロビウムは、何と――見て見ぬふりをして見逃した。

デンドロビウムにはネット住民の価値が分からない訳でもないはず。アルストロメリアも、このデンドロビウムの変化には疑問を持つ。



 5分後、デンドロビウムが逃したネット住民はある人物の通報したアキバガーディアンが捕獲し、引き渡されたと言う。

「お前が噂の――」

 ガーディアンとして指名手配犯を追っていた橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)は、通報した人物に驚きつつも引き渡しに応じる。

『私を都市伝説の存在と思っていたのか? 柏原――』

 スレイプニルが何かを言おうともしたのだが、それはさすがに橿原に止められた。

そして、引き渡しが完了後にはネット住民が出て行った方角にあったアンテナショップに目を向ける。

『なるほど――そう言う事か』

 スレイプニルは、そこで行われているやり取りに関して関心を持つ。

アルストロメリアとデンドロビウム、この2人が揃っている事も関心を持った理由なのだが――。




###エピソード64-5



 午後1時10分、遂に――その時は来た。

「私は――ネット上で何を言われようとも、芸能事務所の圧力で歪められたコンテンツ市場になる位なら――」

 アルストロメリアは、デンドロビウムに向けて――今度はビームガンが仕込まれているスカウトナイフを突きつけた。

それでも、眉ひとつすら動かさないのは――デンドロビウムも覚悟をしている証拠なのか?

「ARゲームの正常な市場流通を守る為に、障害となる存在は排除する!」

 それが、アルストロメリアが一連の事件を起こした本位でもある。

ネット上では憶測で、そこまで到達した人物もいたのだが――あくまで本人の発言ではない為、事実とは言えなかった。

ARゲームの場合、つぶやきサイトの発言でさえも公式アカウントでなければ『なりきりチャット』や『なりすましBot』と言われる始末。

しかし、ARゲームの場合はつぶやきサイトを使わなくてもARガジェットでコミュニティツールは足りる。

だからこそ――今まで、ネット炎上とは無縁に近い位置にいたのだろう。

 しかし、ガイドライン変更で状況は一変した。

ある意味でも市場開放に近いようなガイドラインは、今までなかったようなネット炎上を引き起こし、新たな火種を生み出したのである。

「しかし、保護主義の様な自由が存在しないようなフィールドで、攻略本に従ったプレイでもするのか? そうではないだろう――」

 ARゲームは自由度の高いゲームだ。身体を動かすという部分を踏まえれば――同じような攻略法が誰にでも可能かと言うと、そうではない。

人間の体格は、それこそ十人十色であり――背を伸ばし過ぎたようなプレイは、自分の身体を壊しかねない。

体感ゲームでも身体にあったプレイスタイルを理想とする事があり、それはARゲームも例外ではないのだ。

 デンドロビウムは、過去にリズムゲームのフィールドにいた事がある。

そこでのトラブルが――後にサービス終了までには至らないものの、大きな亀裂を残す結果となった。

だからこそ――それをARゲームで起こすべきではない、そう彼女は考えている。

 しかし、ARゲームのガイドラインを見て保護主義的な文面やルールには閉口するしかなかった。

これでは――攻略本を片手にクリアするようなADVやRPGと同じではないのか、と。

「ネット炎上は悪の文化だ。それこそ――リアルウォーに他ならない」

 アルストロメリアは少し距離を取って、手持ちのスカウトナイフを投げつける。

しかし、デンドロビウムには命中せず――逆に別のギャラリーが持っていたスマートフォンに直撃した。

「しかし、コンテンツが炎上する事は――回避する手段がないだろう」

 対するデンドロビウムも、蛇腹剣を振り回し――鞭の様な動きをする剣は、周囲のギャラリーが持つスマートフォンに次々と命中していく。

「ネット炎上は、リアルウォーでいう所のロストテクノロジーに該当する。それこそ、アフィリエイト系まとめサイトは核兵器に匹敵する!」

 アルストロメリアの発言を聞き、デンドロビウムは耳を疑う。

核兵器は学校の歴史で学ぶ物だが、それは既に100年以上前に失われた技術であり――再現不可能となっているのはマスコミも報道している。

「それは明らかにレッテル貼りだろう。芸能事務所AとJが行おうとした、神コンテンツ化計画の――」

 デンドロビウムも自分の言葉で反撃するのだが、それがアルストロメリアに届かない。

それに加え、デンドロビウムは本当に伝えるべき事があるのだが――それを言ったとしても、今の彼女には無駄だろう。

「そんな事は――既に分かっている! だからこそ――日本は芸能事務所AとJを――」

 アルストロメリアは何かを叫ぼうとしたのだが、それを止めたのは――予想外の人物だった。

その姿を見て驚いたのは、どちらかと言うとデンドロビウムである。



 2人の振り向いた先の入り口付近にいたのは、北欧神話系のアーマーにデュアルアイのARバイザー、アーマーのカラーはブルーと言う人物である。

それが青騎士だというのは、ギャラリーにも即答だった。それに加えて、デンドロビウムも気づいた程である。

しかし、どう考えても便乗勢力やネット上で写真の出ている人物とは比べ物にならないほどのデザインには周囲も困惑していた。

実際にアルストロメリアが何者なのか――問い詰めようとしたほどだから。

『アルストロメリア――お前は、今まで何をしていたのか自覚しているのか?』

 まさか、ガングートと似たような事を再び言われる羽目になるとは――。

彼女は、ARガジェットで別の武器を呼び出そうともしたのだが――それを止めたのは、何とデンドロビウムだった。

「スレイプニル――ここに来たのは、単純に冷やかしではないのだろう?」

 デンドロビウムのに反応、ARメットのボタンを操作し――彼女は素顔を見せる事になった。

ARメットがオープンし、そこから見せた素顔は黒髪に黒い瞳――普通の女性だろうか。

体格に関しては――誰もがツッコミを入れるだろうが、そのツッコミに彼女は耳を貸さない。

「青騎士の偽者、それはあなたの差し金なの?」

 アルストロメリアから直球の疑問が飛ぶ。その疑問が出るは当然の流れと言えば当然だが、彼女は首を横に振って否定する。

「じゃあ、あれは全てネット上の悪目立ち等の理由や金の為に動いていたバイト感覚の――とでもいうの?」

「その通りよ。都市伝説を利用し、芸能事務所が自分達のアイドルを宣伝する為に仕掛けた、ハニートラップとも言うべきもの」

「それにARゲームは今まで振り回され、ネット炎上対策を万全にしたと言うのに――その壁さえも崩された。それも、あなたの仕業なの?」

「それは違う。ネット炎上対策は無敵という訳ではない――それは、君も自覚していたのではないのか? アルストロメリア」

 彼女の方は淡々とアルストロメリアの疑問に答える一方で、アルストロメリアの方は若干の納得がいかない様子。

ネット炎上対策は万全のはずであり、それを保護主義等と批判されるのは別問題だ、とも反論するが、彼女の方は聞く耳を持っていない。

「私は瀬川アスナやアキバガーディアンの橿原みたいに、ものわかりは良くない方よ――。保護主義なんて、私にとっては一銭の得にならない」

 彼女は、保護主義に関しては無価値とまで切り捨てる。今は歴史の授業をしている訳でも、学校で学ぶ歴史を語りあう場所でもない。

「スレイプニル、ここに来た理由は何だ?」

 デンドロビウムの一言を聞き、ある事をスレイプニルは思い出す。

そして、それを語る為にも彼女はセンターモニターを指差した。

「一連の事件は、既に解決してるし――ここで話しても、メインステージを楽しみにしているギャラリーには――関係ないでしょう」

 スレイプニルのノリに若干頭を痛めるデンドロビウムだが、彼女の言う事も一理ある。

芸能事務所の一件や超有名アイドル商法、青騎士騒動を今から総括するのも――ここでは場違いと言われるかもしれない。

「レイドバトル――そこで決着をつけましょう?」

 スレイプニルの発言には、アルストロメリアも耳を疑う。まさか――彼女も参戦するのか、と。

「スレイプニル、あなたはアーケードリバースのアカウントを持っていないはずでは? 今から新規登録しても――」

「そうじゃないわ。アルストロメリア――あなたが戦うのは、彼女よ」

 アルストロメリアに対し、スレイプニル自身が参加するのではなく――彼女は別の人物を指差したのである。

その人物とは――デンドロビウムだった。これには、指名された本人も困惑をしているが、やる気ではあるようだ。

「全ての決着はレイドバトルで――と言う事ね。分かったわ、その勝負――乗ってあげる!」

 アルストロメリアの方はやる気になったようである。

仮にデンドロビウムに勝利しても、スレイプニルは何も提示しておらず――。

「どっちが勝ったとしても、アーケードリバースとしては大いに盛り上がる。私は、そうしたバトルを見たかった――邪魔者がいない状態で」

 スレイプニルが望んだ物、それはチートプレイや不正、ネット炎上等のネガティブ要素を完全排除した上での――フェアなバトルだった。

果たして、それが本当に実現するのかも――周囲のギャラリーを含めて、予測はできない。


###エピソード65



 その時、周囲に衝撃が走ったのは言うまでもない。

「そうじゃないわ。アルストロメリア――あなたが戦うのは、彼女よ」

 スレイプニルは、アルストロメリアの相手としてデンドロビウムを指定した、

この行動に関して一番驚いていたのは、アルストロメリアではなく――デンドロビウムだったという。



 午後2時、ネット上には様々な情報が拡散し、そこでは根も葉もないような噂レベルまで――。

それ程にデンドロビウムとアルストロメリアが直接対決をする事に――驚きが隠せないようだ。

【レイドバトルは、基本的に1対1の様な構図が出来ないのでは?】

【スコア的な意味で対決をするのだろう? どちらのスコアが上かどうか――】

【スコア的に言えば、アルストロメリアが圧倒的だ。順位は首位ではなくなったが】

【かなりの割合で不利と言えるだろうな】

【しかし、相手が相手だけに――】

 ネット上では様々な発言が飛ぶのは、百も承知である。

それでも――アルストロメリアが圧倒的に勝つだろうと断言するようなコメントはなかった。

その理由は、安易に断言すると負けフラグが立つと考えている人間がいるのかもしれない。

「まぁ、こうなるだろう。しかし、それをひっくりかえせるような要素を――持っているのかもしれないな」

 指名手配犯も発見し、目的を達成した橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)は帰り際に一連の話を知る。

タイムラインとしては主に芸能事務所絡みのスキャンダルやワイドショー辺りの話題も流れるが、それらは別の意味でも宣伝になっているだろうか。

 橿原は本来であれば目的が完了してアキバガーディアンの本部へ戻る予定があった。

しかし、北千住まで戻った辺りで何かを警戒し、戻ろうとも考える。

『申し訳ありませんが、本部まで大至急戻ってきてください。ここでは話づらい事がありますので――』

 唐突だが、スマートフォンが鳴りだしたので通話モードにすると――ガーディアンのス女性スタッフから緊急連絡が入る。

どうやら、向こうでも何かが起こったようだ。自分が不在でも問題はないだろう――と伝えたのだが、戻る必要性がある話があるらしい。

通話に関しては、電車内だったりはしなかったので特に問題はなかったのは、不幸中の幸いか。



 午後3時、橿原が秋葉原のアキバガーディアン本部へ戻ると、そこには何者かの襲撃を受けたかのような光景が本部付近で確認出来た。

何と、ガーディアンのメンバーが気絶していたのである。幸いな事に、警察には気づかれていないのだが――それも時間の問題だろう。

「隊長、まさかの展開が起こりました。例のプロトタイプを奪われました」

「プロトタイプガジェット――あれを奪われたのか!?」

 橿原の表情も――あまりスタッフの目の前で表情を出さないタイプだが、今回ばかりは軽くだが焦りの表情を見せた。

「内部犯とは考えにくいですが、ピンポイントでガジェット保管施設を狙った以上は――」

「あのプロトタイプは使い道がないと思う。第一、互換性は皆無に等しい」

 橿原も少し落ち着いて考えるのだが、プロトタイプガジェットに利用価値があるのか?

試作型と言う事もあり、動作は不安定だろう。それに――このタイミングで騒動を起こした理由が分からない。

「ガーディアンの足止めでしょうか?」

「あるいは、プロトタイプを何かに利用するとか?」

「足止めとしても、何を足止めするのか見当が――」

 一部スタッフの発言を聞き、橿原は何かを思いついたかのような考えに辿り着いた。

「そう言う事か。アーケードリバースではレイドバトルが展開中と言っていたな」

 橿原はアーケードリバースの方でプロトタイプを使用するかの王政があるのでは――そう考えた。

しかし、アーケードリバースは公式のARガジェットでも、新型の場合は使用可能になるタイミングが他の機種と異なる。

下手をすればチート認定されるような状況になり、リスクもあるはずなのだが――強奪した人物は何を考えているのか?




###エピソード65-2



 午後3時30分、最初に動き出したのはアルストロメリアだった。

レイドバトルでの勝負であるのは分かったが、特に順位やスコアに関してスレイプニルから言及はない。

「今日からすぐではないと思うが――」

 フィールドでガジェットのチェックを行う一方で、アルストロメリアは何かを考えていた。

【本日からレイドバトルの第3回集計が始まる。そこから――9月の最終集計まで、と言う事でどうだ?】

 午後3時頃にスレイプニルから届いたショートメッセージには、最終集計日までにどちらの順位が上か――と言う事が書かれている。

それ以上の事は書かれていないので、単純明快と言うべきか。つまり、最終集計日に首位を維持すれば勝てると言う事だ。



 アルストロメリアのレイドバトル、そこには複数の烏天狗が姿を見せていたのである。

全部の烏天狗を倒せれば――かなりのスコアを稼ぐ事は可能だろうが、かなりのスピードを持っているので一筋縄にはいかない。

それに、妖怪的なデザインではなく――どちらかと言うとSFニンジャで出てくるようなサイバーなデザインをしているので、どのような装備を持っていても不思議ではないだろう。

 その内の1人は、まさかの広範囲兵器持ちだった事もあり――あっさりと撃破される展開になった。

武器の攻撃力はそれほど高いとは思えないのだが、原因があるとすればチートプレイヤーが入っていた事か装甲を考慮しなかった事だろうか。

一撃離脱を重視して攻撃力に集中、攻撃回避を行いつつ行動する為にスピードに集中しすぎると、今度は防御面がおろそかになる。

防御を重視し過ぎても、動きが鈍くなるという欠点もあるのだが――。

「面倒な仕様に切り替えたのか――」

 アルストロメリアは、瞬時に別のARウェポンを用意し――烏天狗に対応する事にした。

武器の変更に関しては特に問題はなく、臨機応変に変更するのも作戦の内。

だからと言って、エントリー時には普通のガジェットだが、プレイする際にはチート装備に持ち帰るのは失格となるが。

「しかし、こちらとしてはチートプレイヤーを駆逐するという意味では――好都合だな」

 呼び出したARウェポンはシールドビットである。

アルストロメリアが指を鳴らすと、呼び出された8つのシールドビットが2体の烏天狗を補足した。

その後はシールドの形状が変形し、チェーンソーにも似たようなビームエッジが展開、そのエッジで烏天狗を切り刻んでいく。

最終的には烏天狗の表示が薄くなっていき、その後には消滅する。どうやら、レイドボスを撃破したようだ。

「残り2体だと!?」

「5体はいたように見えたが――」

「既に3体は倒された。しかも、その内の2体は同時撃破だそうだ」

「あり得ないだろう? 2体同時なんて」

「不可能ではない。しかし、行動パターン等を把握したうえで狙うならば――」

 他のプレイヤーはあわて始めている。ライフを削り、止めを横取りして狙うはずが逆効果になったのだ。

しかも、横取りの余裕さえも与えないような一撃で撃破した事は――他のプレイヤーからも衝撃の一言である。

一部のプレイヤーは、言葉すら出てこない。それ程にアルストロメリアの動きは的確だったのだ。

「リアルチートだと言うのか?」

 アルプレイヤーの一言は、今のアルストロメリアを例えるのにはぴったりかもしれないが――ARゲームでリアルチートの概念はない。

アルストロメリアの実力――それは、戦略の研究や努力等の成果で得られた正当な実力と言えるだろう。

【アルストロメリア、さすが首位プレイヤーと言うべきか】

【しかし、首位と言ってもランカーやプロゲーマーではない】

【彼女の場合は――どちらかと言うとARゲームに強いプレイヤーと言う認識だろう】

【ネット上では、敵視しているプレイヤーも多いが】

【それは、有名税と言う物だろう】

【どちらにしても、一部勢力はアルストロメリアと言う存在を絶対悪に仕立てようとしている】

【そう言う認識は――芸能事務所AとJ、フェイクニュースで情報かく乱を行う連中のみと思ったが】

 ネット上でも、アルストロメリアの動画はアップされており、それらを見て反応する人物も多い。

ただし、その口調は上から目線であり――まるで、芸能事務所AとJのスタッフが書き込みを行っている気配さえある。

その様子は過去に行われた炎上マーケティングを思わせる物であり、ガングート等が懸念しているリアルウォーを誘発する行為でもあった。




###エピソード65-3



 アルストロメリアの動画は、探せば見つかるのだが――デンドロビウムの動画は発見しづらい状況に変わりない。

大体の動画が一種のMADと呼ばれる形式の銅がなのも原因かもしれないが、それ以上に――自身がプレイ動画の公開を自動にしていない事もある。

アーケードリバースに限った話ではないが、ARゲームではプレイ後に自動公開と手動公開のどちらかに設定する必要があり、大体のプレイヤーが忘れがちだ。

初期設定では手動で設定されており、自動公開にしているのはごく一部かもしれないだろうか。

【デンドロビウムのプレイ動画は――見つからないのか?】

【レイドバトル前の物ならば、いくつかは存在する】

【肝心なのはレイドバトルの物では?】

【レイドバトルの動画をアップ禁止とは言及されていない以上、動画がアップされていないのはおかしい】

【他のプレイヤー視点ならば、いくつかは存在するだろう】

【こちらが見たいのは、デンドロビウム視点だ】

【一体、デンドロビウムは何を考えているのか?】

 つぶやきサイト上ではデンドロビウムが動画をアップしない事には理由があると推測される一方で、デンドロビウム視点の動画がない事に不満があった。

どちらにしても、研究されるのを防止するという理由では動画を公開しないのも一つの手だ。

現実問題として――アルストロメリアも同じように攻略不能ではないと証明され、首位から陥落したほどだから。



 午後4時、デンドロビウムのレイドバトルを目撃する事になった人物がいた。

それは、店舗の様子を見る為に覆面視察をしていた山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。

今回の彼は――覆面視察なのだが、ARメットを装着していた。汎用のメットなので、人物が特定される事はないのだが。

『見た事のあるような有名プレイヤーも集まっているが――!?』

 山口は、マッチングリストを見て驚きの声を出す。

有名プレイヤーが数名いるのは分かっていたのだが、その中にしれっとデンドロビウムの名前が表示された時には――。

「デンドロビウムだと!?」

「まさかの展開だな」

「彼女のプレイを生で見られるのか!」

「これはすごい!」

「別の意味でも想定外だ。実況者のプレイよりも盛り上がるのは間違いない」

 周囲のギャラリーも予想以上に盛り上がる。これが彼女にとってはプレッシャーにならないのか心配だが。

山口も想定外のバトルを目撃できる事もあってか、視察の方は中断する事になった。



 デンドロビウムの装備は、軽装アーマータイプ+バックパックという組み合わせだ。

彼女の素顔が見える仕様なのは――今回も変わっていない。ARメットの着用も必須なステージでは、メットをしているようだが――。

 彼女の武器はバックパックのブレードユニット、脚部のブレードアーマーといった具合か?

攻撃と防御をバランスよく振り分けるとすれば、シールドビットやシールドブレードと言ったガジェットをメインにするしかないだろう。

しかし、このような装備は初心者~中級者向けの装備であり、上級者やランカーが使う装備とは思えない。

ランカーの装備も大体が攻撃力の比重を強めにした装備を使う事が多く、レイドバトルの様なイベントでは――攻撃力が低い装備は敬遠されがちだ。

それでも今回の装備を使うのには、別の理由もあった。この装備が単純に汎用のブレードユニット及びブレードアーマーとは違うからである。

「今回のボスは――やはりな」

 デンドロビウムにはボスの出現法則が分かっているようでもあった。

だからこそ、今回のブレードユニットをチョイスしたのかもしれない。

 ボスに関しては装甲車及びトライク、装甲バイクと言った部隊である。

フィールドが道路メインと言う事もあり、今回のボスかもしれないが――他のプレイヤーには致命的だった。

「バイクだと? あのスピードは、こちらには不利だ」

「装甲車はスピードの割に、防御力が高い。面倒だな」

「装甲車だったら、火力は低い。しかし、トライクはガトリングをメイン武装としている」

「さすがにガトリングは厄介だ。戦車の副砲より火力が劣るものの、弾のスピードが速い」

「一撃離脱戦法が有利だが、重装甲ではそれも出来ない」

 他のプレイヤーは重装甲タイプがメインであり、立ち回り的には不利である。

その中で、デンドロビウムはバランスタイプ、別のプレイヤー1名もスピードタイプだ。

これは明らかに勝負あり――そう誰もが思う。山口も、そう思っていたのだから。



###エピソード65-4



 山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)は、デンドロビウムのマッチングメンバーを見て――。

『デンドロビウム以外では、上位ベスト10に入るメンバーが2人――と言ったところか』

 12人中、3人が上位メンバーというマッチングは、他のプレイヤーにも軽いプレッシャーとなった。

絶望しかない――と諦めるようなプレイヤーであればイベントに参加しなければよいだけの話。それは、山口も思っている。

『しかし、どう転んでも――デンドロビウムのスキルには勝てるはずがない』

 逆に山口は何度かデンドロビウムのプレイを直接見た事がある。

他のプレイヤーが使用しているARガジェットやウェポンを見て、若干の苦戦はする可能性が――とも若干思う部分があった。

しかし、デンドロビウムには他のプレイヤーにはない物が存在している。

 それは、他のARゲーマーやプロゲーマーにも足りない物だろう。

これほどの物を持っているのは、アーケードリバースでのプレイヤーに絞り込むとアルストロメリアしか持っていないと思われる。

『デンドロビウムは――研究等と違って、明らかに別の感情が存在する。それは――熱意だ』

 山口は、デンドロビウムが他のプレイヤー以上に持っている物を熱意と考えていた。

アルストロメリアはARゲームの認識を改めつぁせる為に一連の行動をしていた――とネット上では書かれている。

それが暴走した結果が、もしかすると芸能事務所サイドの介入を招いたのかもしれないし、青騎士騒動や一部勢力によるネット炎上等を引き起こした。

『ARゲームに対する熱意が、どういったきっかけで誕生したのかまでは分からない。しかし、アルストロメリアとは明らかに――』

 山口もデンドロビウムが熱意を持っている理由を知っている訳ではなかった。

しかし、彼女のプレイスタイルやチートプレイヤーを嫌う個所、正々堂々のプレイスタイルを好む――そうした部分は、過去に何かがあった事を連想させる。

『だからこそか――彼女が、同じような悲劇が起こる事を阻止していたのは』

 山口は改めて考える。彼女が最初にチートプレイヤーを撃破した時の事を。

そして、その後にもガーディアンとは同調する事無く、独自でチートプレイヤーを撃破していく様子を――振り返った。

ガーディアンと同調しなかったのには、彼らが入手していない情報網を持っていた――と山口は思い込んでいたのである。

それが最終的にはデンドロビウムの真意を隠すような事になってしまった――。

『彼女の真意は、過去のトラウマを二度と起こさないようにする為――だったのか』

 今は考えても仕方がないと判断し、山口はバトルの方に集中する事にした。



 レイドバトルが始まると同時に、動いたのは8人のプレイヤーである。

4人は動かないと言うよりも、様子見と言う気配がしたが――動かないのは、他の一般プレイヤーだ。

デンドロビウムが動いていたというのは、周囲も驚く一方で、レイドバトルで様子見をすればターゲットを見失う事も意味している。

「様子見をして、失敗したアルストロメリア等の事例もある。攻めるが勝利と言う訳ではないが、動きを止めれば致命的だろう」

「レイドボスの一部には攻略法が確立されている。それを踏まえれば、勝てない相手ではない」

「初めから勝てないと言う考えで動くから、勝てないのだ」

「アーケードリバースにチートキャラは存在しない。首位は誰にでも平等に――」

 動いていたプレイヤーが、まさかのピンポイント射撃で倒されたのである。

装甲車のスピードは、決して速いものではない。出したとしても、時速30キロと法定速度を守っている。

それなのに重装甲のプレイヤーが撃破されたのは、別の意味でも衝撃だった。

 つまり、装甲車の火力は相当の物と言う事だろう。

「迂闊だったか。装甲車の火力を甘く見ていた」

 別の有名ゲーマーは3輪バイクであるトライクを捜索し、装甲車は無視していた。

装甲車はスピード的に、後回しでも問題ないと判断したのだが――トライクの方が見つからないので、こちらも焦っている。

「迂闊なのは――どっちだと言う話だろう!?」

 有名ゲーマーの背後には、装甲車が通過したのだが――通り過ぎた後には、何と別の軽装甲プレイヤーがビームライフルを片手に戦闘態勢で待機していた。

装甲車を無視し、他のプレイヤーがいる事をARバイザーで再確認しなかった事も――迂闊だったと言うべきだが、相手の方はペナルティを覚悟で有名ゲーマーにビームライフルを向けている。

「貴様は――失格になってもいいのか?」

「動画サイトに雇われて大金を得ているような実況者やプロまがいのゲーマーは――芸能事務所AとJのやっている事と変わらない」

「だからと言って、ゲームのルールを違反していい物ではない!」

「そうだな。芸能事務所AとJのアイドルはエントリー不能だったか」

「我々は芸能事務所とは契約して――」

「果たして、そうかな?」

 ビームライフルを構えた人物は、そのまま引き金を引き――ターゲットのゲーマーは倒れる。

その人物のARバイザーに登録されたデータには、芸能事務所Eの所属アイドルである事が書かれていたのだが――。



 一連の動きを別所で見ていたのは、レイドボスのバイクを次々と撃破していたデンドロビウムである。

その動きは――ギャラリーが驚きの声を出す前に、次のターゲットを撃破していく。

まるで、超高速で撃破していくような――信じがたい動きだった。

「プロフィールの改ざん――おそらくは、チートデータに潜んでいたプログラムによる物か」

 デンドロビウムは、チートプレイヤーをたたくやり方としても、あの人物が行った手段は姑息であると考える。

自分が手段を選ばずにチートプレイヤーを撃破していたのは確かなのだが、あそこまで露骨に卑怯と言われるような手段には手を出さない。

「あの連中は、どこまでARゲームを荒らせば気が済むのか? 芸能事務所は自分達のアイドルを宣伝できれば、低予算で宣伝が可能であれば、このような手段を使うと言うのか」

 彼女の方も限界一歩手前――と言う様な状態で、一連のやりとりを見ていたのだが、これを通報すべきなのか?

通報すれば犯人逮捕は確実、ニュースサイト等でも一連の事件は風化していなかったと取り上げるだろう。

しかし、レイドバトルが中止、あるいはARゲームが再びネット炎上で更に取り締まりを厳しくする事も――考えられる。

それこそ――個人個人でプレイマナーを考えるような時に来ているのは間違いない。

今のデンドロビウムには、どれが正しいのか――?



###エピソード65-5



 デンドロビウムが発見したプレイヤー、それはチート以前に卑怯な手段でネットを炎上させる炎上マーケティング勢力――。

それこそ、自分がコンテンツを炎上させ、アフィリエイト収入を得る為にまとめサイトへ誘導などの手段でもうけようと言う勢力だ。

こうしたやり方でもうけようと言う勢力こそ、芸能事務所AとJであり――賢者の石と呼ばれる超有名アイドル商法のノウハウを作り出した元凶である。

 しかし、デンドロビウムが様子見を決め込み、別のターゲットを探そうとした矢先――彼はあっさりと強制ログアウトされる。

『先ほど、不正行為を行ったプレイヤーに関し――強制ログアウトしました。プレイに関しては――被害を受けた該当プレイヤーに補てんを当てる方向で、今のプレイを続行します』

 緊急アナウンスと言うには若干落ち着いた声のアナウンスが流れた事に――デンドロビウムは違和感を感じる。

これも最初から仕組まれていたのではないか――アルストロメリアがレイドバトル前に仕組んでいたとされている一連の事件――帥ら絡みなのでは?

一部のゲーマーも、今回の手際の良さには違和感を持った。しかし、そこへツッコミを入れようとしたら、それこそ先ほどの炎上勢力と同じになる。

そう考え、誰もが今の段階では通報等を行っていない。レイドバトルが止まる事の方を問題視している可能性が高いだろう。



 レイドバトルは1分ほど、先ほどのアナウンスで時間が停止された。しかし、わずかな時間でプレイヤーが休めるとは思えない。

ARゲームではわずかな小休止でもあれば、そこでスタミナを回復させるチャンスは存在する。

スポーツ系では1分でも休止時間があれば大きいのだが――さすがに、ARリズムゲーム系や集中力の途切れる事が致命的なジャンルは、この1分間で水を差される事にもつながるだろう。

「ターゲットの方も動きを止めている。本当に時間が止まっていたようだな」

「しかし、あのプレイヤーは何をしようとしていたのか?」

「さすがに、それは分からないだろう。しかし、有名プレイヤーや実況者、歌い手等を物理襲撃するような過激思想や発言をする人間は0ではない」

「そうした考えがコンテンツ市場で大規模テロを行い、芸能事務所AとJのアイドルだけしか存在を許さない市場を生み出す――」

「それが、ネット上で騒がれている賢者の石か」

「メディアなども芸能事務所AとJが買収し、国会も思うがまま――日本は芸能事務所AとJの支配国家と言ってもいい」

「それはディストピア的な?」

「ソレはあり得ないだろう。あくまでも、その思想はフィクションであり、夢小説勢やフジョシ勢力がコンテンツ炎上に利用しているだけだろう? あるいはアンチ勢力の炎上手段――」

 中断中にも様々な発言をするプレイヤーもいたのだが、その発言にデンドロビウムは一切かかわらない。

下手に関与すれば、それこそ――同じ事を繰り返しかねなかったからだ。



 レイドバトルが再開し、大きな動きを見せたのはデンドロビウムだった。

「これを試す時か――」

 デンドロビウムが背中のバックパックユニットから展開した物、それはシールドビットの様なものではない。

シールドが分離したのは同じだが、それを左腕に装着――それと同時にビームブレードが展開されたのだ。

ただし、このビームブレードは高速で振動しており、ソニックブレードと言った方が早いだろうか?

 高速振動したブレードは、目の前に現れたバイクユニットの装甲を一発で切り裂き、瞬時に消滅させた。

その後も次々と撃破していき――気が付くと、デンドロビウムがリアルチートを思わせるような無双展開でレイドボスを一掃していたのである。

 ただし、このソニックブレードはチート武装ではない。公認の武装と言うよりは――カスタマイズ武装と言うべきか?

「たった一つの武器で、あれだけの無双展開とは――」

 ARメットのバイザーをオフにして観戦していた、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)は別の意味でも驚く。

武器性能の優劣だけでARゲームを攻略できるのであれば、それはソシャゲでの強力な課金アイテムに手を出すような物だろうか?

 しかし、そうした課金アイテムや廃課金だけでARゲームが攻略できるようであれば、あっさりと人気に陰りが見えるのは当然であり、草加市もふるさと納税を使ったりはしなかった。

今となってはARゲーム課が何を考えてふるさと納税で運営しようと思ったのか――それは、どうでもいい話である。

「違うな。あれがデンドロビウムのチャレンジなのだろう」

 山口はデンドロビウムの使用している武装が――実は能力がさほど高くない武装だと言う事を把握していた。

しかし、周囲の使用していた武器は明らかにデンドロビウムよりも攻撃力が上の物もある。

それなのに――彼女が無双で来たのは、どうしてか?

「どちらにしても、動画がアップされてからか――と思ったが、さすがに無理か」

 山口が動画がアップされる可能性をその場で否定したのには理由がある。

それは、中断された理由だろうか。これが流出すれば、ネット炎上の元になりかねない。



 しかし、山口の予想は大きく外れ、動画は無事にアップされた。

ただし――デンドロビウムの無双シーンのみが切り取られたような動画がピックアップニュースで紹介されるレベルだったが。

全体像の動画もあるにはあったのだが、肝心の中断シーンは録画システムも止まっている事を理由に、該当箇所が切り取られていたと言う。

【あのシーンがない】

【中断に関しては、停電の様な物と同じ扱いと聞く。録画システムも動かないだろうな】

【録画システムは意図的に切られたのでは?】

【意図的?】

【中断中の会話で、芸能事務所AとJのCDを宣伝している発言があったと聞く】

【それ以外にも芸能事務所AとJを神と称したり――禁止行為があったのも理由だろうな】

 ネット上のつぶやきでは、一連の中断個所の詳細もぼかされている気配が感じたれた。

一連のタイムラインを見れば、まとめサイトや一部の芸能事務所が想定したシナリオに書きかえられたのは一目瞭然だろう。

「どちらにしても――あの勢力が行おうとしている事の全貌を、表面化させるつもりなのか」

 ARゲーム課のスタッフも、今回の一件に関しては黙ってもいられない状況だった。

ふるさと納税は、芸能事務所からの進言があったというフェイクニュースが拡散しているほどなので、スタッフも火消しに追われている。

実際にふるさと納税を適用した理由は公共事業に絡む物と言う事にしたのだが、それで通せるとも思えない。

やはり、ARゲームのガイドライン変更は――時期尚早だったのか?

『あの勢力が芸能事務所AとJに便乗しようとした、地下アイドルの芸能事務所と言う説もフェイクニュースで拡散しているほどだ――意地でも知られたくないのだろう?』

 別のサイトを見ていた鹿沼零(かぬま・れい)も――似たような事を考える。

仮に自分がアルストロメリアと同じような考えをしたとしたら、本当に潰そうと思う勢力は――。

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