エピソード66~エピソード67

###エピソード66



 9月16日、デンドロビウムは――あるニュースサイトの記事を目撃する。

「チートがはびこるようなゲーム業界にしたのは――そっちではないだろう」

 口調では分かりづらいが、その心中はパソコンのモニターを殴り飛ばしたい程の怒りであふれているのかもしれない。

そのニュースサイトの記事では、ゲーム業界のチートをメーカーの不祥事という言葉で片付けている。

該当の記事はまとめサイト経由でもなければ、フェイクニュースでもない。大手ニュースサイトの記事だった。

ただし、書いたのはニュースサイトの記者ではなく個人の投稿による物――そこが唯一の違いだろうか?

 そのニュースを投稿した人物の名称を見ても見当はつかないが、悪質なユーザー等によるステマ投稿は禁止している関係で――信ぴょう性はあるのだろう。

しかし、それが本当に信用出来る記事なのかどうかを判断するのは、あくまでもミューすを見たユーザー自身にゆだねられている。

【このニュースは、さすがに信用できない】

【芸能事務所が信用回復の為の切り札として、ニュースサイトを買収したのか?】

【ニュースサイト場が買収されたとしたら、プレスリリースくらいは出すだろう。唐突に買収された事は考えられない】

【偽サイトにすり替えたとか?】

【ウイルスを拡散するサイトにすり替えたという路線ならば、あり得なくはないが――】

 ニュースの内容には信用できるような物がない――明らかにネット炎上が目的なのか、芸能事務所が仕組んだハニートラップと言う考えもあるらしい。

そうした疑心暗鬼が、ある意味でも記事をアップした人物の狙いだとしたら――?

「この記事が、このタイミングで公開された事――どう考えても、何かの狙いがあるとしか思えない」

 デンドロビウムは思う部分もあるのだが、その狙いが何かは予測出来なかった。

現状で思いつくのはレイドバトルの物理中止を狙ったフェイクニュースなのだが、サイトがサイトなのでフェイクの路線は難しい。

このニュースを投稿したのは個人ユーザーと言う事も――デンドロビウムが意図を予測できない原因でもある。



 エンドレスで悲劇が繰り返され、それによってアフィリエイト収入を得ているような人物がいたとしたら――?

我々はコンテンツ業界に関して、改めて考え直さなくてはいけないだろう。コンテンツの流通等を含めた全体的な意味でも。

このニュースは、ある意味でも怪文書と言われるかもしれないが――それで切り捨てているような芸能事務所は、ネット炎上騒動のマッチポンプを認めるような物と断言してもいい。

【出だしの段階で怪文書だろう?】

【ネット炎上をマッチポンプと言うのは、別のサイトや週刊誌でもあったが――】

【ここでいう『我々』と言う意味が分からない。上から目線か?】

【ネット炎上は、まとめサイトや裏掲示板を鵜呑みにしていて、それを絶対神と信じているような人物の戯言】

【芸能事務所の炎上合戦にゲームやアニメ、漫画等のコンテンツを巻き込むな!】

 ネット上では、こうした反応をする人物が出てくる事は百も承知だ。

だからこそ――我々は一連の事件を『黒歴史』と切り捨てる事は簡単だが、そこからコンテンツ市場を変えるきっかけを生み出す事を提案したい。

【提案とか言って、規制法案か?】

【馬鹿にするのもいい加減にしろ!】

【結局、芸能事務所AかJから莫大な金をもらっているのだろう? 動画投稿者の炎上案件でも金が全てと言う様な具合で――】

 こういう人種もいるかもしれない。非難を行うのは大いに結構――逆に歓迎しよう。

だからこそ、今のコンテンツが置かれている立場を理解するべきなのだ。

【結局は二次創作否定勢力か。夢小説や腐向けを根絶する為に――二次創作を根絶し、一次創作こそ全てと断言する】

【歌い手や実況者の夢小説をきっかけに、全ての二次創作をナマモノと決定つけ、捜索活動をするのであれば一次創作のみと言う法案を――】

【一次創作こそ全て――結局、一連のネット炎上も一次創作を推奨する為に芸能事務所を炎上させたのか?】

 こうした解釈をするようなつぶやきユーザーもいるだろう。

しかし、二次創作の動画を削除するのは――権利侵害が明らかな物に限定される。

この議論を今更行うのも不毛な炎上を誘発し、我々の望むようなコンテンツ流通には程遠くなるだろう。

我々が求める理想は――二次創作以上に支持を得られるような一次創作を生み出し、それに対価が得られるような環境を生み出す事にある。



 一連の芸能事務所が関係した誹謗中傷合戦、更には様々なサイトにおける炎上事件も芸能事務所AとJによる物と判明した。

しかし、これらが事実なのかどうかは警察の操作などで明らかになって行くだろう。

 その上で我々は今回の事件を生み出した真犯人は何者なのか――それを考えていきたい。

海外のコンテンツ関係の会社が介入した路線、ライバル会社が潰し合いを誘導する為――これではネット上で言われているようなWeb小説のネタにしかならないだろう。

特に大きなニュースのない芸能事務所や芸能人が構って欲しいからと炎上させた――とも考えられない。

逆に不倫のニュース等の方が記者が詰まる可能性が高い為、リスクが高くて博打は打てないのが正しいか。

では、本当の意味で犯人は誰なのか? ここまで見てアルストロメリアだと断言するのは――フェイクニュースでネット炎上を誘発させてしまう愚かなユーザーのすることだ。

 最低でも自分は、今回の犯人がアルストロメリアとは思っていない。だからと言って、なりきりを行っているユーザーとも違う。

仮になりきりのアカウントを複数動かしているユーザーだったら、営業妨害で逮捕されて莫大な賠償金を払う羽目となる。

そうした騒動に発展せず、草加市内で完結している事に違和感を持たなかったのか?



 今回の草加市のケースは、ARゲーム課及び草加市が手を組んで誕生した物と言える。

ARゲームのルールさえ守っていれば、何も言及される事はなかった。それをおかしいと思わなかったのか?

それこそディストピア的な世界と――疑問に思わなかったのか?

 ネット炎上とコンテンツ流通、それらが表裏一体となっているのは明白だ。

人は文明の利器を得た事により――それを利用する場を求めてきたと言えるかもしれない。

 争いの歴史は否定しない。一方で、人の命を奪う様な争いからは脱却する必要があるのだ。

命を軽視するような――それこそデスゲームと呼ばれる戦争は終わったと明言出来る世界、それを我々は求めている。

それを妨害しているのは、明らかにチートと言うARゲームの中でもバグ以上に懸念すべき項目を放置したゲームメーカーだろう。

そのチートを使い、ARゲームを荒らしたのはプレイヤーかもしれない。しかし、対策は出来た筈だ。

ちゃんと対策をしたメーカーもある一方で、そのチートをビジネスに利用しようとした人物も出現した流れも生まれている。

 ゲームメーカー全てが悪い訳ではないが――このままでは風評被害としてもゲームメーカー全てがチートビジネスと言う犯罪を生み出したと言われるだろう。

だからこそ――我々はコンテンツビジネスを変える為にも、新たなガイドラインの強化を必要としているのだ。



 この記事を書いた人物、その名前を見たデンドロビウムが怒るのは無理もなかった。

書いた人物の名前は、以前にも聞いた事のある人物だったからである。

 仮に名義を借りて書いたとしても、やる事のスケールが違いすぎる――と言ってもいい。

だからこそ――デンドロビウムは冷静でいようとしても、怒りがこみ上げてくるのだ。

「キサラギ――このタイミングで、お前達が言うのか?」

 その記事を書いたのはキサラギのスタッフと書かれていたが、人物名は偽名だろう。

これを偽名と明言するのもアレかもしれない。ネット上でも偽名ではなく本気で本人と認識し、まとめサイトを立ち上げている人物もいるからだ。

単純ないたずらや悪目立ちとしても、たちが悪すぎるレベルで、この名前を使うべきではない名前なのは間違いないだろう。

「それに――この名前は、どう考えてもなりきりと考えたくもなる」

 そこに書かれていたのは、キサラギスタッフという肩書と――アルストロメリアと言うHNだった。



###エピソード66-2



 例の記事を書いたのがアルストロメリアである事――それがネット上で拡散する事はなかった。

ただし、あのアルストロメリアを指す場合に限定される。つまり、あの記事を書いたのはアルストロメリアを名乗る別人と言う認識のようだ。

【あれはさすがに別人だ】

【ただし、ARゲームで一種の騙りとして使われるのを防ぐ狙いで使えない名前はあるようだな】

【それは、あくまでもビスマルクやガングートに限定されていて、アルストロメリアは該当しない――】

【果たして――本当にそうだろうか?】

【何を名乗ろうが、名乗ったもの勝ちではないだろう。それに――】

 ネット上ではあの記事を書いたのは別人だとしても、仮にARゲーム上で名乗られでもしたら――という懸念を抱くユーザーが多かった。

それに、インターネットが急速に発展し、更にはネット炎上が日常茶飯事な現在においては――たった一度の風評被害でも、信頼を取り戻すのに時間はかかる。

「わずかなネット炎上でも、それに対応する為に莫大な資金がかかる。そう言う時代になったのは、皮肉と言うべきか」

 メットを外した状態でタブレット端末を手に一連のニュースを見ていたのは、鹿沼零(かぬま・れい)である。

偶には――と言う事でレモンティーを飲んでいるのだが、ホットではなくアイスティーの方だ。

それに、彼は何を思っているのかは不明だが、その表情は気力を失ったような印象を周囲に抱かせる。

「芸能事務所によるマッチポンプ案件は警察にゆだねられたが、まだ全ては終わっていない――終わっていないはずだ」

 全ての決着は、一連のニュース記事が出た段階で終わったとは――鹿沼は考えていない。

それこそ、まだ何か忘れているような事があるのではないか? そう言った事を考えている。

「それに――この一連の事件は、これが終わりとは思えない。レイドバトル後に何か大きな動きも――」

 その後、鹿沼の目に大きな事件を告げるような――まとめサイトの記事が視界に入った。

しかし、この記事に書かれた事件はアーケードリバースに無縁の案件だった為、こちらで大きく言及される事はなかったと言う。



 午前11時、デンドロビウムは何時ものアンテナショップに足を踏み入れる。

ギャラリーの人数的には、混雑をしているような規模ではないので――待ち時間も少なめでプレイは可能だろう。

 しかし、周囲のギャラリーの間には例のニュースを見た人物もいる。ネットの拡散速度を考えると、容易に想像出来る事態だが――。

アルストロメリア関係の話をしているのは、そちら絡みである事も想像出来るだろう。

《待ち時間10分》

 センターモニターを見たデンドロビウムは、ギャラリーの割に混雑が少ない事に違和感を持った。

他のARゲームは1時間待ちもあるのだが、アーケードリバースに限っては10分程度で空席になる物なのか――と。

「こんな時間帯にプレイする方が珍しいのか――」

 午後であればある程度の人数が並ぶので、午前中に来たのは運がよかったとも取れる。

しかし、一か月で最終集計をするとすれば――あまり余裕がないと言える状況かもしれない。

【スコアはアルストロメリアが上――と思ったが、差が埋まっている?】

【ガングートが2位なのは変わっていないようだが】

【それよりも3位のデンドロビウムが――スコアの伸びが凄いぞ】

【チートプレイは禁止されている以上、この3人でトップ争いか?】

【まだ分からないぞ。RTA勢力は弾かれたが――別の勢力がバトルを妨害しないとは限らないだろう】

 様々な意見がネット上に飛び交うが、首位争いはアルストロメリア、ガングート、デンドロビウムに絞られたと断言されている。

しかし、ビスマルクや瀬川(せがわ)アスナ、アイオワ、ジャック・ザ・リッパーもベスト10には残っている以上、まだ断言はできない。

誰が1位になってもおかしくはないという状況だが、レイドバトルに確実な攻略法が存在しない。

そうした事情がある為か、一部のプレイヤーは別のARゲームに乗り換え、レイドバトルが終わるのを待っている状況でもあった。

「レイドバトルのプレイ人口が減っているのは、やはりRTA勢力が初日に無双したのが影響しているのか」

 待機スペースに座り、ペットボトルの麦茶をデンドロビウムは口にしていた。

待機スペースも数人が座っている程度であり、閑散としている。アーケードリバースでは、このレベルで落ち着いているのかもしれない。

ひどい所では――午後になっても待機スペースに人がいない状況も数日続いていると言う話もあった。

 ARゲームに対する風当たりが悪いのは今に始まった事ではないとはいえ、何と言う状況なのか――。

『RTA勢力だけが悪いとは限らない。別のARゲームがサービス開始したという話もあるから、そちらの様子を見ているのだろう?』

 デンドロビウムの目の前に姿を見せたのは――スレイプニルだったのである。

これに関してはデンドロビウムも驚いたが、さすがに麦茶を飲んでむせるような事はない。

「何しに来た? スレイプニル」

『レイドバトルの様子を見に来たのだ』

「様子を見たというのであれば、アルストロメリアの様子も見に行くべきでは? 片方に肩入れするのは――」

『ネット炎上を招くと言いたいのか? それに関しては心配いらない』

 デンドロビウムはスレイプニルが来た事に対し、肩入れし過ぎでは――とも言及した。

しかし、無効に関しては心配無用とも取れる表情をしている。

『あの時に言ったはずだ。どっちが勝ったとしても、アーケードリバースとしては大いに盛り上がる――と』

 スレイプニルは、あの時に言った事を改めて繰り返す。デンドロビウムを指定した時の――あの発言だ。

「フェアなバトルは実現できるのか? それこそ、アニメやゲームの世界だけだろう?」

 デンドロビウムは冗談半分に疑問をぶつけるが、その疑問に対しても余裕の表情だ。

スレイプニルはARメットを被っている関係で――表情が分からないと言うのに。

『自分が望んだ物は――チートプレイや不正、ネット炎上等のネガティブ要素を完全排除した上での――バトルと言うのも言及したはず』

 結局、彼女が真相を言うはずもなかった。

『それと――例のニュース記事は、一種のフェイクニュースでも芸能事務所によるネガティブキャンペーン、アンチ勢力の炎上行為ではない』

 スレイプニルは次にデンドロビウムが言うであろう話に関して、先に切り出した。

これにはデンドロビウムも言葉が出ない状態である。

『ARゲーム課や一部のアーケードリバースプレイヤーは今までの事件を黒歴史にしようとは考えていない。それと過去の事例をかぶせるのは――』

「お前に――何が分かる!」

 スレイプニルが何かに言及しようとした矢先、デンドロビウムはARガジェットではなく――空になった麦茶のペットボトルをスレイプニルのバイザーに突きつける。

しかし、それに動じるような彼女ではない。既に――覚悟は決まっているという事か。

『悲劇のヒロインやメアリー・スーを気取るようなプレイヤーは、ネット上で芸能事務所Jの差し金と言われるような時代だ』

「だから、復讐でARゲームをプレイするな、と言いたいのか」

『無心でゲームをプレイ出来るような人間は――そういないだろう。感情むき出しでプレイするのも自由だが――これだけは忘れるな』

 麦茶のペットボトルをはねのけるような事でもすると思ったが、そうした行動は全く取る気配がない。

そうした行動がネット上で切り取られ、再び炎上事件を起こすきっかけになると彼女は自覚しているのだ。

『ARゲームを楽しむ事――それをもう一度思い出せ! ゲームを楽しめなくなったら、それは単純な作業ゲーだろう』

 その言葉を残し、スレイプニルはデンドロビウムの目の前から姿を消す。

まさか――その言葉を聞く事になるとは、予想だにしていなかった。ブーメラン発言――とも言えるだろうか?

「分かって――いるんだ。作業ゲーと感じたら、それはゲームを楽しんでいると言えない位は」

 デンドロビウムの手は震えている。何故、このタイミングで震えていたのかは――自分にも分らなかった。



###エピソード66-3



 午後1時、デンドロビウムは改めて考えていた。

『ARゲームを楽しむ事――それをもう一度思い出せ! ゲームを楽しめなくなったら、それは単純な作業ゲーだろう』

 スレイプニルの言っていた事、それは正論だと言うのは間違いない。

しかし、そんな事を言われなくても分かっているはずだ。ARゲームは――リアルウォーのような存在ではない。

本来であれば誰でも楽しめるようなコンテンツであるはずだから。

それを楽しめないような物にして炎上を展開しようと言うのは、芸能事務所が行うネガティブキャンペーンや炎上マーケティングである。

こうした宣伝行為を法律で禁止と明言するような事は――現状では難しいだろう。

 将来的には炎上商法の定義を明確化して禁止にしようという意見もあるが、ネットを扱う人間のモラルに依存されて――。

【しかし、ネット炎上のノウハウをビジネスに利用するって、どう考えてもブラックだよな】

【それが横行すれば、芸能事務所AとJ以外のコンテンツが黒歴史化され、禁酒法のような世界が出来上がる】

【ディストピア化が――】

 やはりというか、案の定というか――炎上を助長するような勢力が存在する限りは、一連の事件は終わっていないのだろう。

有名な動画投稿者がステマを展開したという事で大炎上したのだが、単純に炎上しただけで終われば――と言う部分がある。

さすがに、この件で芸能事務所AとJの陰謀論等が拡散――する訳はなかった。

 そちらの話題は放置して、今はARゲームを集中的に炎上させるようにと言う運動があるのだろうか?

その真相を知るのは――この段階では誰もいなかったと言う。



 午後1時30分、谷塚駅近くのARゲームフィールドに姿を見せたのは――スレイプニルだった。

【あのプレイヤーは確か――】

【青騎士を名乗る小物ゲーマーか】

【青騎士? あの便乗商法を展開していた青騎士か?】

 ネット上では、スレイプニルが姿を見せたと同時に――このような発言が目立つようになる。

しかし、こうした書き込みは一切スルーしているような気配さえあるだろう。

実際に彼女はARメットをしており、メット経由でSNSを見ることは可能なはずだから。

それでも――彼女がスルーをしている理由は別にあるだろうか。

『今回の一連の事件の黒幕は、間違いなく芸能事務所だろう。AかJか――この際はどうでもいい』

 まさかの爆弾発言から始まり――ネット上では同様の嵐である。

コメントでも、それ以外の芸能事務所が炎上マーケティングを行うはずがない――と擁護する声さえある。

つまり、元凶は芸能事務所AとJだけだと言うのだ。それを――スレイプニルは否定する。

『ネット炎上勢力は、芸能事務所AとJに飼いならされている――そう言う認識を広めようとしていた』

『炎上マーケティングが超有名アイドル商法と同義である――そうした認識をさせる事こそ、黒幕の目的だった』

『しかし、黒幕の目的はあくまでも炎上マーケティングと言う名の戦争を広め、それをスタンダード化させるつもりでいたのだ』

『それによって、大量破壊兵器が使われ、命が失われるような戦争と言う形を排除し、ネット炎上等でコンテンツを潰していくという形の戦争にしようとした』

『それが、一部勢力の言うリアルウォーと言えば、分かる人間には分かるだろう』

 スレイプニルはボイスチェンジャーを使用していない。そのままの声を聞けば――正体が女性であるのは分かるだろう。

しかし、そんな事は些細な事であり――今は重要レベルと言う訳ではないので、誰もつぶやこうとはしていない。

『ARゲームは現実の戦争とは違う。しかし、近年は疑似体験とはいえど――戦争を題材としたゲームも存在する』

『そうした傾向を否定するつもりはない。それはメーカー側が決めた事でもある――プレイヤーには選択肢も用意されているだろう』

『しかし、プレイしないという選択肢を悪用してエアプレイでネットを炎上させるような事や――アンチ行為を認める訳にはいない』

『プレイヤーはゲームをプレイするのがメインであるのと同時に、それに対して正確な感想を述べる事も必要とされる』

『その一方で、その立場を悪用してネット炎上やコンテンツ流通を妨害するのでは、それは行うべきではない――そう断言出来るだろう』

 彼女の演説は続く。演説と言っていのかは分からないが――そこから判断できる事は多すぎて絞り切れないのが聞いているユーザーの感想だろう。

しかし、彼女の発言には熱意がある。まるで、デンドロビウムやアルストロメリアと同じような――。

『真の敵――それは、アルストロメリアと誰もが思うように差し向けられていた。アカシックレコードの存在を含めて――』

『しかし、芸能事務所の謝罪や事務所側の活動縮小、それにARゲームへの撤退――。芸能事務所がネット炎上させている説も、証拠がつかめていない状況だ』

『この状況で芸能事務所が黒幕と考えるのも難しい。ガーディアン等の情報待ちと言えるかもしれない――』

『しかし、真の敵は気づかないような場所にいたのだ。原作者や原案者――そう言った意味ではなく、灯台もと暗し的な――』

 その一言を聞き、スマートフォンの手が震える人物もいた。

自分が犯人なのでは――と気づかれ、逃げる準備をするような人間もいれば、アカウントを消して逃亡を図ろうと言う人間もいる。

そうした人間を逃がさないように、スレイプニルは断言――した。

『真の敵は――誰でもない、つぶやきサイトのユーザーだ。アカウントを持って、ネットを炎上させ、そこからお金に限らないような対価を得る――』

『その対価は、ストレス発散、他のつぶやきユーザーからのフォローが増える、テレビで名前が載る――現金を得なくても、そうした名声等が後に――』

 そこから先を言おうとした矢先、別のプレイヤーがスレイプニルに襲いかかろうと背後から襲撃してきたのだ。

しかし、スレイプニルは瞬時に姿を消した――ようにギャラリーは認識する。つまり――。

『こういう人間が生み出され、それをネットで晒し――炎上させる。こうした行為自体を行って世界を支配したかのように考えるのが――そもそもの間違いなのだ!』

 スレイプニルは襲撃してきたプレイヤーを瞬時に無力化したのだが――その手際は誰かを連想させる。その人物とは――。

『こうした行為は、ARゲームではチートとして禁止されている。つまり、チートキラーと言うのは――貴様たちの様な存在を狩る為の存在だったのかもしれないな』

 そして、スレイプニルはARメットのバイザー部分をオープンし、その素顔を晒すのだが――その顔はネット上でも既に一部で拡散していたので、あまり驚きはなかった。

しかし、逆に驚いたのは彼女の体格にあったのだろう。体格は明らかにぽっちゃり――というか、それに類するような物である。

それであの動きと言うのは、チートなのではないか――そんな意見も飛ぶし、つぶやきサイトでも早速拡散していた。

『デンドロビウムがチートと考えていたのは、不正ツールやガジェットを使ってのプレイだけでなく――不当評価でコンテンツの価値を低下させるような、お前達の事を言うのだ!』

 スレイプニルは、ワンパンチで相手プレイヤーを吹き飛ばして無力化したのだが――その動作がデンドロビウムのソレだった。

ネット上では早速だが――自分がネット炎上をしていたと否定するユーザーが続出、ほぼ想定通りの展開となったのである。

これは、もしかするとアルストロメリアも――こうなると予測していたのかもしれない。

「後はお前達次第――。レイドバトルに水を差すようなことは、これで0とは言わないが大幅に減るだろう」

 スレイプニルは、自分がこうした役を引き受けることで、デンドロビウムとアルストロメリアがレイドバトルに集中できる流れを作ろうとしていた。

そして、一連の青騎士騒動にもピリオドを打とうと考えていたのである。



###エピソード67



 午後1時45分、スレイプニルによる一連の発言がネット上に拡散する。

これに関しては賛否両論であるのは間違いないだろう。実際、これをテンプレとしてまとめサイトで真実を歪めた記事も出回っているからだ。

 しかし、一つだけ言えるのは今回の発言はネット炎上を狙った物ではない――と言う事。

それを百も承知しているのか――この発言に関して、アルストロメリアからのコメントはない。

「これに関しては――どう判断すべきか」

 ARメットを外し、会社のサーバー室で一連の動画を見ていたのは山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)だった。

今回の彼は別行動と言うべきだろうか――コンビニ以外で外に出る様子はない。

まとめサイトに関しては目を向けず、ただひたすらにアルストロメリアの情報を探しているようにも見えるだろうか。

「芸能事務所の動向も気になるが――」

 山口は例の謝罪報道がフェイクとも考えにくいと思っている。

あれをフェイクと思っているのは、一連の芸能事務所信者やアイドル投資家、FX投資の如くCDを購入してきたファンと言うべきか。

そうした勢力が、芸能事務所AとJは無罪であり――特定のメーカーが貶めていると。

 こうした流れもフェイクと言える可能性はあるのだが、真相は不明であり――下手に炎上させれば、トラブルを大きくさせかねない。

芸能事務所Aのアイドルが売り上げたCDやグッズ――その金額は国家予算100年分にも匹敵する。

それほどの水増しやマッチポンプ、出来レースを繰り返してきたというのは――ネット上ではあるあるとしても言及され、更には都市伝説とも言われていた。

アカシックレコードにも、芸能事務所Aに関しては色々と警告とも取れるメッセージがあったのだが――今となっては、アカシックレコードが信用できるソースなのか不明だろう。



 5分後、アルストロメリアは予想外の場所に姿を見せていた。

それがネット上に拡散したのは、更に10分後と言う事である事――これは、彼女が周囲のギャラリーを欺いたと言う事だろうか。

「やはり――ここに現れたか」

 アルストロメリアの目の前に現れたのは、ジャック・ザ・リッパーだった。

彼女はチートプレイヤー狩りをしていたのだが――それも終わりに近づいている中で、アルストロメリアに遭遇したのである。

「チート狩りをしても、結局はエンドレス状態だった――それを自覚しなかったの?」

 アルストロメリアの一言に、ジャックは返す言葉もない。

下手に返せばネット炎上を招くだろう――それ位に、今のARゲームが置かれている状況は危機的と言えるだろう。

「結局は、一部の何でもビジネスに利用しようと言う人物の思惑が――今回の事件を生み出し、シナリオを進めていった」

「だからこそ――ここで、終止符を打つべきなのだろうと思う」

「物語には、始まりがあれば必ず終わりが来る――」

 言い返せないジャックに対し、アルストロメリアは語り続けている。

その言葉の多くは、周囲のギャラリーにも突き刺さるような物ばかりであり、周囲も言葉を出せない状態だった。

それに加えて、ネットに拡散して炎上を企むような人間も――こればかりは拡散出来ないと諦めている。

アルストロメリアと言うHNで投稿された、キサラギのメッセージの件も、それを助長させていた。

「コンテンツ市場は、自分達が儲かるようなシステムを求め――それがユーザーの求めている物と違った事で、小さな対立が存在していた」

「その規模を大きくして炎上させたのは、FX投資とも比喩された超有名アイドル商法――ネット炎上は、これが生み出したと言ってもいい」

「そして、容易にネットを炎上させれば――ライバルコンテンツを終了させる事もでき、芸能事務所AとJから報酬がもらえると勘違いしたユーザーが、炎上を助長した」

「やがて――世界は、ネット炎上と言うリアルウォーに突入すると言うフェイクニュースに踊らされ、遂には――」

 アルストロメリアが語っている途中、周囲を囲むように姿を見せたのは芸能事務所Aの現役アイドルである。

本来であれば――現役アイドルがARゲームに参戦するのは禁止されているが、特定芸能事務所でなければ許可をした事が新ガイドラインで言及されていた。

つまり、今の所属は芸能事務所Aではないのだが――アルストロメリアにとっては、これも自分を潰す為に都合よくガイドラインを解釈し、禁じ手を仕掛けてきた――と認識する。

「こういうルールブレイカーもチートと認識していたと言うのか――デンドロビウム!」

 アルストロメリアは、早速ARウェポンを転送――その場でレールガンを構えた。

しかも、即座に引き金を引くような勢いであるのだが、引き金にはロックがかかっていて撃つ事は出来ない。

ロックがかかっている理由は、ARゲームフィールドが展開されていない事にある。



 次の瞬間、アルストロメリアは引き金が引けない事に気が付かなかった。

これによって、彼女はレールガンを投げ飛ばそうと考えていたのだが――周囲のフィールド変化に気付き、変化直後にはレールガンの引き金を引く。

発射されたレールガンを見て、アルストロメリアを取り囲んでいたアイドルも『話が違う』という事で、動揺しているようだ。

それに加えて――攻撃は仕掛けているのだが、当たる気配は一切ない。

「何処の誰なのかは知らないが――」

 アルストロメリアは、ARアーマーを展開し――更に巨大なガトリングアックスを転送、レールガンは収納した。

まるでアマゾネスを思わせるような、彼女の無双展開は――ある意味でも衝撃的である。

 ギャラリーも言葉に出来ないような光景を――目撃していた。

「これで、こちらの真の目的を達成できる! 想定していた理想のハッピーエンドではないが――」

 彼女が何を言っているのか、周囲には理解できない。

しかし、彼女自身から事情を聞いた事のあるジャックは何となく事情を呑み込める。



 アルストロメリアの周囲が騒がしいと思ったデンドロビウムは、その場をスルーしてアーケードリバースのフィールドへ向かう。

「マナーがなっていないと言うべきか。どちらにしても――」

 この段階ではアルストロメリアが原因で起こっている騒動とは気づいていない。

遠目に見ている関係もあって、取り囲んでいる芸能事務所Aのアイドルしか姿が確認出来ない状態だ。

「今は自分のレイドバトルに集中するべきか」

 ノイズを気にしてはいけない。今は、自分のバトルに集中するべきだろう――そう彼女は判断した。

一部の青騎士勢力に関しても彼女がスルーをしていたのには、自分が関係ないというのもあるのだが――。




###エピソード67-2



 アルストロメリアの騒動はフィールド外と言うよりも、屋外フィールドで展開されていた。

その為に、怪我人が続出している情報は出ていない。そこにだけは感謝をするべきなのだろうか?

「何て事だ――」

 センターモニターのアナウンスを見たデンドロビウムは、閉口するしかない。

他のプレイヤーも似たような反応をしているが、影響を受けている機種がアーケードリバースだけなので――他のゲームをプレイすればいいという表情だ。

《ただいま、ハッキング被害を確認する為にアーケードリバースのエントリーを一時休止しております。復旧までしばらくお待ちください――》

 まさかのハッキングである。このタイミングで、こうした騒動を起こすのはネット炎上勢力と言いたいが、彼らにARゲームへのハッキングが可能なクラッカーがいるのか?

ARゲームでは数人のホワイトハッカーを初めとして――セキュリティの厳重さはネットでも有名なハッキング集団も舌を巻くほどのレベルと言われていた。

そのレベルを超えたハッキングが行われたという事は、もはや国家レベルのシステムをハッキングするのと同義である。

「これほどのハッキングを出来るのは――?」

 デンドロビウムも疑問に思う。これほどのハッキングが出来るのであれば、スパコン等をハッキングするなり海外のサーバーから情報を流出させるのも朝飯前だ。

そちらをハッキングした方が、ニュースとしては大きく取り上げられる。だからこそ、今回の件には疑問に思う個所が多かった。

何故、ピンポイントでアーケードリバースを狙うのか?



 ARゲームフィールドの屋外エリア、そこではアルストロメリアとジャック・ザ・リッパーが周囲を囲んでいたプレイヤーを無力化している。

しかし、次々と増援が駆けつけてくるような状態は――思わず2人も言葉を失っていた。

一方で相手プレイヤー側は、披露している2人を見てチャンスと考えているようだが――何故、タイミング良くARフィールドが展開された事は気にしていない。

 ARフィールドが展開されたという事は、ARゲームが開始された事を意味している。つまり――何者かがARゲームを始めたと言ってもいい。

ARガジェットやARウェポンを初めとしたARゲーム用のガジェットは、本来であればARフィールドが展開されていないと動作不能である。

フィールド発生時に拡散するエネルギー的な何かを吸収している説もあるが、ARゲームは太陽光パネル等で集められたソーラーエネルギーで運用されていると言ってもいいだろう。

「こっちとしても、これ以上暴れられて――芸能事務所が解散になるのは避けたいからな」

 まさか、芸能事務所Aだけでなく芸能事務所Jのジュニアアイドルや他の芸能事務所のアイドルまで――加勢にやってきていた。

これはドラマの収録ではないのは明らかなのだが、周囲のギャラリーはアイドル目当ての人物が一切ない。

芸能事務所側にとっては、完全なアウェーと言ってもいいだろうか。

「周囲にファンがいて、やられた際に悲鳴でもあげられたら――それこそ、別のまとめサイトが炎上するように仕向けるだろうな」

 更に別の芸能事務所の男性アイドルも、他のアイドルと同じ認識である。

芸能事務所Aのアイドルは、別の目的なのかもしれないが――この際はどうでもいい。

とにかく、アルストロメリアを倒せば――全てが終わるのだから。

「芸能事務所の為、未来永劫に語り継がれる神話の為に――」

 どう考えてもモブ悪役と言う様な迂闊な発言をし、ジャックに止めを刺そうとした人物がいた。

その人物を他のアイドルが止めようとしても――全てが遅かったのである。



 次の瞬間、乱入者の出現を示すアラートが鳴り響き、更には乱入者出現のインフォメーションもARメットやARガジェットに表示される。

《乱入者が現れました。ブルーチームの所属となります》

 レッドチームである芸能事務所連合としては、歓迎出来ない状況だろう。

しかも、こちらは増援があるとはいえ――ゲームのプレイ経験が豊富な人物は皆無に等しい。

「2人とはいえ、簡単に攻略できると思ったが――」

 チートを使えば、風評被害的にも大変な事になるだろう。それを踏まえてのノーマルガジェットで参戦したのは、別の意味でも裏目に出る。

チートガジェットならば、乱入者が誰であろうと倒せる確率が上がるのは当然だ。ARゲーム未経験者が多い状況を踏まえれば、尚更だろう。

 乱入してきた人物とは――芸能事務所側からすれば、遭遇したくない相手だったのである。

「ネット上でアルストロメリアがいると聞いていたが――ここまでの展開になっているとはな!」

 ARスーツに白銀のアーマーは――見覚えがあった。最近になってレイドバトルで装備を変えている話はあったのだが――。

「撃て! ターゲットは、あの白銀の――」

 そうはさせない――と乱入者が先手を取り、用意したガジェットはシールドビットである。

あまりにも汎用性が高い影響か、レイドバトルでは使用率が高い事もあって――乱入者もかなり使いこんでいる状況だった。

シールドビットの形状は、どちらかと言うとチェーンソーをSFっぽくデザインしたような物であり、他の人物が使う様な物とは違う。

「芸能事務所同士で椅子取りゲームとは――馬鹿馬鹿しい。これでは、海外コンテンツに挑む前に負けを認めているような物だ」

 白銀のARメットのバイザーをオープンし、素顔を見せた人物――それは、何とガングートだった。

「馬鹿な――あの地下アイドルグループの――!」

 当然だが、芸能事務所のアイドルはガングートではなく彼女の元々の名前に関して言及しようとするのだが――それを言わせる前に、容赦なく潰していく。

迂闊な発言は即座に負けフラグとなるのは、ARゲームでは都市伝説とされているのだが――。

ガングートはシールドビット以外では、アサルトライフルで応戦する。しかし、彼女はアルストロメリアやジャックの方を振り向く事はしない。

向こうに気を取られて撃破されるのは得策ではない――そう考えているからだ。



 屋外フィールドのフィールドAでアルストロメリア、ジャック・ザ・リッパー、ガングートが展開している中――屋外フィールドBでは、別の勢力がデンドロビウムと戦っていた。

「貴様たちの遊戯に付きあっている暇はない」

 デンドロビウムは大型のビーム系の大型ライフルで、別勢力を一発で黙らせる。

その勢力の正体は、動画投稿者でも有名な人物だったのだが――チートを使っていた事で、様々な悪行が判明し――引退を賭けてARゲームに参戦している人物でもあった。

しかし、彼らではデンドロビウムに挑むには――強い意志が足りなかったのである。

 彼女に勝とうと言うのであれば、アーケードリバースに対する情熱を見せなければ――勝てないのは明白だ。

単純に『目立ちたい』や『大金を得たい』のような薄っぺらい欲望では――デンドロビウムに勝つなど事実上の不可能である。

「薄っぺらい欲望が影響し、炎上したゲームをいくつも見てきた。これ以上は――炎上案件を増やさせない!」

 彼女は単純な怒りで戦っている訳ではない。怒りや憎しみで戦えば、それは悲劇を生み出すだけである。

それが原因で、過去には色々なゲームでトラブルに直面し――内面的にも傷ついてきた。

これ以上の悲劇の連鎖は起こさせない――と言う一方で、ARゲームは純粋に楽しむ為のゲームであり、リアルウォーを起こす為の道具でもない。

「アルストロメリア――これ以上のコンテンツ流通妨害は――」

 フィールドBの敵を一掃したのを確認し、デンドロビウムはフィールドAへと向かう。

その目的は――アルストロメリア、ただ一人だ。



###エピソード67-3



 デンドロビウムも疑問に思ったハッキング――それは、数分後には解除された。

そして、エントリーが出来た時にはアルストロメリアとジャック・ザ・リッパーのフィールドに入っていたと言う。

レイドバトルに関してはデータ更新等の事情でプレイ不可能だったが――。

「アルストロメリア――これ以上のコンテンツ流通妨害は――」

 フィールドBの敵を一掃、その直後にデンドロビウムはフィールドAへと向かう。

フィールドAへ突入したデンドロビウムを待っていたのは、芸能事務所のアイドルだったのである。

「これが――リアルウォーとでもいうのか!」

 即座にレーザーブレードを展開し、先へ急ごうとするデンドロビウムだったが――芸能事務所側は、それを妨害していた。

ターゲットはアルストロメリアだと言うのは明白だが――。



 デンドロビウムがフィールドAへ姿を見せた事に対し、驚いたのはアルストロメリアである。

「デンドロビウム――どうして?」

 ジャックは別の意味でも驚きの声をあげた。

最初にプレイヤーネームを確認はしたのだが、それでも本人とは考えにくかった経緯がある。

「デンドロビウム――このモードはレイドバトルではない。なのに、どうして?」

 アルストロメリアは自分が起こした事もあって、自分で決着を付けようとしていた。

だからこそ、デンドロビウムの出現は彼女にとっても想定外の出来事である。

 一方で、アルストロメリアは更に姿を見せた別の乱入者には――気づいていない。

プレイヤーネームを確認したが、瞬間的にしかチェックできていなかったのか――あるいはランクに気付かなかったのか?

デンドロビウムの出現にも驚いた彼女にとっては、更なる乱入者も驚く事になるだろう。

「こちらとしても、お前達の自己満足や構ってちゃんに付きあってやれるほど――」

 アルストロメリアが呼びだしたARガジェットは、銀色のパイルバンカーでだった。

その形状は――何人かのギャラリーが震えている所を見ると、トラウマ的な武装なのだろうか?

「誰が構ってちゃんな物か――俺は芸能事務所Jの頂点に立つ予定のアイドルなんだぞ!」

 どう考えても負けフラグな台詞を放った男性アイドルは、瞬時にして銀色のパイルバンカーに貫かれた。

パイルに関してはビームパイルと言う事もあり、仮に貫かれたとしても身体的ダメージは一切ない。

いわゆる一つのCG映像の部類であり、どう考えても痛みを感じるのは異常と言えるだろう。

これで痛みを感じるような人間がいるとすれば――ARゲームでの痛みを現実でも感じるような反応を持つ人間だけ。

そのような人間がいるのか――と言われると、VRゲームでゲーム―バーが現実世界のゲームオーバーを意味するデスゲーム――それと同じ風に考えている人物しかいない。

さすがに、ARゲームでデスゲームのルール等を持ち出すような人間はいない。デスゲームと言う概念自体が禁止されているのもあるのかもしれないが。

「典型的な負けフラグを立てるとは――お前達は、今まで何を見てきたというのか?」

 さすがのアルストロメリアも、次々と向かってくるアイドルに対して――完全に呆れている。

ゲーマーとしてのスキルが足りないのであれば、対策を考えてフォローする事も可能だだろう。

しかし、彼らの場合はお決まりの負けフラグ発言をして――わざと負けているとしか思えない部分もあった。

つまり――彼らは負けフラグと言う概念をネット上に拡散する為の、捨て駒とされているのである。

「こちらとしても、興が冷めた――芸能事務所が、そこまでの事をしてまでもコンテンツ市場を独占したいと言うのであれば――」

 アルストロメリアは、彼らの行動に関して――本気でキレていた。

しかし、それを表情に出してしまうと周囲のネットを炎上させようと言う勢力が動きだすだろう。



 既にネット炎上勢力が暴れ出し、ARゲームがアレ出したタイミングから日常空間は非日常へと化した。

もしかすると――新日常系と言う概念に該当するような世界が、現実化したのかもしれない。

だからこそ――現実世界と非現実の物語やゲームの世界を融合する事には、反発の動きもあった。

【芸能事務所側も本気だな】

【チートガジェットでも使ったら、それこそ信用を失うか】

【どちらにしても――これで決着するだろう】

【泥沼になったら、それこそクールジャパンとか言えなくなる】

【政府も、別の分野で売りに出すにしても――ぱっとしない物ばかりだ】

【それこそ、芸能事務所AとJに全てをゆだねていたと言えるだろうな】

 しかし、今はその部分に関して議論をしているような余裕はないだろう。

ネット上でも同じような話題ばかりを続けても、議論は進まないしマンネリ化して飽きられてしまう可能性は高い。

それは――アルストロメリアもデンドロビウムも同じはずだ。芸能事務所側は――マンネリだろうと確実にもうかるビジネスとして続けるつもりだが。

「ARゲームは本来であれば、誰でも楽しめるようなゲーム――それこそ日常だったはず」

「それを、リアルウォーや炎上マーケティング等と称して非日常化させたのは――芸能事務所に他ならない」

 デンドロビウム、アルストロメリアの2人はシンクロ率が高いようなハモリでARゲームの本来の姿を訴える。

「だからこそ――その元凶になった事件を決着させなければ、先には進めない!」

「今こそ、ARゲームの全てを正して非日常空間から日常空間に戻す為にも――」

 デンドロビウムはブラスターと一体化したチェーンソーを構え、アルストロメリアは蛇腹剣型のチェーンソーブレードを構えた。

お互いに、使用しているARウェポンの交換だろうか? 予想以上にフィットしているようにも、ジャックには見えていたが――。

『私たちは、ネット炎上勢力に対して――徹底抗戦を宣言する!』

 そして、2人は既に集結していたアイドルプレイヤー勢力に対して、突撃を仕掛ける。

その結果として――ものの30秒に満たない時間で全ての勢力を片づけた。

チェーンソーには神を倒すようなネット上の噂があったが、それが事実と言う事を証明したと言えるだろう。



###エピソード67-4



 フィールドAのバトルは、あっという間に決着が付いた。デンドロビウムが介入した事で、芸能事務所勢力は壊滅的打撃を受け、敗北をする。

これに関して、芸能事務所側はARゲームのガイドライン違反を言及された事を――。

『改訂後のルールに従っただけなので、違反とは思わない』

 まさかの開き直りとも言える反応には、ネット上も驚きの声があった。

確かに改訂前のルールでは、同人アイドルや芸能事務所を持たない地下アイドルは問題なしで、それ以外は禁止だったのである。

これは、最近になって色々と問題になっている動画投稿者、夢小説問題を引きずっている歌い手や実況者でも大手芸能事務所と契約していれば禁止対象と言う事を意味していた。

 改訂後のガイドラインでは、芸能事務所A及びJと関係ある芸能事務所ではなければ、ARゲームへの参戦は問題なし――としている。

この部分に関して、難色を示したのはARゲーム課や一部の関係者だったのだが、禁止対象となる事務所を絞り込むことで、この部分はクリアした。

【ARゲームで荒らしまくって、その後に成績次第では復帰と言う状況だったら――】

【そう言う可能性は否定できないだろう。それに、どの芸能事務所もコンテンツ的には危機的状況なのは変わらない】

【結局、コンテンツ炎上も――マッチポンプと言う事なのか?】

【ARゲームでは自作自演系の行為は禁止されているはず。これは――単純にオワコン化が狙いだろう】

【地球上で唯一のコンテンツは芸能事務所AとJ――まるで、別の抗争をイメージさせる】

【ジャパニーズマフィアの勢力争いに例えるのもアレだが――】

 今回の一件は、芸能事務所のアイドルに無関心なARゲームプレイヤーにも影響を与えていた。

ガイドラインの抜け穴が発見されたという――悪い意味でだが。

「何とも――言い難い状況になったの物だな」

 ARインナースーツではなく、何時もの私服姿でセンターモニターのニュース記事を見ていたのはビスマルクである。

彼女の左手にはクリスタルグラスを思わせるようなボトルを持っていた。中身はスポーツドリンクだが、透明な水には見えない。

ラベルは何も付けられていないのだが、この場合はボトルに傷がつかないようにしているケースに書かれているパターンだろう。

「今は、この状況を分析するよりも――レイドバトルの再開を待つか」

 一連の事件を分析するには情報量が足りない。クラッカーも逮捕されていない、手口も非公開、どのサーバーがハッキングされたのかも未発表だ。

クラッカーが単独犯かどうかも報道されていない以上、まだ似たような事が起こる事も否定は――出来なかった。

「どちらにしても、今回のレイドバトルは――」

 持っていたボトルはペットボトルだったのだが、キャップを開けてスポーツドリンクを飲み始めた。

中身は炭酸風味のスポーツドリンクであり――コンビニ限定のレアものである。

さすがに、これを好き好んで飲もうと言う強者は少ないかもしれないが。

その理由は、青色に見える飲み物の色もあるだろう。着色料未使用と言われても、疑う人物はいるかもしれない。

《レイドバトルに関しては、システムの復旧が完了次第の再開となります。しばらくお待ちください。》

 センターモニターもアーケードリバース以外のプレイ動画がアップされているが、アーケードリバースの方は動画投稿も止まっているようだ。

その理由はレイドバトルのシステム復旧もあるかもしれないが――別の理由がありそうと考える人物も後を絶たない。



 午後4時、アーケードリバース運営からレイドバトルの復旧がアナウンスされた。

その原因はハッキングによる物――という発表だったが、どちらにしてもネット上では芸能事務所の陰謀説や政治家の圧力が半数を占める。

しかし、そうした陰謀論はアフィリエイト系サイトを運営している管理人が一人だけ儲けを独占しようと言う意図が透けて見えた。

 本当にハッキングであれば――クラッカーが逮捕されるはずだが、それが報道されている気配はない。

一体、犯人は誰だったのか? それを知る為の手段は誰にも用意されていなかった。その状況はマスコミなども同じだろう。

【やはり、あれだけのシステムをハッキング出来るとは思えない】

【ARゲームの情報を盗み、それを軍事利用――】

【それこそ、Web小説の見過ぎじゃないのか?】

【しかし、レイドバトルが早いタイミングで再開されたのは大きいだろう】

【RTA勢力が荒らした時とは違って、復旧が早いのも大きい。神運営――とは言いすぎだが、手早い対応には――】

 つぶやきサイト上でも、予想外の復旧の早さには言及されている。

この書き込みを見たアルストロメリアも、思わず驚いたのだが――。

「これだけの反応を出来ていれば――」

 デンドロビウムの方は、複雑な表情を浮かべて何処かへと姿を消す。

姿を消したというよりは別のアーケードリバース用フィールドへ移動したのかもしれない。

実際、このフィールドはガーディアン側の調査で使用不可になる事がアナウンスされていたからである。

「反応? やはり――」

 アルストロメリアはデンドロビウムの一言を聞き、そう言う事なのか――と。

彼女の過去を知っていた彼女にとって、あの表情をしていた事には一定の理解をしているのだが。

「聞かないのか?」

 ジャック・ザ・リッパーはアルストロメリアに尋ねるが、彼女も無言でフィールドを後にする。

このタイミングで聞くべきではなかった訳ではないのは事実であるが――嫌な事件であれば、どのタイミングでも最悪なのは当然だろう。

「当事者同士の問題――と言うのも考えるべきだったか」

 ジャックは、フィールドを出た後にセンターモニターの復旧告知を見る。

それとは別に何かのニュースも報じられていたのだが、それはまとめサイトが著作権侵害で摘発されたとの事。

該当するまとめサイトが歌い手や実況者等の夢小説やフジョシ向けの作品リンクを公開していたのも――摘発された原因だが。

「こういうニュースが日常的に流れるのを、今の日常と思うのは――違いすぎるだろう」

 ジャックは、ARゲームを含めてコンテンツ市場が変化している事に対し――それこそ非日常化であり、新日常であるのでは――と考えた。

本来報道されるような大きなニュースは、こうした物ではないだろう――と言う部分は、ネット上でも言及されているが。



###エピソード67-5



 午後4時15分、デンドロビウムがフィールドCでレイドバトルにエントリーする。

アルストロメリアはマッチング待ちでセンターモニターで待機――今回は遭遇戦がない、そう思われていた。

《マッチングが決定いたしました》

 センターモニターではなく、ARメットにマッチング完了のメッセージが届く。

これには別の意味で驚いたが――驚くのはそこじゃない。

『まさか――これって?』

 ARメットを被り、バトルの準備をしていたアルストロメリアも――これに関しては驚きを感じずにはいられなかった。

何と、マッチングの中にデンドロビウムの名前があったのである。

 現状でランキング1位の自分と、ランキング3位のデンドロビウムが――ここで激突するのだ。

『やはり、この激突は避けられない――』

 アルストロメリアは覚悟を決めた。

あの時に――あの計画を考えた段階で、こうなる事も分かっていたはずである。

そして、自分で全ての決着を付けなければ――今の状態では、また芸能事務所等にリサイクルされ、それこそ愛されるコンテンツではなく――芸能事務所の資金源とされてしまう。

『どちらが勝ったとしても、この勝負は――アーケードリバースを変える一戦となる』

 そして、アルストロメリアはフィールドにログインする。

ログインと言ってもARゲームの場合、ゲームフィールドに入り、ARガジェットでログインと言う物理的な要素も存在していた。

ソシャゲ等の様に端末だけで完結するような一連動作ではないのである。



 デンドロビウムは、スタートエリアからあまり動く気配がない。

実は――アルストロメリアとはゲームスタート前に顔を合わせたのだが、視線を合わせる事はなかった。

何故、そこまで――と言われそうだが、あの時のバトルと今回は別物と考えているのだろう。

「何だ――あのボス?」

「人型は珍しくないだろう。歴戦の傭兵とかSFチックな円卓の騎士――そう言ったレイドボスもいたはずだ」

「人型なのは間違いないが――肖像権は大丈夫なのか?」

 聞きなれないような言葉を聞いたプレイヤーが、その一言を聞いてARバイザーのスコープ倍率を上げた。

そして、その視線の先にいたのは――間違いなく超有名アイドルをモチーフとした衣装のレイドボスである。

しかも――その数は20人以上――推測でこの数なので、もしかしたら更に数もいるのかもしれない。

「何て数だ――さっきの襲撃事件を再現する気か?」

 別のプレイヤーも、同じレイドボスを別の場所で目撃し――動揺をしていた。

まるで、数時間前のアルストロメリアの一件を再現したかのようなシチュエーションに、ギャラリーも動揺している。

【あのデザインは、運営公認なのか?】

【一連のハッキング――除去できていないデータがあったとか?】

【超有名アイドルのデータを再現しているのかもしれない。外見が似ているだけでは、著作権侵害と言えるかどうか――】

【まさか、芸能事務所が遂にゴリ押しだけでなく――運営も買収したのか】

【それこそありえないだろう? ARゲームからは撤退したはずだ】

 今回のレイドボスの出現で賛否両論とも言える発言が、つぶやきサイトだけでなくARゲームのコミュニティ内でも広がっている。

このままでは――またもやネット炎上を避けられない状況になってしまう。



 この一連の中継を見て、何かを閃いたのは橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)だった。

丁度、この動画を谷塚駅に到着した所で視聴していたのだが――。

「あの時に奪われたプロトガジェットを――」

 彼は拳を握り、今にも怒りを爆発させそうな状況だったが――この状況で周囲に八つ当たりしても解決しないのは分かっている。

このタイミングでARフィールドへ駆けつけても間に合うかどうかは微妙な為、ガーディアンに連絡を取ろうとしていた。

「こっちもか――」

 スマホが圏外だった事に対し、別の場所でARゲームが始まり、それが谷塚駅構内にも影響していると判断できる。

それならば――と橿原はARガジェットでメッセージを送る事にした。

「これで間にあうのか微妙だが――」

 ショートメッセージの送り先は鹿沼零(かぬま・れい)、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)、ビスマルク、瀬川(せがわ)アスナの4人に絞る。

他のメンバーに送るにしては、情報の内容が若干危険であり――下手をすれば悪用されかねない状況もあった。



 プロトガジェットと言う事もあり、試作品でもARゲーム側公認と言う事もあり、チート認定はされない。

それが――悪い意味で猛威をふるっていた。周囲にいたプレイヤーの内、わずか3分の間で9人のプレイヤーが撃破されたのである。

5分と言う制限時間がある中で、この状況はひどいと言えるが――中には1分で全滅と言う動画も出回っているので、それよりはマシだろう。

「なんて奴ら何だ――不死身ではないと言うのに!」

 レイドボスは基本的に無敵ではない。ライフを完全に削れば、撃破できる仕組みにはなっている。

その部分を改悪されていた場合、レイドボスが出現しないように隠しプログラムが存在していた。

これが作動していない以上、不死身ではないのは事実だが――未だにレイドボスのライフは80%から下回らない。

「そんな馬鹿な事が――」

 粘りに粘ったプレイヤーも、レイドボスの前になすすべなく倒された。

これによって、残るメンバーはデンドロビウムとアルストロメリアだけである。

このプレイヤー以外は、全てワンパンチで撃破されている部分を踏まえると――攻撃力特化型なのは間違いない。

しかし、それなのに機動力も通常以上と言うのは――試作品ガジェットから生成されたレイドボスだからだろうか?



 この動画を見ていた一人でもある山口飛龍は、この様子を見てバグデータと考える。

「このバトルは無効だ。バグが発生したバトルを続行しても――プレイヤーが炎上させるだけだ」

 山口は周囲のスタッフに指示を出し、アーケードリバース運営に連絡を取るようにも言及する。

しかし、その直後に橿原からのショートメールが届く。

「秋葉原のプロトガジェット――だと言うのか? あのデータが?」

 メッセージの内容を見て、山口も驚くしかなかった。

秋葉原のARゲームは若干特殊なのは知っているが、アーケードリバースで同じタイプのガジェットが使えるとは思えない。

正規品で試した事もあるのだが、無反応だったのを自分も覚えている。

「まさか――試作品だからこそ、細工をする事も可能だったのか――」

 ARガジェットに関するデータを更に要求した山口だが、その返答がすぐに来るとは思えない。

それを待っていては手遅れになるとも判断し、山口は直接アーケードリバースの運営がある草加駅近くのビルへと急いだ。

「あのバランス未調整のデータを放置しておくのは――問題があり過ぎる」

 このようなデータが拡散すれば、リアルウォー待ったなしもあるのだが――それよりもコンテンツとしての価値も失われる。

何としても――あの時の悲劇と同じ事は回避するべき、と山口は電車で草加駅へと急ぐのだった。




・プロトガジェットのレイドボス出現。その形状は、ある有名アイドルをモチーフにしたようなデザインの為か賛否両論となる。

・その圧倒的な強さで、他のレイド参加者を一発で撃破していく。デンドロビウムとアルストロメリアは生存するが。

・圧倒的な強さのレイドボスに対し、バグデータと言う可能性を指摘する山口飛龍。

・しかし、それはバグデータでも何でもない――プロトタイプだからこそのバランス未調整と言う名のデータだったのである。



###エピソード67-6



 残り2人、タイムリミットも2分を切った辺りで動きがあった。

まさかの乱入者だったのである。アルストロメリアとデンドロビウムも唐突な乱入者には焦った。

このタイミングで乱入者が認められるのか――と思われがちだが、1分前で締め切られる為に問題はない。

基本的に、2分弱でもレイドバトルモードではレイドボスのライフを削るのには師匠がないらしいが――。

「これ以上、あの連中にARゲームを荒らさせるわけにもいかなくなった」

 2人の目の前に姿を見せた人物は、何とガングートだったのである。

何故に彼女が――と2人は状況を呑み込めない。ガングートはスコア的にも2位に該当する人物なのだから。

 ガングートの動きは、明らかに機動力タイプのソレではない。おそらくはバランスタイプだろうか?

それでも的確に攻撃を当てているのは、彼女がプロゲーマーに由来する可能性は高い。

使用している武器は長距離タイプのビームライフルで、追尾機能等は存在しないが――。

「あの武器で当てられるのか――?」

 デンドロビウムは、ガングードの命中精度に関しても驚きを隠せないでいた。

しかし、火力は決して低い武器ではないはずなのに――相手のライフゲージはあまり減っている気配がない。



 その一方で、ゲームの様子を本部ビルで監視していた運営サイドは――。

「このデータは想定外すぎます」

「レイドボスの強さは、こちらでプログラミングした物の10倍――もしくは、100倍に匹敵!」

「これでは今回のプレイには支障がなくても、今後のイベント運営に支障が出ます」

「あのレイドボス自体がチートと言う噂もネットで拡散している模様――」

 スタッフの方は大慌てであるのに加え、この様子には運営側も頭を痛める。

今回のバトルは不測の事態という発表で通じるかどうかも、微妙かもしれない。

逆に芸能事務所側が炎上させるネタとして利用するのは目に見えているし、まとめサイト勢力やネットイナゴが――。

「仕方がない。このレイドバトルは――」

 運営の偉い人も、さすがにこのままではネット上が荒れると判断し中止を宣言しようと――。

『その中止は待っていただきたい!』

 突如として、運営の入り口である自動ドアが開いたと同時に姿を見せたのは――鹿沼零(かぬま・れい)だった。

何故、彼が運営に姿を見せたのか? 周囲のスタッフも若干だが動揺している人物もいる。

「ARゲーム課の――しかし、あなた方でも強制介入で中止にする権限はないはずでしょう?」

『確かに、旧ガイドラインであれば――権限はない。しかし、今はガイドラインで同行できる状態ではない』

 鹿沼がタブレット端末を運営側に見せ、事の重要性を伝える。

その端末に表示されていたのは、先ほどメールで送られて来たメッセージでもあった。

「これは――!?」

『迂闊な中止は、向こう側の思う壺でしょう。それに、あのサーバーにハッキング可能な手段があるとネットで拡散すれば――』

「確かに、迂闊な中止でイベントを混乱させるのはこちらの総意ではない」

『では、今のバトルは止めずにタイムアップまで待っていただきたい。丁度――』

 運営側も鹿沼の意見を聞き、タブレット端末に書かれていた情報を見定め、中止に関しては撤回する事にした。

しかし、それも一時しのぎにすぎないのは鹿沼にも分かっている。



 レイドバトルは時間切れで終了となった。残りメンバーはガングートを含め、3名が残った。

その後、スコアリザルトが表示され、残った3名にダメージを与えた分のスコアが配分される。

撃破されたプレイヤーにもスコアは入るのだが、残ったメンバーよりは非常に少ない。これでは、上位争いも難しいだろうか?

 バトル終了後、3人はログアウトして外で小休止する。

連続プレイも可能ではあるが、相手が相手だった為に疲労の方が蓄積していた。

3人とも汗をかいており、その汗の匂いも気になる所だが――それどころではない。

シャワーを浴びてからプレイするのも可能だが、それを許すような状況なのか?

仕方がないので、3人ともタオルで汗を拭きつつ――水分を取る事にした。

「所で――あなたが乱入した理由は?」

 デンドロビウムは汗一つ書いていない為か、息切れもしていない。アルストロメリアとは大きく違うだろう。

その彼女がガングートに事情を聞くが――それを聞かなくても彼女は答える気があったようだ。

「あのレイドボスは、秋葉原で奪われた試作ガジェットで生み出された存在――」

『秋葉原で――奪われた物?』

「そうだ。あのガジェットは、本来であれば究極のガジェットと言えるような物とネット上でも言われていた」

『ネット上の噂なんて、あまり信じられるような物じゃないわ』

「しかし、あのレイドボスの強さを見れば――どれだけ危険なのか分かるだろう?」

『―――っ!』

 アルストロメリアも、ガングートの言う事をにわかには信じられない。

しかし、チートや不正ツールでもないような圧倒的な能力は――見てきた自分も信じざるを得ないだろう。

「不正ツールでもチートでもない――それでは、公式チートの様な物か?」

「試作型である以上は、公式チートではないだろう。あくまで調整中の物だろうな」

「それがマーケットに出回ればどうなる?」

「バランスブレイカーの増加で、ARゲームが終了に追い込まれる」

 ガングートからはっきりと告げられた事実――それはデンドロビウムにも衝撃があった。

これだけの事をするのは、今までチートガジェットをマーケットに流通させていたアイドル投資家――とも考えた。

「しかし、犯人はアイドル投資家の様な下の存在ではない。芸能事務所Aの有名プロデューサーと言えば、分かるだろう?」

 まさかの衝撃発言が飛び出した。試作ガジェットを持ち出し、レイドバトルを混乱させているのが有名プロデューサーだと言うのである。

この話自体がフェイクニュースの類と否定したいのは、デンドロビウムもアルストロメリアも同じだろう。

「その表情は――そう思うだろうな。しかし、これはフェイクニュースではない。ソースはある」

 ガングートが見せたのは、自分の手に送られて来たメールのメッセージだった。

その内容を見て、2人は驚きを隠せないような表情を見せる。ある意味で分かりやすいと言うべきか。



 5分後、再びレイドバトルが行われようとしていた所で中止と言う情報が拡散されていた。

この情報は正式な物ではなく、公式発表と偽装したネットイナゴによるフェイクニュースだろう。

「これで中止はあり得ない!」

「チートが使われていないようなバトルで中止と言うのが、頭おかしいだろう」

「芸能事務所の圧力を恐れて、ARゲームの観戦が出来る物か!」

 周囲のギャラリーもフェイクニュースには否定的である。

それに、ネット上の反応もギャラリーと同意見だ。

「公式で不利益が出たという報告はない。中止する方が、逆にネット炎上に利用されるだろうな」

「俺たちは芸能事務所にもネットイナゴにも屈しない! ARゲームは自由なんだ!」

 次第に声が強くなっていき、下手をすればデモ行進が起きかねない状況にもなっている。

しかし、それを止めるかのように姿を見せたのは――。

「声を上げて言うのは止めないけど、今の状況では――感心しない」

 ARスーツ姿の人物が4人いる。しかも、その内の1人は先ほどのレイドバトルを観戦していたジャック・ザ・リッパーだ。

4人のうち、メットをしていないのはジャックとアイオワの2人。瀬川(せがわ)アスナ、ビスマルクは既に臨戦態勢と言う気配か。

「今まで無関心だった人物が、声を上げてもネットイナゴと認識され――また炎上する」

 炎上に関して言及したのはアイオワだった。彼女はこの場所には来ない予定だったが、ビスマルクに誘われる形でやってきたのである。

『このバトルは、アキバガーディアンや他の勢力からしても――大きな問題になっている』

 ビスマルクの方はある人物のメールを受け取ったことで駆けつけ、その途中で目撃したアイオワも連れてきた形だ。

『ARゲームのコンテンツ価値をゼロにしようとする芸能事務所の圧力――それに屈しない事を試されている』

 瀬川の方もメールを受け取って駆けつけたメンバーだが、本来は単独でも止めるつもりだったらしい。

しかし、到着した頃にはジャックと遭遇し、更にはビスマルクとアイオワも発見した。

それを遠目で見ていたガングードは、4人に対してこちらへ来るように手まねきをする。

 そのガングートの姿に驚く人物はいなかったが、ビスマルクの方は顔には出さないのだが驚いていた。

「あのレイドボス――そう言う事で構わないのだな?」

 ガングートはこちらへやってきた4人に対して確認を取ると、4人とも同じ回答だった。

どうやら、あのメールは偽物ではないらしい。

「このメンバーで挑めば、勝てるかもしれないと?」

 アルストロメリアは協力に関して若干否定的な意見をするのだが、そうも言ってられない状況なのは分かっている。

「ここは、共闘してレイドボスを倒すのが正解だろう。レイドボス自体、そう言う物じゃないのか?」

 デンドロビウムの一言にはガングート達も同意する。

そして、最後の戦いが始まろうとしていた。これが――アーケードリバースの今後を占う様な展開になるのだろうか?





・プロトガジェットを持ち出した人物が特定、芸能事務所Aの有名プロデューサーである事が判明。

・それを知ったガングートが乱入、まさかの三つ巴対決となる。乱入自体はレイドバトルでも認められているらしく、これ自体は問題ない。

・レイドボスのあまりの強さに、運営側も無効バトルとして中止を示唆する。

・中止示唆に関しては、鹿沼が止める。

・ギャラリーの方も中止に関しては否定的であり、運営側もチートや不正ツールが使われていない以上は止めることで不利益が出ると判断し、バトルは続行。

・ただし、バトル続行を前にバトルはタイムオーバーで現状のゲームは終了、仕切り直しで次ラウンドに。

・そこに駆けつけたのは、瀬川アスナ、ビスマルク、アイオワ、それに前バトルを様子見していたジャック・ザ・リッパーだった。(ガングートは前バトルで参戦済)




###エピソード67-7



 午後4時30分――運営側はレイドバトルの中止をせず、続行する事を発表した。

これには沸き上がる観客もいる一方で、中止にして詳細を――と言う声もある。

しかし、ネット炎上狙いのネットイナゴ等がいる限りは、どのような発表をしても真実をネジ曲げて配信し、不当な利益を得る人物はいるだろう。

そうしたアフィリエイト勢をチートと言及し、駆逐していたのが実はデンドロビウムと言うのも――あまり知られていないのだ。

 それから5分後、レイドバトル側も本格的に動き出す。

例のガジェットが使われた形跡があるフィールドを特定したのだが――何と、1箇所だけだった。

その1箇所が、デンドロビウムとアルストロメリアがマッチングした――あのフィールドなのである。

『どうやら、お前が真犯人――と言う事か!』

 該当するフィールドの外、ギャラリーにまぎれるような形ではなく別のスーパーと思わしき屋上駐車場でフィールドを見ている人物がいた。

その人物に向かって叫ぶのは、ARメット姿の山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。

彼とは別に行動しているアキバガーディアン等もいたのだが、ほとんどがフェイクのエリアに突入していたという結果だ。

「この私がゲームを面白くしたと言うのに――全て芸能事務所の圧力や吸収合併、政府の陰謀とネット上では――」

 背広姿のプロデューサーに対し、山口は無言で突撃してARガジェットを装着――その右腕に装着された白銀のガントレット――。

それこそ、究極のチートキラーとしてネット上で拡散していたアガートラームだった。複数が存在する話もあったが、それを完全再現した物は誰一人いない。

これを完全再現された場合、それが意味するのは全てのチートを無力化する事――例え話では核兵器さえも瞬間消滅可能という話が飛び出すほど。

しかし、この時代に核兵器は存在しないと断言可能だ。過去に研究されていたが、実現する前に技術が失われた――とも言われているが、定かではない。

『そう言うのを――炎上マーケティングと言うのだ。結局、芸能事務所AとJは――ARゲームをかき乱し――プレイヤー全てを芸能事務所AとJのファンに引き込もうとした』

 山口は語る。しかし、その表情は――厳しい物だろうか。

『全てが芸能事務所AとJによる手のひらの上と認識するだろう。お前達は、やりすぎたのだ――』

 しばらくして、アキバガーディアンが遅れて駆けつけ――一連の元凶とされる存在は、全てを片づけた。

残るは、レイドバトルに現れたレイドボスを倒せば――!



 午後4時40分、あのレイドボスとの決着を付ける流れとなった。

メンバーは厳選メンバーと言うよりも、アルストロメリアとデンドロビウム以外にも、ガングートやビスマルク等の上位争いをするメンバーばかりだ。

このメンバーの中で戦おうと言うのであれば、相当のスキルがないと足手まとい以前の問題となる。

 このメンバーを見て、ある人物は悔しそうに見守るしかなかったと言う。その人物とは――ヴィスマルクだ。

「あのメンバーに食らいつくにしても――スキルが足りなさすぎる」

 レイドバトルには秘密裏に参加していたのだが、それでも上位ベスト20辺りに入るのがやっと。

そのスキルで、あのメンバーに挑むのは――無謀とも言えるだろうか。

しかも、レイドボスは攻略ウィキ等にも記載がないアンノウンでは、相手が悪い以前の問題かもしれない。



 ゲームスタートと同時に動きだしたのは、意外な事にビスマルクだった。

彼女のカスタマイズは、遠距離タイプと言うよりは中距離に絞り込んでいる。

遠隔操作系武装は効果がないと考え、アサルトライフルをメインとした武装を装備していた。

瀬川(せがわ)アスナも近接武器をメインにしているが、考えとしてはビスマルクと同じである。

 あのレイドボスは遠距離や超遠距離を主軸にした武装をメインにしている――と。

それが出現している全てのボスに当てはまる訳ではないのだが、近距離系武器や重装甲のアーマーは確認出来ないので――そう言う感じなのかもしれない。

ゲームフィールドに火薬のにおいが全く感じられないのは――ARゲームでも再現しきれない部分があると言う事を意味している。

下手ににおいや痛み、それこそ全ての間隔をARゲームで再現可能だったら――それこそリアルウォー待ったなしだろう。

「なるほど――そう言う事か」

 ビスマルクはレイドボスの動きを――既に把握していた。

アーケードリバースで見せるような動きではない事に違和感を感じていたのだが、やはりというかFPSゲームのパターンである。

しかも、この動きは自分がFPSゲームで対戦した事のある人物の動きをトレースしていると言ってもいい。



 1分が経過した辺りで、ガングートの方も動きに何かパターンを感じ始めている。

自分でも見覚えある行動パターンだったが、確証を持てない事もあって様子を見ていたのだ。

「やはりというべきか――何とも、負けフラグを自分で立てるような行動パターンを取らせたものだ」

 過去のデータは過去のデータでしかなく、それがARゲームで通じるとは思えない。

つまり――過去のデータを引っ張り出した所で、それを把握している人物ならば攻略も容易である。

 それでも物量で来られると――未熟なプレイヤーでは対処を誤った瞬間に、負けるだろう。

結局は物量で来たとしても容易に撃破可能なメンバーが揃っている為、これは明らかにレイドボスを仕掛けた側の計算ミスだ。

分身であるレイドボスコピーにはビスマルク、アイオワ、ジャック・ザ・リッパーが対応していく。

 彼女達も遠距離系よりは中距離系を使用しており、動きも制限されないようなガジェットを装備したのも大きい。

「本物のボスは1体だけ――それを狙えば、全ては終わるだろう。ライフ的な意味でも」

 ビスマルクの話を聞き、デンドロビウムとアルストロメリアはARバイザーでも点滅表示されているターゲットに向かって走り出す。

本来であればホバー等の移動手段も使えるのかもしれないが、フィールドの狭さ等もあって――素早く動けても、それが利点にばかりなるとは考えにくかった。



 残り時間1分、やっとボスに到達した2人は――その形状に驚きつつも、急いで対処する必要性を感じている。

「相手の残りライフは――40%か」

 デンドロビウムは右腕に固定されたレールガンをターゲットに向けるが、疲れが出ているのか――少し腕が震えていた。

「それにしても、あのコスチュームは明らかに芸能事務所Aのアイドルのパクリ――と言われても違和感ないわね」

 アルストロメリアはデンドロビウムに同意を求めようとする。彼女の真意――それはコンテンツの正常化でもあるのだが。

「それを決めるのは、自分たちじゃない。それに――私はあなたの影でもなければ、姉妹とかでもないし」

 デンドロビウムの渾身とも言えるようなツッコミは――アルストロメリアにとって、ある意味でも頭を抱える物だった。

アルストロメリアはデンドロビウムの本名と言うか、以前のHNを知っている。それに――彼女が何を理由で今回の行動を取ったのか。

「確かに。コンテンツ市場のこれからを決めるのも――自分が勝手に決めていい物じゃない。それは、分かっていたのに――」

 以前にガングートからも指摘され、それ以前にはネットで炎上した事もあり――そう言った状況をアルストロメリアは何度も体験していた。

だからこそ――彼女はコンテンツ市場を変えるのは、一人だけでは不可能と判断し、ふるさと納税をきっかけとしたARゲームの町おこしに協力していく。

しかし、ふるさと納税でやる事に疑問を持った一部勢力や様々な市民の声――それを受けて、アーケードリバースだけでなくARゲームその物も変化していく事になった。

「あのレイドボスは、ネットイナゴや一部の炎上マーケティング勢力が生み出した、賢者の石とも言えるような利益優先システム――それを形にしたラスボス」

 デンドロビウムはレールガンを後方に投げ捨てると、レールガンはCG演出で消滅する。

その後に右手に持ったのは、チェーンソーブレードだった。これには、アルストロメリアも驚くが――。

「コンテンツ市場を取り戻す為にも――超有名アイドル商法は否定する! そして、全てを――」

 アルストロメリアも二刀流の小型チェーンソーブレードを出現させ、そちらへと持ち替えた。

お互いに――武装は似たような物だが、ソレは全く気にしていないようである。まるで、2人ともARゲームを正常化する為に――息を合わせたかのような。

『コンテンツ市場を――取り戻す!!』

 2人の振り下ろしたチェーンソーブレードが、見事にレイドボスを真っ二つにする。

チェーンソーと言えど、血が滝のように出たり、身体がバラバラになるような描写は全くない。

さすがにグロシーンになるのは、ARゲーム側でもリアルすぎると避けられるのかもしれないが――真っ二つになった後は、普通にポリゴンが崩れ去るような消滅演出だった。

 これによって一連のプロトガジェットによるレイドボスは撃破した。

そして、プレイ終了後のリザルトでは――わずかなスコアに2人は驚く事になる。



 9月30日、一連のレイドバトルは9月期としては終了を迎えた。

その結果は――誰もが予想外とも言える展開になっている事に驚きの声があったと言う。

【まさかの展開になったな】

【アルストロメリアが逃げ切ると思ったが】

【自分もだ。やはり、あの時のスコアが影響したのかもしれない】

【デンドロビウム――最後まで、我侭姫と言える結果だったな】

【不正破壊者の我侭姫――そう言う事か】

 レイドバトルに勝利したのは、何とデンドロビウムだった。

想定された勝利と言う訳ではなく、周囲からは意外な結末と言う事で捉えられている。

【しかし、これは9月期の結果だ。レイドバトルは10月もあると言う話だ】

【今度はイースポーツも視野に、色々とルールも整備されると言う話もある】

【ふるさと納税としてのARゲームは断念し、今度はクラウドファンディングに変更するそうだな】

 レイドバトルは10月以降も続く。今回のバトルは、一種の通過点なのだろう。

ネットのつぶやきサイトを見て、他人の言う事は――他人の意見であり、それを自分の意見にしてしまうのも――ネット炎上の原因になると彼女は考えている。

「これですべてが終わった訳じゃないけど――」

 デンドロビウムはコーラを一口飲み、タブレット端末ではなくセンターモニターを確認する。

《マッチング準備が完了しました》

 モニターのメッセージを確認し、デンドロビウムはARアーマーを呼び出し――。

その様子は特撮のヒーローを思わせるような物だが、ARアーマー自体がCG演出なので、この辺りは当然と言うべきか。

「ここからが――新たなゲームの始まりよ!」

 デンドロビウムの表情は、何かの付き物が取れたかのような――まるで、闇の呪縛から解放されたような印象を周囲に抱かせる。

チートプレイヤーの存在が根絶される事は難しいかもしれないが、彼女は新たな道を進み始めた。

それこそ、不正破壊者としての道ではなく、イースポーツとして生まれ変わろうとしているARゲームに関わる、プロゲーマーとして。




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ARゲームに挑む我侭姫とプレイヤーたち アーカーシャチャンネル @akari-novel

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