エピソード52~エピソード53
###エピソード52
8月21日、谷塚近辺のアンテナショップ前にいたのは――私服姿のデンドロビウムである。
何時もの彼女とは違い、ARメットで音楽を聴いているようだ。
ただし、彼女のARメットはフルフェイス型ではないので、周囲の視線が刺さる事はない。
ARメットに関しては複数の機能を持っており、アプリを追加すれば携帯音楽プレイヤーとしても使用可能である。
それ以外にも電子マネー機能等もアプリをインストールすれば、使用可能な為――ある意味でも夢のアイテムになる可能性はあるだろう。
しかし、そんなガジェットにも弱点がある。このARバイザーはARゲームが展開されているエリアでしか使えない箇所だ。
日本全国でARゲームの端末等を整備すれば、ARバイザーを使用できるかもしれないが――ARゲームに関しては、様々な部分で問題を抱えているので難しい。
「まるで、草加市だけが異世界を思わせるような展開か――それを言うのも今更だな」
デンドロビウムは周囲の光景を見て、草加市がここまでの事をしている事の異常性を感じている。
しかし、埼玉県自体が様々な聖地巡礼として有名な場所もあるので――今更、この部分に突っ込んだとしても無駄だろう。
周囲のギャラリーも承知で楽しんでいるのだし、炎上を煽るような事を言うのも野暮と言える。
彼女の聴いている楽曲は、メジャーなJ-POPと言う訳でもアイドルの曲でもない。
どちらかと言うとクラシックアレンジだが――普通のアレンジとは大きく異なるフレーズなども存在していた。
彼女が聴いているのは、どちらかと言うとリズムゲームで流れているような物である。
午前12時30分、デンドロビウムはARメットの時計アプリで時間に気付く。
他のプレイヤーもアーケードリバースをプレイする様子はなく、だからと言って別のARゲームに乗り換える訳でもない。
中にはARゲームは様子を見ているようなギャラリーもいるのだが――。
【どういう事だ?】
【客足が途絶えている訳ではないだろう。単純に穴場なだけかもしれない】
【有名プレイヤーが出没する場所は、それだけ客が押し寄せると言う話だが】
【それは大げさだろう。彼らは芸能人ではないのだぞ】
【ソレは分かっている。どちらかと言うと、動画投稿者とか――その辺りが妥当だろう】
【つまり、分かる人間には分かると言う事か】
【イベントがドタキャンしてパニックになるよりは、まだましだと思うが】
【一時期、超有名アイドルイベントの襲撃事件が実は――】
ネット上では、今回の一件に関して色々とあるのだろうが――炎上しない範囲だと、この位か。
一部コメントは削除されたようだが、それでも該当メッセージが複製されているので、ある狙いがあるのかもしれない。
【あのアンテナショップは、駅からも距離がある】
【シャトルバスで送迎しているゲーセンだってある位だ。それを踏まえると、客足が少ない原因は別にあるのだろう】
【ARゲームのラインナップによっては、プレイヤーも不便に感じるだろうな】
【あの店舗はARFPSがメインだったか? アーケードリバースも最近導入したばかりだ】
【それが逆に穴場じゃないのか? 人気エリアでプレイすれば初心者狩りとか乱入とか――】
【アーケードリバースに乱入と言う概念は――】
他の人物もアンテナショップで客足に差が出ている事に関して、色々と考えているようだが――。
中にはアーケードリバースの事を知ったかぶりのコメントもある。
しかし、それを見極めるには若干難しい気配もするだろうか。
「客足が少ないのには、別の原因もあるのだろうな。新設されたばかりの場合は情報が――?」
デンドロビウムは、とある人物がアンテナショップに入って行く姿を目撃する。
その姿は見覚えがあったような人物ではないのだが、ARインナースーツにARアーマーで入って行く人物は数が絞られるだろう。
「ジャックでもなければ、ガングートにも見えなかった。あれは誰だ?」
顔は見ていなかったので誰なのか特定は不可能だが、見覚えがあるようなカラーリングは……。
###エピソード52-2
デンドロビウムが目撃した謎の人物、その人物のARアーマーのカラーリングは青系統を使っていた。
青系統と言うと、青騎士が想像できるが――ほぼ一掃されたというニュースも飛び交っている中、どういう事なのだろうか?
【ネット上では一掃されたと言うが――アイドル投資家や広告会社等にとっては、青騎士の様なフラッシュモブにも似たような存在は扱いやすいのだろう】
【容易に自分達の都合がよいシナリオに変えられるような存在を、そう簡単に一掃させるはずはない】
【しかし、青騎士は一連の騒動で一掃されたはずでは?】
【確かに一掃はされただろう。都市伝説に存在した方は】
【?? どういう事だ?】
【一説によれば、今の青騎士はそれこそ広告会社が裏バイトで雇った超有名アイドルに視線を注目させる為の――】
ネット上でも今回姿を見せた青騎士には疑問の声が上がる。
しかし、その真相に辿り着こうとした人物は――コメントが削除されている事から、どうなったのかは想像に難くない。
何故、そうまでして広告会社は芸能事務所AとJだけに執着するのか?
一説によると、視聴率が取れるから、それによって広告収入が大量に得られる、広告収入が上がれば税金も――。
「しかし、ここまで芸能事務所AとJに依存し続けるようなコンテンツ流通は――」
まとめサイトや様々なニュースサイトの記述を見て、若干不愉快に思っていたのはガングートである。
結局、彼女は過去に大々的なかませ犬扱いされ、芸能事務所Aのアイドルデビューに一役買う羽目となった。
それが――彼女の人生を狂わせた一因でもある。
「政府や一部信者は、20年も前のコンテンツ流通――超有名アイドル商法に弄(もてあそ)ばれている事を――」
ガングートは自分でも整理しきれていない部分があった。
そして、未だにかませ犬とされた他のアイドルメンバーとは距離を置いている。姉妹とも別居状態が続き――。
「わずか一握りのFX投資を行う様な人間によって、コンテンツ市場が動いているという事はあってはいけない」
そして、ガングートは動きだす。芸能事務所AとJが行おうとしている暴挙に、今度こそ終止符を打つ為に。
芸能事務所の暴挙――そう例えているのはガングートだけなのではないか?
ネット上では、そう言った声もある。実際、一連の事件が起きた際には誰もが耳を貸さない程だったから。
実際に、ガングートが所属していたアイドルの他のメンバーも関わろうとはしなかった。
音楽番組に出られる事がうれしかった――と言うのもあるかもしれない。
しかし、知名度的にも自分達があっさりと地方局の番組ではなく、民放のゴールデンタイムに出られる事がおかしいと感じる人間がいた。
それがガングートだったのである。その時はガングートと言う名前ではないのだが、ネット上にはそのデータがほとんど消されている。
音楽番組の録画映像は権利関係で消されるので当然ない――にしても、それ以外のニュースサイトのログでも彼女の名前が出てこないのはおかしい。
アイドルグループ名は出てくるだろうが、メンバー個人の名前の内――ガングートだけがないのだ。
『予想はしていたが――これほどとは。まるでプライバシー保護と言う名を借りた規制だな――』
先ほどのデンドロビウムが見つけた人物、それはスレイプニルだった。
アンテナショップの様子見と言う形で色々と巡っているようだが、単純にARゲームの機種を調べる為ではない。
その本当の目的とは――アカシックレコードを発見する事である。
この人物が探すアカシックレコードとは、小説サイトではない。そちらの方は誰でもアクセス出来るだろう。
ARゲームのデータを含め、様々なゲームの特許技術が記された存在――そう鹿沼零(かぬま・れい)が言及した事もあった。
ただし、この時の鹿沼が名前を借りただけの偽者と言う可能性は高い。実際、鹿沼は表舞台で素顔を見せた事がないのだ。
彼特有のARメットを装着している関係もあるだろうが――。
『しかし、鹿沼やアルストロメリア、ビスマルクもアカシックレコードの本当の意味には気づいていないだろう』
スレイプニルは、アカシックレコードの危険性を危惧している人間の一人でもある。
リアルウォーが起こる可能性も否定できない程の技術――それがアカシックレコードに眠っていると言う。
###エピソード52-3
アカシックレコード、それは別次元の技術やノウハウが記されたサイトである。
他のアカシックレコードでは、別次元で書かれた小説サイト、別次元のニュースを記したウィキ等と記されている物もあるだろう。
しかし、このアカシックレコードは違う。これを独占出来れば――5000兆円の利益を得られると言われていた。
一方でアカシックレコードを特定企業や芸能事務所、日本政府が独占すれば非常に危険とも言及され、下手に海外へ流れればリアルウォーも避けられない。
「どのような物があると聞いてみて見れば――これでは、まるで三文小説ではないか」
あるアイドル投資家は、このような事をアカシックレコードの記述を見て怒りをあらわにしたと言う。
超有名アイドルに関して批判的な警告、更にはネット炎上に至った経緯、超有名アイドル商法に対する明らかな根絶を視野にした声明文――。
こうした物を見て、アイドルファンは怒りを覚えない方が――と言うよりも、ネタをネタとして判定出来ない人物も何人かいるだろうか。
この世界では虚構とも言える内容に怒りを覚え、恨みを晴らす為にまとめサイトでネットを炎上させ、超有名アイドルファンを増やそうとした人物さえいた。
こうした流れが、一連の超有名アイドル商法を巡る事件を生み出したのだろう。
最終的には――過去のガングートの一例も、こうした歪んだ考えの人間が広告会社や芸能事務所と組み、仕組んだとも言える。
ただし、ガングートの一件は事件性はないという事で日本政府も関与を否定しているが――。
『やっぱり――あの事件は黒歴史認定か』
スレイプニルがARメットでアカシックレコードにアクセスを試みるも、ガングートの一件は発見できず。
これには、日本政府が黒歴史として抹消した可能性も考えた。
その一方で、ガングート自身もある物を探す為に同じ事件を調べていた。
しかし、表向きのニュースサイトやまとめサイト、アーカイブ系サイトを調べても発見できない。
特にアーカイブ系サイトは、相当なものではない限りはログが残っていると言ってもいいだろうが――。
検索はしても、エイプリルフールネタや滅多に見る事が出来ないであろう裏情報しかない。
裏情報と言っても、覚せい剤だったり危険ドラッグの様な情報ではないが――。
「裏情報でも該当文章がないとなると――」
ガングートがサイト調査に使っていたのは、ARガジェットではなくノートパソコンである。
アーカイブ系サイトはARガジェットでは弾かれてしまう事もあって、ノートパソコンなどでアクセスする必要性があった。
しかし、それでも有力情報を探すのには一苦労だが――。
「ここもか――」
果汁グミを1個口に入れて、ガングートは再びサイトを調べ始めるが――結果は同じだった。
結局、ARガジェットなしでもありでも答えは同じなのだろうか?
ガングートのいる場所は、コンビニの外でもなければネットカフェでもない。
ARゲーム専門のアーカイブデータを集めた図書館みたいなものだ。谷塚駅からは徒歩10分位と距離があるのだが。
部屋に関しては個室となっており、そこでデータの検索が出来る。
ただし、飲み物の持ち込みは禁止、禁煙、禁酒、アダルトサイトの検索制限等の制約あり、最大2時間までの延長しかできない。
飲み物がどうしても欲しい場合は、外のイートインスペースで飲む必要性がある。これがネットカフェなどと違う点だろうか。
莫大なアーカイブデータを閲覧できるので予約が殺到しており、そうした事情で最大2時間までの制限がかかっている。
オープンして1カ月もたっていないのに、順番待ちが出来るほどには――混雑をしていると言ってもいい。
「アーカイブデータを探れれば、そこに書かれていると思ったが主違いだった――?」
90分経過した辺りで、最後の延長をかけようとしたガングートは、ある記述を発見した。
それは、ARパルクールとは別にロボット系のARゲームをロケテストしていた時のニュースである。
そこに書かれていたのは、意外な人物の名前だった。芸能事務所関係ではないのだが、その人物の名前には見覚えがない。
しかし、その外見は――間違いなく別の場所で目撃した人物だったのである。
「まさか、この人物は――!?」
大声で驚きそうになったが防音設備が完璧と言う訳ではないので、隣にも聞こえてしまう可能性が高い。
それ位に見覚えがあった外見だったというのもあるのだが、その人物の名前も――。
「鹿沼――零?」
その人物とは、鹿沼零(かぬま・れい)だったのである。この時の肩書は草加市ARゲーム課所属――と書かれていた。
この肩書に何の意味があるのか、この時のガングートには分からなかったと言う。
###エピソード52-4
そもそも、ふるさと納税の返礼品としてARゲームが提案されたのはなぜだろうか?
ネット上では諸説ありという断りを入れた上で、いくつかの説を出していた。
何故、このような状況になっているのかは――草加市が公式に理由を出していないからである。
「道路や公園、様々な場所の清掃や整備を行う費用が必要と考え、食品等の様なありきたりな物では集まらないと判断した」
このように市議会で質問された際、議員の一人が答えたのだが――これは表向きの理由であり、本当の目的とは違う。
道路の整備や清掃であれば、もっと別な方法で費用を集められるだろう。例えば、ローカルで酒税の税率を上げるとか――。
特定の市民ばかりに負担を求めるよりは、このような手で集めた方が手っ取り早い――そうとも説明された。
確かに、道路の整備に関しては苦情ではないが要望があったのは事実であり、不法投棄やポイ捨てに代表されるゴミ問題も要望書が出ていた事もある。
しかし、それを行う為の費用をどうやって集めるべきなのか――そこでもめている個所もあったらしい。
ふるさと納税として行うべきだったのか――という声もあるのは事実と認める一方で、市議会で回答した『ありきたりな物では集まらない』という発言に同意する声もある。
しかし、本当にこれで良かったのか、疑問に思う人物はいるのだろう。ネット上の情報では当てに出来ない声もあり、本当の事を言って欲しい――そんな意見もあった。
【ふるさと納税その物もシステムを変えるべき声もある】
【それを踏まえたにしては、ARゲームを返礼品にするのは――】
【しかし、そのおかげで草加市に観光客が集まっているのに加え、様々な反響もあると言う話だ】
【それはまとめサイトが煽っているだけじゃないのか?】
【まとめサイトは、芸能事務所AとJを唯一の政府公認や神と言う存在にする為に――】
【それこそ、広告会社の思う壺だ。そこまでの力を得たとしても、紙の力を発揮できる訳がない】
【各地の紛争をアイドルの力で終わらせてみろ――と言いたいのか?】
【そう言う事だ。結局、流血のシナリオは他国では繰り返され――悲劇は終わらない】
ネット上では、様々な声が聞かれている。
その一方で、それらのタイムラインを『八百長』や『自作自演』と一蹴する人物も存在していた。
そう言った人物が現れる原因になったのは、デンドロビウムで間違いはないだろうか。
彼女がARゲームに姿を現わしてから、アーケードリバースへ参戦した辺り――。
丁度、チートキラーとして有名になって来た辺りでまとめサイト等の信頼が揺らぎ始めたのかもしれない。
草加市がARゲームを利用して聖地巡礼のきっかけにしようとしていたのは、アーケードリバースの稼働前にも前例があった。
超有名アイドルの絡む事件が起きる前にも、秋葉原や竹ノ塚、北千住等に遅れる形ではあるのだが――ARゲームを展開している。
何故にゲームで聖地巡礼を考えたのか――おそらくは、春日部、鷲宮、秩父、他県にはなるが茨城県の大洗――その辺りの成功事例を知っていたのだろう。
その上で、ふるさと納税でも何かしらの理由で優位に立ちたかった事情もあるのかもしれない。
だからこそ、ARゲームのメーカーに話を持ちかけて――今回のプロジェクトを立ち上げた可能性もある。
草加市が声をかけたメーカーは複数あるのだが、中には山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)の所属する武者道も含まれていた。
本来であればゲーム開発メーカーではない所にも声をかけたのには、その辺りのノウハウが不足していると草加市が考えた上での判断だろう。
そこで、立ちあがったのがARゲーム課を立ち上げた鹿沼零(かぬま・れい)であり――。
各種データを探っていたガングートは、自分のチェックしていた記事に鹿沼の名前が出ていた事に驚いていた。
「ARゲーム課――彼がやろうとしていた事は、何なのか?」
ニュース記事を見ただけでは、何をやろうとしていたのかは分からない。
しかし、草加市でもARゲームで盛り上げようと言う動きは、今に始まった事ではない事は分かった。
アーケードリバースで唐突にピックアップされて、現在に至るのであれば――公式が病気辺りを疑われる。
今回の記事では、そこまで明言はされていないが――周囲からの反応は決して良いものばかりではなかった事も言及されていた。
「他にも何かあれば――」
そう考えたガングートだが、残念ながら時間が来てしまった。
残り10分はあるのだが、片づけ等の関係もあるのでチェックするには――時間が足りないだろう。
###エピソード52-5
ガングートがアーカイブセンターから出た頃、別の場所で活躍していたのはヴィスマルクである。
今までの彼女からは信じられないようなスランプ脱出劇は、ネット上でも有名になっていた。
その武勇伝は動画サイトでも検索できるが、動画の数は非常に多くなるだろう。
アーケードリバースに復帰したのはつい最近であり――あの時から不調が続いていたのかもしれない。
その原因は、デンドロビウムとの遭遇――つまり、チートキラーとの戦いを見てからだった。
それからはARゲームにゲーマーと一部の悪しき勢力との争いを感じ、若干の距離を置く事になる。
その時間が長ければ長いほど――ARゲームでは致命的になるのだ。
実際、ヴィスマルクが初見プレイ時から1週間ほどのプレイスタイルを取り戻すのに、3日はかかった。
3日と言っても、そのプレイ回数は20回にも及ぶ。つまり、20回プレイ×3日である。
あまりにも粘着プレイを続けてテンションを落とすのもアレなので、別のARゲームを数回プレイして気分転換を図っていた。
「どちらにしても、ARゲームには可能性がある。それに――」
ヴィスマルクは考え事をしていたが、それはプレイ前の話である。
プレイ中に考え事をしていると――それは思わぬミスを誘発する為に、非常に危険な行為なのだ。
ARゲームの場合、大型ガジェットを使用したり、中には危険と隣り合わせなフィールドで戦うことだってある。
それを踏まえると――考え事をしながらのプレイは、ソーシャルゲームや据え置きのゲームよりも危険と言ってもいい。
「ネット炎上をするような要素さえ排除出来れば――」
そう思うのだが、ヴィスマルクの思い通りに進むような程――ARゲームと言う環境は甘くない。
それは、スランプ状態になっていた彼女には痛いほどに分かっていた。
彼女が様々なARゲームに手を出していたのには、一つの理由がある。
チートプレイヤーのいないゲーム環境で、まったりプレイしたいと言うのもあるかもしれない。
しかし、それはあくまでも理由の一つにすぎないだろう。
本当の理由は――エアプレイ勢という勢力と関係している。
詳細は察して欲しいが、ネット炎上勢力の大半はエアプレイ――実況動画を見てプレイしたつもりになり、ゲームを炎上させているのだ。
こうした人間が増えれば、本来のプレイヤーも離れていき、最終的にはサービス終了になるだろう。
それでは、本来のエンジョイプレイ勢等にとっては迷惑行為であり――許される事ではない。
チートプレイや不正アプリを使ったプレイも問題なのだが、これに関してはチート関係なしに問題となっている。
ランキングでの不正プレイヤーを弾くのは簡単かもしれない一方で、この問題は解決の糸口を見いだせない。
「デンドロビウムやチートキラーがチートプレイヤーを駆逐している一方で、この問題は注目される事がない――」
ヴィスマルクは――この問題を放置しても、ARゲームに未来はないと考えているのだ。
ネット炎上に関して法律で禁止出来ればいいのだが、それで解決するようならば――超有名アイドル商法の様な便乗商法は誕生しないだろう。
###エピソード53
便乗勢力の第1部隊としての青騎士は消滅した――しかし、青騎士の名前に商品価値を見出している勢力が第2部隊の青騎士を展開する。
その青騎士よりも前に、失われた記憶としての青騎士がいる事は知られていない。
ネット上では別の名称も飛び交う為に、青騎士とは断言されていないのだが――。
該当する人物の名前を、ある人物はヴィザールと言った。
北欧神話ではヴィーザルとも言われているのだが――それが周囲を困惑させた原因だろうか?
しかし、北欧神話由来のプレイヤーネームは、いくらでもいる。それこそ、由来が違うビスマルクと同じ位には――。
【結局、青騎士を便乗している以上は便乗勢力じゃないのか?】
【青騎士と言う名前はブランド名と言う位に認識されている】
【芸能事務所AとJが商標権を獲得したりして?】
【それを言うなら、アイドルの単語を商標権登録しようとするだろう】
【青騎士は、それほどの価値があるのか?】
【あっさり壊滅した割には、すぐに復活する。まるで――】
さまざまなつぶやきがまとめサイトには載っているが、ある発言に関しては言及されていない。
そればかりか、意図的にまとめていないという気配さえ――読みとれるような。
まとめサイトでどのコメントを追加するかは、管理人の仕事だろう。
しかし、このまとめサイトは芸能事務所が裏にいるような――。
それを察した一部のプレイヤーはサイトに関して運営側に削除申請を行っている――そんな話がネット掲示板でも話題となっていた。
「削除申請したとしても――無駄に終わるだろう。芸能事務所AとJの裏には――政治家が絡んでいる話だ」
ARメットを外し、タンブラーに入ったコーヒーを手にしていたのは山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。
しかし、その素顔は誰も見ていない。その場所は武者道のサーバールームだが、山口以外の関係者が立ち入り禁止となっている秘密の場所だ。
そこでコーヒーを飲むのが趣味と言う訳ではないのだが、今回のデータ検索は――武者道とは別のプライベートな案件である。
そう言った事情もあり、部外者の立ち入りが禁止となっているサーバールームでデータを調べていた。
ちなみに、飲み物を飲んでいる場所は一種のカフェテラス的な場所であり、万が一に飲み物をこぼしてもサーバールームには影響しない。
ただし、この部屋は禁酒及び禁煙が徹底されており、火事になっては困ると言う事がサーバーの数を見ても分かるだろうか。
『これからが――正念場か。芸能事務所側が仮にARゲームからは撤退したとしても』
山口は何かを予感させるような発言をする。ある意味でもメタ発言だろうか?
その発言は、アカシックレコードを見てからの物ではないのだが――まとめサイトや炎上系サイトを見ての反応ではない事は、彼の眼付からでも分かるだろうか。
ネットのまとめサイトにアクセスし、青騎士が再び行動を起こすのではないか――と考えていたのはビスマルクである。
タブレット端末で情報を検索している際は私服なので、一部の盗撮を仕掛けようとした人間が彼女の横乳を撮影しようとするのだが――該当エリアでスマホは圏外になる仕様があった。
その人物がどうなったのか、確かめるような事はなく――ビスマルクはアンテナショップへと入って行く。
自動ドア形式の入り口をくぐると、そこは――アーケードリバースのフィールドが広がっていた。
「屋内型アーケードリバースは、レアと聞いたが――」
厳密には屋内にエリアがあるのではなく、アンテナショップのエリア中央を屋外フィールドにしているという仕組みらしい。
屋内フィールドでは雨にも影響を受けない事で歓迎されるが、こちらは天候に影響される。
それに加えて、豪雨や台風の場合はプレイヤーの安全を考慮して中止――アミューズメント施設と言うよりもテーマパークの対応だろう。
冷房が効き過ぎている訳ではないが、ビスマルクは若干の寒気を感じていた。
冷房に関してはクールビズ対応の都合で28度と入口の張り紙にあったのだが――それでも寒い。
彼女の場合は、特徴的な衣装の影響もあるかもしれないが、それは言わない方がいいだろう。
ビスマルクは自分のプレイ順番が回るまでは他のプレイを見る事にした。
リアルフィールドでは有名プレイヤーがいないのだが、逆にそう言ったプレイの方が気づく点もあるかもしれない。
センターモニターの動画は有名プレイヤーの動向を見るにはうってつけだが、やはり視聴率と言うか動画再生回数に影響される。
それを踏まえると――逆にリアルで見た方が良いという結論に至ったのだろう。
稀にガングートの様なプロゲーマーが来るかもしれないので、この方が運には左右されるが――。
「あの姿は――!?」
案の定だった。ビスマルクの目の前に姿を見せたプレイヤー、それはデンドロビウムである。
しかも、右腕には新たなガジェットらしき物を装備しているようにも見えるが――プレイヤーネームに間違いがなければ、同一人物だろう。
「ゲームである以上、楽しめば勝ちとは言うが――それはルールが決まっている中で楽しむという意味でもある」
想定外のアクロバット、チートプレイ、隠れギャンブル等の違法行為――そう言った物で荒らされていくARゲーム業界に対し、デンドロビウムは改めて感じていた。
いっそのこと、これがデスゲームだったら――という考えは頭にない。その思考はWEB小説の見過ぎと言ってもいいだろう。
「自分に勝利条件があるとしたら、それはARゲームがチートがはびこるゲーム業界から脱却し――」
ビスマルクは、デンドロビウムの発言が途中から聞こえなくなっていた。ノイズが入った訳でも、音声システムの障害でもない。
単純に――爆音で聞こえなくなった、と言うのが正しいのかもしれないだろう。
「デンドロビウム、彼女は何と戦っているのか?」
ビスマルクは疑問に思う。チートプレイヤーを狩るだけがチートキラーの仕事ではない。
おそらくは、ゲーム業界を正常化する為の提言を――彼らがしていく事も、運営に対しての意見なのだろう。
###エピソード53-2
過去に情報戦と呼ばれた時代があったと言う。その情報戦は凶器とも言えるような物だった。
狂気の方が正しいと思われるが、別の意味でも間違ってはいない。
実際、その情報戦はリアルウォーの大量破壊兵器の様な物と同等に扱われているからだ。
その方法とは、ネット炎上を利用し、ライバルコンテンツを次々と壊滅させていき――芸能事務所AとJのコンテンツ以外は魔女狩りしていく方法である。
後に、この商法は超有名アイドル商法と呼ばれ、様々な分野で利用された。海外で悪用された事例はないが、報道していないだけかもしれない。
まとめサイトを利用した炎上マーケティング、更には選挙戦にも応用された話も――。
しかし、ごく最近に炎上商法に規制を望む声が出てくる事になったと言う。
ネット炎上でリアルウォーが起きると被害妄想に取りつかれた人物による発言だが――これはガングートではない。
ガングート以前にも同じようにネット炎上をリアルウォーと絡めて、炎上マーケティングの根絶を訴える人物や団体はあった。
それらの団体が物理的に消されたという報告はないので、周囲に聞き入れてもらえずに自然消滅した説が正しいと言うべきか。
悲劇は繰り返されるのだ――芸能事務所AとJが存在し続ける限り、その精神やノウハウを受け継ぐ芸能事務所が現れる限りは――。
【結局、時代は繰り返す。フィクションの小説と同じ事を再現し――実際に凶悪事件が起きたと炎上させ、芸能事務所のコンテンツをゴリ押ししていく】
【ネット炎上でブランドイメージを落とし、芸能事務所AとJは何もする事無く自分達のコンテンツを日本中に拡散していく】
【アイドル投資家やアイドルファンが他のコンテンツが人気になると、それに嫉妬して炎上させていく――】
【それこそ、自分達の手は汚さない。更には政治の世界にも干渉し――自分達のしている事が正義だと法律等を変えていく――】
【この世界だけじゃない。その影響力は第4の壁――現実世界にも及んでいるのだ】
つぶやきに関しても文章が支離滅裂と言うか――意味不明と切り捨てるような物だろう。
残念ながら、この文章の出所は不明である。何故かと言うと、該当アカウントは既に削除されているから。
どちらにしても、これらの発言はWEB小説のコピペ等ではない。本当に現実で発言された――。
【この記事を見ているであろう人物に警告する。超有名アイドル商法は、コンテンツ流通方法としては失敗作――絶版にすべきものだ】
【だからこそ――日本の政治を芸能事務所AとJに握らせるような事はあってはいけない。それこそ、一部企業の思う壺になるだろう】
これらのコメントは危険だ。それらを放置したネットも問題視されるべきだ。
しかし、芸能事務所AとJをジャパニーズマフィアと揶揄するような発言は――。
ビスマルクは、デンドロビウムの行動原理を見て――あるまとめサイトに書かれていた記事を思い出していた。
デンドロビウムはARゲームの正しいプレイスタイルを取り戻す為、チートプレイヤー等を敵に回した――と。
それこそ、カードゲームアニメやホビーアニメの『ルールを守って正しくプレイしましょう』ではないが、それに通じる物がある。
『今も古今東西のゲームはチートプレイヤーが荒らし放題。迂闊な事をしようとすれば――情け無用にバラバラにされるって話だ』
ビスマルクは、有名なコピペ文章を思い出した。迂闊な事をすれば、消されるのは自分なのかもしれない――。
だからと言って芸能事務所の暴挙は許されるような物ではないだろう。それは誰もが思う事であり、当然の反応かもしれないが。
「本格的に動きだすのは――?」
バトル終了後、ビスマルクはARバイザーに流れてきた情報を見て目を疑う。
その内容とは――芸能事務所A及びJに関するニュースだったのだ。
《芸能事務所Aと芸能事務所Jが、草加市から撤退へ》
見出しだけでも、疑問に思う部分がある。埼玉県その物から撤退する訳ではなく、草加市を名指ししていた。
このニュースの内容は――簡単に説明すれば、草加市のARゲーム分野からの進出断念である。
「やけに手まわしが良すぎるように思えるが――」
ビスマルクの疑問は、ますます深まるばかりだ。
一部のプレイヤーも同じようなリアクションが多い為、この反応が大半と言うべきかもしれない。
しかし、このニュースを見て何かの陽動作戦と思う人物だっている。
『芸能事務所が草加市を手放すとは思えない。他のエリアを占領してから動き出すと言うべきか』
鹿沼零(かぬま・れい)に関しては、今回の芸能事務所側の発表を作戦と考えていた。
実際、陽動作戦は他の芸能事務所も過去に行った事がある為――鹿沼はそう思ったのだろう。
『これ以上、大損をするような状態になるようであれば――手っ取り早く片づけられる個所から手を付ける気か』
武者道のビルでニュースを目撃した山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)も同意見だ。
しかし、鹿沼と違うのは――山口は過去にも類似案件に遭遇しており、ある意味でも芸能事務所の手口を知っているような発言である。
「どちらにしても、スケジュールに変動はない――とでもいう気か」
ニュースに関してはセンターモニターで確認し、少し深刻そうな表情をしたのはガングートである。
一連のタダ乗り便乗事件を調べていたのだが、その途中で今回のニュースを目撃したようだ。
###エピソード53-3
午後5時頃からのニュースでは、芸能事務所側の草加市撤退に関する詳細が徐々に明らかとなっていった。
『芸能事務所側の発表によりますと、想定していた利益を得られるような分野ではなかった――と発表があり――』
公式発表では、想定していた程の利益を得られるような分野ではないと言う事らしい。
しかし、短期的に数兆円の利益が挙げられるような化け物コンテンツは、芸能事務所AとJのアイドルしかいないので――理由にはならないだろう。
今回の発表には明らかに裏があると――確信出来る。どのような裏があるかは、まだ分からないのだが。
【自分達のアイドルグループみたいに、利益が得られると本気で思っていたのか? だとしたら、お笑いだな】
【あのアイドルグループは、大半が転売屋やアイドル投資家がもうかるようなシステムに――】
【芸能事務所の超有名アイドル商法を、賢者の石と例えていたサイトがあったな】
【賢者の石とは、言い得て妙だな】
【結局、芸能事務所AとJが稼ぎ出した利益は一部のアイドル投資家や政治家に回され、それの繰り返し――】
つぶやきサイトでも今回の件は話題となっていたのだが、まとめサイト等が想定している程の話題にはなっていないようだ。
アフィリエイト系サイトを立ち上げ、儲けようとしている一部のアイドル投資家を警戒しているかどうかは――不明だが。
『では、次のニュースです――』
男性キャスターも、あっさりと切り上げて別のニュースを読み始める。
その内容はあまり聞いてはいないのだが、ある芸能事務所による夢小説作者の魔女狩りとも言えるような内容――だったかもしれない。
該当する芸能事務所は、歌い手や動画投稿者の芸能事務所としても有名であり――。
「どちらにしても、3次元のアイドルで二次創作をしようとするとは――自分達が何をしたのか自覚をしないのか」
「これこそ、芸能事務所AやJの商法を妨害しようと言う勢力だ!」
「夢小説は地球上から排除するべきだ」
「必要なのは――」
あるアイドル投資家は、このニュースを見てまとめサイトを立ち上げ、やはりというか芸能事務所Aのアイドルを神化するような記事がメインである。
しかし、この人物があっさりと逮捕される事――芸能事務所Aから裏金を受け取ってまとめサイトを立ち上げた事が、大きなニュースになるとはこの時には気づかなかった。
8月23日、ネット上ではアーケードリバースのイベントが発表され――そちらに話題が集中していた。
超有名アイドル商法や芸能事務所A及びJの事は、あっという間に風化していく。
草加市で芸能事務所の話題は出る事もあるかもしれないが、あまり話題にしたがらないのは撤退した事とは関係ないだろう。
ソレとは別の理由で――話題にしたがらないと言うのが正しいか。
「足立区の方も若干騒がしくなるか――それとも、草加市の方で大きな事件が起きるのか?」
昨日のニュースを見て、何か嫌な予感を感じていたのは橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)である。
彼は西新井駅で電車を降り、周囲のARゲームショップを見て回っていた。
その目的はARゲームのチート拡散に関して――と言えば、彼がちゃんと仕事もやっているというのが分かる。
【ARゲームはジャンルによって、チートの扱いが異なるな】
【レース系やアクション等は規制が厳しい。リズムゲームでは、更にチート排除に拍車がかかっている】
【逆に、FPSやTPS系はザルな事もあるだろう。しかし――アーケードリバースは別だが】
【チートの持ち込みが容易と言う事は、チートプレイもバレなきゃ問題ないという訳ではない】
【結局は、地獄耳ではないが――手を出せば、スポーツのドーピングと同じような扱いになる】
【チートを1回使えば、ARゲームからは長期間干されると言う事か】
橿原はつぶやきサイトのタイムラインを見るが、特に興味があるような話題ではないので、すぐに別のサイトを開いた。
そのサイトでは――あるプレイヤーの動画が話題になっていたのである。
「このプレイヤーは、もしかして――?」
プレイしていたゲームはアーケードリバースではなく、ARFPSだった。
しかも、その射撃精度は正確であり――百発百中に近いかもしれない。
これだったら、人力チートと言われてもおかしくはないだろう。
その人物はプラチナカラーのARアーマーを装着しており――残念ながら素顔は確認出来ない。
しかし、ARメットの形状に特徴があり、橿原は何処かで見覚えがあるような引っかかりを覚えていた。
「まさか――ガングートか?」
そうは思っても口にしないような名前――。彼女の正体はガングートだったのである。
そうでなければ、このタイミングでアーケードリバース以外の動画が話題になるはずもない。つまり、そう言う事だった。
###エピソード53-4
橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)が、ふと発見した動画――それは1月ごろに投稿されたと思われる物だった。
この時期はアーケードリバースが稼働していたのか不明だが、今の様な話題になっていたとは思えない。
その時のプレイヤーネームは、ガングートだった為に気付いたという事なのだろう。
「このプレイスタイルは――そう言う事か」
橿原はガングートのプレイスタイルに疑問を抱く個所があった。
アーケードリバースで見せたプレイは、どう考えても別ジャンルのテクニックがそのまま使われている。
元々がFPSをベースにしたゲームと言う事もあり――プレイスタイルの流用をしているのは、ネット上でも何度かツッコミがあるほど。
それを踏まえると、ガングートも動画を見てプレイスタイルを――と最初は考えていた。
しかし、手探りでプレイしている割には手慣れている感じだった事には疑問が浮かぶ。
ガングートのプレイスタイルに関しては、他のARゲームプレイヤーからも指摘があった。
【どう考えても、何か違和感がある】
【プロゲーマーと言う事を差し引いても、スキルのケタが違う】
【もしかすると、プロの傭兵だったとか? あるいは――】
【確かに、あのスキルは桁が違うのは事実だろう】
【プロの傭兵だとすれば、ARゲームの正体が実は――】
プロゲーマーと言うのを差し引いても、そのスキルは異常すぎる。
まるで師匠ポジションキャラを凌駕するともつぶやき上では言われていたが、それはさすがにスケールが違いすぎるだろう。
「チートキャラと言う例えも――この場合は不適切か。だとすれば、彼女は何者なのか」
橿原は色々と疑問に思う部分が何点か残っている一方で、彼女の強さはプロゲーマーと言う称号に集約されると断言する。
しかし、本当にプロゲーマーの枠内で当てはめていいかと言う事は――保留しているが。
「プロゲーマーにもさまざまな分類はあるだろうが――彼女の場合は、プロゲーマー以上の強さを持っているかもしれない」
ガングートの強さを語るには、まだデータが足りなさすぎる――そう考えていた。
それ程に――彼女は強すぎるのだ。下手をすれば、アーケードリバースに慣れると他のプレイヤーでは太刀打ち不可能になる可能性は高い。
話題となっているアーケードリバースのイベント、それはFPSでは異色とも言えるレイドバトルだった。
15人のプレイヤーが1フィールドに存在するボスユニットを協力して撃破するという単純明快なルールだが――そこには落とし穴がある。
【ソシャゲであるようなレイドバトルとは違うのか】
【援軍は呼べない方式で15人固定か?】
【1フィールドには15人までの制限じゃないのか?】
【つまり、15人同時存在で1フィールドのボスと戦う形式?】
【実施予定日まで、まだ時間がある。βテストでも行えば話は変わるが――】
【おそらく、15人限定なのはチートアプリや不正ガジェット対策だろう】
様々なつぶやきが拡散されているのだが、1フィールドで15人までの同時バトルは確定らしい。
不正対策と言う意味で15人なのか、処理落ち対策で15人制限なのか――詳細なルールが出るまでは分からないのが現状だ。
【しかし、アーケードリバースではギルドの様なシステムはないに等しい】
【それで見ず知らずのプレイヤーとマッチングと言うのは――無茶があるのではないのか】
【この辺りはマッチポンプや報酬目当てで談合するようなプレイヤー対策だと思う】
【談合プレイや不正ツールプレイは、イベントの存在自体を揺るがす要素だからな】
【それに、廃課金が度々問題になるようなソシャゲと同じ枠では――語れないだろう】
【プレイするのに100円を投入し、リアルマネーでアイテムを購入するようなゲームだからな】
【アイテム有料のプレイ無料のソシャゲと、100円1クレのARゲームでは使用が違いすぎる】
【しかし、レイドと聞くと、ソシャゲでも良い話を聞かないケースが多い】
【それに――ARゲームでレイドを実装しているのは狩りゲー位だ】
【ARパルクールやARリズムゲームだと、個人プレイがメインになってくる。パーティー要素はゼロに等しい作品だってある】
【では、レイドを実装した理由は何だ?】
一連のつぶやきを見ても、頭が痛くなるようなつぶやきも存在する。
橿原は、そうしたつぶやきを見てもレスをするような事はしない。
秋葉原のARゲームを担当している事もあって、越権行為とも取れるような行動をする訳にはいかないのだ。
「草加市のARゲームは、向こうの運営に任せるしかないのか――今回の件だけでなく、芸能事務所の件も」
一連のつぶやきに何かの誘導がありつつも、現状では大きな事件にも発展していないので――下手に手出しは出来ない。
警察沙汰にでもなったら、それこそ秋葉原の方でもARゲーム禁止令が出かねないのだ。
芸能事務所の一件と同様に――デリケートな案件かもしれない。、
###エピソード53-5
プロゲーマーの肩書も持っているガングートだが、国内プロゲーマーではなく海外プロゲーマー扱いとなっている。
その理由は彼女の国籍が異世界となっている事も理由の一つだが――それだけではないと言うサイトもあった。
【プロゲーマーがARゲームに進出する理由も分かるが――】
【他社ゲームの宣伝の為、自分の知名度を上げる為、様々な理由があるだろう】
【その中でもガングートは異なるだろうな】
【何故だ?】
【彼女は海外ゲーマー扱いだが、世界地図にあるような国のゲーマーではない】
【まさか?】
【その、まさかだ】
【なん……だと……】
【あり得ない! 何かの間違いじゃないのか?】
【ガングートは日本政府から日本出身である事を否定されている――という都市伝説は知っているが】
【えっ!? ガングートって日本人じゃないのか?】
【ネット上の一部サイトでも言及されているが、彼女の国籍は異世界と言及されている】
【コスプレイヤーと言う事で出身地を変えている訳でなく?】
【本来の職業を偽装する為か?】
【そう言う訳ではない。現に――彼女がAVデビューした形跡などは存在しない以上、その路線は否定される】
【ガングートは元々、地下アイドルだったという情報も一部で拡散しているほどだ】
【地下アイドル? 確かに――見覚えある顔だったが】
つぶやきサイトのまとめでも、ガングートの正体に迫るようなコメントが目立つようになっている。
そして、彼女の国籍が異世界である事も隠し通せる状況でなくなっている気配もした。
『ガングートの異世界出身説は――これで証明されたのか』
スレイプニルは、様々なアンテナショップでまとめサイト等を確認しているのだが――。
その巡回中に思わぬ情報を発見した――そうスレイプニルは確信した。
『しかし、この目で確認出来るようなイベントがあれば――?』
まとめサイト以外で発見したのは、アーケードリバースのレイドバトルイベントの告知だった。
これを見て、スレイプニルはニヤリと表情を変化させる。ただし、ARメットを装着している関係で表情は――。
『なるほど、レイド戦か。この形式ならば、特定プレイヤーが出入りしている場所を当たれば――』
レイドバトルと言っても、ランダムマッチングではない。
ARゲームでも、さすがに莫大な情報量をデータ転送するような技術は確立していないだろう。
リズムゲームのマッチング等の情報量が少ない物であれば、関西圏でも一部で稼働しているARゲームで何とかなる――。
しかし、情報量が非常に多い草加市内のARゲームは――現状の技術では、ラグがひどくてプレイできないと言う悲鳴が聞こえるかもしれない。
それだけの莫大な情報を処理できるような光回線等が開発されれば、おそらくは実現できるだろう。
そこまでのデータ処理が可能だとしたら、明らかに軍事転用されるのも目に見えているかもしれない。
ある意味でも、ARゲームの技術が軍事転用禁止と言われているのは――こうした背景があるのだろうか。
特許が芸能事務所A及びJに独占される事も危険であるのだが、それ以上に危険なのは軍事国家に技術が流出する事かもしれない。
午後1時、草加市役所でテレビを見ていたのは鹿沼零(かぬま・れい)である。
市役所と言っても、ARゲーム課の個室なのでARメットを装着したままだが――。
『先ほど届いた速報です――本日早朝、あるまとめサイトでハッキングを行ったとしてアイドルファンである少年が逮捕されました』
鹿沼も目を疑うような内容のニュースが飛び込んできたのである。
まとめサイトの内容を改ざんしようとハッキングを仕掛けた人物が逮捕され、その人物が未成年である事が報道された。
本名は未成年なので公表される事はなかったのだが、それ以外の情報で誰なのかはネット上であっという間に特定される。
『逮捕された少年の部屋からは、芸能事務所Aのファンクラブ証とメール、1000兆円の通帳が押収され――』
1000兆円という資産を持っているような未成年と言うと、どう考えてもアイドル投資家以外は考えられない。
それに、芸能事務所Aが出てくると言う事は――人物も絞られてしまう。
それを踏まえると、実名が公表されなくても――特定されたも同然だった。
『ハッキングをしてまで、ARゲームの人気を落とそうと考えるのか――あの芸能事務所は――』
鹿沼はテレビにコップを投げつけるような位の怒りがこみあげてきたのだが、そんな事をしても状況は変化しない。
ARゲームの評判を落とすようなまとめサイトを特定し、それを通報する方が健全とも言えるだろう。
その手法を行っているのが、鹿沼にはアルストロメリアだと分かっていても――。
『しかし、まとめサイトを彼女ばかりに任せるのも問題か――』
遂には鹿沼も助っ人を呼び出そうとも考えた。人出が足りないと言うか、ARゲーム課は慢性的に人手不足だ。
技術があったとしても、それを上手くコントロールできるような人材が欲しいのは鹿沼も思うのだが――。
『悪質な権利独占企業等に渡れば、それこそ軍事国家に横流しも――とはアルストロメリアも言っていたが』
以前の自分であれば、どう考えてもWEB小説の中のフィクションでしか過ぎない様な事を――全力で否定していた。
しかし、今となっては――現実に迫る悲劇を回避しようと、様々な手段を考えている。
それこそ――後年に悪と言われようが、芸能事務所AとJに渡る位ならば――。
###エピソード53-6
アルストロメリアが魔女狩りをしているのは、いわゆるまとめサイトなのだが――その中でもアイドル投資家と呼ばれるアフィリエイト長者が運営するサイトに集中していた。
何故、ここまでの事を彼女がするのか――理由は分からない。一種の運営側に通報するような人間が、何故に手段を変更したのか。
【まとめサイトが次々と閉鎖している】
【閉鎖しているのは、いわゆる大手ではなく――コピーサイトだ】
【アフィリエイト狙いで便乗したのが消されている傾向だな】
【一体、誰が?】
【管理人に共通するのは、アイドル投資家セミナーを受けたという事。ある人物が逮捕されたニュースは知っているだろう?】
【1000兆円の通帳で察していたが、そう言う事か】
【未成年で1000兆円と言えば、実名が出なくてもその手の人物を知っていればネタバレを言っているような物だ】
ネット上では、様々なつぶやきが相変わらず拡散している。
その内容に関して鵜呑みにするような人物が、一連のまとめサイトにネタを提供し、最終的にはコンテンツ炎上に加担している事に――未だに気づかない。
【しかし、大手サイトだけ閉鎖しないのは何故なのか?】
【噂によれば、芸能事務所Aが直接運営をしているらしい。だからこそ、ちょっとやそっとの通報では閉鎖しないのだろう】
【迂闊な事を言えば、それを拡散される可能性が――】
ある人物の発言が予想外の爆弾発言をした事で、それがネット上で広く拡散していく。
最終的には芸能事務所に大きなダメージを与えるのだが――それは今のタイミングではない。
現状では証拠不足と芸能事務所が、却下する現実が見えるのは誰の目から見ても明らかだ。
警察もつぶやきのコメントを鵜呑みする訳ではないし、いくら広く拡散していても証拠にはならないのである。
「ネット炎上のカラクリを知っている以上、そう簡単に権力が動くはずがない。だからこそ――訴える必要性がある」
一連のまとめサイトのニュースを見ていたのは、アルストロメリアだった。
今の彼女はARアーマーを装着し、アーケードリバースをプレイしていたのだが――勝率が振るわない。
彼女の勝率は、6回のプレイで3勝3敗の勝率50%――。
相手プレイヤーにも原因があるのだが、それだけが理由とは思えない。
【チートガジェットプレイヤーがいるとは思えないが、何があった?】
【プロゲーマーでも不調の時はある。そう言う事だろう】
【最初に対戦した相手がヴィスマルクだったのも致命的か】
【それ以外では勝利している所を踏まえると、苦手意識でも出来たのか?】
【どちらにしても、レイドバトルのマッチング次第では――ジャイアントキリングもあるかもしれない】
アルストロメリアの動画を見たプレイヤーからのコメントは、彼女が敗北した事に驚いている物が多い。
しかし、相手プレイヤーに恵まれないという運の要素も絡む関係上――彼女の技術が落ちている訳ではないだろう。
【アーケードリバースのマッチングが運要素も絡むのが――そこを直して欲しいと運営に言っているが】
【しかし、八百長やマッチポンプと言う要素を防ぐ為のマッチングシステムだ――そう簡単に直すとは思えない】
【マッチングシステムは、リズムゲームのマッチングに近いからな――アーケードリバースは】
【チーム制度は別のFPS辺りのシステムを引っ張れば可能なのでは?】
【それをやっても、チートプレイヤーの排除にはならない。根本的なシステムが必要だ】
マッチングに関する不満は他のプレイヤーからも言及されている。
チートを使うプレイヤーが悪いと言えば、それまでだが――。
チートプレイヤーと同じチームになってしまった正規プレイのプレイヤーも炎上対象にされるのは――さすがに、八つ当たりと言えるだろう。
アルストロメリアのプレイを見て、単純に不調とは違うと考えているのはアイオワだった。
彼女はチートプレイヤーに関して、ジャック・ザ・リッパーに託すという方向にしたのだが――。
「ゲームにおけるチートと陸上競技のドーピングが同列とは考えたくないが――」
アイオワは一連の動画を見て、何かの違和感を感じる。
チートプレイヤーの判定精度が上がっているはずなのに――弾き出せないプレイヤーもいるのは、おかしいのではないか、と。
単純にアーケードリバースの最大数値以上のガジェットをチート扱いにして、使用禁止を告知すれば早い話かもしれない。
しかし、ARガジェットは他のARゲームでも相当な事がない限りは使用出来る事にはなっている。
下手に該当するガイドラインを変えてしまうとガジェット購入だけで莫大な投資となるだろう。
「公式で強力なガジェットは規制すべきではないが――」
アイオワは思う。公式で使用出来るようなガジェットもアーケードリバースでは禁止対象になるかもしれない。
そうなったら、プレイしているARゲームの数だけ専用ガジェットを持ち歩く事になり――ある意味で不便となる。
結局、ARゲームも保護主義的なゲームになってしまうのか?
全てはアーケードリバースのレイドバトルに――託されたと言ってもいいのかもしれない。
###エピソード53-7
午後2時、他のメンバーと違う様な場所にいたのはビスマルクだった。
「ARゲーム独特の――と言うべきなのかな」
いまだに慣れていないのだが、ARゲームは身体を使うゲームである。
体感ゲームを進化させたような物――と言うと、若干の語弊はあるかもしれない。
それでも、スポーツをすれば汗をかくのは当然だろうか。
そうした事情を踏まえてアンテナショップ内には、シャワールームが併設、あるいは近くにスーパー戦闘があると言う。
AR対戦格闘では、シャワールームが満席になる事もザラであり――重要施設なのかは分かる。
格闘技と変わりないようなAR対戦格闘、アスリート競技系等はシャワールームなどの需要はあるかもしれない。
しかし、リズムゲームやロボットバトル系、テーブルゲーム系に必要があるのか――と言う声はあるだろう。
それでも――コスプレイヤー用の着替え室と言う某イベント以外で必要なのか、と疑問を持つような施設も草加市には存在する。
ARゲーム課が出来上がる前から、何かのイベントで盛り上げようと準備したとしか思えない。
「――利用できる物は利用しない手はないか」
シャワールーム自体は、男女で別々となっているのは当然として――設置数が非常に多い。
その中でも利用料金も無料と言う事は特にありがたいという意見があるのだが、ARゲームのプレイヤー専用なので――そこは一長一短と言うべきか。
シャワーを浴びている際も、謎の視線を感じる事はない。
盗撮対策が万全である事に加え、男女別々にしたのには――それ以外にも事情が存在する。
それは、やはりというかSNSにおける炎上対策だ。
ARゲームの場合、保護主義的と揶揄される事もあった炎上対策だが――盗撮写真が流出と言う事になれば、どのような事が起こるのか想像に難くないだろう。
安易な発言がSNS炎上を招き、それこそ特定芸能事務所による支配を強化すると言う妄言が飛び出し、リアルウォー待ったなし――。
そう言う展開を防ぐ為の炎上対策は、時には過剰すぎると言われる者もあるのだが、こういう所では感謝すべきかもしれない。
「無料と聞くと、裏があると言う人間も出てくるだろうが――」
シャワーを浴びた後、ビスマルクは髪を乾かしている。使用しているのはドライヤーではなく、特殊な送風機である。
形状はドライヤーの様なものではなく、リング状の機械と言うべきか。
ビスマルクは形状に何か見覚えがありつつも、気にせずに使用する。突っ込んだら負けなのかもしれないが――。
「これだけの事を可能にしているのも、ふるさと納税――は、さすがに違うか」
アルストロメリアがふるさと納税でアーケードリバースが運営されていると明言した事を思い出したが、ここまでのサービスは難しいと考えていた。
ビスマルクはふるさと納税をしていないし、アーケードリバースをプレイしたきっかけがふるさと納税絡みではない。
午後2時20分、フードコーナーでたこ焼きと似たような物を口にしていたのはデンドロビウムである。
さすがに連戦続きでは、集中力も切れてしまう。その為、糖分補給を兼ねてフードコーナーに足を運んだのだ。
彼女のテーブルにはスポーツドリンク、たこ焼きと思わしき物、チョココロネ、それにチョコパフェである。
そこまで食べられるのか――と思われるのだが、デンドロビウムの目の前にはガングートの姿もあった。
ガングートの方は、偶然遭遇したと言うべきかもしれないだろう。
しかし、向こうは偶然と言う様な表情ではない。おそらく、狙って相席にした可能性も否定はできないだろう。
「こちらも色々と聞きたい事はあるが――」
対するガングートのテーブルには、アイスコーヒーとナポリタンサンド、焼きそばパンが置かれている。
どう考えても異世界人が食べるようなメニューとは考えにくいのだが、考えたら負けだろう。
「――!!」
唐突にガングートが話を切りだしたので、デンドロビウムは慌てている。
口に入れたたこ焼きらしき物が出来たてと言うのもあるのだろうが――。しかし、その中に入っていたのはたこではなかった。
「急に話しかけるな。やけどをする所だったぞ」
思わず、彼女は慌てるようにしてスポーツドリンクを口にする。
ガングートは何故に熱がるのか分からなかった為、一口もらう事にした。
「これは――?」
ガングートの方も熱がるのかと思われたが、彼女は大丈夫なようだった。
そして、その中身には驚いているようでもある。たこ焼きと思われた食べ物、その中身はチョコレートだったのだ。
生地はパンケーキ、中のチョコレートはミルクチョコレートとフレークか? それに青のりはチョコチップ――。
たこ焼きと言うよりは、チョコ焼きと言うべきかもしれない。焼きチョコならばガングートも聞いた事があるのだが。
そして、スポーツドリンクを飲んで落ち着いてきたデンドロビウムは、ガングートに何故会いに来たのか――聞こうと考えていた。
しかし、話を切りだしたのはガングートの方である。これには別の意味でも驚いた。
「このサイトを見て、何か覚えはありませんか?」
ガングートが見せた物、それはタブレット端末なのだが――画面に表示されていたのは有名所やアフィリエイト系まとめサイトではない。
むしろ、公式サイトなのは間違いないが、その内容を見てデンドロビウムの方が驚くしかなかった。
「そのサイトって――?」
アカシックレコード絡みではないサイトを見せられた事にも驚いたのだが、それ以上に――。
「ご当地ヒーローは知っていますね? そして、町おこしに関しても――」
町おこしを題材にしたアニメやドラマ等は今までにもあっただろう。
しかし、ガングートが見せているサイトは――1年か2年前の作品を扱っているサイトだ。
一体、ガングートはこれを見せて何を聞こうとしているのか? デンドロビウムにも分からなくなっている。
「それと、アーケードリバースに関連性が?」
「アーケードリバースとは関係ありませんが、青騎士騒動後の一連の流れは――」
「青騎士騒動後――まさか!?」
「このアニメを再現している訳ではなく、ヒントを得ているとしたら――」
青騎士騒動後のSNS炎上の流れ、アルストロメリアや一ガーディアンの動き、それはARパルクールを題材にしたアニメがベースになっているだろう。
それもマッチポンプだとしたら――その目的が、何かを訴える為に仕掛けられたものだとしたら――。
###エピソード53-8
フードコーナーに足を運んだデンドロビウム、予想外とも言えるタイミングでガングートと遭遇し――。
「このサイトを見て、何か覚えはありませんか?」
彼女のタブレット端末に表示されていた物、それは2年前位のアニメ作品の公式サイトだった。
その内容は町おこしやご当地ヒーローを題材にした物なのだが、タイトルはARパルクールを題材としたそれとは異なる。
「このアニメを再現している訳ではなく、ヒントを得ているとしたら――」
ガングートは、このアニメ作品が一連の騒動の元凶と言う意味で見せた訳ではなかった。
ARパルクールを題材とした、あの作品は――。
「ヒントにしていたとして、アイドル投資家を名乗る工作員が便乗炎上を――とは違うのだろう?」
「迂闊に工作員と言う単語は使うべきではない。アイドルファン全てが工作員という例えは――」
ガングートはデンドロビウムが工作員と言う単語を出した事に関して、迂闊だと言及した。
自分も過去に類似案件を起こしていた事――それに関しては未だに忘れていない。
その時の失敗が、今のガングートの環境を生み出したと言えるのだ。
「そこまで分かっている以上は、知っているのだろう? 今回の事件を主導した犯人を――」
ガングートの様子が変わった事に関して、デンドロビウムが見逃すはずはない。
そこから、本当に倒すべき相手――真犯人を聞きだそうとしていた。
「そこまでこだわる理由は何だ――ネット炎上か? それとも、特定団体に対するやり方の批判か?」
ガングートは元凶を潰しても、第2、第3の~と続く事に懸念を持っている。
こうした流れは自分の所属していたアイドルグループが炎上した時の事もあるので、デリケートなのだが――。
「特定団体か――広告会社や一部の芸能事務所が行っている炎上マーケティング、タダ乗り便乗宣伝は――到底許せるものではない」
これを聞いたガングートはやっぱり――という表情をしている。
結局、彼女も復讐に囚われている人物なのか――。
右手には握りこぶしを作っており、何かのトリガーが引かれれば――殴り飛ばしかねないだろう。
しかし、暴力で全てを解決させようとすれば――金の力で無双したり圧力でライバル会社を潰す芸能事務所と変わらない。
自分の失敗は他の人間にして欲しくない――と、怒りの表情を押し殺しているガングートの葛藤――それが、目の前にあったのである。
「こちらとしては暴力に訴えたとしても、結局は同じような行動をとれば英雄になれると勘違いする人間がいる――それに、これはARゲームだぞ?」
デンドロビウムは、いつの間にかテーブルにあったスイーツを食べ終えていた。その上で、スマホをガングートに向けている。
スマホの画面を見ると――そこにはARゲームのガイドラインが書かれているページが表示されていた。
【ARゲームでは、いかなる場合でも殺傷・大規模テロ等に該当する事件を起こす事を禁止する】
【ARゲームは――特定の権力者や芸能事務所が独占するべき技術ではありません】
【ARゲームは、特定プレイヤーを誹謗中傷するツールではありません】
【ARゲームのプレイヤーは実在人物です。夢小説等の題材にして不当な利益を得る事は論外です】
【ARゲームでのチートビジネスは禁止しております。最悪の場合は――】
ガイドライン自体は様々なサイトで改変されて掲載されているケースがあるが、こちらは過去にふるさと納税サイトで掲載された物らしい。
つまり、このページは本来であればアルストロメリアが――。
「炎上マーケティングは、それこそ悪ふざけでネットを炎上させ――人生を終わらせてしまうことだってある」
ガングートも反論するのだが――その言葉に何時もの様な気力がない。
それを見たデンドロビウムも、さすがに精神攻撃が過ぎたか――と若干反省する。
「これだけは改めて言っておこう。ARゲームをプレイしている以上、そちらのルールに従って動いている――」
デンドロビウムの方はテーブルから立ちあがり、空っぽのコップなどを返そうとしている所だ。
「ARゲームは、悪乗りでフィールドを炎上させて良いような場所じゃない。ゲームは楽しく、正しく、マナーを守ってプレイする物だ――違うか?」
そう言い残して、デンドロビウムはカウンターの方へと向かう。どうやら食券方式の支払いなのだが――食器はセルフと言う事らしい。
一方で谷塚駅に設置されたモニターを見ていたのは、ハンゾウだった。
彼女も草加市内でアーケードリバースをプレイしているのだが、思ったスコアが出ない状況である。
しかし、忍者のコスプレはギャラリーに人気が出ており、プレイスタイルよりもコスプレと言う部分で有名になっていた。
そんな中でのあるプレイ――それが、大きな事件に発展しようとしていたのであるのだが。
「他のソーシャルゲームとは感覚が違うのは分かるけど――納得できない」
ハンゾウはダブルスコアに近い形で敗北する。彼女の所属は赤チーム、相手は青チームだったのだが――。
ゲージの残りを見ればダブルスコアに近いのは明白、青チームのゲージは80%寄りも下回っていない。
『納得できない? これが実力差と言う物だ』
相手チームは重装甲をメインとしており、素顔もARメットの影響で見えない――のはハンゾウも一緒だが。
それでもガジェットの差で負けた訳でもないので、ハンゾウは納得が出来ないのである。
「チートガジェットでも使ったの?」
『アーケードリバースでは、チートガジェットの規制が強化されている。それに、数日後にはレイドバトルだ。チート規制が加速するのは当然だろう?』
「チートガジェットでないにしても――レベルから見ても実力は大して変わらない」
『初心者狩り対策がされている以上、レベルを偽装でもしない限りは戦力差が生まれないだろうな』
『しかし、レベル偽装なんてすればツールの使用を疑われるだろう?』
『それに――ARゲームでのサブアカウントは禁止行為として、凍結対象にもなっている』
レベルの事を言及された時は、他の青チームプレイヤーからもツッコミを受ける事になり――ハンゾウとしては圧倒的に不利。
この口論とも言えるようなフィールドに割り込もうと思うプレイヤーはいなかったようで、青チームのメンバーは既にログアウト済みだ。
「まさか――」
『その通りだ。このガジェットは違法手段で強くした訳ではない。だからと言って、お前の言う様なチートガジェットでもない!』
彼の方はチートを完全否定し、その直後に見せたのは別の端末だったのだが――それを見せた事でハンゾウの怒りを買う事になった。
「廃課金勢――ARゲームでは賛否両論だけど、問答無用でチートと同類じゃないの!」
ハンゾウは遂にARウェポンのビームダガーを構える。ゲームは終了しているのだが、第2ラウンドを行う気らしい。
彼女はソーシャルゲームでも問題視されている廃課金さえもチート扱いと考えており――。
###エピソード53-9
ハンゾウがスコア不調になっていた原因――それは、今回のプレイではないのは明白である。
しかし、今回のプレイは――明らかに何かが違った。
『納得できない? これが実力差と言う物だ』
相手チームは重装甲をメインとしており、素顔もARメットの影響で見えない。
彼らの装備は、テンプレの様な重装備カスタマイズであり――攻略サイトでは少し有名な組み合わせでもある。
この組み合わせに関しては、制限がかけられているような装備レシピでもなければ――チート装備でもない。
唯一の問題点があるとすれば、この装備を揃えるのに必要な物だろうか。
『その通りだ。このガジェットは違法手段で強くした訳ではない。だからと言って、お前の言う様なチートガジェットでもない!』
チートに関しては完全否定を明言し、彼は実力で勝ったかのような表情である端末をハンゾウに見せた。
彼にとっては、これが余計な行動でもあり――アイドル投資家やまとめサイト勢力等に燃料を提供する事になってしまったのである。
「廃課金勢――ARゲームでは賛否両論だけど、問答無用でチートと同類じゃないの!」
『廃課金がチート? アイテム課金制のソーシャルゲームでは賛否両論だが、1コインプレイが基本のARゲームで通じる理論ではない!』
「その高級ガジェットで初心者狩りをしていれば、不正チートガジェットプレイヤーと似たような人種だと――気づかないの?」
『不正ガジェットは、一種のドーピングと同じだ。しかし、これは正規品である以上――チートと言う発言は放置できないな』
「ARガジェットは使い手を選ぶ――! それが分からない訳ではないでしょう?」
『ゲームマナーを語り、自治を行う勢力――と言う事か』
2人の話が結局はかみ合わない。両方とも喧嘩腰と言う訳ではないのに、どういう事なのか?
まるで、お互いに正論を言っているはずなのに――何処かが意図的に合わないようにされているようにも見える。
これではネット炎上勢等に利用されても文句は言えないだろう。
ハンゾウは改めて第2ラウンドを行うようにと彼らに挑戦状をたたきつける。
例え、自分が一人で挑む事になろうとも――彼らの様な廃課金勢を放置するのは、ネット炎上的な事情を踏まえても危険要素だろう。
【第2ラウンドって……出来る物なのか?】
【格闘ゲームと違って、順番待ちにはなるが可能だろう。ゲーセンのハウスルールによるが】
【ARリズムゲームだと連コイン禁止を明言している機種もあるな】
【ARゲームは整理券と聞いたが】
【整理券は確かにそうだが、アーケードリバースは違ったような――】
【どちらにしても、あのブルジョワプレイヤーは――さすがにチートとは違う気配もする】
【確かに、廃課金はソシャゲだと非難される話題ではあるが、1クレジット100円が基本のARゲームで、それが当てはまるのか?】
【チートガジェットやツールを使わなければ、問題はないと思う。しかし、それを口実に初心者狩りが横行するのは感心しないが】
【どちらにしても、炎上マーケティングとかネット炎上案件になりそうな――】
つぶやきサイト上では、色々な話題が流れている。
その中でも、連コインは不可能と言う認識のプレイヤーも多いようだが、それはジャンルに寄って違うらしい。
『さすがに、こちらもこの装備を連続で使うには――小休止は必要だ』
重装甲のプレイヤーは、そう言い残してフィールドをログアウトした。
ラウンド2には応じるが――連コインはしないと言う事だろうか。下手にショップ側のルールに違反すれば、出入り禁止は避けられない。
そうなっては、ハンゾウを倒すチャンスも失われる――と考えたのかもしれない。
ハンゾウは若干焦っていた可能性もある。何故、焦ってしまったのかは――連中の挑発に乗った事も一理あるのだが、実際は別だろう。
思った以上のスコアが出ていない事に関して焦り始め、その場で何とか対応できるはずの思考が出来なかった事かもしれない。
本来の彼女であれば、それが出来てもおかしくはない。
頭に血が上るようなタイプのプレイヤーは何人かいるのだが、それでもゲーム中限定などの制限がある。
冷静な判断が出来なければARゲームでは、即敗北を意味していると言ってもいい。
【ARゲームでは冷静な判断が必要になる事がある。VRゲームや家庭用ゲーム機と違って、一瞬の焦りが大きな事故に繋がる可能性も否定できないからだ】
【それに、ARゲームが拡張現実を使ったゲームである事を理解せず、そのまま異世界トリップ等と同列と語るエアプレイ勢も問題視されている】
【あくまでゲームはゲームだ。一種のデスゲームだったり――ギャンブルとは切り離すべきだろう】
あるサイトのつぶやきまとめに、こういったやりとりがあった。
途中で何が書いてあるのかは忘れたが、エアプレイ勢がARゲームのプレイヤーを題材にした夢小説をアップし、小説サイトのランキング独占をしている事に批判した記事だったかもしれない。
こうしたケースはARゲームプレイヤーではなく、歌い手や実況者、超有名アイドルでも目撃される事案だ。
夢小説がファンタジーだからと言って『名前を借りているだけです』や『彼らとは関係ありません』と言うのも――。
「何に焦っていたのだろう――私は」
息が切れていた女王体のハンゾウだったが、ログアウトしてから冷静になり、ようやく言葉が出た。
確かに彼らの言う通りに違法ガジェットでなければ、それをどう使おうと自由かもしれない。
しかし、それらは本来であれば借り物と言える物であり――慎重に取り扱うべきものだ。
ゲーセンの筺体に台パンして出入り禁止になるケースに例えれば、ARガジェットを破壊するのは言語道断だろう。
そう言った意味ではチートガジェットの方な違法改造も認められるべきではないし――。
「思うようにスコアが出なかった事に対し、チートを使っていないようなプレイヤーに対してチートと言うなんて――」
ハンゾウは頭を抱えるようなポーズは取っていないが、自分の発言に後悔をしていた。
おそらく、この発言がネット上に拡散され、最終的にはネット炎上や炎上マーケティングに利用され、アーケードリバースのサービス終了だってあり得る。
自分の発言は、芸能事務所側に塩を送るような発言――そう言っても間違いではなかった。
###エピソード53-10
午後5時になると、毎度恒例のプレイヤー入れ替え展開となる。
夜間で有名なプレイヤーと言うと、北欧神話とかギリシア神話辺りの名前をプレイヤーネームに使いたがる傾向だ。
夜間のARゲームは視界等の関係で、ライトアップが当たり前なカート系や夜戦と言う概念のあるサバゲ以外は屋内オンリーである。
【やはり、夜間だとデンドロビウムがいないのか――】
【ARゲームにゲーセンの未成年立ち入り制限とか――持ち込むのも不毛に見える】
【ARゲーム自体、未成年はプレイ不可と言うジャンルが多い。そう言う理由とは別だが】
【廃課金の問題やコンプガチャ等を踏まえているのか?】
【ARゲームは1クレジットで1プレイだぞ。廃課金とか――ソシャゲじゃあるまいし】
【問題なのは、ジャパニーズマフィア辺りの問題か? 場所の問題とか】
【それも違う。ネット炎上を誘導するような迂闊な発言は、自分の首を絞める事になる】
【歌い手や実況者の名前だけを使った夢小説で――という勢力と同じ事か】
【下手をすれば魔女狩りに繋がりかねないが】
【ARゲームでも魔女狩りが始まるのか?】
【さすがに、それはないと思うが】
【ニュースでも、ふるさと納税で高額品に制限がかかる話題が取り上げられていた――】
ネット上では相変わらずのつぶやきが流れる。
中には視聴しているニュース番組の実況をしているようなつぶやきもあったのだが――。
ARバイザーで一連のタイムラインではなく、別サイトを見ていたのはスレイプニルだった。
装備に関してはARアーマーだが、AR未対応のバイザーではチェックできないので、正体がモロバレするのは避けられないが――。
【それに、ARゲームが拡張現実を使ったゲームである事を理解せず、そのまま異世界トリップ等と同列と語るエアプレイ勢も問題視されている】
スレイプニルが見ていたのは、少し前に話題となったつぶやきのまとめだった。
ARゲームのエアプレイ――実況動画等を見ただけでプレイした気になり、様々な風評被害を拡散するという方式が問題となっている。
【ゲームをゲームとして楽しむのは、一理ある。そこに様々な事情が入るのも――仕方のないことだ】
【問題なのは、不適切な超有名アイドルのゴリ押しコラボだろう。まさに誰得だ】
【ゲームを運営するにしても、資金が必要なのは事実だ。アイテム課金制が誕生したのも――そう言う事情があるのかもしれない】
【パッケージゲームが売れずに、アイテム課金制のゲームばかりが出てきても――サービスが終了すればプレイするチャンスは消える】
【だからこそ、それらをプレイした気になって炎上させるエアプレイ勢が増えるのは問題なのだ】
【ゲーム業界でチートプレイヤーや不正プレイが増えるのは、プレイする暇がないので速攻でクリアする――いわゆるタイムアタックが関係すると聞く】
【TASに代表されるような物を――ARゲームは認めるべきなのか】
サイトのまとめには続きがあった。エアプレイ勢力は排除すべき――という意見もまとめ記事のコメントにはあったのだが、一部は削除されている。
おそらく、芸能事務所の刺客というオチ――なのだろうか。
『やはり、あのアニメを再現させようと言う勢力は――こうした問題を訴え、国会と芸能事務所が繋がっているとでも言うつもりなのか』
スレイプニルはメットを外すような仕草を見せるのだが、その直前で何者かがスマホのカメラレンズを向けたように思えた。
スマホのカメラは――ARゲームフィールド上では無効化されるはずなのに――である。
###エピソード53-11
スレイプニルがメットを外すような仕草を見せた直後、スマホのカメラレンズを向けたのはまとめサイトの管理人だったと言う。
何故、このような事をしたのかは不明だが――サイトの閲覧者数を稼ぐという意味があったのかもしれない。
その人物に気付き、拘束したのはスレイプニルではなく、偶然通りかかった人物だった。
『ありがとう。助かったと言うべきか――』
ARバイザーを被ったままなので、男性ボイスなのだが――何か違和感を感じる外見を見たような――と管理人をガーディアンに付きだした人物は思う。
しかし、その人物は何も言う事無く姿を消してしまった。
特にARゲームをプレイしているような人物ではなく、スレイプニルも見覚えのない人物である。
『しかし、ここまでのスクープを発見しないとサイトを見てもらえないと思っている以上、向こうも慌てていると言うべきだろう』
周囲の目もあるかもしれないが、引き続きスレイプニルはARバイザーでネットへアクセスを試みた。
一連の騒動を受けて、ネット上のつぶやきなども慌ただしくなっているのを踏まえると――明らかに何かを狙っている要素もあるだろうか。
8月24日、レイドバトルに関しての注意事項が発表された。正確に言えば、追加の注意事項と言うべきか。
【マッチングはサーバー負荷を考慮し、草加市内の設置店舗に限る】
これに関しては、最近になって竹ノ塚及び北千住でもロケテストを兼ねて設置されているが、今回は草加市限定としたためらしい。
この仕様は一部で残念という声もある一方で、サーバー負荷を減らす為に草加市限定とした事に関しては評価する声もある。
【使用可能ガジェットはアーケードリバース専用及びアーケードリバースで使用可能なものに限る】
これもネット上では色々と言われて来た部分だろう。実際、ハンゾウが廃課金とまで言い切った一件もきっかけだが――。
一方で、使用不能ガジェットは持ち込みが発覚した段階で失格とも明言された。
【プレイヤー同士でチームを組む事に関しては制限なしに変更。ただし、マッチポンプやバトルに不正が確認された場合は没収試合とする】
アーケードリバースではギルドの様な概念は存在しなかったのだが――これに関しては大きく軌道変更をしたと言うべきか。
知らないプレイヤーと組み、連携が取れなかったという事が言われてネット炎上するよりは、ギルドを試験的に導入した方がよいと考えたのかもしれない。
【プレイヤーレベルでレイドバトル参加不能とはしない。その一方で、レベルに関してはバランスが取れるようにマッチングを調整する】
そして、レイドバトルはレベル1だからと言って参加不能と言う制限はかけない事も合わせて発表された。
その一方で、初心者狩りが発生しないようにマッチング調整を行う事も発表されている。
この発表を受けて、ネット上では早速レイドバトルのまとめ記事が各所にアップされていた。
それだけの注目度があると言えば――それまでだが。
【格ゲーの様なガチバトルがみたいのだが】
【レイドと言うと、ソシャゲであるような理不尽難易度、廃課金必須、1人プレイお断りな個所が――】
【しかし、竹ノ塚にも設置されていたのは初耳だ。ふるさと納税を利用している以上、草加市だけと思っていた】
【だからこそ、じゃないのか? ふるさと納税的な意味でも――】
【草加市限定にしたのは観光客を増やす的な狙いもありそうだ】
【しかし、草加市内でもアーケードリバースが設置されている店舗は100あるかないか――】
【混雑すればアウトと言いたいのか?】
【期間は9月1日からで終了日は決まっていないようだ】
【おそらく、一か月単位で集計していくタイプと言う可能性もありそうだな】
【慌ててレイドに参加するよりも、装備を整えた方が良いという事か?】
【装備だけではARゲームは無理だろう。体力づくりとまではいかないが、一定の技術が必要だ】
【確か、レベル1でも参加不能にしないという事だが】
【発表ではレベル1でも参加可能だ。しかし、本当にレベル1で挑むようなプレイヤーがいるか?】
やはりというか、つぶやきでもトレンド上位と言う事もあって――レイドバトルの期待は高まっているのが分かる。
こうしたまとめサイトを見て情報を集めるプレイヤーもいるだろうが、公式サイトの発表のみで作戦を考えるプレイヤーもいた。
それ程にまとめサイトが芸能事務所A及びJと繋がっている――そう考えるプレイヤーが、まだ存在する証明だろう。
実際、草加市のARゲームからは撤退すると言う発表はあったのだが、あくまでも草加市からの撤退を明言しただけだ。
芸能事務所が他の地方で買収等を行っていない――と断言するには、まだ早いと言える。
「さて、この状況を見て、どう動くかな――あの勢力は」
まとめサイトを調べていたのは、ARメットを外した鹿沼零(かぬま・れい)だった。
彼は一連のサイトを草加市役所ではなく、草加市内の自宅の部屋で見ている。
部屋の中には様々な資料があるのだが――乱雑と言う訳ではないのだが、きちんと整理されている訳でもない。
部屋は掃除されていないと言う訳ではないが、綺麗でもないという中途半端な仕様である。
それでも、サーバーにほこりが入らないように対策はしている為、ある意味でもこの部屋の役割は資料室と言うべきなのだろうか。
「どちらにしても、歌い手や実況者を利用し――芸能事務所AとJのアイドルを頂点にして、無限の利益を得ようとする考え――」
鹿沼は、しばらくしてARメットを手に取り、それを被り始める。どうやら、何処かへと出かけるらしい。
腕には時計をしている訳ではないのだが――ARメットに時計アプリを入れているので、そこで時間を判断するようだ。
『どちらにしても、我々には不都合と考えるべきか。テンプレの方法だとしても、効果的と言うのは――皮肉なものだな』
そして、鹿沼は草加市役所――と言うよりも近くのアンテナショップへと向かう。
時計アプリは午前12時を知らせていたが、それを直視するような余裕は彼にはなかった。
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