エピソード49~エピソード51
###エピソード49
8月14日から8月16日、その間に何が起こったのかは言及されているデータが残っていない。
関連動画はあるかもしれないが――それを実際に目撃したギャラリーに関して戒厳令が敷かれたという話もネット上である位だ。
芸能事務所AとJが警察の強制捜査を受けたのか? 具現化したコンテンツのアバターが暴れまわったのか?
その真実を話そうと言う人物はいない。一歩間違えれば、それは再びネット炎上を引き起こしかねない代物だからだ。
ネット炎上、それは日本で起こった形を変えた紛争なのである。
ネット炎上によって、インターネットは荒らされ、やがては芸能事務所AとJのゴリ押しで全てが一緒に染められるだろう。
ネット炎上こそ、芸能事務所にとってアイドルをデビューさせるのに安上がりな宣伝方法であり、重大事件に隠れて行えば、それを追求する人間は少なくなる。
それこそ――芸能事務所がネット炎上を起こした犯人だと発見できないほどに。
【この案件を炎上させれば、ネット炎上禁止法案が出されるレベル】
【芸能事務所AとJが裏で様々な組織と繋がっている事を証明できれば――】
【特定芸能事務所が、ご都合主義で存在する事を――】
【ゴリ押し芸能事務所は、影で日本を動かしていたと証明する事を――】
【あの芸能事務所は、地球を全てゴリ押しで何とか出来ると思っている】
ネット上でも様々な発言があり、この案件が危険だと物語る。
それを詳細に書けば、間違いなく日本はコンテンツ流通で完全孤立する事は避けられないだけでなく――。
『明らかなコンテンツ炎上狙いか。使い古された方法とはいえ、単純なネット炎上にこれほど有効な手段も――』
一連のまとめサイトを複数発見し、その一つを見ていたのは鹿沼零(かぬま・れい)だった。
同じような前振りで始まる記事は既に何件か発見しており、途中の文章や前半にアフィリエイトプログラムを入れる等の変化はあるが、内容はほぼ同じである。
『しかし、こうしたネット炎上や炎上マーケティングを一種の戦争と考え、更には――』
鹿沼の右手には、通販サイトで手に入れたと思われるような箱が――。
その梱包をはがすと――その中に入っていたのは1枚のブルーレイだったのである。
どうやら、こちらは同じ作品ではあってもブルーレイ化されたニューパッケージ版だが――内容に関しては変わらない。
『こうした作品が生み出されるような時代背景を作り出してしまう。何とも皮肉な話じゃないか』
作品のタイトルは、ネオパルクール・ダイヴ――英語で書かれている訳ではなく、カタカナでタイトルが書かれている。
この円盤を手に入れるきっかけになったのは、例のネット炎上事件を調べていた際に通販サイトをふとチェックし、そこで偶然発見した。
『しかし、これを現実化させようと言う勢力がいたとは――』
鹿沼は市役所でアニメ鑑賞をする訳にはいかないので、こればかりは自宅に帰ってから――と言う事になる。
8月17日、あるサイトのお粗末なまとめを目撃し、ため息を漏らしていたのは――。
「あまりにもアフィリエイト狙いすぎる。このような嘘だらけの、ゲームプレイヤーや実況者を題材とした夢小説レベルの記事は求めていない」
ARゲームのアンテナショップでセンターモニターを見ていたデンドロビウムだった。
既に彼女はARゲーム用のインナースーツを着用しており、臨戦態勢と言えるかもしれない。
「ネットを炎上させてライバルコンテンツが風評被害で自滅や崩壊――それに便乗して超有名アイドルが宣伝をする――その方式が何度も続けられれば、飽きられもする」
デンドロビウムは超有名アイドル商法を巡るコンテンツ事情も把握しているが、あまりにもワンパターンな炎上マーケティングが繰り返される事には呆れかえる。
「しかし、ワンパターンと言えど、方法を少し変えれば対処が難しくなるのは――チート対策と同じか」
センターモニターでは、新たなチートアプリに関するニュースが流れていた。
やはり、チートと同様にネット炎上を根絶する事は不可能なのだろうか? デンドロビウムは、改めて思う。
###エピソード49-2
青騎士騒動に便乗したまとめサイト勢を初めとしたメンバーは、ここ数日の内に大量検挙されたと言う。
大抵が超有名アイドルのファンサイトを運営していたり、アフィリエイトサイトを複数運営して利益を――と言えば、ご想像出来るだろうか。
この辺りは――センターモニターでのニュースで報道されているのだが、これが全国区になる事はない。
『次のニュースです。芸能事務所――』
ニュース番組でも最初に取り上げるのが、炎上マーケティングを展開していた芸能事務所の強制捜査なので――想像に難くない。
このニュースを見ていた視聴者も疑問に思う部分はあるのだが、ARゲームには直接関係ない話題と言う事もあり、風化しつつあるのだろう。
しかし、青騎士騒動が解決に向かっている中で――ある事件がネット上で注目を受ける事になる。
それは、ある青騎士が失踪をしたという事だ。青騎士の便乗は逮捕出来たのだが――。
何故に失踪と明言されているのかは明らかではない。その一方で、該当の青騎士だけ未だに発見できない事が今回の失踪に由来していた。
『青騎士(ブルーナイト)か――ネット上で噂になっている青騎士は他にもいると思うが、それではないのか?』
青騎士失踪の情報を集めていたのは、ジャック・ザ・リッパーだった。
ここ最近はスコアアタック程度の参戦だが、青騎士騒動が終息に近づいたので本格的なプレイを再開したとも言える。
それでもジャックの人気が下火になっている理由は、ガングート参戦が大きい。
彼女の参戦は色々な意味でもアーケードリバースでささやかれていたマンネリ化――それを打開するには十分だった。
その代償と言う意味で、ジャック・ザ・リッパー等の上位ランカーが逆に注目度を減らした、と言うのが真相のようである。
男性ランカーの場合、大抵がプレイヤーを題材とした夢小説が原因で引退するケースが稀に存在するが、彼女たちには無関係だろう。
むしろ、彼女達の場合はデンドロビウムやアルストロメリア、ビスマルク、ガングートと言った活動が活発なプレイヤーへの対策が急務かもしれない。
マッチングした時の対策よりも、行動パターンを研究する方が――と言うのは、動画サイトでの人気動画の傾向からでも分かる。
しかし、アーケードリバースは細かいアップデートで武器の弱体化や一部強化と言った事が行われる為か、一昔の動画でも研究材料にならないケースが多い。
『どちらにしても、今までのブランクを取り戻すには――時間がかかるだろうな』
そして、ジャックはセンターモニターを離れ、マッチング待ちをしているフィールドへと向かう。
どちらにしても、プレイ感覚等を取り戻すという意味でも――まずはマッチングに入り、そこで勘を取り戻すべきなのかもしれない。
『まずは――小手調べだ』
ジャックがマッチングしたのは、通常のバトルフィールドである。特に輸送護衛等がある訳ではないが、誘導対象は存在すると言う仕様だ。
純粋なバトルのみでは、別のFPSジャンルやアクション系と変わらないという事もあり、誘導対象が存在するが――それも最近では別のARゲームで登場している。
結局、完全オリジナルのARゲームと言うのは不可能なのだろうか? ルールが若干似たような物になるのも宿命なのか?
クールジャパン構想と言う物は過去にもあったが、それは政府主導だったり広告会社や芸能事務所のゴリ押しだったのが現状だ。
結局、芸能事務所AとJのコンテンツが宇宙進出でもして神になるかのような道を作る為のかませ犬を見つけ、魔女狩りをする為に――。
そう言う意味でコンテンツ流通の現状を曲解した結果、ガングートの様な人物が現れてしまったのが――政府等にとっても失敗だった。
裏で工作を行う程度等で済めば良かったのだが、国会が芸能事務所AとJに貢ぐような状態を週刊誌が報じ、文字通りの大炎上した事が――。
「相変わらずのテンプレパターンの炎上記事か」
ゲームフィールドに入る前のデンドロビウムは、ネット上のまとめサイト等を検索していた。
チートプレイヤーの出現率はチート対策強化等の影響で、現在は低くなりつつある。
「チートプレイヤーが減っているのは喜ぶべきなのか――」
デンドロビウムも本来は慈善事業的な意味でチートプレイヤーの撃破をしていた訳ではない。
チートプレイヤー狩り自体は、過去にも行われているのだが――ネット上では、皆無と言及されている。
まるで――何かの情報に辿り着かせないような細工をしているかのように。
『いつからARゲームは芸能事務所の所有物になった? お前達は地球の創造主とでもいうのか? 世界の神にでもなったつもりか?』
過去に自分が言った事を思い出し、少し頭を痛めた。
確かに芸能事務所AとJは無尽蔵とも言えるような金を奪う事で、各地の紛争を金銭面から無くそうと言うライトノベルも真っ青な事をリアルで起こそうとしている節がある。
しかし、このような事が本当に実現できるのか――こうした構想自体がフィクションにすぎないのではないか、と言う意見も存在する中で。
###エピソード49-3
8月18日、昨日には様々な事件がまとめサイトに載るような状態となっていた。
その状況をカオスだと言う者もいれば、地獄絵図と例える人物もいるだろう。
これでも怪我人等が出ていない事が奇跡と言えるのかもしれない。
ARゲームで未熟な腕でのアクロバットや運営が意図しない危険なプレイは行ってはいけない――と明言されている。
しかし、プレイヤーは有名になる為には動画サイトにあるようなスーパープレイをすれば目立てるだろう――と浅はかな考えをするだろう。
こうした浅知恵がARゲームを排除すべきコンテンツと芸能事務所側がマークし、自分達が正義だと明言して排除しようとする。
『結局、炎上マーケティングは繰り返される。やはり、規制法案が必須なのか――』
草加駅周辺には様々なギャラリーに混ざって、マスコミが――と言う事はない。
マスコミの方は、今頃のタイミングだと横浜だろうか。超有名アイドルのライブが行われている事もあって。
周囲を見回してマスコミではなく、炎上系まとめサイトの管理人を目撃してため息を漏らすのはジャック・ザ・リッパーである。
『規制をした所で同じような事を繰り返す人物がいれば同じだろう。それに、芸能事務所側が都合よく書きかえるのも目に見えている』
唐突にジャックの隣に姿を見せたのは、スレイプニルというARバイザーを装着した謎の人物だ。
スレイプニルと言う名前自体は、あまり聞かないような気配もしたが――アーマーの色を見て、ジャックは何となく察する。
『青騎士便乗か。そう言う事をすれば――どうなるか分かるだろう』
『そうか? 便乗しているのは――向こうだと思うが』
ジャックはスレイプニルの何か引っかかるような一言を聞き、まさか――と考えた。
この人物は便乗青騎士ではない。おそらく、ネット上でも言及されている本物の――。
『お前は――一体、何を考えている?』
ジャックが声のした方へ振り向き、ARガジェットのソードライフルを構えるのだが――既に、人影がない。
ステルス迷彩の類でも、ARバイザーのシステムをオフにすれば人影を見る事は可能だろう。
そして、ジャックは正体バレを覚悟の上でシステムを切る。
「いない――!?」
システムをすぐに切った後でシステムを再起動するにも、若干のタイムラグがある。
ラグなしの物もあるが、それは新型だったり――特殊ケースに限定されるだろう。
ジャックが若干の顔を赤らめているのは、システムを切った際に自分の姿が大多数の人間に目撃されただろう――と言う事に対して。
『なんてことだ――』
わずか10秒だが、ジャックとしてはあまり見せたくない光景――それを晒してまでもスレイプニルの姿を見つける必要性があった。
スレイプニルが青騎士(ブルーナイト)の便乗ではなく、正真正銘のヴィザールとしての青騎士である可能性も否定できないから。
ただし、彼女の巨乳と巨尻をわずかなタイミングでスマホ等で写真に収める事は無理ゲーである。
何故かと言うと、スマホの部類がARゲームの展開されているフィールドでは使い物にならない事は――皆も分かっているから。
それでも運よく拝めたような人間がいるかと言われると――残念ながら、存在しないだろう。
ジャックが顔を赤くしていたのは、素顔の方も晒された為である。
ARシステムをカットすると言うのはARメットの機能もシャットダウンする事を意味していたから。
巨乳と巨尻だけで誰かを特定するのも、コスプレイヤー等も姿を見せる草加市内では至難の業だ。
素人コスプレイヤーを1000人以上把握しているような人間でも、ジャックの本名まで割り出すのは――お察しください。
スレイプニルの行動が表面化したのは、ジャックが遭遇したこれ限りである。
敢えて言えば、この段階で表面化した――という意味で、だが。
スレイプニルの動向を調べていたのは、ジャックだけではない。
「最近、青騎士見ないな」
「便乗が捕まっているという事で、下手に名乗らないだけじゃないか?」
「自分は悪い事をしていない。堂々と名乗ればいいんじゃないのか?」
ギャラリーの声を聞き、アルストロメリアはノーリアクションで彼らと距離を取りつつ素通りする。
何故、素通りするのかは――彼らがいわゆるチートプレイヤーだと言う事が丸わかりだったから。
そして、アルストロメリアはARガジェットに表示されているアプリのボタンを押す。
【チートプレイヤーを通報しますか?】
表示されたメッセージを確認する事無く、彼女は【はい】のボタンを押した。
強く押したとしてもすぐに駆けつける訳ではないので――感情は押し殺している訳だが。
それから数分後、該当するギャラリーは自分達が何をしたのか分からないまま、ガーディアンに拘束される。
その理由がチートガジェットの所持だった事に気づいたのは、ガーディアンに拘束されてからガジェット検査を受けた時だった。
ここまでハイスピードにチートプレイヤーを摘発できるのか――と言われると、実は違う。
アルストロメリアは密かにふるさと納税を多く支払っている事を理由に、アーケードリバースの運営にアイディアを送っていたのだ。
そのアイディアの一つがチートガジェットの通報システムである。
当然、プレイヤーであれば知っていて当然なシステムだが――そこまでガイドラインを読むようなプレイヤーもあまりいないので、読み飛ばされる落ちだ。
アルストロメリアとしては、アーケードリバースをプレイするのであれば熟知していて当然――と考える。
「桶は桶屋――チートガジェットはガーディアンに」
アルストロメリアは、この手法を使って全体の2割に該当するチートプレイヤー摘発に貢献していた。
これを一種の密告と見るべきなのかは――プレイヤーにゆだねられるだろう。
###エピソード49-4
8月19日、芸能事務所の不祥事が次々と週刊誌等が報道し、ネットは炎の海に包まれている。
しかし、ARゲームに関しては芸能事務所とは無関係と言う事もあり――炎上なんてものともしない。
過去には超有名アイドル商法やコンテンツ流通で第炎上していたのだろうが、青騎士騒動等もあってか様々な部分が強化されたように思える。
「そう上手い具合に問屋は降ろすかな?」
あるまとめサイトの記事を見て思うデンドロビウムの姿が、そこにはあった。
超有名アイドル商法で炎上と言うのは日常茶飯事であり、それこそ芸能事務所AとJが主導的に行っている感じさえする。
その上に、一連のイベントでも出来レースやマッチポンプという言葉がネット上に広まるほどには――この芸能事務所2社が行っている事の重さは――。
「遂に、こちらが真の意味でオペレーションを発動するべき時が――」
デンドロビウムと同じまとめサイトを見ていたのは、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。
ARメットはしているものの、ボイスチェンジャーの類は使っていない為に男性と言うのが分かるのだが――。
「各部署に通達! 何としても、芸能事務所AとJの暴挙とも言える行動を阻止し、コンテンツ流通に本当の意味でのしのぎ合いを復活させるのだ!」
まるで戦艦の艦長であるかのような口調で運営本部にいるスタッフや部署のメンバーに指示、その手早さは過去の事件における反省点を生かすような気配さえ感じられた。
何故、山口は芸能事務所AとJの暴挙を突きとめられたのだろうか? 彼の情報源はまとめサイトだったのか?
「本当の意味でコンテンツ流通が正常化すると言うのは、こう言ったファン同士の炎上や一部企業や広告会社によるマッチポンプではない――」
もしも、この場に橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)がいたとしたら――この行動を取るかもしれない。
コンテンツ業界を思うのであれば、一つのコンテンツに執着する事とは違う選択肢を取るべきだ、と。
「一つのコンテンツが爆発的に売れれば、そこに依存するのは当然だが――そればかりでは面白くないだろう」
山口は周囲に指示を出しつつも、タブレット端末で何かの状況をチェックしていた。
それは、いわゆる一つの実況と言う物で――ネット上が炎の海に包まれた、今回の事を実況していると思われる。
「正解は一つではない! 超有名アイドルAとJが日本で売れているアイドルだからと言って、海外で同じ手法が通じるとは到底思えない!」
山口は叫ぶ。タブレット端末を持つ手も震えているのだが、それを落とそうと言う気配はない。
落とせばタブレット端末が壊れるのは当然だが――その音でスタッフを動揺させても危険だと判断したのだろう。
「変わるべきなのだ――復讐とか無限の利益とか、唯一神とかご都合主義とか――そう言った物はコンテンツ流通に求める感情じゃない!」
何としても止めなくてはいけない――そう山口は思った。
だからこそ、彼はスタッフに全力で指示を行い、今回の騒動に関する情報収集を急がせる。
真犯人を見つける為にも――コンテンツ流通に悪例を生み出し、それが戦争の引き金となる事を避ける為にも。
橿原の方も一連の事件に関して、秋葉原からだが見守っていた。
今回の騒動は草加市だけの問題ではない――聖地巡礼やコンテンツ流通と言う意味でも、避けては通れない道なのだろう。
「ファンマナーの問題は今までも何度か言及されているが――」
繰り返される悲劇の連鎖――アイドルの解散や引退などを引き金にして、ネットが炎の海に包まれるのは、事例が数えられないほどある。
それはネットがない時代でも同じであり、結局はネットを舞台にしても同じ事が繰り返されていた。
止めようとすれば止められる。しかし、ファンの暴走は――未だに止まっていない。
「ネット炎上禁止法案を出せば、ネット炎上を止められるのか――それが違うのは、あのアニメでも言っていたはずだろう」
彼は今すぐにでも草加市へと向かい、一連の事件を止められれば止めたい所ではある。
しかし、彼にもやらなければならない事――ARゲームの未来を変える為にも、立てておく必要のあるフラグがあった。
その一方で、同じように芸能事務所AとJの暴挙を止めようとする別の勢力がいた。
その正体とは――ネット上でも驚きの声が出るほどの存在だったのである。
『そう言う事か――芸能事務所AとJを、あの作品で悪の勢力として書かれていた、あの勢力に仕立てるつもりか』
ジャック・ザ・リッパーは、何とも迂闊な事を――と考えていた。
ネットの情報を鵜呑みにして――まとめサイトが神であるという認識をすれば、このような事は容易に想像出来るだろう。
少し考えれば何とか理解できるような事を、ジャックは見落とししていたのである。
その見落としをしていたのはジャックに限った事ではないのだが――約1名を除いて。
「暴挙と言えるのは、芸能事務所AとJだけじゃない――様々な要因が、コンテンツ流通を妨害している」
まとめサイト等をタブレット端末で閲覧していたのは、アルストロメリアだった。
彼女は、自分が投資を続けてきたとも言えるアーケードリバースがどのような未来をたどるのか見届けたいと思っている。
だからこそ、今のタイミングで第炎上をするという事は避けないといけない。
「いっそのこと、あの芸能事務所が手を出せないようなシステムにするべきだったのか――ARゲーム全体を」
しかし、そんな事をすればARゲームは足立区や秋葉原を含めた一部地域だけの物となり、全国区になるには厳しくなる。
だからこそ、ある程度の意見は妥協する事で他のスタッフからも信頼を得て――アーケードリバースを広める事が必要だった。
「しかし、ARゲーム全体を活性化する事を理由にしたとしても――」
その一方で、彼女は懸念を抱いていた。
アニメ『ネオパルクール・ダイヴ』をなぞるような状況、展開、それに――。この計画を動かしたのは自分ではないが、一応の反対意見は出している。
ARゲームの秩序を守る為に、他のコンテンツを利用する事が正しいのかどうか。
ソシャゲにおける他作品コラボ等は事例がない訳ではないのだが、今回の例は該当しないだろう。
まるで、超有名アイドルが音楽番組でかませ犬を用意して宣伝をするのと同じ手段――そうなる事をアルストロメリアは懸念し、今回の計画には反対した。
しかし、スケジュールの関係で焦った一部勢力が仕掛けてしまった今回の計画を、止める手段を彼女は持ち合わせていない。
その上に、過去に例の事件を引き起こしたガングートの出現は――。
###エピソード49-5
間違いなく、一部勢力にとっての想定外と言える存在――それがガングートだった。
ガングートの名前を一部勢力は当然知らないし、彼女の過去とも言える経歴は抹消済――あの事件の当事者である事は、名前からでは分からないはず。
しかし、ガングートの顔を見てあの人物だと特定できた人物は指折り数える程度しか分からなかったと言う。
「あの人物が――」
最初は疑いを持ちつつも、顔を見て地下アイドルのメンバーと気付く人間もいた。
しかし、その人間はネット上に正体を拡散する事はなかったと言う。その理由は分からない。
ネットが大炎上し、それこそテロ事件の様な事件が起きれば――ARゲームは間違いなく終わる。
「彼女がガングートだったのか――」
ガングートの名前を知った後で、正体に気付いた人間もいる。
それは、過去にARゲームを荒らしまわっていた北条高雄(ほうじょう・たかお)だった。
今の彼女はARゲームはプレイしつつも、チートプレイヤーを狩り取ったりする事はしない。
過去に行った自分の行為が簡単に許されるとは思わない。
だからこそ、彼女はハンドルネームを変更し――別のARゲームをプレイしていた。
現状の高雄では、今のアーケードリバースに首を突っ込む事は出来ないだろう。
ある条件を提示され、その条件を彼女が飲んだ上で条件付きの保護観察となっているのだ。
観察期間は1週間――既に期限は切れていると言ってもいい。
彼女がプレイしているARゲームはARリズムゲームと呼ばれるジャンルで、エアギターと言ってもいいガジェットを手に演奏をするという物だ。
アーケードリバースともジャンルが異なるので、今までのスキルが役に立つ事はない。
しかし、高雄はゲームを楽しむ事の意味を――改めて教えられる事になった。
午後3時、ガングートはARアーマーを装着する事無くアンテナショップを見て回っている。
何故に見て回っているのかは分からないが――同じ場所を行ったり来たりではなく、色々なエリアを見て回っていた。
自分の装備に不満があると言う様な表情ではないのだが、彼女の表情は深刻そうな――。
何に対して深刻なのか、それを見て分かる人物はいないだろう。
彼女はARバイザーをしていないので、表情を確認出来ない訳ではないと思うのだが――。
ガングートが様々なガジェットを確認していたのには、チートの有無ではないと思われる。
チートガジェットを売っていれば、明らかに違反で店舗が閉鎖されるのは明らかだろう。
一体、彼女は何を調べているのか? QRコードを読み取って何かをチェックしているのを見る限りでは、冷やかしではない可能性が高い。
しかし、店員が彼女に近づこうとはしなかった。スタッフの方も下手に声をかけてトラブルに発展するのは避けたいのだろう。
「どれも重量が――」
ガングートが気にしていたのは、装備重量である。ARガジェットの為、ゲーム中での重量を意味しているのだが――。
スピードタイプであれば重量のあるタイプのアーマーは使用しない。それに加えて、ゲームによっては重量オーバーで動けなくなるジャンルもある。
さすがにアーケードリバースでは重量設定はない為、あくまでも移動速度のみに関係する数値と言ってもいい。
最終的に彼女が手にしたのは、ロングライフルユニットとランチャーユニットである。
手にしたと言っても、ARガジェットの箱は1/700位の戦艦模型と同じ位のサイズだ。
箱の厚さは5センチほどあるのだが――。
購入してから数分後、アンテナショップを出たガングートは隣にあるARゲームフィールドへと足を運ぶ。
ガジェットを早速試そうとしているらしいのだが――まずは、ガジェットがゲームに適合するかを調べる。
「これをお願いします」
ガングートは購入したARガジェットを箱から取り出し、2種類のガジェットをスタッフに預ける。
男性スタッフは、受付から少し離れたチェックする機械にARガジェットを置く。
その後に何かのスイッチを入れ、チェックを始めたようである。
チェック項目は多岐にわたるようだが、企業秘密の箇所もあって――ガングートでもその様子を見る事は出来ない。
唯一の例外があるとすればARゲームの運営スタッフかもしれないが、その辺りのマニュアルが非公開なのでネット上の憶測と言える。
5分が経過して、男性スタッフから預けられたガジェットが戻される。
「問題はないようです。アーケードリバースでも使用可能ですよ」
そう言われると、ガングートはほっと一息をつく。
大きな買い物をしたので、それが無駄になっては――と考えていたのだろう。
しかし、ガジェットの大きさはそれ程でもないのに、パッケージ絵では人間よりも巨大に描かれている印象だった。
このサイズでもARガジェットが別の意味で恐ろしい物かは――この後に、嫌でも分かるかもしれない。
###エピソード50
アーケードリバースには、基本的にシングルマッチは存在しない。
シングルマッチと言うよりは、マッチング切断等による補助システム、あるいは店舗専用オプションに限定される。
アーケードリバースのプレイ人口が伸びない理由として、マッチングプレイ必須と言うスタッフも少数意見で存在していた。
「マッチング必須は格闘ゲームで対人戦オンリーにしているような物――」
「しかし、対人戦でもマッチングの差が出ないようになっている以上は、問題ないのでは?」
「格闘ゲームだと初心者狩りが問題になっている。FPSでもフレンドリーファイア等の問題があるだろう――」
「どのジャンルでも、全く問題がないというジャンルはない。ゲームバランスの規模に違いがあるが、問題はあるだろうな」
「その括りとは別に問題なのが――チートと言う事か」
「当然だろう。チートは陸上競技などで言う所のドーピングと同じ物。あれを認める訳にはいかないだろう」
周囲のスタッフと思わしき人物のつぶやきも聞こえるが、特にガングートが意識するような事はなかった。
ノイズキャンセルの類がARバイザーについている訳ではないので、聞こえているかもしれないが。
結局、ガングートが使用する事にしたのは購入したガジェットの内、ランチャーユニットだった。
ランチャーは専用ガジェットで読み取り後、ARアーマーの両肩に装着されたのだが――。
「そう言う事か。威力と引き換えに、機動力が失われるのは――バランスの仕様上か」
ガングートは装着後の数値を確認し、攻撃力と引き換えに機動力が減っている事に気づいた。
これが減らなければ、明らかにチートと言われても仕方がないだろう。中には、武装の組み合わせ的に不可能な組み合わせもあるのだが――。
【この組み合わせは――ありなのか?】
【チートの様な組み合わせでなければ、アーケードリバースでは問題ないと聞く】
【組み合わせ以前にチートアプリやガジェットの持ち込みは、明らかに論外だが】
【それでも、あの装備は遠距離特化型――大丈夫なのか?】
【格ゲーのパターンを確立しているような物とか、無限コンボでなければ――問題ないと思う】
【フレンドリーファイアはペナルティが大きいと聞く。あれでは味方も巻き込むだろう】
つぶやきサイトでも、ガングートの装備に関しては三者三様の意見が出ている。
それらの意見はつぶやきのコメントなので、ガングートがチェックしているとは限らないが。
ガングートがランチャーユニットを装備した外見は、明らかに艦艇擬人化のソレと似ているのでは――と言う反応もあった。
しかし、どの作品なのか特定出来ないのと向こうが意識しての装備ではないので、あまり言及する人間はいない。
あのカスタマイズで、そっくりだと言い出したら狩りゲー装備や神話モチーフ等はどうするのか?
細かい所まで権利関係等で縛っていったら、それこそ汎用装備と固定組み合わせ以外はNGと言いかねない。
カスタマイズを楽しむというジャンルの場合――明らかにアウトな部類以外は黙認をしている気配がする。
FPSの場合、キャラカスタマイズはカラーリングのみと縛っている物もあるかもしれないが。
「あのデザインで確信犯とか言っている連中は――」
ガングートのARアーマーを見てアルストロメリアは、つぶやきコメントに対してバッサリと切り捨てる。
アーケードリバースの場合、ガジェットカスタマイズ等は厳重にチェックされているのだ。
チートチェックと言う事もあるのだが、それ以上に超有名アイドルの宣伝となるようなカラーリング、装備、マーキングも禁止されている。
それを踏まえて、一部の装備が別の作品とそっくりなだけで禁止にするのもお門違いだろう。
その装備がバランスブレイカーであれば、制限や規制を入れる可能性は高いのだが――。
「ARゲームで重視されるのは、ゲームとは無関係な所で炎上させる行為や――政治的要素の介入、それに――」
アルストロメリアが他にも何かを言おうとしていたのだが、その間にガングートと他のプレイヤーのマッチングが成立していた。
もうすぐバトルが始まるようである。レベル的には周囲のプレイヤーがガングートよりも上だろうが、技術はガングートの方が上だろうか?
その状況下で、ガングートはどう立ちまわるのか――注目する部分は、そこにあった。
###エピソード50-2
ガングードのプレイは、他のプレイヤー視点から見ても評価できる物だったと言える。
どの辺りを評価と言う点に関しては――賛否両論なのは、ゲーム故の宿命か。
技術面は他のプレイヤーよりも間違いなく目立っていただろう。しかし、やはりというか連携という箇所は賛否が分かれる。
それは少し前までのプレイの話であり、過去の動画による物が多い。果たして、現在はどうだろうか?
「ガングートのプレイは、回数を重ねる事に技術が向上しているだろうが――」
センターモニターでプレイの様子を見ていたのは、アルストロメリアである。
その姿を周囲のギャラリーは分かっているだろうが――誰も指は差さない。それ程に危険人物と言えるのだろうか?
「どちらにしても、ARゲームではワンパターンや必勝パターンと言う概念は――ジャンルによってゼロに等しい」
アルストロメリアは、サブモニターで中継されている試合で注目の試合がない事を確認し、ガングートのマッチングを見守る事にした。
案の定というか、チームの平均レベルは低いメンバーばかりである。
こればかりは――初心者狩り防止の観点からして、仕方のない部分でもあった。
6対6バトル、ガングートは赤チーム、青が敵チームと言う事になるだろう。
お互いに目的は相手ゲージを割る事である。特に輸送任務などは存在しない事も、初心者モードによる物だろうか?
赤チームはガングート以外が青チームに攻撃を仕掛けるのに対し、青チームはガングートへの集中砲火を仕掛ける。
その理由としてはガングートが他のメンバーよりも出撃コストが高い事にあった。
【出撃コストの高いプレイヤーが集中的に狙われるのは、アーケードリバースでは基本中の基本だ】
【だからこそ、他のプレイヤーは火力や装甲よりも機動力を選ぶ――】
【機動力を持ったプレイヤーが高コストプレイヤーを集中砲火すれば、バトルを一方的に終わらせる事も不可能ではない】
【それを、向こうは知らなかったのか?】
【知っているだろう。それを百も承知で、赤チームはガングートを餌に利用している】
【青チームが無策であれば――だろう? そう簡単に事が運ぶか?】
【一昔前の戦略が通じなくなるのは、ARゲームでは常識だ】
つぶやきのコメントや動画で流れるコメントでも、ガングートが無謀だと言う事は言及されている。
しかし、アーケードリバースは青騎士騒動後、チート検知の強化や様々なバランス調整を行っており、過去の戦術が通じるかは未知数だ。
仮に通じたとしたら、それは情報収集能力に欠けている事を意味しており、情報戦で後れを取っている事を意味しているだろう。
ゲーム中でもコメントの確認は可能となっているジャンルがあるが、アーケードリバースでは確認機能はない。
これは、スパイ防止や八百長対策と言った意味合いがあると言う。ネット炎上でよくあるような行為がゲーム上で起きないのは、この為だろうか。
「このバトル展開であれば――読めたな」
アルストロメリアは、途中から試合結果を確認する事無く別の場所へと向かう。
もしかすると、ARゲームの順番が回って来たのだろうか。彼女がエントリーしていた機種は、ここにはなかったという事なのか?
ガングートのプレイは、エントリーしたての荒削りよりは成長しているだろう。
しかし、この成長速度は――リアルチートと言われてもそん色ないかもしれない。
【信じられない。あれだけのスキルを短時間で――】
【プロゲーマーと言う噂もあるが、だからと言ってARゲームの操作は特殊なはずだ】
【知識チートか?】
【相手が単純にチートガジェットを使っていただけかもしれない。そして、チートが検知されての強制弱体化とか?】
ガングートが次々と相手チームのプレイヤーを機能停止させていく様子は――Web小説であるようなチート主人公の無双状態にも似ていたと言う。
しかし、仮にもプロゲーマーであるガングートが、そこまでのスキルを短期間で身に付けられるのか?
もしかすると、相手プレイヤーがチートを使用していた事で強制弱体化をしていたのかもしれない。
様々な憶測がコメントで飛ぶ中、彼女は次々と相手プレイヤーをランチャーユニットで機能停止にしていき、ゲージを減らしていた。
その減らし方に関しては、味方チームのプレイヤーからも疑問の声が出るほどである。
「本当にプロゲーマーだったとは――」
「プロゲーマーでも、短期間やプレイ回数が2ケタになったばかりで――あそこまで立ちまわるのは、おかしいだろう?」
「プロゲーマーではないような人物で、あそこまで迫るかどうかは不明だが、常識が通じないプレイヤーなら心当たりがある」
ガングートのプレイスタイル、それは味方プレイヤーや相手プレイヤーにもある人物を連想させる。
しかし、相手側は気づいた所で対処の使用がない。つまり――詰み状態なのだ。
「もしかすると、ガングートのプレイスタイルはデンドロビウムの動画をまねている可能性がある」
それこそ尚更――と言う様な考えが飛び出した。ガングートが参考にしたのは、デンドロビウムの動画だと言うのである。
これに関しては疑問に思うプレイヤーは多かったが、プレイスタイルを見る限りでは――酷似していると言えなくもなかった。
「さすがに武器が異なる、プレイ回数的な部分で違う個所もあるが――ほぼ間違いないだろう。100%トレスとは言えないが――」
それを踏まえると、味方プレイヤーも敵に回さなくてよかった――と思うようになる。
しかし、有名ランカーとは敵になる事もあるのはアーケードリバースでは宿命であり、いつかはガングートとも当たるだろう。
これこそ、マッチングシステムの宿命と言うべきか――。
###エピソード50-3
ガングートの実力は、ある意味でも知識チートの類で片づけられるような物ではなかった。
彼女としてはデンドロビウムのプレイ動画を見ただけなのだが――それだけでスキルが身に付くとも周囲は思いもしないだろう。
その一方で、ガングートが本当にプレイ動画を見ただけで――あそこまでの動作が出来るのか?
その疑問を持っていたのは、一般人ギャラリーもそうだが、ある人物も疑問に持っていた。
『あのガングートと言う人物――本当にARゲーム未経験なのか?』
ある疑問を持っていたのは、ARメットを装着した状態の山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)だ。
彼もガングートのプレイ動画を見て、ふと疑問に思う部分がある。
『あの場合は、ARゲームのエアプレイ勢が本格的に参加したと言うべきなのか、それとも本当に――』
ARゲームのエアプレイで二次創作の夢小説を書いているというケースは、まとめサイト等で言及されて炎上する事があるのは山口も知っていた。
しかし、ガングートのプレイ技術はプロゲーマーと言う事を差し引いても疑問に思う個所が多い。
『ガングートの経歴自体が不明確すぎる。ネット上の情報も参考になる物が少ないのも痛いが――』
彼女の情報が少ない事は非常に痛いのだが、ネット上にある物が大抵は超有名アイドル商法の炎上ネタに利用されている物か、都市伝説しかない。
本当に日本政府が情報を意図的に隠していると言うのか? さすがに――そこまでの規模で隠さないといけない人物なのか、それも疑わしいと考えている。
ガングートのプレイ終了後、彼女はアーマーを外して別のアンテナショップへと向かおうとした。
アンテナショップによって、未対応フィールドがあると言うのも大きいのだが。
『ガングート……君は色々と知り過ぎている。だからこそ、日本政府から国籍を抹消された――違うか?』
自動ドアに近づこうとしたガングートを呼びとめたのは、山口と思われたが――。
「私は異世界出身――日本国籍など知らない」
『あくまでも、話さない気か』
「こっちとしては、厄介事は起こしたくないのだが」
『ソレはこちらも同じだ。それに――』
ARメットの人物はガングートに向けて、ARウェポンのショットガンを突きつける。
しかし、向こうもARガジェットをテロ事件等に使う事は禁止されている事は知っているので、あくまでも威嚇まで。
その光景をギャラリーは見ていても、運営に通報する気配はない。
ARフィールド以外ではARウェポンが実体化する事はないので、ウェポンが実体化している以上は――。
『あちら側の人物が介入するとは、ある意味で予想外だが――それは、越権行為ではないのか?』
2人の会話に介入した人物――それは、ジャック・ザ・リッパーだった。
そして、ジャックが越権行為と言っている人物は、もう一人のARメットをした人物の事だろう。
『そこまで言いますか? 私は、これでもARゲーム課の人間――正しい認識を広めようと言う意味では、あなた方と一緒のはず』
先ほどの人物の正体、それは鹿沼零(かぬま・れい)だったのである。
どうやら、山口に偽装して様々な場所に姿を見せていたのは、彼のようだ。ただし、何処まで介入したのかは分からないが。
『ARゲームを広めようと言うARゲーム課の広報活動は理解できるが――全てを自分達だけで動かそうとし、プレイヤーの意見を無視するのは――』
しかし、ジャックが喋っている途中で男声にノイズが入り――女性の声に変化していた。これは、一体どういう事なのか?
『越権行為と言うのは、超有名アイドルが自分達の人気を不動のものにする為に、他のライバルをゴリ押しでネット炎上させ、衰退させる――そういう例えですよ』
鹿沼はジャックが話をしている途中で、何かのシステムを起動させていた。ボイスチェンジャー機能の不具合は、それが原因だろうか。
『ARゲームを広める為に他のARゲームをかませ犬のような扱いにしていない我々を、そういう例えにしている事こそまとめサイトで炎上案件として取り上げられるのは――』
「黙れ! ARゲーム課にも話せばわかるような人間はいるが――貴様だけは例外だ、鹿沼零!」
ジャックは、不調のボイスチェンジャーをカットし、ARメットのシステムも一部解除した。
そして、遂に見せた素顔は――。
「ジャックって女だったのか?」
「その割には、何かおかしくないか」
「確かに。本来のジャック・ザ・リッパーは男性を指す言葉だ」
「性別を偽って、今まで活動していたのか」
「ARゲームに性別は関係ない。重視されるのはプレイヤーとしての力量だ」
周囲のギャラリーもジャックの素顔を見ても、あまりリアクションの方は薄い。
歓喜の声を上げるような人物は、一握りに過ぎなかったのも――ARゲームに容姿は重視されない事を意味していた。
『ジャック・ザ・リッパー、まさか君が女性だったとは――こちらも予想外だったよ』
デンドロビウムやアルストロメリアの事例もあるし、プロゲーマーのビスマルクやガングートの事例もある。
容姿はオッドアイに金髪の美少女でも――ARゲームのアバターを使っている可能性だってあった。
そう疑えるほどに、草加市はゲームとリアルの境界線が歪んでいたのかもしれない。
だからこそのARゲーム課――だからこそのふるさと納税の返礼品、様々な要素がゲームに対する風評被害防止だったのか?
###エピソード50-4
本来はタイミング的に正体を見せる時期ではなかった。しかし、彼は――鹿沼零(かぬま・れい)はスケジュールを早める事にしたのである。
その結果として、ジャック・ザ・リッパーは今まで見せていなかった素顔を見せる事になった。
彼女の素顔が絶世の美女だったとしても、ARゲームでは全く関係のない事であり――。
「鹿沼、お前が以前のロケテストで行おうとしていた実験――忘れたとは言わせないぞ」
彼女のいう実験に関しても周囲のギャラリーにはピンとこない。
それに、ロケテストを利用して様々なテストを行っているのは日常茶飯事であり――申請が通れば問題はないはず。
『こちらとしても、以前に武者道がやろうとしていた事は――都合が悪いのですよ』
「プレイヤーの意見を無視し、自分達の都合のよいビジネススタイルを確保するつもりだったのだろうが!」
鹿沼のいう武者道とは、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)の会社だ。
そして、ジャックの言及するビジネススタイルとは――?
『ビジネス? クラウドファンディングであれば、そう受け取られても問題はないだろう』
「ネット炎上を回避する手段として、ふるさと納税を隠れ蓑にしたというのならば――」
『確かに、不特定多数からの支援金よりも、税金の方が色々と好都合な部分もあるだろうが――』
「税金でこういう事をするから――芸能事務所側が、ゴリ押し手段を加速させるのだろう!」
『その芸能事務所こそ、諸悪の根源とは思わないのか? ライバルコンテンツを政治家やまとめサイトの力を利用して炎上させ――存在自体を消滅させる』
話は完全に平行線であり、それこそ炎上サイトのネタに利用されかねないし――週刊誌の記者がいたら、それこそ大スキャンダルになるだろうか。
それ程の事を鹿沼は言っているのだが――それを正確に理解できる人間がいるとは思っていない。
それを踏まえての発言の可能性が高いだろうか? 彼の狙いは本当に何なのか?
「鹿沼、お前は確か――超有名アイドルが自分達の人気を不動のものにする為に、他のライバルをゴリ押しでネット炎上させ、衰退させる――それを越権行為と言ったな?」
『その通りです。ARゲームは正しいプレイスタイルで広める必要性がありますが、悪質なマナー違反をしているプレイヤーは取り締まるべきです』
「今までチートプレイヤーを全て駆逐すれば、ARゲームは正常化すると思っていた。しかし、現実はどうだ?」
『チートプレイヤーが1割減った事で、風評被害は減りましたね』
鹿沼の方は未だに冷静であり、ポーカーフェイスを崩さない。ARバイザーで素顔は見る事が出来ないので、そう言う表情をしているという予想でしかないが。
「しかし、ソレとは別にチートプレイヤー狩りと称して――チートアプリ等を使っていない強豪プレイヤーをリアルチートとして通報する人間が出てきた」
『それは芸能事務所に雇われた炎上勢力が拡散している、虚構ニュースでしょう。運営側も、そこまで――』
「北条高雄の様な人間が出てきても、同じような事が言えるのか!?」
鹿沼の否定に対し、ジャックは北条高雄(ほうじょう・たかお)の名前を出して反撃を行う。
しかし、それでも動揺をしているような素振りは見せない。
あくまでも――ここは自分の意見を押し通す気だ。まるで、芸能事務所側とやっている事が――。
ジャックの素顔に関してはネット上でアップされていない。その理由として、彼女のいるARゲームフィールドは強力なジャミングが展開されているためだ。
そのジャミングも鹿沼の仕掛けたものかもしれないが、真相は本人も言及していない為に――。
『何故に、あなたがARゲームの情報を集めていたのか――それは疑問に思いますが』
「自分のプレイするゲームの歴史を調べるのに、理由がいるのか?」
『エアプレイによる二次創作が問題視されるようなご時世なので、情報を収集する事に違法性はありません――それにも限度はありますが』
「公式サイト以上の情報が裏サイトならば手に入る――それを本気で思っているのか?」
ジャックはARゲームの情報を仕入れつつ、実際のゲームをプレイしていた。
エアプレイと呼ばれるような勢力と見られないように、彼女なりに考えた末の結論である。
『確かに。ARゲームの機密情報となると、それこそ命を狙われるでしょうね。国家レベルで――』
「一体、どういう事だ? まさか、アカシックレコードの――」
ジャックがあるキーワードに言及しようとした時、途中から放置されていたガングートがオオカミの様な目つきでジャックをにらみつける。
「アカシックレコード、その言葉は一般人が言及していい物ではない!」
ガングートが別のハンドガンをジャックに向けて構えるのだが、それを見た鹿沼も何かを焦ったかのように指をパチンと鳴らしてジャミングを切った。
『鹿沼! 私は、お前の事を許す訳にはいかない! それこそ――』
ジャックのボイスチェンジャーも正常に戻り、改めてARバイザーを展開して素顔を隠した。
ガングートはジャックの素顔を見たとしても無反応だったので、顔は関係ないと考えているのだろうか?
「この世界――ARゲームがフィクションの世界と証明できる技術、それを記したアカシックレコードは――政治家や利益を求めようと言う勢力に渡す訳にはいかないのだ」
ガングートは本気でジャックをにらみ続けている。ジャックとしてはガングートと戦う気は全くない。
しかし、それでも――彼女がジャックの警戒を解除するような様子もなかった。
『教えてもらおうか? アカシックレコードに何が記されているのか? 政治家等に渡したくない理由を』
「それを教えれば、また戦争が起きる。ARゲームがリアルウォーになるレベルで」
『過去に言及され続けていた【虚構が現実化する】と言う事案か。アニメやゲームのキャラが具現化するような――』
「アカシックレコードの記述がFX投資をするような連中に渡せば、それこそリアルウォーが起きる――」
ガングートの言うリアルウォーに関しては、色々とオブラートに包んでいるようだが――間違いなくアレだろう。
アカシックレコードの技術に、それだけの物が存在するのか――コンテンツ流通がリアルウォーの引き金になるのか?
ジャックには理解の限界を超えているのかもしれない。それ程に、ガングートの発言はネジが飛んでいるとしか思えない物だった。
###エピソード51
8月20日、ジャック・ザ・リッパーは改めて思い知る事になった。
ARゲームが少数派の意見を取り入れるような事はせず、多数派の意見によって動く事を。
しかし、アーケードリバースの場合の多数派とは何なのか?
ジャックは疑問に思う部分がある。青騎士騒動の時も、それ以前のロケテストでも――。
『アカシックレコードの記述がFX投資をするような連中に渡せば、それこそリアルウォーが起きる――』
あの時、ガングートははっきりと言った。アカシックレコードは存在する事を――。
アカシックレコードに関しては、色々と言われているのだが――ARゲームでアカシックレコードと言うと、一連の技術が該当する。
「アカシックレコードが存在する事は、ネット上でも様々なジャンルから言及されている。超有名アイドルも――それを独占しようとしていた」
ジャックは、改めてネット上の情報を整理しようとするが、今回に限ってはまとめサイトを使用しない。
あくまでも大手のニュースサイトだけで情報を集めようと言うのである。
ARメットでサイトへアクセスしようとするのだが――何故かサイトがつながらない。
エラーと言う事であればネットその物が使えないので、大手のサイトだけが繋がらないと言う事は――。
「先手を打たれたという事か」
ジャックはARメットを解除し、タブレット端末で検索しようとも考えたが――結局は同じだった。
つまり、大手ニュースサイトを草加市内では閲覧できない異常現象が起きていたのである。
大手ニュースサイトの接続が出来ない件は、朝のニュースでも報道されていたのだが――あまり知られていなかった。
その原因として、この話題を視聴率稼ぎの虚構ニュースとしてスルーしていた人間が多かった事にある。
それに加えて東京では閲覧できたこともあって、単純に草加市が戒厳令や情報規制を始めたともネット上で噂されたが。
『ここまでの事を出来る連中は――あそこしかない』
鹿沼零(かぬま・れい)は昨日のジャックの件が失敗だったと反省しつつも――若干焦っていた。
スケジュールを早める事自体は問題はない――どちらにしても、作戦実行は数日後だったから。
しかし、ジャックが北条高雄(ほうじょう・たかお)の名前を知っていた事が――大誤算とも言える物だったのである。
『北条――そう言えば、反ARゲームの連中が彼女を祭り上げていたか』
ARメットの影響で指は噛めないが、それに近い仕草をしながら反ARゲーム勢力に関して考えていた。
反ARゲーム勢力と言えば、アーケードリバースに関してもふるさと納税で運営資金を集める事に反対していた勢力である。
市議会議員から賄賂を受け取ってふるさと納税の件をゴリ押しした等の怪文章も、彼らの得意技だ。
午前10時にはニュースサイトが接続できない件は解消された。その一方で、別の問題も浮上する。
その一つが反ARゲーム勢力が大量検挙された事。これに関しては別の意味でもご都合主義だ――という意見も。
「反ARゲーム勢力が、警察の強制捜査を受けているようです」
『!?』
「理由は不明ですが、ニュースによるとある政党に裏金を回していたとか――」
『それこそ、尚更じゃないのか?』
「まさか、あの悪名高い野党が手を貸していたのでしょうか?」
『風評被害狙いか?』
「一概に、そう言えるかどうか不明な部分もあって――」
男性スタッフから、思わぬ話を聞き――鹿沼は若干の動揺を隠せない。
反ARゲーム勢力はVRゲームにも反対意見を出し、炎上させている噂も絶えないのだ。
その勢力が――強制捜査を受けると言うのもご都合主義としか表現できない程の事態だったのである。
###エピソード51-2
同日午後、ニュースサイトの一件も解決した頃――動きを見せたのは予想外の人物だった。
「未だに青騎士を名乗れば有名になれる――そう思う人間がいるのか」
アーケードリバースで青騎士便乗を撃破しているのは、デンドロビウムである。
今回の青騎士便乗勢力は、便乗騒動後にネット上の情報を仕入れて青騎士を名乗り始めた勢力であり――実力としてはチートガジェットの使用プレイヤー以下だ。
そのようなプレイヤーにデンドロビウムが遅れを取る訳がなく、軽くあしらう事もなく――デンドロビウムは全力で排除する。
それが、ある意味でもオーバーキルだったのは反省するべき点かもしれないが。
「ネットを炎上させれば自分が目立てる――そういう人間がいるからこそ、ネットで発言する人間全てがネット炎上に関係すると言うレッテルを貼られる」
デンドロビウムの持つ武装は、何時も使っているような武装ではない。
しかし、手加減等をしたのではないのは彼女の動きから見ても明らかであり――。
「ネットを炎上させ、それで誰かが命を落とせば――ネット炎上はリアルウォーと同意義となるだろう」
デンドロビウムも――ある人物と同じ事を言う。
彼女も同じようにリアルウォーを否定するのだろうか? あるいは平和主義や非暴力でも貫くのか?
実際には――そう言った考えではなく、リアルウォー化する事でARゲームが政府から規制され、それこそ風評被害の規模は計り知れない。
それを考えているからこそ、デンドロビウムはARゲームがネット炎上でなくなる事を懸念している。
『デンドロビウム――お前は、何を考えてARゲームをプレイしているのか』
デンドロビウムのプレイを谷塚駅に設置されたセンターモニターで視聴していたのは、スレイプニルだった。
あまりにも便乗勢力が多い劣化版青騎士に関して、呆れかえっているのだが――表情は確認出来ないだろう。
『ARゲームに政治的な駆け引きや超有名アイドルの宣伝、アフィリエイト系まとめサイト等を持ち出す段階で――』
結果を見る事無くスレイプニルは別の場所へ向かうのだが、一部の人間からは――スレイプニルが別の人物の様に見えていた。
ARアーマーや一部ガジェットはARバイザーや対応機種でしか認識出来ないのは、ARゲームプレイヤーの常識である。
一般人では、そのアーマーが認知出来ないのは――今後の課題となるだろう。その為、裸の王様と似たような状態となっていたのは言うまでもない。
午後2時、近くのコンビニで何かが始まるのを待っていたのは、黒髪にサングラス姿のアイオワだった。
今回はARスーツを着ていないのだが、ゲームをプレイする為に草加市へ来た訳ではないので――。
「チートプレイヤーの掃討は、あなたに任せようと思うけど――」
アイオワの目の前に姿を見せたのは、何とジャック・ザ・リッパーだったのである。
既に彼女は正体が割れてしまっているのだが、知っているのはごく一握り。アイオワはジャックの正体を知らないので、あの場にはいなかったのだろう。
『誰かと思えば――アイオワか』
「ビスマルクが来ると思っていたの?」
『そう言う訳ではない。ちゃんと、誰が来るのかは把握している』
「チートプレイヤーを狩るチートキラー、最近は一部のアイドル投資家等の影響で、あまりやりたがる人物がいないという話よ」
『そう言う噂を流す勢力がいて、その方が都合がよいと考える人物がいる。利害関係としては、それで十分と考えているのだろう』
「どちらにしても、ネットが炎上すれば――と考える人物が、悪目立ちをする。嫌な時代になったものよ」
『ネット炎上で超有名アイドルの人気を上昇させ、神コンテンツを作る――それをディストピアや新日常系と言う人物もいた』
「それは、WEB小説サイトの小説だけの話――フィクションでしょ?」
『まぁ――そうなるな。しかし、そのフィクションだけの世界をノンフィクションにしようと言う人物がいたとしたら?』
話をしていく内に、ジャックが不穏な事を言い始める。それは、WEB小説サイトにあるような小説がノンフィクション化すると言う事だ。
異世界転生や異世界転移が現実化するなんて――とアイオワは冗談半分に反応したのだが、ジャックの方は真剣そのものだ。
『これは、知っているか?』
ジャックがタブレット端末を操作し、アイオワに見せたパッケージ――それは、例のパルクールアニメだったのである。
つまり――ジャックも、これを現実化させようと言う事に気付いたのかもしれない。
###エピソード51-3
コンビニ前でアイオワに見せた物――それは例のパルクールアニメのDVDパッケージだったのである。
何故、それをジャック・ザ・リッパーは知っていて、アイオワに見せようと思ったのかは――。
「それは初めて見る。何か、チートプレイヤーと関係があるのか?」
『無関係と言う訳ではない。実際問題、この作品の内容が――これから起こるであろう事件の伏線である可能性が高い』
「事件に影響を受けた作品が、どのような末路をたどるのか――分かっているのか?」
『それは百も承知している。だからこそ、止めるべき事案なのだ』
「しかし、その作品はマイナー作品だと言う事がネット上でも言われている――と聞いた事があるが」
『それを把握していて、パッケージを見た事無かったのか?』
「あくまでもパッケージは初めて見た――と言う事だ」
2人の会話は続くが――ジャックとしては、何としても便乗事案を止めたいと考えているらしい。
その一方で、アイオワはこれ以上の面倒事がARゲームで起きるのは都合が悪い――と考えている。
お互いに考えている事はあるのだが、上手く妥協できる個所がない状態かもしれない。
様々な人物が、例のパルクールアニメと同じ事を起こそうとしているのはどの勢力なのか――探り合いとなっていた。
【特定作品を炎上させ、芸能事務所の仕業とするのは芸能事務所AとJのよく行う手段だ】
【その常識が覆されるような時代――それが迫っている可能性が高い】
【芸能事務所Eや他の事務所が反撃に出るとか?】
【そうしたつぶやきが拡散する事こそ――芸能事務所の思う壺じゃないのか?】
【相変わらずの文章は違えど、内容はいつものテンプレが――】
ネット上のつぶやきサイトでも、今回の勢力を探ろうと言う動きはあるのだが――。
「まとめサイトで取り上げられ、悪目立ちしようと言う意図が感じ取れるコメントばかりが――」
取り上げられる前のつぶやきを見て思ったのは、アルストロメリアである。
彼女はARゲームの未来を見極める為にも、今回の計画に参加した。
しかし、それでもネット炎上や情報戦、便乗宣伝等の超有名アイドルが使う様なビジネステクニックが――。
それに関しては、規制法案の提案も待ったなしなのだが――そこまでして本当に正しいのか、疑問を投げられる事となった。
彼女が使用する通報ツールを初め、運営側などに丸投げする事が本当に正しいのか――と言う事である。
ネット上でも賛否両論あり、専門家に対応してもらうのがベストと言う意見もあれば、自分で判断できる物は自己の判断に任せるべき――という声もあった。
その一方で、ガイドラインを無視して悪目立ちし、一部コンテンツを炎上、芸能事務所AとJのコンテンツだけ残ればいいという様なマスコミの発言も――火に油を注いでいる。
一体、何を信じればよいのだろうか――彼女は考え直さなくてはいけなかった。
「これ以上のネット炎上は、物理的な犠牲者も出かねない。それこそ、超有名アイドルのイベントをピンポイントで襲撃するような――」
ARガジェットの軍事運用が禁止されているのは分かっているが、これ以上の放置は別の意味でも超有名アイドルファンに大量破壊兵器を渡しかねない状況になるだろう。
そこで、彼女が考えたプランこそ――ふるさと納税の返礼品として受け取った計画書に存在した没案だったのである。
「だからこそ――誰かが、動きださなければいけないのか――」
彼女は改めて思う。自分が行う事は別の勢力が行おうとしている事の便乗かもしれない。
しかし、彼らは自分達さえよければ風評被害等の事はお構いなしと考えるだろう。
だからこそ、ARゲームだけでなくコンテンツ流通的な意味でも――閉鎖的空間になる前に、先手を打つ必要性があった。
政府が超有名アイドルを神コンテンツと認め、それを利用して――というWEB小説で書かれているような事を、起こす事はリアルウォーを意味しているからである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます