エピソード26~エピソード30.5

###エピソード26



 西暦2019年、ARゲームが様々な事件で風評被害を受ける事案が発生する。

こうした案件に関しては、ネット炎上や芸能事務所が自分達のアイドルを宣伝する為の陰謀と言う者も存在し、それを示唆する書き込みがあるのが動かぬ証拠だ。

一連の流れに関して、アカシックレコードに書かれた予言が現実化したという人物もいるかもしれない。

ARゲームが炎上する事自体は、今に始まった事ではなく――過去にも繰り返されていた事がネット上のニュースで確認出来る。

 しかし、そんなニュースがあったとしても――彼女はどうでもいいと一蹴するだろう。

チートと言う名の犯罪を根絶する為、彼女はARゲームのフィールドを正常化する為に――あえて、ネット上の注目をこちらへと向けている可能性が高い。

【不正破壊者(チートブレイカー)の我侭姫(デンドロビウム)】、それを誰が拡散したのかは不明だが、次第に広まって行くこととなった。

その証拠に――ネット上の動画では、彼女を【不正破壊者(チートブレイカー)の我侭姫(デンドロビウム)】と扱っている動画が多くなっている。

これに関して、ARゲームの運営サイドが動画を削除する事はない。

特に権利者が別にいるような映像や楽曲がないというのが、削除をせずに放置している理由だが――アイドル投資家としては黙っていられないだろう。



 7月15日、この日は雨となった。ARゲームの一部では、雨天中止を知らせるインフォメーションがARゲーム専用アプリで告知されている。

その一方で、雨天でも中止にならないジャンルも存在していた。さすがにレース系の中止はプレイヤーの安全第一が優先され、やむを得ないのだが――。

小規模の雪程度でもサバゲの天候変化と割り切るようなサバゲやFPS関係、屋内メインのリズムゲーム等は雨でも中止にはならない。

「さすがに、こんな雨の中でチートを使えば――結果は見えているか」

 バイクレースのARゲームを扱っているアンテナショップ前で、中止のインフォメーションを見ていたのはジークフリートである。

彼はレースゲームに興味がある訳でなく、観戦するFPSゲームの近くにコーナーがあったので通りかかったにすぎない。



 ARゲームには急激にパワーアップする、使えば1位は確実等とうたっているようなチートガジェットやチートアプリが横行している。

このようなチートを使えば、ゲームエントリー前にチェックで失格になるケースが多い。

その一方で、チェックを潜り抜けたプレイヤーがチートの力でランキングを荒らすケース等が後を絶たないのだ。

こうした状況を運営側も放置せず、徹底的と言えるほどのチート対策を行っている。

不正プレイが横行すれば、それこそ国際スポーツ大会におけるドーピング等と同じような状況が――運営側には分かっていた。

だからこそ、少々強引な手段にはなるものの、悪質なチートプレイヤーには賞金をかけているケースも存在しているのだが、これらは非常にまれなケースだ。

 実際、そうした指名手配を行う前にチートプレイヤーを一掃する人物の存在が、最終手段を取る前に――と言う事かもしれない。

ガーディアンの様な組織単位で動く人物もいれば、デンドロビウムに代表される個人で動く人物もいる。

こうしたチートキラーの存在は、運営側も認めているのだが――あくまでも裏で協力体制を取っている事に関しては否定――と言うのは表向きと考えるネット住民もいるのだが、真相は不明だ。



 あいにくの雨でも、アーケードリバースは中止にはなっていない。屋外フィールドは使用不可だが、屋内フィールドには問題がないようだ。

しかし、屋内と屋外では使用出来るガジェットにも違いは出てくる。大型のロボットタイプガジェット等の屋内で動かせない物は使用不能――仕方ないと言えば、仕方がない。

それをチャンスにしてランキング荒らしをしているプレイヤーもいる訳だが――プレイスタイルすら制限してしまっては、ARゲームにおける自由度を制限してしまうので、そこまでは行っていないと言う。

あくまでもガイドラインと言う物を設定しているが、それを守っている限りは自由にプレイは可能だと言う事だ。

さすがにゲームバランスさえも壊すようなチートは――使った段階で処分が重い。それは当然と言えば当然だろう。

そして、ARゲームの本当の目的とは――。

「――本当の目的、か」

 秋葉原のガーディアン本部、見た目こそは二流企業と言うような外見だが――地下には相当な技術があるに違いない。

そう思わせて、地下にあるのはARゲームの大型ガジェットを搭載したコンテナ、それにARウェポンと言う拡張現実映像の武器を収納したアタッシュケースもあった。

これらの装備は秋葉原の同じようなARゲームで使用されている。つまり、秋葉原にもARゲームは存在していたのだ。

「ARゲームの目的は、日本のコンテンツ流通を正常化する為の物。それこそ、超有名アイドルの芸能事務所が行った超有名アイドル商法を根絶する為の――」

 試作型と思われる大型ガジェットを見つめていた人物、それは白い提督を思わせる服装の橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)だった。

彼はアキバガーディアンという組織を立ち上げはしたが、それも出雲という人物に誘われての物である。

彼にとっては――ガーディアンと言うのは重圧なのだろうか?

「秋葉原のARゲームは、現状でプレイヤー人口が頭打ちになっている。運営側も対応しきれていないのが原因なのか――」

 橿原は草加市の事例を何とか秋葉原で生かせないか――そう考えていたのである。

しかし、草加市のように役所が協力しているような事例と秋葉原を比較するのは不可能だ。

それに――秋葉原のオタク文化もネット炎上等で数年前のような勢いがないのも、大きな痛手となっている。

「草加市の事例は、間違いなくコンテンツ流通を根本的に変える事が出来るかもしれない」

 橿原が山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)等に接触していた本当の理由、それは草加市が行うARゲームでの町おこしのノウハウを手に入れる事でもあった。

アイドル投資家の情報等を手に入れるのは二の次、そうした情報は秋葉原でも入手出来るし――ネットで収集を行う事も可能だったのである。



###エピソード26.5



 午後1時、雨が若干弱くなっていくのがすぐに分かった。空を見ると、雲が減っているのが――明らかである。

しかし、道路には水たまりが目立っている為か一部のARゲームは中止のままだ。

「天気によってARゲームがプレイできなくなるのも――色々と問題があるのだろうか」

 白い提督を思わせる服装の橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)、彼は秋葉原にある事務所の窓から歩行者天国を眺めている。

歩行者天国ではARゲームが晴天時に行われており、中でも歩行者天国に展開されたリングでの対戦格闘は評判がいい。

こちらに関しては定期開催の為、突然の雨で中止になった訳ではないようだ。

むしろ、不定期開催系のARゲームが打撃を受けた気配である。

「全天候対応型のARゲームを開発するのが今後の課題と言うべきか? あるいは――」

 橿原は全天候型のARゲームが何を連想するのかある程度の予想が出来ていた。

ウォーゲーム系のジャンルが作られた場合、明らかな炎上案件となるのは明白である。



 同時刻、別のアンテナショップでアーケードリバースのプレイ動画を見ていた人物がいた。

彼女は普段の服ではなく、ARゲーム用のインナースーツを着用している。

アスリートよりもアマゾネスを連想する筋肉がインナースーツを着用すると目立たないように見えるのだが――。

「なるほど――FPSをベースとしたARゲームと言う事か」

 ふるさと納税の返礼品である活動報告書でも確認しているが、改めて実物を見るのでは驚き方が違う。

報告書では文章説明等がメインで動画はごく少数程度――他の企業へ流出するのを避ける為という理由があっても、説明不足と一部の納税者に言われるのは仕方ない。

 彼女が見ていた動画は、俗に言う一般プレイヤーのプレイ動画であり、有名実況者やランカーの出ているような物ではなかった。

あまりにも自分のレベルよりも高い動画を見たとしても、その技術を使いこなす事は出来ないと考えているのかもしれない。

「武器に関しては特に制限はないという事は――」

 アルストロメリアは、ARメットを装着しデータのカスタマイズを行う。

メットを被らないとカスタマイズできないと言う物ではないのだが、この辺りは他のプレイヤーに見られるのを防止する役割があった。

 彼女の目の前には現在のステータスではなく、装備している武器が表示されているのだが――。

今は何もARウェポンを含めて持っていないので、画面には素手と表示されている。

《使用する武器を選択してください。使用不可の武器に関しては表示されません》

 メッセージにある通り、アーケードリバースで使用できない武器は表示されていない。

現状でアルストロメリアが持っている武器は10個ほどだが、その内の3つは対応していないようだ。

「遠距離武器は全て使用不可――となると、全て近距離か」

 彼女が持ち合わせた武器でアーケードリバースで使えるのは全て近距離系だった。

【ビームチェーンソー:近距離】はチェーンソーの形状だが、長さは木を切るタイプの物とは違って短い。

【バトルナックル:近距離】はカイザーナックルの大型版なのだが、動きが制限される。

【ビームカタナ:近距離】に関してはある程度のスキルが必要になる武器で、初心者向けとは言えない。

【ショートナイフ:中距離】は投げナイフである。ある程度の距離に対応できるが、使用回数に制限あり。0になると、武器チャージ弐時間がかかるので、これも初心者向けではなかった。

「投げナイフは一定の技術が必要だ。今の状況で使うべきではない」

 ここまでの所持武器で使用できそうな物はないらしく、悩みの種は尽きなかった。

【キックブレード:近距離】

「キックブレードは、格闘スキルが必要だな。こちらも――万人向けと言えない」

 そうなると、彼女に残された武器は一つしかなかった。

「やはり、パイルバンカーになるのか」

 ARゲームでも対戦格闘以外ではマイナーに該当し、その威力は絶大だが――リスクも高いロマン武器。

それが、パイルバンカーだった。実際、これは上級者向けであって初心者が扱うべきではないと言うプレイヤーもいるほどだ。

 結局、彼女にはパイルバンカーしか選択肢はなかったので、武器の方はしぶしぶ決定した。

アーマーの方はパイルバンカーに合わせるような形で重装甲になった。胸の部分は、若干巨乳と言う事もあって――ARアーマーが少ないだが。



###エピソード27



 午後1時10分、草加駅に1台のタクシーが姿を見せた。

タクシーのドアが開くと、そこから姿を見せたのは一人の女性だったと言う。

彼女は、とある駅からタクシーで草加駅まで来たらしく――。

「お客さん、草加駅だったら――別の駅から乗り換え出来たのに」

 タクシー料金は3000円を超えていたのだが、この女性は無言でスマートフォンをタクシーの運転手に見せる。

どうやら、支払いは電子マネーらしい。タクシーとしては支払いをしてくれるのであれば、暴力沙汰なトラブルを起こさない限りは問題ないと思っているようだ。

 タクシーを降りた女性の外見は、JKと言う訳ではないがセーラー服である。

身長も170位で周囲~見て目立つ訳でもない。金髪ではなく黒髪なので、普通に女子高生とギャラリーが認識しているのだろう。

「電車と言っても、竹ノ塚駅から――ここは混雑と言うか難しいでしょ?」

 タクシーの運転手も、さすがに彼女の発言にはあいた口がふさがらない状態だ。

どのような電車の乗り方で竹ノ塚まで来たのかも分からない事も理由の一つなのだが――。

「さて、ARゲームのアンテナショップは――ここか」

 タクシーを降りて、周囲を見回して目的の場所を彼女は発見した。

それはARゲーム専門のアンテナショップである。主にARパルクール等を扱っている店舗であり、アーケードリバースは対応していないようにも見える。



 午後1時15分、予想外の混雑もあってかアーケードリバースをプレイ出来るタイミングが若干ずれた。

それもあってか、アルストロメリアのマッチングは予想外の物となっている。

6対6のマッチングなのは変わらないのだが、問題はその組み合わせだった。

【近距離×5】と【遠距離×1】の赤チームに対し、【中距離×4】と【遠距離×2】という青チーム。

どう考えても、近距離ばかりが固まるチームが圧倒的不利なのは――火を見るより明らかだった。

「このマッチング、どう思う?」

「チートガジェットが多いのは、中距離よりも遠距離と聞く。どちらがチートプレイヤーか絞り込むのはバトルを見てからだ」

「しかし、どの距離でもチートプレイヤーがいるのは事実だろう。両方のチームを摘発すれば済む事では?」

「それをやっては、ネット炎上を招く可能性がある。それに――ガーディアンに関しても色々とうるさくなっている事情もあるからな」

 バトル前のマッチング画面をフィールド外のモニターで見ていたのは、背広姿の男性ガーディアン2名だった。

彼らは正規のガーディアンではないようにも見えるのだが――デンドロビウム等のように容赦なくチートを刈り取るような勢力でもない。



 フィールド内、ステージとしては敵のアジトというか秘密基地の様な外見である。

この外見に関しては、ARゲームの専用フィールドにCG映像の秘密基地を設置しているような物であるのだが――その完成度は非常に高い。

下手をすれば、ゲームと現実の区別がつかなくなるようなシロモノであり――ネット上でも危険性を指摘する人間が出てもおかしくないだろう。

CGで作られた秘密基地には質感があり、現実味がないような感覚は全くない。

VRゲームと区別すると言う意味でARゲームを名乗っている訳ではない事が、この映像を見ると明らかだろう。

「なるほど――そう言う事か」

 ARメットを含めたフル装備のアルストロメリアは、自分の姿を近くの窓ガラスを見て――ようやく把握した。

他のプレイヤーは、そう言ったリアクションをせずに早速バトルフィールドへ突入していくのに対して、である。

「本当に、これをゲームという一言で片付けるべきなのか――」

 100円でプレイ出来るようなゲームとしては、常識を疑うクオリティであり――200円でも安い位と思うだろう。

確かにふるさと納税の税収で運営しているゲームと言っても過言ではなく、あまりプレイ料金を高く設定したくない事情もあるのかもしれない。

それでも――100円1プレイは破格であり、全国各地から遠征に来るプレイヤーがいる話も分かる。

 ARゲームがゲームという壁を打ち破るという話も――あながち嘘ではないと、彼女は自覚した。

単純なソーシャルゲームの様なものであれば、ここまでの数のプレイヤーやギャラリーが集まったりはしない。

それだけの魅力があるからこそ――ARゲームには無限の可能性があるのだ。



###エピソード27.5



 バトル開始の合図とともに、プレイヤーが一斉に動き出す。チャットメッセージはスルーしているかのような気配もするが。

【近距離プレイヤーばかりならば、戦略も容易だな】

【チートプレイヤーがいると言う話もあるが――チートがいれば、既にゲーム開始前でふるいにかけられるはずだ】

【近距離プレイヤーオンリーではない以上、射程外からの攻撃で終わるわけがない】

【相手側の遠距離プレイヤーがチート使いかもしれないだろう】

【そんな事は分かってる。そこまで慢心するようなプレイヤーは――】

 青チームのチャットメッセージには、既読を示すマークが出ていない。さすがに、FPSで既読アイコンを採用する事はないと思うが。

しかし、ある1人のプレイヤーだけがメッセージを途中送信しているようなメッセージを送ってきた。

まさかと思って別のプレイヤーが検索した結果、既に倒されたらしい。

 この様子を中継映像で見ていた顔ぶれは――まさかの有名プレイヤー揃いである。

それだけの注目度があるバトルとは思えないのだが、期待の新人でもいるのだろうか?

「近距離ばかりがマッチングされたと聞いていたが――なるほど」

 会社のテレビで観戦していたのは、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。

テレビの方は40インチはあるような大型テレビであり、パソコン等をつなげて視聴している訳ではない。

実は、草加市内限定で地方局でARゲームを中継しているローカルテレビ局が存在し、そこへチャンネルを回して見ている。

テレビの前にあるテーブルには、コーヒーが置かれているが――淹れたてタイプではなく、ペットボトルのアイスコーヒーだ。

ARゲームでも格闘技等のように専門チャンネルは持っており、そこで視聴する事も可能だろう。

しかし、アーケードリバースに関しては、こうした放送ライセンス等が複雑らしく、地方局や動画サイト等の限られた手段でしか視聴できない。

これに関しては山口も何か対策を取れれば――と考えている。

「優良なコンテンツでも、見てもらえる客がいなければ――忘れ去られてしまうかもしれない」

 山口は何とかしてテレビ局と交渉しようと連絡先を検索しようとしたが、その連絡先は驚くべき場所だった。

それに気付いた時には『灯台もと暗し』と山口は思ったとか、思わなかったとか。



 先ほど倒された中距離武装のプレイヤーはビームライフル系の武器に軽装備というのが弱点になったのか、刀の一撃で真っ二つになった。

真っ二つと言っても例えであり、本当に真っ二つになった訳ではない。ARゲーム的な演出でスタート地点へと倒されたプレイヤーは戻されていた。

気が付くと、青チームのゲージは3割が減っていたと言う。これには該当チームのプレイヤーも慌てている。

「馬鹿な――1人倒されただけで、あのゲージの減り方はないだろう!」

「まさかと思うが、1人以上が倒された?」

「あり得ない! 2人同時で撃破とか」

 周囲のプレイヤーが動揺しているのを見ると、この状況を飲み込めていないと言う事だろうか。

それもそのはず――2人倒されてゲージが3割減ったのが正しいのだが、刀で真っ二つになったプレイヤーとは別に――。

「もろすぎる――これがパイルバンカーの威力なのか」

 アルストロメリアがパイルバンカーで相手プレイヤーを撃破したのと同時タイミングだった為、ゲームの処理的に刀で真っ二つになった方が先に表示された。

刀の方はガード状態から削られた状態と言う可能性もあっての処理だが、パイルバンカーは前提動作なしの一撃決着――あり得ない話と青チームが通報を考えていた程である。

 チートプレイをしているプレイヤーがいれば、該当プレイヤーを通報する事でゲームの中断をする事が可能だ。

しかし、逆に不正プレイでないと判定された際は意図的なゲーム進行妨害を取られるケースもある。

あからさまなゲーム進行妨害と判定されれば、失格となるのはアーケードリバースのゲームルールにも明記されていた。



 その後も近距離武装チームが圧倒的な無双を展開する事で、見事に勝利を収めた。青チームにとっては、この展開は予想外と言えるかもしれないが。

「まさか、サブカードや複アカウントじゃないよな?」

 青チームのプレイヤーからは、このような発言も出た。ARゲームにおける複数アカウントは禁止行為に当たる。

禁止行為はチート以外にも、相手プレイヤーを意図的に怪我させるような暴力行為、複数アカウント、身代わりプレイ――。

普通に考えれば、ゲーセンでも迷惑行為になりそうな物も禁止行為に加えられているのだが、それ以上にアカウント凍結のような重い罰則があるのがチートである。

《青チームに反則の疑いがあり、審議を行っております》

 青チームだけでなく赤チームにも同じインフォメーションがARメットに表示された。

まさかの審議と言う展開に、両方のチームが驚きの声をあげる。アルストロメリアに関しては、驚く事は一切なく――逆に冷静を貫く。

 5分後、結果に関してはチートではないにしても不正行為が確認されたとして、青チームに失格の処分となった。

どうやら、気づかない内にダウンロードしていたアプリに不正ツールが紛れていたという事らしい。

稀にアーケードリバースでは他のARゲームでは問題のないアプリ等を不正ツールとして判定するケースがあり、今回もその事例のようだ。

最終的には失格の処分とはなったが、アカウント凍結等は行わずに1時間のARゲームアクセス不可処分と軽い物になったようである。




###エピソード28



 午後2時、その動画を見たプレイヤーは誰もが驚いたと言う。

【あれが初心者とは思えない】

【近距離武装だけに近いチームが勝つとは――予想外にも程がある】

【しかし、近距離メインのランカーやプロゲーマーもいる。近距離が最弱とは思えない】

【だが、中距離が一番有利と言われていた状況を覆すには、今回のバトルは間違いなく――】

【遠距離武装でも接近されれば何も出ない。この流れも一時的なものにすぎないだろう】

【ゲームバランス調整が入るのは高いと思うが、それは中距離のプレイヤーが多くなりすぎた事が理由ではないのか?】

【中距離が絶対的に強いというパワーんがまとめサイトで取り上げられたのが、中距離が爆発的に増えた原因だろう】

 つぶやきサイトや動画のコメントでも様々な声があるように、プロゲーマーやランカー、その他のアーケードリバースに関係する人物も無関係ではなかった。

ゲームバランスが運営を行うに厳しいものであれば、調整が入るのは確実かもしれないが――。

「たった一人のプレイヤーが、ゲームバランスを左右してしまうほどの影響力を持つとは思えない。どうせ、ネット炎上やまとめサイト等のネタに利用されるだけだ」

 今回の動画を冷静に見ていた人物は多くいるのだが、状況が状況だけに落ち着いていられなかったのはジークフリート――。

「しかし、こうなってくれるとはかえって好都合だ。調子の乗っている天狗のコンテンツには、超有名アイドルが介入しての――」

 迂闊な事を言ったばかりに、彼は通りかかったプレイヤーの一人に通報され、あっという間に逮捕された。

その理由はネット炎上を誘発しようと考えた事による――ネット炎上罪。

しかし、ネット炎上罪と言うのはネット上で便宜的に使われている名称にすぎず、本当は別の名称があるようだが――それを口に出そうとはしない。

【ここまで都合よく、摘発するような世界になるとは】

【下手をすれば、超有名アイドルファンは――ありとあらゆるものを破壊出来ると言う話だ】

【それこそ――】

 様々な話がネット上に出るのだが、そうした話題も逮捕されるきっかけになると言う事で拡散をしようとはしない。

こうした情報は、詳細を公表すれば他の世界に過剰な影響を与え、それこそ『メタ発言』と受け取られかねないのだ。

アカシックレコードに関しても彼らが言及しようとしないのには――こうした背景があるのかもしれない。



 あの動画を見た人物の一人、ジャック・ザ・リッパーもアルストロメリアのプレイスタイルには衝撃を受けていた。

「アレだけの実力があって、ARゲーム初心者はあり得ないだろう」

 ARメットを被っている為、表情を周囲のモニターを見ていたギャラリーが確認する事は出来ない。

しかし、それでもジャックの動揺しているリアクションは――間違いなく何かを感じていると思うだろう。

「しかし、中距離武器を使うプレイヤーがチートを気づかずに使っていたとは――」

 ジャックは疑問を持っていた。それは、チートアプリの存在である。

他のARゲームと違い、アーケードリバースでは些細なアプリでもチート判定をしてしまう。

例えば、ゲームには使わないような時計アプリでも――その機能によってはチート判定を運営側がしてしまうのだ。

運営としては、ふるさと納税で得られたお金で運営しているような物なので、何かのビジネスモデルと言う訳ではなく、今後の町おこしに役立てようとしているのかもしれない。

そうしたゲームの開発背景が、些細なアプリでもチート扱いする事情かもしれないだろう。

当然だが、ジャックの使用しているARガジェットにもアーケードリバースで認められたアプリ以外にもいくつかインストールされているアプリがあった。

それらはアーケードリバースのプレイ中に起動しない事で、チート判定を受ける事がないのだが――。

「過剰な規制は――本当に炎上防止に役に立つのか?」

 ジャックはチート狩りをするプレイヤーを批判する訳ではない。

しかし、実際にはごく普通のアプリでもアーケードリバースでチート判定されれば、デンドロビウム等がチートプレイヤーとして対象にする。

本当にチートプレイヤーを根絶する事が、ARゲームの為になるのか? ジャックは――疑問を持っていた。



###エピソード28.5



 過剰な規制、それが逆に炎上商法を誘発しているのではないか――それはネット上でも言われている事である。

ARゲームには元々のガイドラインでも『悪質商法の禁止』と言う一文があった。

それは、あくまでもオレオレ詐欺や振り込め詐欺と言う様な警察沙汰になるような商法と言う意味を持つ。

悪質商法にネット炎上を利用した炎上商法やRMT(リアルマネートレード)のような物、転売ヤー等――。

こうした勢力も悪質商法と同種という定義をしたのは、一部のARゲームジャンルだけだ。

それ以外のジャンルは無用な炎上を極力避ける事をプレイヤーに呼びかけたり、それこそ性善説を信じていたレベルとも言える。

アーケードリバースは、プレイヤーのモラル向上等を目的としてネット炎上を禁止しており、どちらかと言うと性善説は信じない方向かもしれない。

「押しつけの様な方針は――それこそ炎上商法と変わりないと思うのだが」

 一連のネット上にある記事を見ていたのは、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)だった。

彼も人間が超有名アイドルの芸能事務所が所持する駒――という考え方は間違いだと考えている。

そうした考えこそ、ネット炎上や歪んだコンテンツ市場を生み出す――そう考えているのだ。

だからと言って、草加市の考えているコンテンツ流通を全て問題がない――とは全く思わない。

「何を始めるにも、賛成派と反対派がいるのは当然であり――その対立があるのも仕方がない。しかし、芸能事務所が全てを手中に収め、それこそ――」

 山口は何かの言葉を続けようとしたのだが、そのp途中でメールの到着を知らせる着信音がARガジェットから鳴る。

別のARゲーム中継を見ていた山口だったが――テレビの電源は切らず、そのままテレビは流し続けた。

「――なるほど。あのテレビ局は、草加市が設立した訳ではないのか」

 山口の元に届いたメール、それはARゲームの中継を配信しているテレビ局の事である。

このテレビ局が無断で配信するようなゲリラ放送局ではない事を、番組途中で流れるCMで把握していた。 

そして、ソレとは別に気になる部分もあった為に――スタッフの何人かに調査を依頼していたのである。

【あのテレビ局は、草加市ではなく足立区にあったテレビ局が草加市に中継局を作った物であり――】

【ARゲームを専門とした衛星放送局とは全く違う系列の模様――】

 メールの内容を確認した山口は、交渉の余地がある事を確認した。

これならば――アーケードリバースにスポットライトを当てる事も可能だ、と。



 草加市役所、その会議室ではふるさと納税の一件を含めて、会議が行われていた。

会議に参加しているのは市役所職員も数名いるのだが、基本的には外部スタッフが参加している。

その中にはふるさと納税を収めている納税者も数人、会議の傍聴をする為に姿を見せているのだが――。

「今回は、特定のユーザーによる転売についてです。お手元の資料をご覧ください――」

 会議室中央に姿を見せたのはメガネをかけた男性スタッフである。彼はARゲームの運営スタッフの一人だが――名札等は付けていない。

普通であれば、彼の名前が分かるような資料も配布されるはずなのだが――それも用意されていなかった。

「ふるさと納税の返礼品が転売に――と言う話は、数年前にも議論された事。それを今更――」

「あの活動報告が転売されたとしても、そんなに高額になるとは思えませんが」

「返礼品の転売は超有名アイドルファンのごく一部、それも芸能事務所から報酬を受け取っているような――」

 傍聴席の方から声がするのだが、男性スタッフは手を叩いて静かにするように求めた。

「今回の一件には芸能事務所は無関係です。我々が相手にしているのは――もっと別の存在です」

 彼の目が真剣になった。その目つきを見た傍聴席の人間は、黙っているしかなかったのだ。

それ程の威圧感が――会議室に漂っている。

「今回、転売されたのが会議の報告書であってARガジェットではない――と言う段階で違和感を感じました」

 男性スタッフは周囲を見回しつつ、手元の資料であるタブレット端末にダウンロードされた資料をめくっていく。

「報告書であれば、売店などでも市販バージョンが売られています。それが転売されているケースもあるのですが――」

「問題なのは、ふるさと納税の返礼品である活動報告書が売買されている点です」

 次のページを傍聴席の人間がめくると、そのサイトは一般的なオークションサイトやフリマアプリとは違うサイトが事例として挙げられていた。

そのサイトとは――簡単に言えば、軍事兵器を扱ったサイトである。

「これでは、ARゲームが本当の意味でガイドラインで禁止されたデスゲームを解禁する事になり――地球滅亡待ったなしの状態になる!」

 彼の力説は――冗談半分にも聞こえるのだが、その危険性は何度も同じような事件が起きた事が証明となっていた。

ARゲームであっても、事故が100%起きないとは言えない。怪我人も禁止されたアクロバットプレイをした事による物が多いのだが――。

下手をすれば、ニュースで大きく取り上げられそうな事件が起こる事もゼロではない。



###エピソード29



 7月17日、前日のニュースサイトで話題となったふるさと納税の一件でネットが大騒ぎと思われたが、それはあっという間に鎮火する。

その理由として――特定芸能事務所からの要請があったと言われているが、詳細は不明だ。

一つだけ言えるとすれば、ふるさと納税にアイドルと一緒に行く観光ツアーと言う物が計画され、それを悪しき傾向と批判――それを封じたのかもしれない。

「自分達に都合のよい案件は炎上を阻止し、都合の悪い案件を炎上させるのか――芸能事務所の上層部は」

 この一件に関して、納得がいかないガーディアンの一人がスマートフォンの通話アプリである人物に連絡しているのだが――。

『芸能事務所の狙いは不明だが、そうとは限らないだろう。芸能事務所が、全てAとBの系列事務所オンリーとは違うだろう』

 声に関してはボイスチェンジャーか何かで変えられている気配がする。男性の声だが、何か違う可能性も――?

「草加市が芸能事務所のアイドルとは対立関係にあった件、あれがネット上で話題になった事も知っているはずだ。それでも、彼らは――」

『海外では全くの無力な芸能事務所が、大規模な武装をして一般市民に危害を加えるのか? それこそ、WEB小説の世界とは思わないのか?』

「そんな事をすれば、芸能事務所は確実に解体されるのは確実だろう。日本の法律的な意味でも――」

『そう言う事だ。フィクションと現実の区別がつかないARゲームのプレイヤーが増えているのは、こちらとしても無視できないが』

「その法律を芸能事務所の力で変える可能性は?」

『――その考えは、非常に危険な思考に該当する。過去にアカシックレコードで書かれていた超有名アイドルが唯一神コンテンツになると言う――』

「しかし、唯一神コンテンツ思想は滅んでなどいない。歴史は繰り返されるのだ――その他のコンテンツは、芸能事務所2社の超有名アイドルのかませ犬であると」

 ガーディアンの方は電話主の発言に対し、エキサイトしている状態である。しかし、この声は外部に漏れる事はない。

その理由は、ガーディアンの人物がARメットを装着し、周囲に声が漏れないようにしていたからである。

『時代は変わりつつあるのだ。唯一神コンテンツと言う考えが古い考えとして衰退するのと同時に、新たな可能性と言う物が――』

 遂には途中で何かを言おうとしていた電話主との通話を途中で切ってしまった。

それほどまでヒートアップしていた可能性もあるが、理由はもっと別な所にあったのである。

 ガーディアンの男性を沈黙させた人物、それは青色のARアーマーを装着し、過去に都市伝説とも言われていた青騎士(ブルーナイト)その物を連想させた。

この人物が使用していたのはARアーマー及びARガジェットなのだが、周囲にARフィールドが展開されていた形跡はない。

それを踏まえれば、ARゲームと無関係のプレイヤーに危害を与えた事で警告を受けるのも当然と――周囲の人物の誰もが思った。

気絶させた手段は――何とスタンガンである。これではARゲーム外の出来事なので、運営も手出しが出来ない。

 その人物は無言で立ち去った。周囲の人物は視線を合わせる事を避けるかのように――青騎士からは自然と離れていく。

都市伝説としての青騎士は、最低でもネット上での評判は良いとは言えない。風評被害と言えなくもないが、その真相は謎に包まれている。

一体、これだけの規模の情報をどうやって操作したのか――ネット上のまとめサイトや芸能事務所の関与も噂されているのだが、芸能事務所側は当然否定していた。



 7月18日、青騎士の報道は報道規制の類ではないのだが――その一切が伝えられていない。

最低でもテレビ局のニュースでは報道する形跡すら存在しない程である。逆に超有名アイドルグループの週刊誌報道等を――と言う状態だ。

「芸能事務所が黙殺するような話題ではない以上、どういった理由で報道しないのか――」

 コンビニでスマホのワンセグテレビでニュースを見ていたのは、アルストロメリアである。

今回は筋肉が目立たないような服を着ているので、周囲が怪しむ事はない。

コスプレイヤーでも堂々と歩いて問題ないような草加市でも、さすがにボディビルダーの様な業種が違う様な人間に対しては、警戒するだろう。

ジャパニーズマフィアも一斉排除し、悪質な客引き等を警戒するかのように監視カメラ、更にはドローンを使って見回りをするような場所であっても――その傾向はあるらしい。

草加市民でも、ふるさと納税やARゲーム人気で各所で問題になっていたゴミや騒音、様々な諸問題を解決しているのだが――。

ARゲームが草加市の環境変化に貢献しているとはいえ、古き良き時代とは明らかに異なる手法に反対している市民が存在したのも事実。

「草加市が、こうした事件に対して色々と困る環境を生み出したのも――原因の一つか」

 顔色を見て報道の可否を決めている訳ではないのだが、明らかに市民を刺激しないような配慮をしているのは事実だろう。

そうした環境を生み出す事になったARゲーム、それこそ町おこしにおけるチートを生み出したという市民もいるかもしれない。

現状を変えるには――どうするべきなのか?

アルストロメリアは、ふるさと納税がARゲームに関係している事情を知っている数少ないアーケードリバースのプレイヤーとして――。

 彼女にとって、悩むべき問題は市民のARゲームに対する意識もあるのだが、ARゲームではびこるチートプレイヤーの存在もあるだろう。

しかし、そちらはデンドロビウムを初めとしたチートキラーに任せても良いのでは――とも一概に言えない。

「誰もがチートプレイヤーだけをターゲットにしている訳では、ないのか」

 アルストロメリアが悩む問題、それはチートプレイヤーの排除と言う目的を履き違えて通常プレイの範囲で好成績を出しているランカーの排除だった。

ある意味でもリアルチートと言う事で排除を行っているのだが――一般的なチートとリアルチートを同一と見ている段階で、明らかなネット炎上勢や便乗勢力が関係している可能性は高い。

その偽者のチートキラーが返り討ちに合っている様子がまとめサイト等で取り上げられ、それがネット炎上すると言う悪循環も生み出している現状を、彼女はどう見ているのか?




###エピソード29.5



 7月19日、学生にとっては夏休みに突入するような時期である。それでも、高校生がARゲームに手を出すかと言われると――そうとは限らない。

ARゲームに年齢制限のない機種があったとしても、動画上で人気のあるアーケードリバースやARパルクール等は年齢制限が存在していた。

こうした年齢制限の理由は『危険なアクロバットで重大な事故に繋がらないように』と言う意味があるのだが、どう考えても炎上案件になるのを懸念しての過剰制限に思える。

実際、そうした認識をしていた人間はネット上にも多く存在するのだが――。

【グロテスクな表現やエロ表現がないのに、18禁と言うのはおかしくないか?】

【事故防止と言う意味であれば、アスリート等のスポーツ経験のないプレイヤーに関して制限をかけるべきだ】

【それこそ、一般人には手の届かないゲームになってしまう。おそらくは、それを避けるための処置だろう】

【しかし、ARゲームにグロ表現を使っているような作品は存在しない。一体、どのような意図で――】

【今、何と言った?】

【エロ表現であれば、セクシーな衣装のキャラを作る事が出来たり、セクシーなコスプレのプレイヤーが実際にいる】

【だが、グロ表現はどうだ? 過度な欠損表現がないだけならばユーザーへの配慮で通じる。しかし、グロ系ゲームでもない作品でも出血は多かれ少なかれ――】

 ARゲームが本当の意味でゲームを超える物ではなく、エンタメとしてのゲームを求めている意味――。

それは、リアルな表現にこだわり過ぎて虚構と現実を区別できなくなる事を防止する為、あえて流血等の描写を避けている事だったのである。

ふるさと納税の返礼品としての報告書でも、その辺りには触れているのだが――読み飛ばされている印象が高い。



 正午、アンテナショップへ姿を見せた人物がいた。それは以外にもビスマルクだった。

何時もの私服とは違い、今回に限って言えば紐水着にも近いのだが、素肌に水着ではなくARインナースーツに水着である。

さすがに露出度が高い物では警察に捕まる可能性もあったのだろうか?

 彼女がアンテナショップに入店する事はなく、店頭にあるセンターモニターで足を止めた。

下に表示されているニューステロップではなく――流れている中継動画の方が気になった様子である。

「あれが、ヴィスマルク――か」

 彼女も自分と似た名前を持つヴィスマルクには興味があった。実際、この数日間で最も人気を集めているプレイヤーでもある。

彼女の動きは、決してプロゲーマーのようなスキルや実況者の様なパフォーマンスで勝っている訳ではない。

プレイスタイルは明らかに別の何かを引き寄せるような物である。さすがにセクシーさで釣っている訳ではないのだが。

「あの動きは――そう言う事か」

 試合の結果を見る前に、ビスマルクはその場を去る。途中までチェックしつつも、立ち去ったのはなぜなのか?

それは対戦相手がチートプレイヤーの典型的なパターンだったのかもしれない。

ビスマルクはチートプレイヤーに深く興味がある訳ではないので――この反応なのである。



 午後1時、アンテナショップのプレイフィールド内、アルストロメリアが既にバトルを始めていた。

既にお昼を食べ終えてから3戦程――結果は1勝しかしていない。負け続けている原因は自分でも分かっている。

「何もかもチートを使ってくるプレイヤーの責任とするのは簡単だ。しかし、そればかりを負けの理由にすれば――熱意さえも冷めてしまう」

 チートプレイヤーがARゲームを荒らしているのはニュースでも知れ渡ることとなったが、本当にそればかりが原因なのか?

自分が負け続ける原因は、もっと違う所にあると――彼女は思い始めていた。

チートプレイヤーが全て悪いと決めつけるのは、ARゲームをつまらなくしてしまうと。

自分が努力をして技術を磨かなければ、その熱意は完全に冷めてしまうだろう。

だからこそ――彼女は熱意のあるうちに、ARゲームを始めようと思ったのだ。

「私は――ARゲームがどのような進化をするのか、見届けたい!」

 アルストロメリアがARゲームを始めた理由、それは草加市が全面バックアップする町おこしがどのような展開を迎えるのか――それを見極めるためだ。

それが途中で『チートプレイヤーが荒らしている』と言う理由で止めるわけにはいかない。ふるさと納税の一件もあるだろう。

だからこそ、せっかくの投資を無駄にする訳にはいかないのだ。全ては――それを見届けてからでも遅くはない。




###エピソード30



 時間はアーケードリバースが立ちあげられた時期から少し前、西暦2016年までさかのぼる。



 西暦2016年、埼玉県ではふるさと納税での返礼品である【何か】が大きな話題となった。

返礼品で転売騒動が起きているのは今に始まった訳ではないので、転売できないような物にするのには反対される事はない。

しかし、それでも度を超えていたと役所側も釘を刺すような――衝撃的内容の返礼品だったからである。

「本当に、これでよかったのか? 君の言うような必要性があるとは思えない」

「聖地巡礼には大きな問題もあると言う話がある。それを踏まえれば、これが返礼品はネタにしかならないだろう」

「それよりも、もっと別な物を返礼品にするべきなのでは?」

「もっと地域色を強めた方が――」

「転売不可と言う物にすれば――」

 草加市役所内の会議室では、そんな意見が多く聞かれた。

今回の返礼品が市役所の周辺でも想定外の物だったのが――最大の理由だろう。



 その返礼品とは、新たなARゲームの出資者になる事が出来ると言う物である。

他にも色々な返礼品はある中で、これだけが妙に目立つ結果となった。

実際、返礼品の上位にこの『出資者になれる権利』は入っていない。

「何故、このような返礼品を思いついたのか?」

「転売防止と言う意味では面白いかもしれないが――」

「これを返礼品にして、何の意味がある? それだったら募金等の方が――」

 様々意見は他の都道府県からも聞かれた。

当然と言えば当然の反応に間違いはないだろう。ネット上でもそう思う人物は多かったし――。

『新たなARゲームを草加市で展開する為の出資金募集』

 この一文を見て、本気だと思う人間がいないというのも問題があるのかもしれない。

エイプリルフールと言うには時期が過ぎているし、ネットの炎上商法を狙った物としては雑と言える。

【これでネット炎上狙いと言うには、まとめサイトも取り上げないだろう】

【逆に外しまくって謝罪する流れか?】

【公式が病気としか思えない】

 ネット上でも、こういう冷めたリアクションしか出ないので――いくら本気を出したと言っても、認めてもらえないのが現状だ。

出資金に関しては既にふるさと納税扱いと言う事もあり、新たな金額が要求される事はないと明記され、ふるさと納税と言う事が分かっていても――新手の詐欺と警戒する人間がゼロではない。



 返礼品を物ではなく、出資という形にしたのは別の意味でも画期的と言う意見は存在する。

しかし、それが受け入れられるには色々と説明が足りなさすぎるのも現実だ。

こうした事情を踏まえてか、公式のホームページが1週間前倒しで公開され、そこから説明不足と言う箇所は解消されている。

それでもお金の使われ方に違和感を覚えたり、これを税金でやる事に反対する市民からのクレームが市役所に寄せられた。

クレームに関しては想定内だったようだが、それ以上に驚いたのが出資者が現れた事である。

「信じられない」

「数人規模であれば打ち切りを考えていたが、予想以上に多いぞ」

「一体、どうなっているのか?」

 希望者は数百人規模――それこそクラウドファンディング等よりも資金が集まっているような計算だ。

市役所側も、これにはさすがに困惑するのだが、この反応を予想していた人物がいたのである。

「これが、全ての始まりとなる――」

 公式サイトの更新で一万人以上が参加している事を伝えるニュースを見て、別の意味で驚いている男性がいた。

彼は後に武者道という会社を立ち上げ、草加市内のARゲームを改革していくであろう人物――山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。

「芸能事務所側は、自分達がコンテンツでも――地球上でも頂点を取ったと勘違いをしているが、その時代も終わりを告げる」

 その後、この出資は別の意味でも衝撃的なものへと変化していった。

それこそが――ARゲーム『アーケードリバース』となるのだが、それは少し先の話である。



###エピソード30.5



 西暦2019年7月20日、草加市の外では様々なイベントの開催に向けて動く自治体が存在ていた。

そんな中、草加市は未だにそうした自治体とは独立して動く。当然だがARゲームに関しては草加市が独占的な権利を持っていない。

こうした理由は色々とあるのかもしれないが、ARゲームを開発したメーカーが商業展開に消極的と言う説が有力だった。

しかし、商業展開に関して消極的だとしたら、ここまで協力する事は逆にあり得ないだろう。

仮に知名度を上げる狙いがあったとして――。

「ARゲームは秋葉原や竹ノ塚、北千住、西新井等でも展開されいる。だからこそ、もうひと押しが必要と考えた――」

 アンテナショップで、順番待ちをしていたジャック・ザ・リッパーがARアーマーの起動準備をしつつ、何かを考えていた。

ARゲームが市民権を得たのは、青騎士騒動等が起きる前の事である。それを踏まえると、そのひと押しが何なのか分からない。

「世界的なスポーツ大会にARゲームを採用すると言う事か? それとも――」

 ARゲームのシステムを考えると、日本以外で起動するには整備を充実させる必要性があるだろう。

それに加えて、あのARゲームなので――かなりの電力も必要だ。それこそ魔法と変わりがないような――電力が必要なのである。



 ARゲームに関して言えば、チートプレイヤーを含めた不正問題もある。仮に国際スポーツ大会の種目にするとすれば、そこが最大の難点だろう。

イースポーツが海外でも人気のある事を考えれば、その辺りのユーザーから支持される可能性は高いが――。

「その問題を解消する為の――チートプレイヤー排除の動きだとしたら?」

 センターモニターを見て、色々な疑問を持ったのはアンテナショップでバイト中のペンドラゴンである。

様々なチートキラー等が世間を騒がせているように思えるが、実際はそこまで騒ぎを大きくしていない。

大きくなっていない理由は諸説あるのかもしれないが――炎上前に強制鎮火を行っているケース、ニュースが取り上げないケースがある。

前者はまとめサイトで第炎上する前にガーディアン等が強制捜査等を行い、それこそ力技で炎上を鎮火させていると言ってもいい。

後者は芸能事務所が目立たなくなるというパターンが多いのだが、草加市では超有名アイドルが芸能活動禁止としているエリアが存在している。

そうした事情もあって、あえて報道していないのだろう。

 ARゲームのひとつである『アーケードリバース』が本格的に起動したのは、西暦2018年の事である。

第12次報告書――それが発表され、その後に正規サービスを開始。始まった当時は地域のニュースで取り上げられる程度だったが――。

次第に『アーケードリバース』が埼玉県内を変化させ、ARゲームに対する市民の認識も変化したと言う。

 道路の舗装、周辺エリアの清掃、ゴミの不法投棄を取り締まるボランティアの確保、それ以外にも様々な資金をARゲームが捻出するというシステム――それは誰もが目を疑った。

ARゲームのプレイヤーが驚くのは当然だが、他の都道府県も――経済ジャーナリストも言葉を失うレベルである。

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