エピソード2


 アーケードリバース、それは埼玉県草加市発のARゲームである。

ルールに関しては単純明快――目標のオブジェクトを目的地まで誘導すれば勝利。

そのオブジェクトは輸送トラックや輸送機のAR映像、コンテナと言った物まで様々だ。

コンテナの場合は、中に入っている物が争奪戦に発展する事もあるだろう。

ただし、共通オブジェクトの争奪戦の場合はオブジェクトを間違って破壊すると無効試合になる。

その為、相手もオブジェクトを盾にするような戦略を取る事があるのだが――これに関しては反則とはならない。

 反則と呼ばれる行為、大きく分けると相手プレイヤーの殺傷及び事故を誘発する行動、違法チートや不正アプリ、八百長の3つだろう。

最初の相手プレイヤーの殺傷及び事故の誘発は、無気力試合や後述の八百長にも直結するだろう。ゲームである以上、様々なアクシデントは付き物である。

だからこその――怪我人増加によるゲームのサービス終了を避ける狙いがあるのかもしれない。

スマホアプリでながらスマホが社会問題化した件もあり、それを参考にしている可能性は否定できないだろう。

次に違法チートや不正アプリは説明不要。こうしたアプリやガジェットが全く流通していない訳ではなく、探せば見つかる可能性は高い。

必要とされている限りは、チートの様な不正手段はなくならないと運営側は考えている。

チートを使ってトップになったとしても、そのプレイヤーは何が楽しいのだろうか? 疑問に残る部分は多い。

最後に八百長だが、これはARゲームにもイースポーツ化の波が来た事に由来する。要するにマッチポンプを防ぐ狙いがあると言う事だ。

賞金が芸能事務所に流れる事を防ぐという狙いもあるのだが――そこまで警戒する事なのだろうか?



 2017年、草加市のふるさと納税の返礼品として第1次報告書が同封され、そこで衝撃的な報告が話題となる。

それが草加市全体をフィールドにしたARゲームの計画書だった。

更に、このARゲームによって得られた収入を草加市以外の埼玉県全体にも――環境の改善で使用されると言う。

納税者からはARゲームで本当に環境改善をする事が可能なのか疑問に思う声もある。

しかし、それさえも――この計画は納税者や市民の疑問を覆せるほどの力があった。

「今回の返礼品は、ある意味でも画期的な物を生み出すきっかけになります」

 返礼品を提案した男性は、自信を持ってこう語ったと言う。

ネット上では税金の無駄遣いと批判される事もあったのだが、こうした批判は報告書の数が増えていく事で徐々に解消されていくこととなった。

【ふるさと納税でゲーム?】

【高級商品で競争している中で、こういう発想はなかった】

【ゲーム機本体がもらえるのではなく、この場合は――ゲームの開発資金を集めるタイプか?】

【それなら、クラウドファンディングを使った方が楽なはずだ】

【この場合はふるさと納税のシステムを使った事で話題となったのを考えると――そう言う事なのだろう】

 ネット上では、今回の草加市が行った事に関して疑問を持っていた。

都道府県の役所が驚く以上に、納税する側の人間が驚くと言うのも――ネットならでは、なのかもしれない。

「我々も続く事が出来るのか?」

 東京都のある区の市議会議員は、草加市のふるさと納税に関して、こう疑問を投げかけたという。

彼の言う事は至極当然であり、誰もが効果に関して疑問を持っている事が普通の反応と言えるかもしれない。

「ここまでの事が出来るのは、さまざまなアニメやゲームで埼玉県が舞台になっている事で一定の理解が得られるからこそ――」

「確かに。東京の場合はテレビドラマ等の方で聖地巡礼をした方が盛り上がると――そういった話の方が多いだろう」

「芸能事務所の影響は、ここまで及んでいるとは考えたくないが」

 都議会でも話題は出てくるのだが、芸能事務所の影響でニュースを大きくしたくない事情もあった。

下手に話題が巨大化し、ネットで拡散でもすれば――想像に難くない。



 そして、ゲームがサービスインしたのは2018年の事である。

草加市限定でのサービスなのは、草加市が全面バックアップをしている事も理由の一つだろうか。

第12次報告書――去年の中期ごろから正規サービスを開始したARゲーム『アーケードリバース』が埼玉県内を変化させていく事になったのは、納税者も驚いたに違いない。

道路の舗装、周辺エリアの清掃、ゴミの不法投棄を取り締まるボランティアの確保、それ以外にも様々な必要経費等がARゲームをプレイする事で――と言う事実に。

他のふるさと納税で上位に入っている都道府県は、この話を聞いて疑ったと言う。

「あの時に批判していた物が、まさか――」

「信じられない。これによって、草加市はふるさと納税の納税額を一気に上げたという話も――」

「今から続いたとしても、タダ乗り便乗等とネット上で炎上するのは間違いない」

「しかし、正式にサービスを開始したとしてもトラブルが連続する可能性は高いでしょう」

「つまり、無茶なギャンブルは行うべきではない、と」

 やはりというか、都議会では今回も草加市のふるさと納税に関して話題が出てきた。

秋葉原等ではARゲームのサービスを行っているという話も聞くが、これはメーカー主導であって草加市の事例とは異なる。



 2019年に限ればふるさと納税の納税額順位でトップ3に入る程の額が納税されている事実――それは、海外でも目を疑うレベルだった。

「青騎士以外で、こう言った事例があったとは――埼玉県が色々と批判されていた時期も、今は昔と言うべきか」

 コンビニの入り口に置かれたベンチに座っていたのは、身長175センチ、体格は少しぽっちゃり系にも見える女性である。

髪型は黒髪のショートヘア、サングラスをしているが芸能人と言う理由でしている訳でもなければ、視力が悪い訳でもない。伊達メガネだろう。

服装――と言うよりは、ホワイトのインナースーツを装着しているので、ARゲームをプレイする所かもしれない。

インナースーツは胸の谷間等も強調しないタイプであり、汎用スーツと言えるものだ。

彼女はアイオワ、ARゲームではプロゲーマーと言う訳ではないが若干名前が知られている程度の人物である。

「アンテナショップで、納税必須とは言われてなかったし――仕方がないか」

 ふるさと納税が必須ともアンテナショップで言われなかったので、普通にアーケードリバースをプレイ出来た。

さすがに納税者しかプレイできないARゲームと言うのもネットで炎上する案件になるかもしれない。


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