エピソード62
###エピソード62
9月13日、衝撃のデンドロビウム参戦から1週間が経過する。
途中参戦と言う状況ながら、まさかの途中経過で上位10人に入った事はネット上でも驚きの声があった。
まさか本当に9月7日の中間発表までの段階で、あそこまで――と言う意見もあるのだが。
【デンドロビウムが予想外の伸びだ】
【上位プレイヤーで対抗できそうなメンバーも非常に少ないのもポイントだ】
【しかし、プロゲーマーも負けてはいない】
【どちらにしても――】
【さすがにレイドバトルをギャンブルにするのは危険すぎる】
ネット上ではデンドロビウムの圧倒的なスコアに驚くのだが、その一方でプロゲーマーも負けてはいない。
プレイ動画を見る限りでは付けいる隙がないに等しいので、他のプレイヤーも研究熱心なのだろう。
しかし、彼女が完全無敵ではないのは――アイオワ戦で判明している為、勝てない相手ではない事は分かっていた。
9月10日、デンドロビウムが衝撃デビューしてからしばらくして、レイドバトルで予想外のカードが組まれた。
何と、マッチングにはアイオワの姿もあったのだ。彼女のネーミング由来は、戦艦ではないと思うが――本人が語らないので不明だが。
それ以外では色々と有名そうな歌い手や実況者も参戦しているように思える。
しかし、それでもデンドロビウムの敵ではないのは――ネット上の誰もが分かっていた。
今の彼女のスキルは、過去のプレイやチートブレイカーとして動いていたころとは桁違いに変化しており、その時の攻略法は通じない。
ソシャゲ等でも過去に使えた攻略法が数年後には使用不可になっているのと同じ原理が、彼女には存在していたと言える。
【レイドボスは、固定砲台か?】
【珍しいタイプだな。動かないレイドボスは】
【これは楽勝じゃないのか】
表示されていたレイドボスは、何と固定砲台×6である。
砲台の設置場所はランダムではないのだが、スタート地点の数メートル先には設置されていない。
マップを表示してもボスの位置を確認出来ないので、おそらくは一度でも遭遇しないと表示されないのだろう。
その一方で、アイオワは周囲を見回して何かの違和感を感じていた。
周囲の光景はゲームフィールド扱いにはなっているが、ビル街がベースとなっている。
ベースとなっている街とは違う箇所を発見できれば、もしかすると――山を張っていたのかもしれない。
《ゲームスタート》
書くプレイヤーが一斉に動き出す。他のメンバーが一斉に動いたのに対し、デンドロビウムは微動だにしない。
アイオワも周囲の様子を見ているのだが、デンドロビウムの様に動かない訳ではなかった。
下手に動きを固定すれば、砲台の標的になると察しているのだろう。
「まぁ、そうなるだろう」
アイオワは、既に砲台の2つがマップ上に姿を見せたのと同時に――別の場所へと急いだ。
その場所は砲台が出現した場所とは反対側のマップである。
ゲームフィールドは半径3キロメートル程のオープンフィールドで、これでもARゲームで使用するフィールドとしては狭い部類に所属していた。
ARリズムゲーム等のフィールドと言う概念がないような機種を除外すると、一番広いのではドーム球場1つ分位の広さでも足りないと言われている。
「ステルスとは――違うか」
マップ上に4つ出現した事で、遂にデンドロビウムが動き出す。最初の標的は、アイオワが向かっていない方向――北側の2つだ。
既に何名かがライフを削っている所だったが、デンドロビウムの所有するガジェットの火力は――残り2割と言うライフを一瞬で削るほどである。
この攻撃力に関して一部のプレイヤーは『チートだ!』とゲーム中に通報するのだが、この通報は却下された。
その理由はデンドロビウムのガジェットの火力は、カスタマイズによる物であり――不正ツールで底上げされた物ではなかった。
「この2つは――!?」
2つ目の砲台を撃破した所で、デンドロビウムは自分の行動がニアミスしていた事に気付いた。
北側に設置されている砲台は2つのみであり、残りは東側と西側にそれぞれ1つ、南に2つあるのだが――。
その距離はデンドロビウムがガジェットを使って高速移動しても、おそらくは30秒かかる距離にあった。
ライフの削り具合からして、30秒では間に合わないレベルでライフが削れており、下手をすれば4つの砲台は諦める事になるだろう。
「それでも――間に合わせる!」
デンドロビウムはARガジェットコンテナの近くまで急ぎ、大型のガジェットを転送しようとも考えた。
大型ガジェットであれば、飛行型ならば装着後に間に合う可能性もあるだろう。
しかし、大型ガジェットは出現するのに時間がかかると言うもろ刃の剣でもある。
ジャンルによっては転送コードを入力して、すぐに出現するような物もあるのだが――アーケードリバースでは10秒かかるのだ。
結果として、デンドロビウムも何とか大型ガジェットを転送して間に合わせようとしたが――3つの砲台を撃破するのがギリギリだった。
しかし、アイオワも3つを撃破しているので――最終的なスコアは削ったライフで決まる。
【まさか――?】
【やはり、そうなったのか】
【削りの量で決まるとか】
【原因はデンドロビウムが戦略をミスした事か】
【戦略ミスではないだろう。固定砲台の火力は5人のプレイヤーを瞬時にして行動不能にするほどだ】
【しかも、その射程は1キロ。下手に動けば、それこそ狙われる可能性は高かった】
【戦略ミスは大型ガジェットだな。他のARゲームと同じ感覚で呼び出したのかもしれないが――】
【アーケードリバースの大型系は、確かに性能は高いだろう。しかし、その分のリスクは相応の物だ】
【結局――アイオワの対応が奇跡的な勝利につながったのか】
最終的に勝利したのはアイオワであり、これはネット上でも衝撃度が高かった。
デンドロビウムがリアルチートやバランスブレイカーではないと証明された事でもあるのだが、本人にとっては不名誉かどうかは分からない。
###エピソード62-2
再び9月13日、例の動画の拡散速度は――言うまでもなかった。
しかし、この動画を参考にしてデンドロビウム攻略動画が作られる事はなかった――と言う話がある事を補足しておく。
そう言った動画に需要がなかったのも理由の一つであると同時に、炎上マーケティング疑惑を持たれる原因にもなるのでアップしない説が高い。
これらの情報はまとめサイトをソースとする物ではなく、実際にアンテナショップでのセンターモニターで流れるニュースで書かれていた。
こうしたソースが明確なニュース以外は信用しないように――という事が注意喚起された事も大きいだろう。
運営サイドのこうした行動が、最終的には一部芸能事務所から公式の謝罪を引き出すまでになった。
ただし、芸能事務所と言っても地下アイドル系や準大手であり、芸能事務所A及びJは公式で動きを見せていない。
【地下アイドルにまで、炎上マーケティングのノウハウが拡散していたのか】
【自分達が売れれば、他はどうでもいいという考えが――コンテンツ市場をダメにしていったのかもしれない】
【芸能事務所が謝罪に追い込まれる程に、今回の状況が深刻だと判断したのだろうな】
【見た目は深刻には見えないが、どうなっているのか?】
【確かにゲームフィールド等では、そう見えないのは分かるかもしれないが――】
【ネット上のニュースでも、ネット炎上や煽り等を自粛している可能性がある】
【それは、さすがに報道の自由に反するのでは?】
【報道の自由と言っても――何でもかんでも報道したら、大変だろう? 週刊誌の不倫騒動や――】
【そう言う事か】
【ネット炎上や炎上マーケティングのノウハウもチートと認識され、そうした商法で儲ける企業もチートを使用していると判断したのだろうな】
様々な発言がある中、それらがまとめサイト等に転用される気配はなかった。
無断転用や無断転載もネット炎上と同義と言う事で、一連のARゲームガイドライン変更に引っ掛かるのだろう。
「さて、こちらも仕上げと――」
一連のサイトを見ていたのは、アルストロメリアだった。
芸能事務所が次々と謝罪している傾向を見て、成功していると考えているのだろうか?
同日午後2時、青騎士が数か所で目撃され、一部のガーディアンと交戦している情報が入った。
一部の青騎士はアーケードリバースでも暴れまわっているという未確認情報も――。
しかし、その情報にデンドロビウムが動くような事はなかった。
その理由は――この情報がブラフの類と考えていた――と言う類ではない。
ネット上ではなく、センターモニターで青騎士の情報は掴んでいたのだ。それでも動かないのには――。
「今回の青騎士は、どちらかと言うとチートが目的とは思えない」
彼女の目的はチートプレイを駆逐していく事がメインであり、今までの行動もチートを駆逐する為に動いていた。
一方でネット炎上や悪目立ち、マナー違反と言った事は管轄外とは言わないが――そうした勢力はガーディアン等に任せている傾向がある。
あくまでもチートプレイや便乗ビジネスの根絶が彼女の本来の目的であり――理想でもあった。
しかし、彼女の理想は現実化するようなことは非常に難しく、こうした存在をビジネス化するような人物がいる限りはなくならない。
リアルウォーと言う単語自体、嫌悪感を持つ事がある彼女にとっては――命のやり取りや命を賭けると言った台詞をARゲームで聞くのも地雷なのかもしれないだろう。
「それに、あの青騎士の様に自己満足と言う目的で戦っている訳でもない」
青騎士騒動後、もはや青騎士と言う存在に興味が薄れた訳ではないが――今の彼らは過去の遺産にしがみつく広告会社やテレビ局、芸能事務所と被る部分があった。
つまり――古き物に対する依存症とも言える状態である。それが決して悪い事ではないのだが、ARゲームを初めとした次世代のコンテンツも出ている。
その状況の中で、彼らは超有名アイドル商法を唯一の神として――それこそ、言い方は悪いかもしれないが唯一神として進行している節さえある。
このような企業が存在する中、クールジャパンを掲げようとしてもいい顔をする企業が何社あるか?
ARゲームを黒歴史にしようと芸能事務所側が炎上商法を展開するような手段――そのノウハウを海外に拡散する事が何の意味を持つのか?
それこそリアルウォー待ったなしであり――下手をすれば人類滅亡のシナリオも見えてくるだろう。
海外へARゲームの技術等を流出させたくないと考えるキサラギ等の企業は、芸能事務所や広告会社のこうしたやり方をチートと断言し、非協力的になっているのかもしれない。
「結局、自分がやってきた事は彼女と同じだったのか――」
デンドロビウムの言う彼女とはアルストロメリアの事を指す。これも、いわゆる一つの同族嫌悪なのかもしれないが――。
アルストロメリアのやり方で、悪しき炎上商法を根絶できるかと言うと疑問点があるだろう。
自分のやり方が完全に正しいかは、判断も難しいかもしれない。
本当の意味で決着を付ける必要性が――何処かで発生する可能性はあった。そのフィールドは、もしかするとここになるだろう。
###エピソード62-3
午後2時30分頃、ワイドショー番組で臨時ニュースと思わしきテロップが表示される。
《芸能事務所AとJがコンテンツ流通で提携する事を発表》
その内容は、どう考えても週刊誌のブラフニュースと言えるような内容だった。
しかし、ワイドショー番組だけでなく国営のニュースでも速報で取り上げている所を踏まえると、一概に偽ニュースとして無視する事が出来ない。
詳細な部分は言及されていない為、記者会見待ちかもしれないが――どちらにしてもARゲームにとっては最悪な空気になりつつあった。
「一時撤退と見せかけて、手札を隠していたのか――」
思わずARメットのバイザー部分をオープンにして驚いたのは、鹿沼零(かぬま・れい)である。
草加市からは確かに撤退したと発表があった。実際、公式サイトで該当のプレス発表は削除されていない。
しかし、これは別のエリアで地固めを行い、包囲する為の準備とも受け取れたのかもしれなかった。
「どちらにしても、向こうが慌てて手札を切った訳ではないのは明白だが――」
ARゲームの状況を踏まえ、人気が奪われると思って提携を発表したのであれば、フラゲ記事等が出回るはずだ。
その様子もないという事は――芸能事務所も本気で潰す気があると言う事かもしれない。
フラゲ記事が出なかったのには、芸能事務所側が通達を出した可能性もあるのだが――それは、推測でしかないだろう。
【そう言えば、何時も通りならば――と思ったが、何処も扱っていないな】
【表現規制とか入ったのか?】
【そうではない。普段なら、いくつかのアフィリエイト系サイトでフラゲ記事があるはずだ】
【フラゲ記事自体、色々と問題を抱えている個所もある――ネットマナーの欠落とも言える】
【こうした流れも全ては芸能事務所と広告会社が自在に操っていた?】
まとめサイトにフラゲ記事がない事に対し、つぶやきサイト内では疑問の声があった。
ARゲームの新ガイドラインに関して知らないユーザーは、フラゲ記事の禁止と言う事を知らないだろう。
芸能事務所側が圧力をかけて情報を封じ込めているという解釈も出来るかもしれないが――。
『どちらにしても――運営側に連絡をしなくては』
余計なお世話と運営が思うのは百も承知で、鹿沼はアーケードリバースの運営へ連絡を取ろうとした。
しかし、肝心の直接連絡用のアドレスは載っていないのである。そして、鹿沼はARバイザーを再び展開し――。
『アンテナショップへ直接行くか――』
ホームページに載っていてもサービスセンターのアドレスの為か、時間がかかる可能性もあった。
その為、近くのアンテナショップへ行って事情説明をした方が早いと考えたのである。
その一方で、同時刻にフライングで動くような青騎士勢力が数名いた。
こちらの目的に関しては芸能事務所の指示と言う訳ではない。その証拠として、彼らの目の前にいたのは――。
「貴様たちも――あの勢力か?」
『あの勢力? 芸能事務所とは無関係だ! 同じと思っては困る』
「そうか――」
そうしたやり取りの後、レイドバトルがスタートした。
しかし、ARゲームのスキルが低いようなプレイヤーではデンドロビウムは止められない。
彼女の方も接待プレイをする気は毛頭なく、手加減なしでレイドボスを撃破していた。
【化け物か?】
【ネット上でも最強の声が高いが――】
【どちらにしても、ARゲームで最強と言うプレイヤーは大抵がチートを使用したチートプレイヤーである事が多い】
【チートプレイしても得る物がないようなカードゲーム、リズムゲームでは目撃例がない。しかし、リアルドーピングをチートと言う様なアスリート系もある】
【メーカーとゲーマーによるチートプレイに対する論争に終わりは来るのか?】
【チートプレイに罰金精度を採用すれば、減りそうだが】
【そう言うやり方でチートプレイを減らしても、結局は同じ事が別ジャンルで起こる】
【ここで重要なのは、チートプレイが自分にとっては損しかしない事を分からせる事だろう】
ネット上ではチートプレイヤーに関しての反応もいくつかあるようだが、大抵が泥沼化している争いに終止符を打って欲しいような物だった。
そして、陸上競技でのリアルドーピングの様な事例もARゲームで出ており、これらに関しても規制を求める声がある。
しかし、リアルドーピングに関しては――今回の事例とは関係がない為、あくまでも一例のみにとどめておく。
こうしたチートプレイヤーが出現し続ける事は、ゲームメーカーにとっても損害と言える物になっている。
ADVやミステリーと言ったジャンルのARゲームがないのは、動画サイトで実況勢がネタバレを含む動画をアップしている問題を踏まえて禁止にしている話もあるだろう。
ARゲームには、様々な問題が存在し――それらを少しでも解決していかなくてはいけないのは間違いない。
それらの事例を考えているからこそ、アルストロメリアは本格的にARゲームの改革をする為に動き出した――そう断言出来る。
「結局、こうなるのか――このジャンルも」
レイドバトル終了後、つぶやきサイトの様子を見て――デンドロビウムはふと思う。
チートプレイヤーを減らす為の手段が、結局はペナルティではなく罰金や該当者の追放というパターンになってしまう――と言う事を。
そこまですれば圧力や暴力などで分からせる事と同じであり、チートキラー等とやっている事は変わらない。
自分の場合は、百も承知でチートプレイヤーを減らす手段がこれしかないと考えたからこそ――この手段を取ってきたのだ。
###エピソード62-4
ある日を境にして、チートキラーとチートブレイカーの定義が設定された。
これはまとめサイト対策という説があった一方で、デンドロビウムとそれ以外のチートキラーを区別する為と――様々な説がある。
しかし、アカシックレコードではチートキラーとチートブレイカーで区別するような文面は確認出来ない。
おそらくは動画を見ていたファンが拡散した物が、半公式みたいな扱いで呼ばれるようになった――と言うのが正しいかもしれない。
『アガートラームの有無と思っていたが――』
一連の考察サイトを見て思ったのは、スレイプニルだ。
アガートラームとは神話等でも単語が聞かれる物だが、アカシックレコードではありとあらゆるチートを破壊する存在とされている。
しかし、明確にARガジェットとは定義されておらず――設計図でも色々な形状で出回っており、不明確な個所もあった。
アガートラーム以外にも、アカシックレコード経由で存在する単語はいくつか存在し――ゲーマーの中には、それを使用している人物もいる。
それこそ、戦国武将、英雄、偉人、神話上の存在――それらがアカシックレコードによって生み出された架空の存在と思うかもしれない。
しかし、学校の歴史で学ぶような偉人を理由なくフィクションと切り捨てる事は出来ないし、後に創作と言及された事件だってある。
どちらにしても――それらの出来事を自分達の都合のよい方向でねつ造したり、圧力で無理やり変えようとする行為は――あってはいけないのだ。
『しかし、定義されたタイミングが明らかに――狙っているのか、ネット炎上を』
スレイプニルが疑問に思ったのは定義を決めて発表したタイミングだ。
まさか、レイドバトルが開催中の今に設定するとは――。
発表したのがまとめサイト系のサイトと言うのも炎上狙いという思惑があるのだろう。
『不用意に記事を叩けば、それがネット炎上系サイトに取り上げられ――エンドレスするように仕掛けがあると言う事か』
さすがに分かり切った罠に飛び込むのはリスクが大きすぎる――そう判断したスレイプニルは、この件に関しては様子を見る事にした。
しかし、これにリスクを承知で飛び込もうとするのは――真犯人を探っているアキバガーディアンや一部勢力だろう。
ネット炎上の真犯人を発見できれば、これ以上の炎上は起きない事に加えてリアルウォーを回避できる。
リアルウォーに関しては一部の過激派勢力等が利用しているネット炎上用のパワーワードであるかもしれないが。
その状況下、あるネット上の記事が拡散する事になる。
このタイミングで拡散するのは――ある意味でも誹謗中傷にも値し、一歩間違えれば拡散者が逮捕されかねない。
【都市伝説を拡散したきっかけとなった芸能事務所、広告会社を根絶する】
ある種の脅迫文にも見えるのだが、このコメントを書いた人物の名義は――何と、デンドロビウムだったのである。
当然だが、このような口調は使わないのでネット上ではなりきりチャットの文章を本人が発言したかのように、まとめサイトが載せた虚構記事という見方が強かった。
どのような手段を使って――と言うのが明言されていなかったので、ネット上では一種の大喜利になっていたと言う。
実際、そのやりとりもまとめサイト上で掲載され、運営サイドに削除要請まで来たのだが――それでもこれは削除できない事情があった。
単純に拡散した情報主を発見するだけであれば、もっと別の話題でも同じような事はするはずである。
それを、この話題だけに限って特例処置をするのには――芸能事務所も広告会社も明言されていない事にあったと言う。
「これが芸能事務所A及びJみたいに書かれていれば――と思うのは、不謹慎かもしれないが」
運営スタッフの一人は、一連の発言に関して子の様な事を言っていた。
アンテナショップでも、風評被害が起こりかねないという声があるのは事実であり、発言の削除を個人的な意見と言う形で進言したケースもある。
【これを放置した理由が分からない】
【ネット炎上が大規模ではない――という考察もあるほどだ】
【しかし、炎上は炎上に変わりない。やはり、発言の削除をするべきだった】
【芸能事務所の名称が具体的に明言されていないのは理由にならない。明らかにAとJを個人攻撃しているのは明白だ】
【だからと言って、この発言がデンドロビウム本人による物なのか――疑問に思う】
【今までのチートプレイヤーを摘発している状況、その正体がアイドル投資家と言う箇所を踏まえても――彼女の発言なのは明らかなじゃにのか?】
【それでも明らかに分かる証拠がないと、アーケードリバースの運営は動かない】
【アイドル投資家や芸能事務所は諦めていない――と?】
【そうとしか言えないだろう。証拠がまとめサイトにアップされていても、まとめサイトでは証明にならないと切り捨てている】
【それ程にまとめサイトは信用できないと?】
【まとめサイトがアフィリエイト系の炎上サイトとひと括りにしているのも原因だが――】
ARゲームのガイドラインが変更になっても、やはり変えていない部分があると言う事なのだろうか。
こうした部分を煽ることでネット炎上が容易に起きる可能性が――と運営は考えているかもしれない。
###エピソード62-5
午後4時頃、まさかと言えるような臨時ニュースが飛び込む事になった。
《芸能事務所AとJが業務提携を撤回。独占禁止法に違反か?》
動画サイトのニューステロップにも?マークが付くので、おそらくは――。
しかし、このニュースをフェイクやブラフの類、まとめサイトの誘導とは誰も思わなかった。
普通は誰もがニュースの内容を見れば、疑うような物のはずだが――。
「遂にフェイク動画と言う物を作って煽るような勢力も出始めたのか」
ARゲーム運営側も、今回の動画騒動に関しては放置できないと判断し――動画の投稿者に警告を出す為に準備を行う。
しかし、その量は半端なく多い為にエンドレス状態となる事が間違いない――運営側も、そう思っていた。
「これが無限増殖すれば――サーバーの負荷も相当なものになるでしょう」
「そうすれば――物理的にARゲームが運営できなくなる」
スタッフも、今回の一件に関して危機感を持った。
ARゲームを物理的に運営できなくなれば――明らかに動画を投稿している人物が営業妨害になるのではないか、と。
しかし、それから5分後、テロップにあったニュースは現実化したのである。
一体、どういうトリックを使ったのか――とネットでは話題となっていたが、それも一種のネット炎上と疑う声さえあった。
【アカシックレコードは、あくまでも架空の出来事――現実化するなんてあり得ない】
【しかし、あの技術を現実化させようと言う勢力は存在する。だからこそ、ARゲームは現実化して――更なる進化を果たした】
【芸能事務所が権利を独占しようと超有名アイドル商法を加速させた。だからこそ、青騎士騒動の様な事件が起こる】
【芸能事務所AとJは、無尽蔵な利益を生み出そうと禁忌である賢者の石に手を染めた――】
【賢者の石となった超有名アイドル商法は、確かに無限の利益を生み出すようなシステムになった】
【その一方で、ネット炎上等でライバルコンテンツを潰していき――その元ファンでさえも吸収して、アイドル投資家にしていく】
【FX投資まがいになり下がった超有名アイドル商法――それをコンテンツ流通の理想形と布教するのは、ごく数名のアイドル投資家と聞く】
【だからこそ――そうした勢力を排除しないといけない。超有名アイドル商法がリアルウォーの引き金となる前に】
ネット上では、明らかにまとめサイトや他の勢力に踊らされるようなつぶやきが多数を占めていく。
これも、真犯人の狙いだったのだろうか?
最終的に芸能事務所AとJは、一連の賢者の石や超有名アイドル商法、それ以外にも発生した様々な事件――それらの一部を認める流れとなった。
謝罪会見でさえも、一部の勢力からすれば『トカゲのしっぽ切り』や『ガス抜き』と言う意見が存在している。
【これを見て、純粋なアイドルファンが何を思うのか――】
【結局は、一連のアンチが自分達が正義だと言い続けてネット炎上し続ける限り、まだ続くだろう】
【こうした勢力を影で鎮圧していたがアキバガーディアン等の勢力と聞くが――本当なのか?】
【この一件をリアルウォーと言って炎上させる勢力が現れる限りは、まだ続くだろうな】
【やはり、ネット炎上禁止法案を成立させた方が平和になるのでは?】
一連のつぶやきサイトやまとめサイトでも今回の件は取り上げているのだが――需要がある以上は、当然の動きだろう。
しかし、芸能事務所側がそののちにどうなったのかは――ネット上で言及する場所がなかった。
その理由は不明だが――ネットでも需要がなくなったという説が存在する。
これ以上炎上させても、アフィリエイト収入が望めない話題であれば、触れる必要性はなくなるだろう。
コンテンツ市場でも流行のコンテンツは移り変わって行くのが当然であり、必然でもあった。
ARゲームはどうなるのだろうか? アーケードリバースも、数年後には誰もプレイしないようなゲームになっているかもしれない。
それはネット炎上もしない事を意味するが、本当にそれがコンテンツとして正しい流通なのか?
生み出された以上は、誰かがプレイして欲しいと運営は考えている。
だからこそ――草加市はARゲームを町おこしに使えるのではないか、と考えたに違いない。
ARゲームメーカーは、ビジネスチャンスと考えて投資するのだ。彼らも慈善事業でやる訳ではないのである。
アイテム課金で基本は無料と言うソーシャルゲームが爆発的に増えた時代とは、ARゲームが置かれている立場が違う。
ARゲームは、あくまでもクレジットを投入してプレイするタイプのアーケードゲームの延長線上のゲームである。
「こちらが望むような形ではなかったが、芸能事務所の謝罪はあった。後は――」
あるセンターモニターで一連の謝罪会見を見ていたアルストロメリア、彼女は本当に何をARゲームに望んだのか?
彼女が考えているARゲームの未来、コンテンツ市場の未来とは――。
芸能事務所の動向に関しては、望むような形ではなかったが目的が達成された。
後は芸能事務所が自然消滅しようが、ネット炎上が原因で倒産しようが関係ない。
大規模テロの様な形で物理壊滅しなければ――。
目的を達成した事で、アルストロメリアは若干の燃え尽き症候群になっていた。
アーケードリバースも――若干どうでもよくなっている気配だったのである。
しかし、そんな彼女の目の前に姿を見せたのはガングートだった。
「芸能事務所を壊滅させて――さぞ、満足なのだろうな!」
彼女の言うとおりだ。今の自分は芸能事務所を壊滅させる為に――ARゲームを利用していたのである。
確かに達成させた時は満足と言うか――心が一瞬だけでも満たされたように思えた。
おそらく、ネット炎上をさせた人物も同じ事を考えて炎上させ、他人を恐怖させたのだろう。
だとすれば――今の自分には、何が出来るのか? 結局、あれだけの計画等を立てておいて、自己満足の一言だけで済ませてしまうのか――。
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