エピソード16~エピソード21.5

###エピソード16



 姑息な手を使ってジャック・ザ・リッパーを消そうとしたアイドル投資家は、その後に逮捕されたらしい。

しかし、彼が何のために今回の事件を起こしたかに関してはニュースで報道される事はなかった。

これに対して、ネット上では芸能事務所がテレビ局を買収しているという話が拡散、ネット上は文字通りの炎上状態となっている。

「自分さえ楽しめれば、他の人間は切り捨てる――まるで、一昔前のアニメやゲームなどにいた邪悪な人物を思わせる」

 一連の事件をネット上のまとめサイトで知ったのは橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)だった。

今日も彼は一連の真実を掴む為に秋葉原から草加へ――と言う展開になっているのだが、今回に限れば単独潜入ではない。

同行している人物は、橿原と初対面なのだが――北千住で隣の席に座った際、ある話題を切りだされて――そこで意気投合した。

「ねぇ、君――我侭姫って知ってるかい?」

 やけにフランクだった。それに加え、上半身は防弾チョッキっぽい物を着ているが、チャックを下している。

更に言えば、何故か横乳が見える位の巨乳と言うか――そんな気配もするだろう。髪は黒髪のぱっつんにセミロングだが――。

「わがままひめ?」

 橿原が答えると、チッチッチッ――という具合に人差し指を振る。確かに、そう答えてしまうのは仕方がないかもしれない事情もあるのだが。

「ネット上では、そうとも呼ばれているかもしれない。だけど、探しているのはそっちじゃない」

 彼女は橿原の隣に座った。そして、バッグから小型のタブレット端末を取り出し、それを橿原に見せる。

そこで、橿原はようやく自分が何を言っていたのか把握したのだ。我侭姫、つまりデンドロビウムの事である。

「あまり人が乗っていないから言うけど、彼女の事を下手に探るのは――」

 彼女が何を言おうとしているのかは把握している。どうせ「しぬ」とか「暗殺される」とか――そう言った冗談交じりだろう、と。

しかし、彼女が後に言ったのは更に別の事だった。

「――それが負けフラグに直結する」

 思わず橿原は吹きそうになってしまう。さすがに彼女の私物を汚す訳にもいかないと言う事で、こらえたのだが。



 電車は梅島駅に到着した。その頃には、人の数が一気に増えている印象がある。何処かの買い物帰りだろうか?

あるいは学校帰りという可能性も高いのだが、学生服やセーラー服姿の学生は一握りである。

そして、大量に電車に乗り込んだ人物には『ある共通点』があった。それが、SF作品のようなスーツを着用している人物――。

このスーツはARスーツと言うARゲームをプレイするには欠かせないスーツだ。

これでも汗の吸収率なども高いので、スポーツウェアとしても流用が可能である。

唯一の難点は、身体のラインが見えてしまうので、女性の場合は下着を着用する必要性が高いだろうか。あるいは、まえばり等で隠すとか――。

最新のスーツは、そうしたラインが見えないようなデザインになっているので、そちらを購入して着用するユーザーも多い。

「ARゲームが、ここまで一般人から白い目で見られるような状態から脱出するのに――苦労した物だ」

 橿原は一つ思い出話を――と言う様な切り出しで、隣の席にいた彼女に語ろうとした。

しかし、彼女の方はスルーするかのように遠慮されたので、話すのを止めてしまったわけだが。



 電車が竹ノ塚駅に到着するころには、ARスーツ姿のプレイヤーが何人か新しく乗り込んでいた。

「さすがに、この人数は白い目で見られる状況が減ったとはいえ、やりすぎじゃないのか?」

 秋葉原でもコスプレイヤーが歩行者天国を歩いていたり、メイドが客引きをしていたりするが――ここまでの状況ではない。

何人かはARスーツ姿なのだが、上着の下にARスーツが見える人物も含めれば、数十人規模かもしれない。

竹ノ塚はARゲームで町おこしをしている訳ではないが、駅周辺に該当施設が多くある事で有名だ。

それを踏まえれば、家へ帰る所と言うのも納得できるのだが――それだけで片づけるには多すぎる。

橿原は、その辺りを踏まえた上で彼女の方に質問を投げかけた。そして、彼女が出した答えとは――。

「あるARゲームをプレイする為でしょ? やりすぎと言われると一理あるけど、彼らは早くプレイしたい。違う?」

 橿原が想定していたような答えと違う物が出た事に関して、もはやツッコミは無駄だと悟った。

自分もARゲームに関わっている以上、覚悟をしている部分はあるのだが。

「そう言えば、名前を聞いてなかったな?」

「えっ?」

 橿原の一言に対し、彼女は真顔になったかのような驚きを見せた。

周囲のARスーツを着た乗客も橿原の声を聞いて、そちらの方を振り向く人物もいたのだが――。

「まさか、名無しとかそこらのモブキャラ――という受け答えをするつもりだったのか?」

 さすがの橿原も、名無しで処理できるような状況ではない事に対し、こんな事を言った。

「顔パスで通らないの? 私、ARゲームのプレイヤーでも実況者と違う意味で有名なんだけど」

 彼女の方も橿原の回答には疑問を持った。有名実況者位であれば、ネットで調べれば分かるはずだ。

ネットに疎くても、ニュースで散々聞くような名前に対しては聞き覚えがあってもおかしくない――と言う様な反応である。



 彼女の方は、谷塚駅の方で降りてしまったので――草加駅に到着するまでは橿原一人である。

結局、彼女が名前を言う事はなかった。顔パスと言われても、思いつく名前がないので名無しとしか言いようがないのだが。

「埼玉県の景色も変わったというか、一時期は色々と言われていたのが嘘のようだ」

 名産や観光名所がゼロと言う訳ではないのだが、あまり観光と言われてもアピールできる個所がないのはネットでも有名だった。

それは10年以上前とか、その辺りの話題とも言えるような物であり――今は状況が違っている。

様々な街がアニメやゲームの舞台として出てきた事で、聖地巡礼をするファンが増えたためだ。

一時期はテレビドラマのロケ地巡りと言うのもあったが――そちらよりは聖地巡礼が有名だろうか?

「今になっては、関東地方でも様々な場所でアニメやゲーム文化が問答無用で批判される事も減っている。それも、アカシックレコードの――」

 橿原がふと過去の思い出話を思い出した所で、電車は草加駅に到着した。駅から見えるビルには、さまざまなARゲームのCG映像が表示されている。

これも一種の看板と言える物だが、どちらかと言うとAR画像を応用した技術なのかもしれない。

こうした技術もアカシックレコードから発見された物が多いのだが――。




###エピソード17



 橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)と同じ電車に乗りながらも、谷塚駅で降りた黒髪の女性は――。

谷塚駅の改札口を出た辺りで一部のARゲームプレイヤーに目を付けられた。チートプレイヤーなのは――周囲も分かっている。

おそらく、彼女がプロゲーマーだと言う事に気づいての襲撃かもしれないが、ARゲーム外でプレイヤーに怪我を負わせる行為は禁止されていた。

そんな事をすれば警察に捕まるのは当然と言えるのだが、草加市内では警察がARゲーム絡みの事件では介入したくてもできない事情があったのである。

「こちらとしてもあの連中を捕まえたいのだが――」

 警察官の一人は、別のARゲームプレイヤーによる喧嘩を見て――介入禁止である事を悔しがっている。

手柄的な事もあるのだが、警察が一般市民のARゲームプレイヤーに関するクレームに対応できないのは――と言うのもあった。

最近になって介入禁止の指示が出たのだが、この指示を出したのが草加市なので、どうする事も出来ない。

「何故、草加市はARゲームへの介入を禁止したのか?」

 理由に関しては様々だが、警察でも今回の件に関しては不満らしく、一部の警官が暴動を起こすという事件も起きた。

ネット炎上防止や芸能事務所の宣伝材料に利用されると言うのが――ネット上で言われている理由とされている物である。

しかし、草加市も詳細は非公開を貫いている為、これに関しては深く詮索する事も出来なかった。



 一部の市民も、この光景を見てARゲームに対して悪意しか持たないと言う様な状態になるのは――火を見るよりも明らかだ。

ネット上に動画をアップしても、これを特撮の撮影と切り捨てられるようなケースもあれば、アフィリエイト収入やまとめサイトでの悪目立ち目当てと見られるケースもある。

結局、ARゲームでの事件を止める事は一般人には不可能と言えるのかもしれない。

「そんなに相手をして欲しいなら――相手をしてあげるよ!」

 彼女の方は、周囲を囲むARゲームプレイヤーに対し、挑戦を拒否する事はなかった。

そして、カバンの中から両耳に付けるタイプのインカムを取り出し、それを両耳に固定する。

《アーケードリバース》

 次の瞬間、インカムと思われた物はARメットへと変化し、彼女の服装も私服からARアーマーへと変化していた。

その様子は特撮の変身物と言われても違和感がない様な演出であるのだが、装備の外見は特撮と言うよりはSFラノベに出てくるような物かもしれない。

「この私をプロゲーマーである事を忘れているような――」

 何かを続けて言おうとしたが、彼らが装備しているガジェットを見て何かを察し――言及を避けた。

「それを使っている限り、お前達では私に勝てない。それを――後悔する事になる!」

 メットの形状はフルフェイス型ではなく、口元だけが見えるタイプである。

フルフェイスが必須と言う訳ではないので、ARメットの形状は自由となっているのが現状だが――特にメットは愛着を持つケースが少ない為、フルフェイスが多いとされていた。

「馬鹿な――我々を青騎士と知っての事か!?」

「ネット上の都市伝説、プロゲーマー青騎士を知らない訳ではないだろう」

「ARゲームプレイヤーの中では、常識だからな!」

 フルフェイスの一団は、青騎士(あおきし)と名乗った。ネット上で青騎士と言えば、都市伝説にもなった人物を指す。

しかし、その名前は青騎士(ブルーナイト)のはずなのだが――彼らは『あおきし』と言ったのだ。

「そうか――愉快な便乗勢力は、お前達の事か!」

 彼女は瞬間的にシールドビットを呼び出したと思ったら、そのシールドにはチェーンソーにも似た刃があったのである。

ビットチェーンソーと言うべき、その武装を放ったとと同時に複数いた青騎士は瞬時にして行動不能になった。

ある意味でもワンパンチ決着だが、これをワンサイドゲームと言うのは――ネットを炎上させようと言う悪目立ちつぶやきユーザー位だろう。



 彼女が何者かどうか確認してから挑むべきだった。彼らは自分達が行った事に後悔する。

青騎士と名乗った事で、ARガーディアンを出動させる展開を生み、彼らはARゲームの規約違反で捕まる事になった。

「あれが噂のプロゲーマー、ビスマルク――?」

 この様子を草加駅のセンタモニターで見ていたデンドロビウムは、ふと自分が言った名前に心当たりを感じた。

以前に『ヴィスマルク』と言うプレイヤーに遭遇した事が彼女にはある。

プレイヤーネームの重複は、よほどの有名人であればその知名度を考慮し、登録できない場合があった。

ビスマルクは、そのケースに該当するプレイヤーネームと判断され、他のプレイヤーが名乗る事は不可能となっている。

「しかし、そうだとしてあの時のヴィスマルクは何者だったのか――」

 ヴィスマルクと言うプレイヤーネームの人物、それがゲストプレイヤーだったのかは調べて見ないと分からないだろう。

だが、あのプレイヤーとは近い内に会うかもしれない――そう感じていた。



###エピソード18



 7月12日、その日が金曜日だと言う事は周囲も忘れていそうな勢いだが――ARゲームで未成年がプレイしている光景はない。

未成年と言う例えが不適切かもしれないが、この場合は中学生までの姿がない、という表現が正しいのだろうか。

「あれがビスマルク――」

 身長196センチと言う長身の女性、彼女は谷塚駅より若干離れたパチンコ店からビスマルクのプレイを見ていたのである。

金髪の女性と言う事で周囲から注目されそうな気配もするのだが、セクシーなコスプレイヤーであれば町中にいるので、それ位ではアドバンテージにすらならない。

草加市の光景は、ある意味でも様変わりしていると言えるだろう。それも、過去に超有名アイドル無双と言われた時代以上に。

長身の女性の衣装が、ARゲーム用のインナースーツと言うのも振り向かれない原因かもしれないのだが――彼女は気づいていない可能性が高い。



 午後2時ごろにはARガーディアンが駆けつけ、倒れているチートプレイヤーを逮捕したのだが――。

これを倒した人物こそがビスマルクだったのは、ネット上で動画がアップされるまでは一部の人間しか気づかなかった。

彼女がプロゲーマーと言うか、イースポーツ分野でも知られるような有名プレイヤーと言う事もあって、それがARゲームに進出と言う話が作り話と言われる程。

どれ位の実力差があるかと言われると『ARゲームでは右に出る者がいない』や『勝つとしたらチート必須』と書かれるほどだ。

チートプレイヤーが各地で荒らしまわる環境を生み出したのは、彼女の強さが原因の一つかもしれない。

だからと言って、チートと言う不正に手を出しては論外なのは間違いないだろう。

『彼女がプロゲーマーのビスマルクか――』

 更に別の場所から動画経由ではなく、リアルで一連の騒動を見ていた人物がいた。

この人物は装着しているARバイザーで見ていたのだが――どうやら、中継映像経由で視聴していたらしい。

『あまりにも強すぎるプレイヤーは、やがてリアルチートと他のプレイヤーから標的とされる危険性もあるだろう』

 男性のボイスに加え、若干のノイズが混ざる声――北欧神話モチーフのARアーマーは、スレイプニルというコードネームで呼ばれる程の存在となっていた。

周囲の人物には明らかに正体がばれていない。指を指すような人もいないし、振り向いたとしてもスルーしてしまう人がいるだろうか。

今回に限って言えば、ARゲームフィールドの併設されたアンテナショップで観戦していた事もあり――以前の様な懸念はなかったのも大きい。

『ARゲームが正常運用される事――ネット炎上の様な不確定要素やサービスを終了させる存在は、排除すべきだ』

 彼の言う事には一理あるだろう。しかし、闇が存在しないARゲームはあるのだろうか?

そして、ゲーム業界全体を見ても――光だけが存在し続けると言えるのか?

スレイプニルは、次の段階へ進むべきだと考えていた。



 午後3時、アミューズメント施設で一連の出回っている動画を知ったアルストロメリアは――。

「あのビスマルクが――参戦?」

 先手を打たれたと思ったのは言うまでもない。しかし、ビスマルクがロケテスト勢とは気づいてなかった。

ふるさと納税の事情を知らない人間は数多いと言うよりも、アーケードリバースが他のARゲームと誕生の経緯が違う事を知らない人間が多い。

「アーケードリバースはARゲームプレイヤーの知名度上げに利用されるようなゲームではない。それを証明する為にも――」

 未だに自分は参戦するかどうかを悩み続けていた。このままふるさと納税でサポートしていくだけでもアリなのではないか、とも思っている。

しかし、この状況を打開しなければ以前に起こったコンテンツ市場の炎上と同じ事を繰り返すだろう。

だからこそ――普通にゲームの進行を見届けるだけでは炎上を止める事は出来ない――そう考えたのである。




###エピソード18.5



 7月13日、その日は土曜である。昨日が金曜だったのにギャラリーがいた事が不思議な位なのだが。

土曜と言えばデパート等が混雑するような曜日であり、学生の姿も――というのが東京などのケースだろう。

実際、秋葉原等は歩行者天国が大盛況だと聞く。しかし、それに負けない位の盛り上がりを見せていたのが草加市だった。

土曜日には小規模のイベントスペースで同人誌即売会、アンテナショップではARゲームの体験会、撮影スタジオではコスプレイヤーの撮影会――。

どう考えても、草加市で盛り上がるようなコンテンツではない物が盛り上がっていたのだ。

これには草加市民も困惑気味なのだが、既に慣れてしまっている。ARゲーム等に代表されるコンテンツが、どのような役割を持っているかを知っているから。

「ここまでの盛り上がりは何だ? 平日とは比べ物にならないぞ――」

 午前10時に草加駅近くのアンテナショップ前に姿を見せたデンドロビウムが、この光景を驚いていた。

平日でも数百人や数千人規模というギャラリーが来るアンテナショップやゲーセンがある位、ARゲームの盛り上がりは異常の一言である。

過去に政府が広めようとしたスーパーフライデーが不発気味になっている状況からすれば、ARゲームを経済成長に利用すれば良い位だ。

しかし、ARゲームコンテンツにはデンドロビウムが思っている以上の制約が存在していた。

それを破る事は――法律違反と同義とされているレベルのルールである。



 それがARガジェット悪用を禁止したガイドライン、俗に言う『ノットデスゲーム』である。

このガイドラインは、簡単に表現すれば『ARゲームは大規模紛争、殺傷、破壊行為への転用を禁止』しているガイドラインだ。

過去にARガジェットを悪用しようとした事件が起こった事で、ネット上が炎上――その隙を突いて超有名アイドルが圧力を加え様とした一件が存在する。

これには諸説あり、正確な被害総額などは非公表とされている。ネット上では100兆円はくだらないような額の損害が出たとされているが――。

この詳細を調べようとしたまとめサイトの管理人などが逮捕されていたりする為、調べるべきではない存在とネット上では言われている。

 こうした事情をデンドロビウムは一定の把握をしているが、詳細を知ったとしてもゲームが有利になる訳ではない。

その為、彼女は意図して詳細を知ろうとは関得ていなかったのである。

「そりゃあ、当然だろう? ここはARゲーム特区と言われる程の場所だからな」

 唐突な男性の声に驚くデンドロビウムだが、表情を崩す事はなかった。それは、彼の外見を見れば即座に分かるだろう。

デンドロビウムの目の前に現れた人物、それは明らかにFPSゲームで見るような司令官ポジション――そんな外見だった。

ARメットを被っている為、表情を見る事が出来ない。しかし、敵意は感じないが明らかに接触するべきではない人物だと直感で分かる。

しかし、周囲のギャラリーは――彼女とは全く違うリアクションだ。

「あれって、山口飛龍じゃないのか?」

「武者道の? まさか――」

「あのコートは間違いない。本物だ」

 周囲のギャラリーもARメットを被った山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)、彼を警戒する事はない。

むしろ、彼がここへ来た理由を聞きたい位の状態だろう。

「貴様は一体、何を知っている?」

「それを聞いたとして、君は何を行うつもりだ?」

「決まっている。チートを――チートプレイヤーを一人残さず排除する」

「排除しても、芸能事務所側にコンテンツ炎上の口実を与えるだけだ」

「それは何度も言われている!」

「百も承知か。運営サイドの事情も知らないで、無闇に荒らしまわるのでは――無自覚の荒らしやネット炎上勢力と同じだ」

 2人の話はエスカレートしていくのだが、それを止めようと言うギャラリーはいない。

興味本位で止めないのでもなく、警察待ちでもない。おそらくは、既にARゲームが展開されていると考えているのだろう。

「無自覚の荒らしとは違う。チートプレイヤーがコンテンツに致命的ダメージを与える事は、嫌でも知っている!」

「チートとバランスブレイカーは違う――とも言っていた人間がいたが、君も同類か」

 デンドロビウムの一言を聞き、山口はコートの裏からスカウトナイフを取り出した。

ナイフの刃はビームであり、殺傷能力は一切ない。しかし、そのナイフを投げる事はなかったと言う。



###エピソード19



 デンドロビウム――彼女が遭遇したチートプレイヤーは、どう考えても救いようのないような思考を持っていた。

ただし、犯罪者的な思考と言う訳ではなく――単純にゲームをプレイする上で『救いようがない』と言う意味である。

遭遇してきた人物の中には、彼女がチートを狩り続ける理由に『自分達と同類』という意味の言葉が投げられる事もあった。

彼女の場合はチートプレイヤーの中には『止む得ない理由』や『事務所の圧力』と言った理由でチートに手を染めた人物もいる。

しかし、そうしたチートプレイヤーでもチートを一纏めにして狩るような人間もいたのは事実だ。

「チートとバランスブレイカーは違う――とも言っていた人間がいたが、君も同類か」

 デンドロビウムの一言を聞き、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)はスカウトナイフをデンドロビウムに突きつけた。

しかし、それを投げるような行動には出なかった。おそらくは――挑発ではなく、警告と言う意味があるのかもしれない。

「同類? バランスブレイカーは――」

 デンドロビウムが何かに言及しようとしたが、その時には山口の姿はなかったと言う。

アンテナショップの自動ドアが開くような音がしたので、おそらくは――。



 その直後、ARガーディアンと思わしき人物がデンドロビウムを囲む。いつか見たようなデジャブだ。

「やはり偽物と言う事か? それとも――」

 デンドロビウムは何かを呼び出そうと、ARガジェットの液晶モニターに表示されたアイコンにタッチしようとしている。

その一方で、ガーディアンの方は偽物ではないらしい。デンドロビウムを捕まえようと動き出したと見るべきか。

「デンドロビウム――貴様を拘束する!」

 そして、ある合図があったと同時にARフィールドが展開された。まさかの街中でのフィールド展開である。

しかし、この街中と思われた場所――それは野外ARフィールドだったのだ。

つまり、この場所へ誘導された事を意味しているのだが――彼女は気づいていないようなふりをしている。

「このバトルに手出しは無用だ!」

 重装甲のガーディアンの一人が、周囲のギャラリーに忠告する。

アーケードリバースでは乱入というシステムがローカルルールとして適用されている場所もあり、下手に乱入をされると作戦が失敗する恐れもあったからだ。

「手出し無用? それは――」

 デンドロビウムは向こうの発言を待っていたかのように、左手の人差し指をモニターのアイコンに――。

「こちらの台詞だ!」

 次の瞬間、デンドロビウムの正面にあった地面が開き、そこから何かのフレームが出現した。

その正体はARガジェットの大型版とも言えるもので、ジャンルによってはARギアやARパンツアーなどと呼ばれる。

デンドロビウムの目の前にあったのは、実はARギア専用のハッチだったのだ。扉が開くと同時にフレームが出現し、ARゲームのCGが貼り付けられていく――。

「馬鹿な――この街中で大型ガジェットを使うのか?」

 ガーディアンの一人は声が震えていた。大型ガジェットはバイクにおける免許が必要であり、それがない場合は大型ガジェットは呼び出せない。

仮にライセンスがあっても、フィールドの広さによっては活動場所に制限がかけられたりするのだが――。




###エピソード19.5



 この時、ガーディアンに偽装したアイドル投資家は後悔していた。相手にした人物が、自分達の想定以上とも言える人物だった事に。

芸能事務所が描きこんだと思われるネット上のアルバイトを受けなければ――この明らかな負けフラグの結末をたどる事もなかったのだ。

「ここを街中と言うのか? お前達は、自分達が何処にいるのかも自覚していないようだな」

 デンドロビウムは軽装アーマーを装着し、更にはフレームに各種アーマーが装着された大型マシンに乗り込んでいる。

これが巨大ロボットをイメージさせるタイプのARギアだと言う事が判明したのは、バトル終了後だった。

『今回のバトルは大型ARギアでのバトルが予想されます。プレイヤー以外の方は所定のエリアまで退避をお願いします』

 草加駅より若干離れたエリアでは、自動車を含めた車両の規制も行われる程の展開になっていたのである。

これが野外ARゲーム最大の魅力とも言える、広範囲フィールドを舞台としたバトルだ。

ARレースやARパルクール等の様なアスリート系の広範囲フィールドは、遭遇する可能性が高いゲーム――。

しかし、ARFPSやAR対戦格闘等のアクションやシューティング系の広範囲フィールドは、極めて例が少ない。

ARゲームを知らない人間には、サバゲの町一帯を貸切にしたバージョン、バラエティー番組でも実例のある広範囲鬼ごっこ――と言った物が近いだろうか。

この状況に、運営側も退避指示を放送、既に一部道路で迂回の指示をする程の大規模なエリア確保が行われる。

「悪魔だ――町一帯を火の海にする気か?」

「あの存在を、放置するわけにはいかない!」

「超有名アイドルこそ、英雄だ! その為ならばチートの使用も――」

 敵サイドも負けず劣らずにレーザーや超兵器などで抵抗をするのだが、ある人物の発言は――。

「そう言う事か。これを使用してもダメージ量がおかしいと思ったが――」

 ARギアや大型ユニットを使用してもダメージ量が半端ではない。

ギアなしで攻撃を受けた場合、1発でゲージが速攻で割れる位――その勢いがあった。

「チートプレイヤーと言う事であれば、こちらも遠慮はしない」

 右肩のレールガンが展開したと同時に、想像を絶するような一発が放たれ――瞬時にしてチートプレイヤーは一掃されたのである。

その結果として、建造物が破損していると思われたが、こちらも無傷だった。一体、何がどうなっているのか?



 迂闊な一言がネット炎上を呼ぶ――それと同じ事を、アイドル投資家は実践してしまったのである。

不正破壊者(チートブレイカー)に対してチートを使っていると言えば、それは負けフラグにしかならない。

「さすがに、ギャラホルンを使用するのは――無茶があり過ぎたな」

 デンドロビウムも、勢いに任せてARギアのギャラホルンを使用した事に関しては反省している。

ARギアの使用には莫大なお金が必要であり、それを出すのは使用した本人だ。

お金と言ってもリアルマネーではなく、ARゲームで得られる架空通貨が必要となり、電子マネー等で架空通貨に両替するプレイヤーも多い。

架空通過はリアルマネーへ両替不可能だが、ARゲームで行われている賞金のかかったバトルではリアルマネーの賞金が得られる。

こうしたイースポーツ化をARゲームで行う事には、賛否両論があった。だからこその――。

「自分も廃課金プレイヤーを非難する気はないが――」

 デンドロビウムは非課金プレイヤーと言う訳ではないが、この金さえあれば無双可能な展開はあまり歓迎していない。

ARゲームは1プレイで100円が必要であり、ソーシャルゲームの様なアイテム課金制ではなかった。

それには、色々と理由が存在――と言うよりもARゲームでアイテム課金制度は禁止されていた。

ただし、ARギアの運用に関しては電気代等の関係もあって、アイテム課金と言われない範囲での運用であれば可能と言う条件が付けられている。

その証拠として、ARギアにはアーマーにスポンサー広告が追加されていた。一部で広告なしの限定デザインアーマーもあるのだが。




###エピソード20



 午後3時、草加駅と松原団地駅の間にある大型商業施設――そこではある人物がネット上で有名な青騎士と遭遇していたのである。

厳密に言えば、その人物がプレイしている最中に青騎士が乱入してきたというべきか?

「何とも嫌なタイミングで来たものだな――」

 身長180センチ位の長身男性だが、ARメットで素顔を隠している。

彼が左腕に持っている大型のソードがARガジェットのようだが、それを上手に振るっている様子はない。

「奴も――そんな、あり得ない!」

「我々しか、この場には知っている人物はいないはず。それなのに、何故だ?」

「こっちが知るか? 青騎士の偽物を名乗る人物は、探せばいくらでもいる」

 そんな話が彼の耳にも届いていた。どうやら、彼らがネット上でも噂の青騎士らしい。

西洋風の鎧を装備し、青一色ではないのだが――カラーリングは青メインに近いような感じがする。

目の前には最低でも5人の青騎士が存在するだろう。アーマーのデザインは、それぞれで異なるのが気になる部分ではあるのだが。

「こっちは面倒なチートプレイヤーが出て来たって情報を見たっていうのに――面倒だな」

 彼の方はやる気を出す様子がない。興ざめとか『明日には本気出す』とか、そう言うノリではないだろう。

明らかに青騎士の出現をイレギュラーと確信していた。つまり。今の彼には青騎士は眼中にないと言っても過言ではない。

その発言を聞き、青騎士の一人がビームランスで突撃を仕掛けるのだが、それをあっさりと回避した事に対し――。

「こいつ――本当に情報通りのプレイヤーなのか?」

 突撃を回避された青騎士は、情報にはないような動きをした人物に疑問を持ち始める。

明らかにデータが嘘だと言う事を――。

「ネット上のデータを鵜呑みにするとは、何と愚かな事をする」

 彼の方は目つきが若干変化し、青騎士の相手をする事にした。

本来であれば、彼らは眼中にないのだが――ゲームの中断や手抜きプレイをすれば、それこそペナルティが痛いだろう。

 その後、彼は――あっという間に青騎士を全滅させたのである。一騎当千と言えるかもしれない実力を持っていたのかもしれない。

「相手が悪かったな――」

 彼の名はジークフリート、情報屋としても有名な人物で――不正喰い(チートイーター)という二つ名を持っている。

そして。このバトルを2階の観覧席から見ていたのは、インナースーツにメットで素顔を隠しているジャック・ザ・リッパーだ。

「あれが情報屋――油断が出来ない相手が現れたな」

 ジャックはバトルエントリーをする事無く、観覧席を離れ――そのまま別のエリアへと向かう。

本来、ジャックが青騎士とバトルする予定だったのだが、何者かがマッチングを細工した可能性もあるのかもしれない。



 ジークフリートのバトルに関しては、バトル終了後に動画がアップされ――それを見た視聴者は驚いた。

【ジークフリート? あのジークなのか?】

【名前を騙るだけの便乗だろう】

【アーケードリバースだけとは限らないが、有名プレイヤーの騙りや偽者は出来ないはず】

【その実例がビスマルクとヴィスマルクだ。間違いなく、彼が情報屋のジークフリートと見るべきだ】

【そう言えば、似たような外見の人物を見かける事があったが――】

【まさか? このバトルにエントリーしているのが本物だとしたら、その時間帯に目撃された人物は偽物だろう】

 動画のコメントの中には、別の場所でジークフリートを見たというコメントもあった。

荒らし絡みのコメントであれば、運営が監視してコメントを削除するので――そう言った目的がないコメントかもしれない。

このコメントが本当だった場合、バトルとは別の場所にいたジークは偽者とみて間違いないだろう。

「情報屋のジークフリートか……面倒な事を」

 ジークの行動に関して否定的な考えをしているのは、橿原隼鷹(かしはら・じゅんよう)だった。

彼は草加駅近くのアンテナショップにいるのだが、目の前には予想外の人物がいる。

「チートプレイヤーを一方的に狩る人物――チートプレイヤーに賞金がかけられているとは思えないが」

 彼も橿原に同意はするものの、全面的に賛同している訳ではない。

その人物とは、山口飛龍(やまぐち・ひりゅう)である。彼もチートプレイヤーの存在はARゲームの正常運営に支障をきたす。

その一方で、彼らの存在は一種のバグを悪用するようなプレイヤーとは目的も違う。一方的に狩ることには反対していた。

「我々としては――彼らの存在は芸能事務所が影でコントロールしていると――」

 橿原は、まさかの直球発言をする。山口には、チートプレイヤーに対して危機感を更に強くして欲しいと言うメッセージを伝えたいのだろうか。

「橿原隼鷹――君の言う事にも一定の理解はする。しかし、芸能事務所がネット炎上を悪用して自分達のアイドルを売り出している以上は――」

 山口はネット炎上を利用したビジネススタイルで特許を取って、それを世界中に拡散させようと言う芸能事務所のやり方に納得がいかない。

しかし、だからと言ってアキバガーディアンと手を組むと言うのも――彼にとっては得策ではないと考えている。




###エピソード20.5



 午後3時15分、草加駅よりも少し離れた所に電機店があった。

このお店は谷塚駅より少し離れた場所の国道近くでの系列店とは違い、ARゲーム関係等を扱う店舗である。

何を扱っているのかと言うと、ARガジェットに使用するバッテリーや充電器、サプライと言ったような物を売っていた。

草加駅近くのアンテナショップやショッピングモール、駅の目の前にある百貨店にも置いてあるような物もあるのだが――。

「このパネルは悪くない」

 ARメットは外した状態で店内を物色していたのは、金髪にロングヘアーと言う女性――ヴィスマルクである。

彼女が手に取ったパネルは太陽光を吸収して充電するパネルだが、普通の太陽光パネルではなく――例えるならば、戦車の装甲パネルの役割を持つ。

ARゲームではAR技術を利用したCGをアーマーとして実体化した物が使われるが、それを維持する為に必要なのが電力なのだ。

電気がなくなれば、CGは実体を保てなくなり――そのまま消滅すると言う事をARゲームのマニュアルで見た事がある。

それを踏まえた上で太陽光を吸収し、それを電力に変換するパーツは重要視されていた。

ARゲームのジャンルにもよるが、場合によっては死活問題である。しかし、この店に入った人間は誰もが疑問に思う事があった。

「しかし、ここに売られているアイテムはチートではないのか?」

 他の品定めをしている人物を含め、ヴィスマルクも思う。それ位に、ここで売られているアイテムは強力なものばかりだ。

「ここは正式なライセンスを得た上で営業をしている。それを強いからと言ってチートと言及し、禁止を訴える事の方が――せこい考えだ」

 ヴィスマルクの背後に現れた人物、白衣にインナースーツ、インナースーツにはセクシーな下着が見え隠れするような跡が見えるのだが――。

その人物の正体は、北条高雄(ほうじょう・たかお)だった。彼女は近くのフードコートで焼うどんパンという珍しい総菜パンを食べていたが、それだけで空腹を満たした訳ではない。

「これ全てが――?」

 ヴィスマルクは周囲を見て、その商品の多さにも驚くが――後ろを振り向いたと同時に高雄がいた事にも驚く。

高雄の方は、食後の運動をする訳ではないのだが、何かの品定めをしているついででヴィスマルクを見つけたようだ。

「一応、無駄だと思うけど忠告しておくわ。チートプレイヤーには近づかない方がいい――消されたくなければ」

 言いたい事だけ言って、高雄は別のコーナーへと足早に姿を消す。

ヴィスマルクも高雄が表情を変えずに淡々と用件だけ――と言うのもおかしいと考えた。



 午後4時、その後もデンドロビウムは各所を転々としてチート狩りを続けていた。

彼女にとって、チートプレイヤーとは何なのか――それを尋ねた人物もいたが、彼女は答えらしい答えを出していない。

「この世のチートと言うチートは――全て刈り取る!」

 バトル前に突撃する際に放つ一言、これが全てと言ってもいいような気配がする。

しかし、彼女がピンポイントで狙うのはネット上でも密売がされているような不正ガジェットやアプリ、ARゲームで運用が禁止されている部類だけだ。

違法改造ギリギリのチート火力を持ったガジェット等は、彼女にとっては対象外だと言える。

これもチートと該当する事になれば、ギャラホルンは間違いなくチートとというレッテルを貼られるだろう。

そのパワーバランスを根底から崩壊させるようなガジェットにも――チートと切り捨てる人物がいるとすれば、それは高雄であるのは間違いない。

「しかし、あまりにもバランスブレイカーが過ぎる連中には、紛らわしい事が起こる前に――」

 デンドロビウムは、ここ最近のネット上で炎上のネタとなるバランスブレイカーに関して、ある疑問を持ち始めていた。

芸能事務所の様な勢力が、自分達を神コンテンツと言う前に――そこまでの状況になった場合、間違いなく過去の事件のコピペと炎上する別の問題もあるかもしれない。




###エピソード21



 7月14日、晴天の日曜日である。各所でイベントが行われている状況だが、草加市も負けず劣らずの盛況っぷりを見せていた。

電車も満員と言う事もあり、竹ノ塚駅及び西新井駅発の特別シャトルバスが運行される程のレベルである。

この状況にテレビ局は驚き、生放送のバラエティー番組で取り上げようと取材申し込みをしたのだが、どれも断られたと言う。

ネット上では取材NGは当たり前と言う雰囲気だったのだが――実際は違う可能性だってある。

ARゲームは売れなければサービス終了も避けられないのは事実だが、単純に人気が欲しいかと言われると、そうではない。

一体、運営は何を考えているのだろうか――真相は運営が発表していないので、どのサイトでも憶測しかないのが現状だ。



 午前12時30分、昼時と言う状況下なのだが――ある中継が話題となっている。

『アーケードリバースを見るときはアニメ的演出等の都合上、部屋を明るくして、画面から離れてからご覧ください』

『アーケードリバースはルールを守って、正しくプレイしましょう。違法プレイなどの不正行為はランカーにあこがれる子供達も見ています』

 毎度恒例とも言えるようなテロップが表示された後、アーケードリバースのバトルフィールドが展開された。

そこまでは――特に変わりがないので、話題となるような要素は何処なのか、そう疑問を持つ人物も多いだろう。

 問題はバトル開始直後からだった。ある1人のプレイヤーが先行して他の相手プレイyた―を次々と撃破していく。

その人物が北条高雄(ほうじょう・たかお)だと分かり、それがネット上で拡散になった事で――話題となったという気配だ。

 彼女のプレイスタイル、それは率直に言えば『チートプレイヤー狩り』の一言で片づけられる訳がない。

パワープレイと分析する人間もいれば、テクニック系と考えている人間もいた。

つまり、相手のプレイスタイルに合わせて対応を変えているというのが分かりやすいのかもしれない。

【あのプレイで通じる物なのか?】

【さすがに普通のプレイヤー相手では通じないだろう。チートプレイヤーの心理を知っているからこそか】

【それにしても、ソロプレイ――】

【他の味方プレイヤーも高雄には指示を出していないだろう。明らかなソロプレイは推奨されていないが】

【しかし、チートプレイヤーも実質はソロじゃないのか?】

【向こうは利害の一致等で組んでいる可能性が高い。ランダムマッチングでは話が別になるが】

 高雄のプレイにはソロプレイの疑惑もあった。アーケードリバースではソロプレイは禁止ではないが推奨されていない。

マイナスポイントを導入して制限をかけようとしたが、ロケテストの段階で保留になったという話がある。

結局、プレイヤーの自由度を縛るようなルールは加えるべきではないと言う結論が出た事で、ソロプレイ禁止はなしとなった。



 今回の動画を見ていたビスマルクは、ある疑問を抱いていた。

「あれでは単純にネット炎上を誘発しているだけに思える――」

 深刻そうな表情をしているのだがARメットを被っている事もあり、口元しか見えない。

チートプレイヤー問題は様々なプレイヤーに影響を与えており、賞金をかけてチート狩りをすべきと言う声もネット上に拡散しているほどだ。

しかし、そんな事をしても変わる事はないとビスマルクには分かっている。

「ARコンテンツを排除しようとしているような人間が、影で動いている可能性も――」

 彼女が考えていたのは、過去の超有名アイドル絡みの事件等と同じ特定芸能事務所等の陰謀だった。

さすがに芸能事務所が動く訳がないと否定的な声も少数ある中で、彼女はこの考えを持っていたのである。




###エピソード21.5



 午後1時30分、ファストフード店の店内に設置されたモニターで一連の動画を見ていたのは――。

「あの人物――そう言う事かもしれない」

 背広姿のアンテナショップの男性スタッフは、コーヒーを飲みながら観戦している。

その隣にいるのは、ペンドラゴンだった。こちらはスタッフ専用作業着だが。

「あの人物って、相手のプレイヤーか?」

 ペンドラゴンはモニターで相手プレイヤーを指差すのだが、彼の言う人物とはそちらではない。

相手の人物は十中八九でチートプレイヤーだろう。しかし、ペンドラゴンにはそれが見分けられていないようだ。

「違う。そっちのプレイヤーではない。むしろ、そっちのプレイヤーが戦っている相手だ」

 背広の人物が言う人物とは、アイオワの事だった。

アイオワの装備はSF物と言うよりは、北欧神話等も混ざっているようなデザインだろうか。

メットのデザインは北欧神話で間違ない。この人物もメットを被っている関係で正体が判断できない状態だ。



 アイオワは、本来であればアーケードリバースに参加する気がなかったのである。

しかし、色々な事情や『いわくつき』という事で参加を決した経緯が存在していた。

それ以上に――彼女がアーケードリバースに適応出来た理由、それはネット上でも議論が持ち上がっている。

【アイオワって名前に何かを感じる】

【デジャブか?】

【そうではない。むしろ、何処かで見たような――】

【ロケテストの動画は半数以上が既に削除されている。削除と言っても、コピーは残っているが】

【コピーではないオリジナルの動画で、同じ名前のエントリーネームを見た事がある】

【ロケテストのプレイデータは反映されないはずだ】

【確かにそのはず。しかし、同じプレイヤーが――】

 ネット上で議論されていたのは、アイオワがロケテスト勢である可能性だった。

ロケテストから始めているプレイヤーでも、アーケードリバースが全く同じ仕様でリリースされているはずはない。

それを踏まえると、ロケテスト勢が圧倒的なアドバンテージを持つ事はおかしいだろう。

仮に色々な部分で調整が入るのは確実であり――。

【格ゲーでもパターンが見つかれば、それは修正されるはず】

【アーケードリバースはFPSだ。一部プレイヤーに有利な法則は残すとは思えない】

【ランカーでも適応するのには時間がかかった話がある。それを踏まえると――?】

 ここでランカーと言う単語が出た事で混乱する事になった。

ビスマルクもロケテストの一件は知っていたはずであり、他の有名プレイヤーも情報収集はするだろう。

それを踏まえれば、アイオワが圧倒的な強さである説明がつかない。

【チート装備か? アイオワの強さはチートガジェットか?】

 このコメントを見たネット住民は、ランカーの本当の強さを知らないで発言していると――そう思った。

ゲームの事情を知らないで発言した場合、それが芸能事務所等のネット炎上に利用されるのは目に見えているのに。



 午後2時、地方局では競馬中継が放送されている頃、谷塚駅よりは若干離れたコンビニで何かを探している女性がいた。

身長は177辺り、体格はアスリートっぽいのだが――彼女の場合は、ファンタジーのアマゾネスを思わせる。

その証拠として――彼女が着用しているのはスポーツブラだ。

一部の男性が釘付けになると思ったが、そんな視線を送る人物はいないだろう。

「あとは、アンテナショップへ行けば――」

 彼女が端末で発行していた物、それはARガジェットの注文カードと言えるもので、これをアンテナショップへ持っていけば受け取れる仕組みだ。

事前に予約はしていたのだが、入手に時間がかかってしまったらしい。あるいは、彼女が本来プレイするはずのARゲームガジェットが品切れだったとか。

「いよいよ、私の出番ね」

 彼女の名はアルストロメリア――ふるさと納税でARゲームを支えている人物だ。

彼女の様な人たちがいるからこそ、アーケードリバースを含めたARゲームは成り立っている。

こうした事例は、現状では草加市以外にはない。転売されそうな返礼品よりも、こうしたケースに生かそうと進言したのは草加市の方だが――。

まさか、こうなるとはだれも予想していなかったに違いない。


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