歪んだネガティブ糞真面目
仕込みが終わり、昼と夜の間の休憩中、まかないを食べ終わり座敷でウトウトとしていた俺の隣に、オヤッサンが「どっこいしょい」と言いながらドッカリと座ってきた。
その顔を見てみると、なんだかニヤニヤしている。明らかにご機嫌といった表情だ。
「おめぇー隅に置けねぇのぅ」
宮田ちゃんの事を指して当てつけているのが分かり、居心地の悪さを感じる。
「……いや、別に。彼女とは同じコンビニで働いてるだけですし、しかも昨日知り合ったばっかりで、どうという関係でもありませんよ」
「そうかー。その割には楽しげだったなぁ、おめぇもあの子も」
そう言われて、眠りかけていた俺の脳が完全に覚醒する。
俺も宮田ちゃんも、楽しげに見えたのか……恥ずかしいと感じるものの、宮田ちゃんも楽しげに見えていた事が、俺のひとりよがりを否定しているようで、口角が自然と上がってしまう。俺はそれを悟られないよう、オヤッサンの居る方の逆を向く。
「おめぇもまだわけぇんだし、女の子の一人や二人と付き合っとけよ?」
「……別に、若い内じゃないといけないって訳じゃないでしょ。妹が大学か専門出るまでは、女の子と付き合う余裕なんて」
「ほんっとに、おめぇは素直じゃないのう。なんでそんな捻くれとる?」
オヤッサンの声が、ピリピリとしたものへと変わった。俺は思わずオヤッサンへと視線を向ける。
どうやらオヤッサンは怒った訳ではなく、どちらかというと「呆れた」といった印象。口角と眉毛を下げて眉間にシワを寄せている。
「そんな風に生きてて、楽しくねぇだろ? おめぇ感情は無いのか? さっきの子と話してた時、ちょっといい顔しとったぞ?」
いい顔、してたのか。
そりゃそうか、人と話して楽しいと感じたのは、とても久しぶりの事。出来る事なら人と話したくはないと思っている俺にしては、とてもめずらしい事。
そして、楽しんでいる姿を見せるのは、恥ずかしい事だと感じている。こうやってからかわれる事が、とても嫌だ。
決してオヤッサンの事が嫌いな訳じゃないし、オヤッサンに悪意がある訳じゃないのは分かっているつもりではあるのだが、どうしても心の居心地が、悪い。
「……楽しかったですが、彼女の容姿、見ましたか? 美少女を絵に描いたようなあんな子が、俺なんかを本気で相手になんてしませんよ」
「くぁー……おめぇのそのネガティブシンキングはどうしようもねぇなぁー。やってみんとわからんだろ。そんなんじゃ店任せられんぞ?」
任せるつもりも無いくせに、何を言っているんだか。
俺は「はは」と愛想笑いをし、会話を終わらせるために「ちょっと休みます」と言い、座敷へと寝転がった。
「おめぇは最近の若いもんには珍しく、糞真面目でひたむきで、努力もしてると思うがなぁ。それって魅力にならんかねぇ。もうちょっと素直になれば、全然イケんじゃねーかなぁ」
まだ言っている……もう勘弁してくれ。
俺は聞こえないフリをして、目を閉じた。
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