○○しい人間賛歌 高

ナガス

定時制高校に通う、十六歳の女の子

衝撃

 彼女の存在は前々から知ってはいたが、実際に目にするのは今日がはじめてで、多少の緊張と期待をしながら待ち合わせ場所で待っていると、すぐにその時が訪れた。

 遠くから徐々に近づいてくる、普通の人間とは明らかに異質なオーラを放っている彼女の姿を間近で見た瞬間、衝撃が走った。

 これは誇張などでは無く、全身が痺れて身動きが取れなくなり、息をするのも忘れるほどの、衝撃だった。

 この世に舞い降りた天使……そのような言葉が、瞬時に脳裏に浮かんだ。

「こんばんはー」

 彼女は完璧と言える笑顔を作りながら、朝勤のオバサンの元へと小走りで近づき、声をかけた。

「あらぁーエイコちゃん。今日は一段と可愛いわねぇ。その洋服すごく似合ってるー」

「あはっ。ありがとうございます」

 彼女はそれだけを言い、白いノースリーブのシャツの形を整えながら、ニコニコと微笑んで頭を少し下げた。

 その一連の動作に無駄は無く、とても洗礼されたものに見える。

 まるで彼女自身が、光を発しているように、見える。


 彼女の名前は宮田エイコ。今年の五月、俺が夜勤で努めているコンビニにアルバイトとして入ってきた、十六歳の女の子である。

 彼女がウチのコンビニの面接にやってきたその日、夜勤の男子連中の間で「メチャクチャ可愛い子が面接に来た」という噂が流れた。

 実際に勤務するようになってからというもの、彼女の話題が出ない日は無いくらいに、彼女の事で盛り上がっている。

 俺はというと、そういった話を斜に構えて受け取る風を装う、大変ひねくれた人間で、彼女の話題が出ても「どうせ大した事ないって」と言い、あまり気にしないようにしていた。

 しかし、いざこうして実物を目の前にすると……。

 彼女の持つ、圧倒的な存在感に気圧され、目を離す事が出来ないでいる。

 こんな事、はじめての事。

 どんな美人をテレビやネット、雑誌のグラビアで見たとしても、ファンになったり好きになったりする事の無かった俺の心が、一瞬のうちに惹かれていくのを感じた。

「はじめまして、あ、はじめまして。朝勤の宮田ですー」

 彼女は初めて顔を合わせる夜勤の人間にペコペコと頭を下げ、自己紹介をする。

 話しかけられた人間全員が、彼女の笑顔につられて笑顔を作り、同じように頭を下げた。

 なんという、光景だろうか……彼女は笑顔で会釈しているだけだと言うのに、すでにこの輪の中心に居て、輪を作っている全員が全員、笑顔を向けている。朝勤と夜勤の間には妙な隔たりがあり、会話らしい会話をした事が無いと言うのに、だ。

「はじめまして、朝勤の宮田です」

 そんな事を考えながら彼女の姿を見つめ続けていた俺に、彼女は視線を向け、より一層深い笑顔を見せながら「はじめまして、宮田です」と言い、頭を軽く下げる。

 話しかけられた事で、俺の心臓がドックンと跳ね上がった。胸を射抜かれたかのような、感覚。

「はっ……はじめまして、工藤です」

 俺がなんとかそれだけを言うと、彼女はニッコリと微笑み、また他のバイト仲間へと挨拶をしていく。

 背中の真ん中まで伸ばされた、綺麗に手入れされた髪の毛が風にそよがれるその様を、俺は凝視していた。

 身長が低く、華奢な体つきで、大きな目をへの字にさせながら笑う無垢な彼女の姿から、どうしても、どうしても、目が離せなかった。

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