3章
第17話「おとめ座は大凶でした」
「レヴェナント出現の報告があったから来てみれば、見覚えのある不幸面を拝むことになるとは、ついてねえな」
俺と葉月さんの元に現れたのは、東京第1支部の先輩エンバーマー、京極真司さんだった。
「まさか、IEAから派遣されてきたエンバーマーが真司さんだとは思いませんでしたよ」
俺は、2体のレヴェナントを討伐した際、IEAに報告を入れていた。そこで派遣されてきたエンバーマーがまさかの真司さんか。
これが吉と出るか、凶と出るか。
「それで、レヴェナント化した死体はどこにあるんだ?」
俺は、倒した2体とストレッチャーに乗っていた1体の死体を、真司さんに確認させる。
「IEAに未報告の死体が3体か。それで、隼人。そこの可愛らしいお嬢さんを、俺にも紹介してくれないか?」
葉月さんの身体がビクッと反応する。だが、俺は表情を変えず、淡々と嘘八百に真実六百ぐらいをトッピングして並べていく。こういう嘘は、事実も混ぜた方がいい。
「彼女は、同じクラスの葉月さんです。たまたま現場に居合わせて、レヴェナントに襲われそうになったので、俺が助けました」
真司さんは、如何にも信じられないといった表情で、俺の目をじっと見つめる。
「たまたま、ねえ。こんな寂れたクラブに、女子高生が偶然居合わせて、そのクラブに偶然死体が3体もあるなんて、えらい引きの強さだな、隼人?」
「今日の星座占い、俺のおとめ座が1位でしたから。それに、最近の女子高生はパリピなんですよ。クラブぐらい行きます」
「葉月ちゃんは、パリピかもしれないが、お前はどう考えてもパリピじゃねえだろ?」
「おとめ座ですよ? パリピに決まってるじゃないですか」
「お前の中での、おとめ座の信頼感はどうなってんだよ……」
何とかはぐらかそうとする俺の軽口を聞き、真司さんは胸ポケットから煙草を一本取り出し、火をつける。
ぷかぷかと煙が室内を揺蕩う。煙と一緒に吐き出すように真司さんが言う。
「まあ、ここにある事実は、死体が3体あって、お前と葉月ちゃんがいるってことだけだ。それが偶然なのか必然なのかは、色々聞いてみないと分からんが、もう時間も遅い。高校生は家に帰らねえとな。それとも、パリピにとってはこれからが楽しい時間か?」
派遣されたエンバーマーが真司さんで良かった。これは吉と出た。おそらく真司さんは、葉月さんが今回の件に深く関わっていることに気づいているのだろう。
「いいえ、パリピにも門限があるので、今日はもう帰らせて下さい」
真司さんは、残って死体の片付けをするというので、お言葉に甘えて帰らせてもらおう。
「そういや、隼人。お前、2体のレヴェナントと戦った割には、外傷一つないじゃねえか」
「まあ、おとめ――」
「ニンファエアを打ったのか?」
ニンファエア、睡蓮の学名だ。花言葉は、信仰。神を信じないと豪語している俺が、切り札に頼ったのが信仰とは笑えない。
「――俺の実力ならレヴェナント2体ぐらいなら無傷でも対処できますよ」
嘘は言っていない。実際に、2体ぐらいなら無傷で仕留められる。
だが、そんな俺の誤魔化しを打ち消したのは、葉月さんだった。
「あの注射器は何なんですか……?」
何をしてるんだ、葉月さん。ニンファエアを打った経緯を聞かれてしまえば、葉月さんの罪までバレる可能性があるんだぞ。
俺は、謎の踏み込みを見せた彼女にハラハラしながら、真司さんの顔を伺う。
真司さんは、俺の顔を見て悪い笑みを浮かべた。
「あれは、身体に悪い薬だよ」
「そうですか……命に別状とかはないんですか?」
「それは確かめないと分からねえな、そうだろ隼人?」
真司さんは、的確にコースを埋めてくる。どうやら、逃げ道はないようだ。
「そうですね。ただ今の所は、身体に異常とかは出ていないので、問題ないと――」
そんな俺の言葉を、真司さんが遮る。
「今すぐに、専門家に診てもらえ。それができねえなら、葉月ちゃんと死体の関係は偶然じゃなく、必然になるかもしれねえぞ?」
これは、もう脅しだ。俺が診てもらわなかったら、葉月さんの事情を洗いざらい調べると言っているのだ。
「そうだよ、久遠くん! 絶対に診てもらった方がいいよ」
脅しの道具に使われてる張本人も、背中を押してくる。
大凶だ。おとめ座の力でもどうにもならない。
俺の知る限りでは、思い当たる専門家なんて1人しかいない。それは、俺が最も会いたくない人物だ。
去り際に、真司さんが思い出したかのように俺に告げる。
「そういや、支部で可憐を見かけたんだが、2、3人殺ってきたんじゃないかってぐらい、ひどい面構えしてたぞ。隼人、お前いつか刺されるぞ」
いつかじゃない、もう刺されてる。可憐のことも気になるが、今は、これから行く場所のことで手一杯だ。
***
都内にある大手製薬会社、俺はその研究施設に来ていた。受付にエンバーマーであることを伝え、目的の人物がいる研究室に足を踏み入れる。
足の踏み場がないほど散らかった室内には、白衣をまとった女性が、モニターと睨めっこをしている。
「隼人、久しぶりね……」
「そうですね、
彼女はスッと立ち上がり、ゆっくりこちらに近づいてくる。俺は何をされるか理解しているので、特に反応は示さない。
バチン! と思い切り頬を叩かれる。
相変わらず、痛い。しっかり振り抜いてくるからな。
彼女は、俺の顔を両手で掴み、無理やり目線を合わせて、諭すように言う。
「何回も言わなきゃ駄目? 凛花さんじゃなくて、お義姉ちゃんでしょ……?」
俺が最も会いたくない人物、それは
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