第4話 メモリーズ

「……フン。ちゃんと自分の意見を言えるんじゃない。最初からそう言いなさいよバーカ」


「これもブレずに自分のキャラをつらぬき通した結果ね。そう考えると、あんたのおかげかも」


「顔見知りが一緒なら少しは気がまぎれるでしょ。そ、それがあんたみたいなヘタレでもね」


「もう。恥ずかしいことばかり言って。あんたには二度とこの魔法はかけないからね」


「焼き増しよ。そっちはあんたの分ね。大切にしなさいよ」


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 ミランダと仲良くなれたこと。

 ミランダと二人の日々にぬくもりを覚えたこと。

 ミランダを失って悲しみに涙をこぼしたこと。

 

 僕はすべてを思い出した。

 僕の頭の中にミランダの声が響き渡り、様々な彼女の表情が浮かび上がる。

 よみがえった記憶が僕の頭の中に混乱とあせりを生み出していた。


「ミランダ。僕だよ」


 僕は何て言ったらいいのか分からずに、そんなマヌケな言葉を発した。

 そんな僕に、ミランダは奇妙なものでも見るように眉根まゆねを寄せる。


「はぁ? 何言ってるのかしら。あんたの顔くらいは知ってるわよ」


 ミランダはそう言った。

 何ら感情が込められていない、冷めた声だった。

 僕の心臓は大きく跳ね上がり、まるで頭の上から見えない手で押さえつけられているような重苦しい気分に襲われた。

 

 何だ? 

 まさか僕は彼女の言葉にショックを受けてるのか?

 僕の口はまるで僕の意思とは無関係にしゃべっているかのように、急ぎ足で言葉をつむぎ出す。


「そ、そうじゃない。色々と二人で話したじゃないか。覚えてないの?」


 自分でも思った以上に僕はしどろもどろになりながら、なおかつ必死に声をしぼり出した。

 そんな僕をいぶかしむように見据えながらミランダは首をかしげた。


「あんたと二人で話したことなんてあったかしら? ないわよね?」

「あるよ。写真だって……」


 そう言い掛けて僕は思わず絶句した。

 ミランダが僕を見る目が僕の胸に突き刺さった。

 彼女は心底嫌悪するような視線を僕に向けていた。


「何よ。気持ち悪い奴。私、忙しいの。あんたなんかに構ってるヒマはないわ」


 そう言うとミランダは僕に背を向けた。


「ま、待ってくれ!」


 僕は自分でも驚くほど取り乱し、彼女を引き止めようとした。

 だけど彼女はにべもなく背を向けたまま歩き出す。


「いやよ。とっとと洞窟に戻りなさい。二度と気安く話しかけないで」

「ミランダ!」


 そう叫んだ僕の声をき消すように激しい雷鳴が鳴り響く。

 稲光りが辺りを白く染め上げ、漆黒の雷光がミランダを包み込んだ。

 そして一瞬の後、ミランダはどこかへとその姿を消してしまった。


「ミランダ……」


 残された僕は思わずひざの力が抜けてその場にへたり込んだ。

 僕の視界のすみには、冷たい土の上に倒れて息絶えたジェネットの姿がある。


 ミランダの暴走を止めようとしてくれていたジェネットは、ミランダの死の魔法『死神の接吻』デモンズキッスを浴びて命を落としてしまった。

 僕は彼女への申し訳ない気持ちで胸がめ付けられた。

 傷ついた市民のために無償で回復魔法をかけ続けるような優しいシスターである彼女が、こんな無残な姿で横たわらなくちゃならなかったのは、間違いなく僕の責任だ。

 悔しくて僕は握り締めた拳を地面に打ちつけた。


 何だよこれ。

 納得いく結果を求めてがんばってきたのに。

 ジェネットを巻き込んでまでやってきたのに。

 バッドエンドにもほどがあるだろ。

 何だってこんな……。


「チッ! 腐れ外道の魔女は逃げ去ったか」


 ふいに僕の背後からドヤドヤと騒がしい声が聞こえてきた。

 その中から聞こえる聞き慣れた男の声に僕は思わず後ろを振り返った。


「何だ。誰かと思ったらモグラ野郎か」


 そこには鎧兜よろいかぶとに身を包み、各々手に思い思いの武器を持った十数名の男たちが立っていた。 

 その先頭に立っているのは僕もよく知っているサポートNPCのリードだった。

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