第6話 呪いシリーズ!

 ある日の午後、ミランダはヒマにかして玉座の後ろから何かを取り出した。

 それは様々な装飾が施された武器や防具であり、僕はそれらが何であるかすぐにピンときた。


「それって呪いシリーズでしょ」


 呪いシリーズとはこの洞窟でミランダを倒したプレイヤーに与えられる褒賞品だった。

 僕の質問にミランダはつまらなさそうに答えた。


「ええ。そうよ。この闇の洞窟のありがた~いお宝。笑っちゃうわよね」


 そう言うとミランダはその中から一本の剣を手に取って頭上に掲げた。

 それはつやの無い鈍い金色の刀身の左右に白と黒の一対のへびがのたうつようにうねっていて、武器というよりは装飾品のような剣だった。


「役に立たないガラクタ。こんなもの欲しがる奴はクズよ」


 辛辣しんらつな口調でそう言うと、ミランダはその剣を手にしたまま玉座から立ち上がる。

 そしてコマンドを使用してその剣を装備した。


「私のステータスを見なさい」


 ミランダは居丈高いたけだかにそう言うと僕を見る。

 僕は言われるままに彼女のステータスウインドウに目を向けた。

 攻撃力はほとんど上がっていない。

 そしてその他のステータスは軒並のきなみ下がっていた。


 何だこれ?

 魔女のミランダにマッチングする武器は杖系だから、不得意な剣を装備しても攻撃力が上がらないことは分かるけど、他のステータスが下がるってのはとういうことだ?

 僕の表情から僕の抱く疑問を読み取ったみたいで、ミランダはフンッと鼻を鳴らして言う。


「こいつの名前はタリオ。ステータスがひっくり返っちゃうシロモノよ」


 その言葉を聞きながら彼女のステータスの変化を見て僕は合点がいった。

 ミランダのステータスの中で最も優れた値であるはずの魔力値がものの見事に低下している。


 各種ステータスの最高値は999でカウンターストップ、いわゆるカンストとなる。

 ミランダの魔力値はカンスト999に対して925なんだけど、それが74にまで減っちゃってる。

 まるで並のキャラと同じような数値になってるなぁ。

 他にも魔力量は980が何と19にまで減ってる。

 これじゃあロクに魔法も使えないぞ。


 なるほど。

 得意分野のステータスをリバースして低下させちゃうのか。

 これじゃミランダ自慢の魔法攻撃をしても、その威力は格段に下がっちゃうよね。

 その他のステータス値も同様に減少していて、タリオを装備したことによってミランダの戦闘能力は格段に低下してしまっていた。


「何のありがたみもないアイテムだね」

「そういうことは心の中でつぶやいたらどうかしら?」


 そう言ってミランダは怖い顔で僕の右のほっぺたをつねり上げた。

 うぎぎ……。

 痛いれす。


「けどまあアンタの言う通りよ」


 ミランダはそう言うとパッと僕のほほをつねる手を放し、剣を持つ手を下ろした。


「こんなもん、よっぽどのマニアくらいしか欲しがらないわよ」


 そうだろうね。

 しかしタリオって名前があるのに公称を『名称不明』にしてるのは何でだろう?


「どうして名称不明にしてるの? タリオってどういう意味?」


 そう尋ねる僕にミランダはそっぽを向いた。


「教えないわよ。この剣を手にした者だけが知る権利があるんだから」


 何やらもったいぶっていますが、そんなに大層たいそうな意味があるとは思えませんね。


「大した意味なんてないくせにもったいぶりやがって、とか思ってるんじゃないでしょうね」


 そう言うとミランダは今度は僕の左のほっぺたをつねる。

 うぎぎ……心を読むとか反則だぞ。


「なに驚いた顔してんのよ。その顔を見れば思ってることくらい分かるっての」


 ミランダはそう言って再び僕のほほを放す。


「自らのライフを賭して戦いに勝った者だけが知る真理ってやつがあるのよ」


 ライフゲージや戦いとは無縁の世界にいる僕には分からないけれど、その言葉を口にするミランダは潔くりんとしていて、僕は思わずそんな彼女に見入ってしまった。

 こんな僻地へきちとはいえ、ボスとして君臨しているのはダテじゃない。

 僕は感嘆して思わずポロッと言葉を漏らした。


「へぇ。君も意外とまともなことを言うんだね」


 あれ?

 これめ言葉じゃないぞ。

 僕もっとめようとしているのに。

 こういうとき何て言ったらいいんだっけ?


 ミランダは一瞬呆気あっけに取られ、そしてすぐに笑みを浮かべた。

 目だけが笑っていない怖~い笑みだった。


「ん? 意外と? まとも? 聞き間違いかしらねぇ?」


 ミ、ミランダ?

 ほ、めようとしてるんだからね?


「口に出して言うとはずいぶん勇気があるわねぇ」

「ひぃっ! イデデデッ!」


 今度は左右のほほをちぎれんばかりに引っ張られて悲鳴を上げる僕に、ミランダは容赦なく言い放つのだった。


「フンッ! 少しはライフの重みを知りなさい!」


 ライフの重みは分からなかったけど、言葉を間違えると痛い目を見るということは今日知りました。


 っと、そうこうしているうちにお客さんが来たみたいだ。

 洞窟の最深部であるこの場所にプレイヤーが足を踏み入れたことを知らせる警報が僕とミランダのウインドウに表示された。

 その警報を見たミランダはニヤリとして呪いの剣・タリオを掲げて見せた。


「ちょうどいいわ。このタリオの特徴を実演してみせてあげる」


 ミランダの言葉に僕は驚いた。

 戦うって言っても、ステータスが異常に低下しているのに大丈夫なのか?


「そ、そのまま? そんな状態で戦えるの?」


 僕がそう言うとミランダはうるさそうな表情を浮かべ、犬でも追い払うみたいにシッシッと僕に手を振る。


「ほら。サッサと定位置に戻りなさい。仕事の時間よ」


 そう言うミランダに追い立てられるように僕はそそくさと所定の位置に走っていく。

 ミランダも闇の玉座に泰然と座ってプレイヤーを迎え撃つ準備を整えた。

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