異国の家
「色々、話して欲しいです」
アサトが言った。ベッドに
キャロルが話し出す。住んでいる家のこと、大きな湖のこと、町のこと。学校のこと、
すこし
少女は何度も言葉が出なくなったが、どうでもよかった。話したいことを話した。
「……次は、アサト様が、色々話してください」
「ええと。様はいりませんよ。レディ」
「では……アサト、色々話して欲しいですわ。わたくし、メモを取ります」
金髪の少女は、荷物の中からノートとペンを取り出した。
「分かりました。机を使って、椅子に座ってください」
グレーのシャツ姿のアサトが、立ち上がった。
フリル付きの白いワンピース姿の少女は、椅子に座ってノートを広げる。
短髪の少年が、色々と話した。
学校はキャロルの通っているものと
「……やはり、靴を
「
町も、キャロルの住んでいるところとは
「友人の話も、メモを取るんですか?」
「もちろんですわ」
キャロルは、当然のことのように言い切った。
「約一名に、怒られそうだな。まあ、黙っておけばいいか」
少女は途中で
「……女性のお友達も、いらっしゃるのですか?」
金髪ロングヘアの少女が食いついた。
「ええ。レトロファイトをやっている、ライバルのような感じですね」
短髪の少年は、普段どおりに答えた。
「なるほど……ライバルですか」
キャロルは
「そうなんですよ。一人、ライバルと呼ぶのもおこがましいような、とんでもなく強い人がいまして。
「そこまで言うほどの、お相手ですか」
「見た目は、
「か……
少女は、ペンを置いて立ち上がり、両手を
「え? えーっと、背が低くて、最初は年下かと思ったんですけど」
「同い年なのですか?」
キャロルは、さらに詰め寄る。
「そうです。学校は違うので、最初、年下かと……」
さっき話した内容をまた言った。
「アサトは……背が低いほうが好みなのですか?」
近付いている二人の顔。部屋のドアがノックされた。開くドア。
「あら。お
お茶を持って来たアサトの母親は、お茶を持ったままドアを閉めた。
「ちょっと母さん。お茶置いていってよ。
即座に母親を追いかけ、お茶を手に戻ってくる。立ったまま飲み干した。もう一つの
「
「いいえ……お構いなく」
話に夢中になって
アサトの部屋には、机と反対側にTV(テレビジョン)があった。
部屋の主が説明する。
「椅子を反対方向に向けないと、見えない位置に置いているんですよ」
そこにはゲーム機もある。
「……メリハリをつけるため、というわけですわね」
キャロルが
「ゲームをしませんか?」
アサトが言った。
「なぜですか?」
「なぜ? うーん。ほかには、
相手が
「……普段、女性がいらしたときには、何をなさっているのですか?」
ベッドに座っている、つり目の少女は、
「普段も何も、今日が初めてですよ」
隣に座っている少年は、
「実は、わたくしも……男性のお部屋に入ったのは、初めてなのです」
「ええっ。僕の部屋を
「……」
キャロルはアサトの手を
「……」
「……
白いワンピース姿のキャロルから、感謝の言葉が述べられた。
「いえ。何もしていませんよ。私は」
薄いグレーのシャツ姿のアサトは、さも当たり前のように言った。
「……この手を
手に、すこし力が入る。
「あのとき、キャロルがどれだけ
「……」
「私には、見ていることしかできませんでした」
少女の手を見つめ、悲しそうな、優しい表情をしていた。すると、手が離れて、少年の
「それだけで嬉しかったわ……ありがとう」
目に涙を浮かべたキャロルは、呼吸を荒くした。アサトは何も言わずに、頭を
キャロルが落ち着いた頃、アサトの父親が帰宅した。
アサトの部屋の二人は、台所へと向かった。
「彼女を連れてきたか」
「違うよ。あんまり、失礼なことを言わないでよ」
否定したアサト。キャロルは、明るい表情のあとですこし暗くなる。
「もう! デリカシーがないんだから、この人は」
厳しい言葉をかけた、アサトの母親。
「……ごきげんよう。わたくしは、キャロルといいます。……
金髪ロングヘアの少女は
「ごきげんよう。
アサトの父親は
「あたしはキヨミ。この人のことは、気にしないでいいから」
アサトの母親はコウイチロウに
部屋の
「それでさ、今日、キャロルを泊めて欲しいんだけど」
アサトが普段どおりの調子で頼んだ。
「なんだと。もう、そんな関係なのか」
「そんなわけないでしょ! 来客用の部屋でいいかしら?」
母親は厳しい口調で言ったあと、キャロルに聞いた。
「……いえ、わたくしは、アサトの部屋に泊まりますわ」
「G国では、皆ベッドですからね。私が
いろいろ調べて詳しいアサトが
「なるほどなあ。そりゃ仕方ないな」
父親は
「アサト、いつの間にかそんな
母親は
「……」
キャロルは何も言わなかった。
夕食は和食である。
アサトの両親が食べ終わっても、キャロルは焼き魚と
少年は、隣でアドバイスする。ゆっくり食べながら。
「……申し訳ありません。遅くなってしまいました」
キャロルは焼き魚に
「いえ。初めてで、ここまで出来るのは、すごいですよ」
短髪の少年は、率直に
流し台に二人分の食器を運び、生ごみは専用の袋に入れて、皿を水に浸ける。金髪の少女は見守っていた。
「そういえば、J国のお風呂について、説明しておかなくてはいけませんね」
アサトは、キャロルの隣の椅子に座った。
「……お風呂ですか?」
キャロルは
「この国では、
「……」
「風呂場に行ってびっくりしないように、言っておこうかと思いまして」
「……暑くないのですか?」
「40度以下のお湯に10分間肩まで
アサトは、こんなこともあろうかと調べておいた情報を
「なるほど……リラックスしているのですね」
「別に、普段どおりシャワーでいいですよ。湯を抜かなければいいので」
「わたくしが普段シャワーを使っていることを、知っているのですか?」
キャロルが聞いた。
「そういう人が多いという情報があるだけで。違ったらすみません」
「……」
少女は、アサトをじっと見つめ、
「えーっと、お風呂はもう少しあとです」
少年は、
「歯、磨けよ」
アサトの父親が声をかけた。歯を磨き終わっている。
「あんた、何言ってんの!
アサトの母親は、本気で怒っていた。
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