白と灰色

 長期の休みには宿題しゅくだいがない。

 だが、普段ふだん宿題しゅくだいは、結構な量がある。

 キャロルは、休みの日以外に、あまりゲームをしていなかった。それでもレトロファイトのポイントは着実ちゃくじつに増え、ランク14になった。

 第三土曜日だいさんどようび

 キャロルは、売店で買った食事を共有スペースで食べている。めずらしく、ディーナと二人。

 突然、真剣しんけんな顔で口を開く、淡い茶色の髪の少女。

「まさか、みなさん、殿方とのがたと過ごされているのでは」

授業じゅぎょうはありませんからね……そうだとしてもおかしくはありませんね」

 金髪ロングヘアの少女は、冷静れいせい分析ぶんせきしていた。

うらやましいですわ」

 恋に恋する様子の少女は、夢見ゆめみがちな様子でつぶやく。もう一人の少女は、黙々もくもくと食べていた。食べ終わってから言う。

「今日は……ゲームをして過ごすつもりですわ」

 キャロルとディーナはそのあとも雑談ざつだんをして、部屋に戻って歯磨き。

 さらに話をする。

 恋愛れんあい気配けはいがまるでしないキャロルを残して、ディーナは用事で出かけていった。

 少女は、部屋の中で体を動かしている。

 椅子に座ると、兄が昔やっていたアクションゲームをプレイし始めた。どんどん進めていき、あっさりとクリア。

 さらに、やり込み要素ようそを始めた。しばらくすると、全て達成たっせい

「やりましたわ」

 満足まんぞくした表情で言って、また体を動かし始めた。手を組んで引っ張ったり、力を入れたりしたあとで椅子に座る。

 レトロファイトをすこしプレイして、立ち上がった。

 売店で昼食を買って、共有スペースで食べる。普段よりはすこし早い。ひとり。にもかかわらず、楽しそうな表情。

(思い返してみると、一人で食べるのは初めてのような気がしますわ)

 のんびりと食事を済ませる。しばらくして部屋に戻ってから、悠々ゆうゆうと歯を磨いた。


 レトロファイトの世界でポイントを稼いでいると、その相手は現れた。

 キャロルのロボットは白色。腕がミドル、胴とあしがライトタイプ。左手にナイフ、右手にソード。両肩に至近距離専用しきんきょりせんようビームナックルという装備そうび

 ステージは平原。二本先取にほんせんしゅの勝負が始まる。

 相手は、色を変更していない。初期装備しょきそうびの全身ライトタイプ。灰色。

 ランク14で、初期装備しょきそうびを見ることはあまりない。少女は相手の強さをさっした。

 キャロルは遠距離えんきょりから攻撃しない。

 とはいえ、初見しょけんの相手が、すぐそれに気付きづくことはない。警戒けいかいしつつ、ハンドガンで的確てきかくに狙ってきた。

 攻撃こうげき無視むしして、一気に接近せっきんする白い機体きたい

 灰色の相手にすきはない。フェイントをかけようとしたとき、急に相手の動きが変わった。すこし後ろに下がったあと、誰もいない場所でナイフを使ったのだ。

 すでに追いかけていたキャロル。反射的はんしゃてきにナイフで攻撃。重いヒット音とともに当てた。

 すきのない動きに戻っている、灰色の相手。換装かんそうも使い攻めてくる。操作そうさから換装完了かんそうかんりょうまでがあるため、多用たようはできない。

 ロボットの換装予定場所かんそうよていばしょに、ワイヤーフレーム状の表示が出て、対戦相手たいせんあいてにも情報は伝わる仕組み。一定時間後に、ほかのタイプへ換装かんそうされる。

 さらに戦っていると、相手はまたなぞの動きをした。

 やはりキャロルは攻撃を当てた。何度もなぞの動きがおこなわれ、5回目にキャロルが相手を撃破げきは

 2戦目。なぞの動きをしなくなった灰色の相手。

 今度は射撃しゃげきをほとんど使わなかった。

 相手のほうが機動力きどうりょくは上。近接武器きんせつぶきの数は白い機体きたいのほうが上。互角ごかくの戦いを見せる。

 わずかな差で、キャロルは勝利しょうりつかんだ。

「なんて紳士的しんしてきなおかた

 レース付きの白いシャツにクリーム色の上着、グレーのカットスカート姿の少女はつぶやいた。

(本気を出されていたら、わたくしは負けていたに違いありませんわ)

 戦闘終了後の画面。相手のアバターと名前が表示されている。

 優しい表情をしていた少女は、すぐにむずかしい顔になる。すこし困ったような顔をして微笑みながら、メッセージを入力し始めた。

貴方あなたほどの紳士しんしほかにいないかもしれません。ぜひとも、わたくしのさそいをお受けくださいませ】

 フレンド申請しんせいを送って、相手の返事を待った。

(永遠とも思えるほどながい時間)

 すこしあとに、メッセージが届いた。

【ありがたき幸せ。よろしくお願いします】

 申請しんせい承認しょうにんされ、フレンドになった。

(わたくしの、王子様)


 キャロルからメッセージが届いたとき、相手は悩んでいた。

絶対偉ぜったいえらい人だ。下手なメッセージを送ったら国際問題こくさいもんだいになるぞ」

 丁寧ていねい言葉遣ことばづかいを調べ、メッセージを返した。

 その色々いろいろと調べ始めた。


 キャロルは、レトロファイトの世界でポイントを稼ぐ。

 合間に、ゲーム機本体の機能である、メッセージを起動きどう。さきほどの相手に連絡を取ろうとした。

「下手なことを書くと、嫌われてしまうかもしれませんわ」

 情報端末じょうほうたんまつで調べ、相手の国との時差が8時間ほどあることを知った。

【おやすみなさい】

 メッセージを送って、部屋の中をうろうろする。

【お心遣こころづかい感謝します】

 メッセージが返ってきた。口元がゆるむ金髪の少女。

(このかたに恥ずかしくないように、もっと自分をみがかかなくては)

 自分と同じくらいの強さの相手と戦い、ハイレベルを目指すための努力が必要だと感じていた。

 戦った記憶を呼び起こし、テクニックを練習し始めた。

 情報端末じょうほうたんまつで調べて表示された、さらなる小技。

 準備して、一定時間後に行われる換装かんそう。そのとき行動をしていると、動作がキャンセル。すぐ動ける。

 攻撃こうげきがヒットすると、一瞬動きが止まる演出、ヒットストップがかかる。基本的きほんてきにダメージが少ないと止まる時間も少なく、大きければ長い。

 ほぼ全ての情報を入手した少女。だが、格闘かくとうのみで戦う戦闘せんとうスタイルは変えなかった。

 キャロルはランク16になった。


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