黒色の機体

 夕食の前に、金髪ロングヘアの少女は身体からだを動かしている。

 眉に力が入り、決意を感じさせた。

(頑張りますわ!)

 十代前半の少女は、心の中で叫んだ。

 情報端末じょうほうたんまつの画面には、健全けんぜん身体からだ健全けんぜん精神せいしん宿やどる、と書かれていた。

 呼吸が荒くなるまで運動を続ける。売店で購入した夕食を、共有スペースで食べた。

 しばらくして、歯磨きを済ませたキャロル。ゲームを始める。レトロファイトの世界で勝利しょうりを重ねていき、次の対戦相手たいせんあいてが現れた。

 ランクはお互い16。

 機体は黒色。全身ライトタイプ。左手にナイフ、右手にビームナイフ、右肩に大型実体剣おおがたじったいけん。キャロルよりも、さらに格闘かくとうしか考えていないような構成こうせい

 ステージは市街地に決定。

 まばらにビルディングが建ち、中心部の開けた部分以外で遠距離攻撃えんきょりこうげきを当てるのは難しい。設定では巨大ロボット同士の戦い。全長は二階建ての建物より高い。

 キャロルには、あまり関係なかった。

 開始直後かいしちょくご、相手に向かい一直線にブーストをかけた白い機体きたい

 ブーストを使うと、あしのスラスターが全て起動。ホバー移動ができる。別のパーツからエネルギーを回さない限り、長時間使用ちょうじかんしようできない。

 黒色の相手は、いきなり全身の装甲そうこうを外した。全力で直進してくる。フレームがむき出しで、骨のような姿。

 パージする(装甲そうこうを外す)と受けるダメージが増える。代わりに、機動力きどうりょくはすこし上がる。全て外すと、どんな攻撃でも致命傷ちめいしょうとなる。

(わたくしが射撃しゃげきを使ったら、どうなさるおつもりなのかしら)

 キャロルは、相手の射撃しゃげきのことを一切考えず、接近戦せっきんせんいどんだ。

 相手がナイフをかまえる。なぜか、ガード可能なタイミングで。

 ビームシールド発動はつどうまでのタイムラグを計算。あらかじめ一瞬いっしゅんだけ使って防いだ。

 すきをついて相手に攻撃こうげきすることができた。だが、キャロルはしなかった。相手がガード可能かのうになるタイミングで、ナイフで攻撃こうげきした。

 一瞬、ビームシールドを使ってはじく相手。そして、すきのできた白い機体きたいに、攻撃こうげきしなかった。

「戦いれている上に、楽しんでいますわね」

 キャロルが、微笑みながら戦う。

 おたがいに射撃しゃげきを使わない。換装かんそうも使わなかった。

 フレーム姿の相手。素早い動きに翻弄ほんろうされて、白いロボットが次々とダメージを受ける。

 キャロルは落ち着いていた。相手のわずかなすきを見逃さず、攻撃こうげきを当て撃破げきは

 2戦目も、はげしい戦いになる。

 キャロルは、あと一撃いちげきたおされるところまで追いつめられる。何とか勝利しょうりした。

 対戦終了後たいせんしゅうりょうごに、相手からフレンド申請しんせいがきた。

【おれはライバルを見つけた! また戦いたい。登録とうろくしてくれ】

 素直なメッセージだ。

【はい。よろしくお願いします】

 キャロルは申請しんせい承認しょうにんし、フレンドになった。

(わたくしと同じような戦いをなさるなんて。お友達になれそうですわ)

 そのも順調にポイントをかせいだキャロルは、ランク18になる。

 声を出しながら大きくびをした少女。寝支度ねじたくを済ませて、パジャマを着る。ベッドで横になった。


 第三日曜日だいさんにちようび

 ルームメイトのディーナは、まだ帰ってきていない。

 朝食のあとで、ゲーム機の電源を入れる。キャロルの王子様おうじさまはオフライン。

「まさか」

 金髪ロングヘアの少女は何かを考えて、何もしなかった。しばらく落ち着かない様子で、部屋の中を歩く。

 体を動かして、歯磨きをした。

 ひたすらレトロファイトの世界で戦い。昼前にランク19になる。

 青い水玉模様のフリル付きシャツに青いロングスカート姿の少女は、すこし早めに昼食をとった。

 しばらく何かを考えているようだった。それから歯磨き。

 確認されるフレンドリスト。

 キャロルが、フレンド専用部屋せんようべやを開く。じっと待った。

 戦闘中せんとうちゅうは、一秒というわずかな時間でも長く感じるという。いまは戦闘中せんとうちゅうではない。

 誰かが入室してきた。アサトというプレイヤー。おたがいの準備が完了し、試合しあいが始まった。

 1戦目。

 相手は5回隙かいすきを見せた。キャロルはすきを狙わなかった。

 最初は換装かんそうすきをなくす戦法せんぽうを使ってきた相手。途中から使わなくなった。

 キャロルは、実力で相手を倒した。

 2戦目。

 不自然なすきを見せなくなった相手。すこし射撃しゃげきも使ってくる。

 ビームシールドでたくみに相手の攻撃こうげきはじき、接戦せっせんすえ、キャロルが勝利しょうりした。

【今日の昼間、何をなさっていたのですか?】

 対戦終了後たいせんしゅうりょうごに、少女は試合内容しあいないようと全く関係のないメッセージを送った。すぐに返事がくる。

桜水さくらみずという場所にあるゲームセンターで、操作そうさの練習をしていました】

 キャロルは、素早い動きで次のメッセージを送る。

【アーケード版も、よくプレイされるのですか?】

 少女は真剣しんけんな表情だ。

【ライバルに負けないために、これから練習します】

 届いたメッセージを、しばらく見つめていたキャロル。呟く。

「ライバルとは、どんな方なのでしょうか」

 悩んで、メッセージを送る。

【応援していますわ。では、ごきげんよう】

 相手から、すぐにメッセージがくる。

【ありがとうございます。ごきげんよう】


 フレンド部屋が開かれていた。

 開幕かいまくからパージする戦いかたつらぬいている、フリードリヒだ。

 入室し、戦ったキャロル。わずかに届かず、相手に勝ちをゆずる結果になる。

 試合後しあいご

【調子が悪いみたいだな。これはおれの勝ちにはならない】

 というメッセージを受けた。

【いえ、あなたの実力です】

 メッセージを送ったキャロル。体を動かし始めた。顔を赤くするまで運動して、世界でポイントをかせぐ。

 もうすこしでランク20。そのとき、ディーナが部屋に戻ってきた。

「……ごきげんよう」

 金髪ロングヘアの少女は、自分から挨拶あいさつをした。

「ごきげんよう。お疲れですか?」

 淡い茶色の髪の少女が、すこし心配そうな様子で聞いた。

「いいえ、きっと……ゲームをし過ぎただけですわ」

 微笑むキャロル。色恋いろこいの話はなく、ゲームプレイ中の会話が繰り広げられる。

 ランク20になった。それより上のランクはなかった。アップデートで色々と追加されるゲームもあるが、レトロファイトは未定みてい

「以前よりも、キレが増していますわ」

 ディーナは興奮気味こうふんぎみに言って、キャロルをめた。

「おそらく……わたくしより強い相手と、戦ったからですわ」

「キャロルよりも強い人など、存在するのですか?」

 ディーナは、信じられないといった様子。真面目まじめに聞いた。

「ええ。世界は広いですわ。……わたくしも頑張らないと」

 キャロルの目には闘志とうし宿やどっていた。

 いつもどおりの雑談ざつだんがおこなわれ、学生生活は過ぎていった。


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