銀色の翼

 食事のあと、キャロルは興奮こうふんした様子。

 家族全員にいた。

 嬉しそうな顔を見て、みんな笑顔になる。色々な話をした。

 歯磨きをして、居間いまに向かう。

 床にはじゅうたん。壁にはたくさんの絵。いくつも椅子が並んでいて、その中の一つにキャロルが座った。

 隣に兄が座って、頼む。

「レトロファイトで強くなる方法を、教えてくれないかな?」

「……わたくしの戦い方は、真似まねしないほうがいいですわ。強い相手と戦うのが一番です」

 兄のバトルを見て、横から口を出す妹。

 椅子に座っている両親が見て、微笑んでいた。

 ゲームの時間が終わる。

 お風呂から出た金髪ロングヘアの少女は、パジャマ姿で自分の部屋にいた。大きなベッドの上で横になって、すこし顔が赤い。

(これは、夢ではないのですね)

 突然とつぜん身体からだを起こすと、鞄の中から何かを取り出した。宿題しゅくだいだ。

 机に向かって宿題しゅくだいを始めた。忘れていたのは初めてのことだった。


 第四土曜日だいよんどようび

 大きな家の自室じしつ

 朝起きた金髪ロングヘアの少女は、宿題しゅくだいをし忘れたかと思った。昨晩さくばんませていたことを思い出す。私服しふくに着替えて、食堂へ向かう。

 メイドの作った朝食を食べた、家族四人。

 キャロルは、母親の料理を食べたことがあるのかどうか、記憶にない。

「このあと、レトロファイトを教えてくれないかな? キャロル」

 食後に兄が頼んだ。

「……わたくしから教えられることは、何もありませんわ」

 キャロルは、一人前に成長した弟子でしに対する台詞せりふ、のようなことを言った。

「ほう。ブライアンはそれほど成長したのかね」

 父親は感慨深かんがいぶかそうにうなずいた。あわてて、少年が意訳いやくする。

「違いますよ。ひたすら戦って腕をみがくべし、ということですよ」

きびしいのですね」

 台詞せりふとは裏腹うらはらに、母親はのんきだ。

 いつものように雑談ざつだんして、家族は歯磨きをする。父親が家を出た。

 日当たりのよい場所にある居間いま。壁にはたくさんの絵が飾られていて、ゆかには絨毯じゅうたんいてある。

 少女は、兄のやっているビデオゲームを見ていた。

 隣同士の椅子に座る二人。

 短い金髪の少年が戦っているのを見て、キャロルは横から何やら口を出している。その様子を、椅子に座っている母親が見て、微笑んでいた。

 ゲームのあと、兄妹は久しぶりに家の外で遊んだ。日傘ひがさを手にして母親も一緒に。

 高所のため、まだすずしい。

 大きな湖を見下ろし、大きな家を見上げて、牧草ぼくそうに風を感じた。

 のんびりとした時間が過ぎていく。

 夕方になり父親が帰宅すると、いつものように家族だんらんを過ごす。

 ベッドで横になった。


 第四日曜日だいよんにちようび

 華奢きゃしゃなキャロルは、大きな自宅で朝食を食べた。

 すぐに、メイドの運転する自動車じどうしゃで、学校のりょうに戻る。

 歯磨きのあとで、旅支度たびじたくを始めた。家から持ってきた大きな旅行鞄りょこうかばんに、色々とめる。

 そのあとで、ゲーム機の電源を入れた。

 レトロファイトを起動する前に、何通もメッセージが届いているのに気付く。フレンドであるケイの紹介で、大会参加者たいかいさんかしゃたちからフレンド申請しんせいが来ていた。キャロルは全て承認しょうにんした。

 トラップ戦術せんじゅつひいでた、金髪ミドルヘアの少女のアバター、ナイナ。

 遠距離射撃えんきょりしゃげきひいでた、白髪はくはつ年配男性ねんぱいだんせいのアバター、ジョフロワ。

 中距離ちゅうきょりが得意なのにドリルを使う、ウェーブした髪の女性のアバター、エリシャ。

 ジャンプ戦法せんぽうが得意な、ととのえたひげ中年男性ちゅうねんだんせいのアバター、ダニオ。

 近距離射撃きんきょりしゃげきひいでた、金髪ショートヘアの女性のアバター、ボニー。

 部屋を開いているフレンドを見つけては、対戦した。

 ナイナの機体きたいは銀色。

 腕がミドル、胴とあしがヘヴィ。背中にトラップとデコイを装備そうび距離きょりを取っての戦いを得意としている。

 キャロルは一気に接近せっきんした。それでも互角ごかくの勝負になる。難敵なんてきだった。

 エリシャの機体きたいは茶色に近い赤。

 全身ミドルで、背中にドリルを装備そうび中距離戦ちゅうきょりせんを得意としている。

 やはりキャロルは一気に接近せっきんした。

 相手は、換装かんそうすきをなくす戦法せんぽうでドリルを狙ってくる。キャロルは回避かいひした。手強てごわい相手だった。

 ダニオの機体きたいは水色寄りの青。

 胴がライト、腕がミドル、あしがヘヴィ。換装準備かんそうじゅんびをしてからジャンプ。着地後、すぐに換装かんそう発動はつどうするのを狙ってすきをなくす、というはなわざを使ってきた。

 抜群ばつぐん操作精度そうさせいどを誇る、強者つわものだった。

 ボニーの機体は赤。

 全身ライト。左手にハンドガン、右手に中型ハンドガン。左肩に中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほう近距離射撃きんきょりしゃげきを得意としている。格闘かくとうに対して有利ゆうり

 格闘かくとうメインのキャロルに対して、ハンドガンをあまり使ってこない。しん淑女しゅくじょだった。

 みんな、メッセージに書いてあるとおりの強敵きょうてき

 まだ戦っていないフレンドがいたので、キャロルは部屋を開いてみた。相手がやってきた。

 ジョフロワの機体きたいは紺色。

 左腕だけミドル、他はヘヴィ。右肩に中距離ちゅうきょりミサイル、左肩に長距離ちょうきょりエネルギーほう遠距離攻撃えんきょりこうげき特化とっかした装備そうび

 いつものように、キャロルは接近せっきんした。

 ジョフロワは距離きょりを取らず、接近戦せっきんせん応戦おうせん。やはり強敵きょうてきだった。

 白いシャツ、黒地に灰色の水玉模様のスカート姿の少女は戦って、笑った。


 しばらくフレンド戦をしたキャロル。

 ディーナが相部屋あいべやに戻ってきた。お昼にはすこし早い時間。二人は昼食に向かった。

「ゲームクラブの活動のためにも、レポートをお願いしますわ」

 淡い茶色の髪の少女が言った。

 キャロルの住むG国では、セカンダリースクールから自立じりつした勉強が求められる。学校のクラブだけでなく、学校外のサークル、ボランティア活動なども評価ひょうか対象たいしょうになる。

「……善処ぜんしょしてみますわ」

 共有スペースでの食事が終わる。食事のあともおしゃべりは続く。

 二人は、部屋に戻り歯磨きをした。

 レトロファイトのフレンドを見ると、アサトが部屋を開いている。キャロルは、迷わず入室許可にゅうしつきょか申請しんせいした。

 嬉しそうな顔の少女を見る、ディーナ。

「そのかたが、キャロルの王子様おうじさまですか?」

「ええ? ……どうしてそのことを?」

 申請しんせい許可きょかされる。部屋に入ったキャロルは動揺どうようしていた。

「昔、絵本の王子様おうじさまの話をしてくださったでしょう? それで、かんですわ」

 ディーナの言葉に反応する間もなく、戦いが始まった。

 向かい合う白と灰色。アサトが5回隙すきを作る。

 キャロルは、そこを攻撃こうげきしなかった。

 アサトは射撃しゃげきを使い、キャロルは対応。やり過ごしたり防いだりした。

 白い機体きたいが相手をくだした。

 2戦目。

 アサトはすきを作らなかった。

 互角ごかく勝負しょうぶを繰り広げ、わずかな差でキャロルは勝利しょうりした。

「どんなかたかも、性別すら分からないのですよ。王子様おうじさまだなんて」

 対戦終了後の画面を見ながら、キャロルは言った。

「いまの戦い、まるで、ダンスをおどっているようでしたわ」

 ディーナは目をかがやかせていた。キャロルは何かを考えて、メッセージを入力し始めた。

【火曜日に何かご予定はありますか?】

 送ったのは、試合内容しあいないようと全く関係のないものだった。

【その日は休みなので、アーケードばんの練習をする予定です】

 すぐに返事がきた。

【できれば、お昼過ぎから行ってくださると嬉しいですわ】

 キャロルが送ったのは、意味不明いみふめいな内容。

【はい。分かりました】

 やはり、すぐに返事がきた。

「わたくしの王子様おうじさま、待っていてください、というメッセージを送りましょう」

 ディーナは興奮こうふんした様子で、キャロルにる。

「そんな勇気ゆうき……わたくしにはありませんわ」

 金髪ロングヘアの少女は、恥ずかしそうにしていた。

 その、フレンドと対戦たいせんして過ごした。ハイレベルな戦いに熱狂ねっきょうするディーナ。

 夜になる。二人が眠ったあと、次の日になった。


 第四月曜日だいよんげつようび

 授業じゅぎょうが終わった。

 キャロルは荷物を持って、校外の自動車じどうしゃへ急いだ。

 ディーナが、茶色のりょうから見送る。

 すこしでも早く、という思いで、待ってもらっていた。メイドの運転する車に乗って、両親と共に空港まで向かう。さほど遠くない場所に空港はある。

 薄茶色で巨大な建物は、鉄筋てっきんコンクリートづくり。

 両親と一緒に、ロビーで搭乗手続とうじょうてつづきを済ます。椅子に座り、すこし待った。

 果てしなく長く感じられた。

 準備のできた飛行機に乗り込む。銀色のつばさは近すぎて、形が把握はあくできない。

 キャロルは、夕方にG国を飛び立った。

 決まった座席にずっと座っていない。飛行機の中の部屋で、両親とのんびり過ごす。

 夕食を食べ、おしゃべりしたあとで歯磨きをした。

 さすがにお風呂はない。

 キャロルは、パジャマに着替えて眠りについた。

 第四火曜日だいよんかようび

 いつもどおり寝たはずなのに、目が覚めると昼過ぎだった。

 時差じさがあるためだ。

 そろそろ到着するということで、キャロルはあわてて着替えた。なんとか食事も済ませる。朝食かと思ったが昼食だ。

 着陸した飛行機から出て、長い通路を歩く。

 荷物はすでに持っている。

 永遠えいえんに続くかと思われた場所を抜けると、エスカレーターがあった。

 空港の外に出る。

 フリル付きの白いワンピース姿の少女は、J国に降り立った。

 昔、コスチュームの日で着たような服を着ている人は、いない。調べたとおり、昔の衣装。

 レイクサイドよりも気温が高い。車に乗り込む、キャロルと両親。

 大会たいかいおこなわれる場所へは向かわない。

 近くの駅まで移動したあと、列車に乗る。

 移動中、見える景色は、キャロルの故郷こきょうとは随分違ずいぶんちがっていた。四角い建物が多く立ち並び、緑はあまり見えない。広がるのは湖ではなく、海。

 桜水駅さくらみずえきにやってきた。両親と共に、予約してあるホテルの場所を確認するキャロル。

(わたくしは、王子様おうじさまに会いに行きます)



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