縮まる距離

 お昼になり、ホテル内のレストランで昼食をとることに。

 エレベーターで下へ向かう。

 和風のフロアに到着。木のテーブルに並んで席に着く六人。レストランには、大部屋とは違い椅子がある。

 全員が和風の食事を選んだ。慣れた様子で食べる、ケイとサツキ。キャロルも、二人に引けを取らない箸さばき。ごく最近使い始めたようには見えない。

 食事の合間に、ゲームの話をして盛り上がっていると、髭を蓄えた中年男性がやってきた。背はあまり高くない。すこし、ふっくらしている。

「残念だよ。桜の季節は、もう過ぎていたんだね」

「ちょっとダニオ。どこまで行っていたのよ。もうお昼よ」

 ウェーブした髪の、色っぽい女性が言った。

 ダニオは、お土産だと言って、何かのフィギュアを取り出す。エリシャがそれをスルーして、ケイとサツキと、キャロルを紹介した。

 キャロルは、ダニオに自分のことを話した。

 よく分かっていなさそうな髭の男性に、隣に座っているエリシャが何やら説明し始める。キャロルも加わろうとして、ウインクを返された。すぐに、ダニオは納得した様子を見せた。

 昼食が終わる。各自、歯磨き。

 和風の大部屋に戻った一行。

 畳の上に、独自の雰囲気を持つ、白髪の年配男性が立っていた。細身でスーツ姿。穏やかな口調で話し出す。

「おや。ケイさんというのは、もしかして、そこのお髭の方ですか?」

「それが違うのさ。驚くなよ?」

 フリードリヒが、得意げな顔で言った。

「冗談ですよ。長い黒髪の、あなたですね。私はジョフロワです。よろしくお願いします」

 ジョフロワが微笑む。軽く会釈をした。

 キャロルは、再び自分のことを説明。すこし緊張している。症状の詳細を知っていた相手から頭を撫でられ、頑張りましたねと声をかけられた。

 初対面の人同士で挨拶をしたあと、やはり始まる対戦会。

 紫の座布団に座る。

 サツキは、対戦のあとで女性陣からかわいがられている。ケイが対戦を見ながら楽しそうに笑っているのを、キャロルは見た。

「もう、みんな集まってたんだね。いい盛り上がりじゃないか」

 部屋に入ってきた金髪ショートヘアの女性が、嬉しそうに言った。きっちりとした服では、しなやかな肢体を隠しきれていない。全員に向けられる笑顔。

 キャロルは、自分のことを説明した。相手は、気にせずどんどん話してと告げる。

 自己紹介して、ケイが集めたライバルたちが揃った。

「面白いよね、見てるだけでもさ」

 対戦を見て笑っているケイに、いましがた到着したボニーが話しかけた。

「うん。観戦モードがあればよかったと思うよ」

「でもさ、この雰囲気が、いいと思わない?」

 ボニーの言葉に、ケイは満面の笑みを見せた。キャロルも微笑む。


「どうもみなさん。お揃いのようですね」

 和風の大部屋に、濃いグレーのシャツ姿の少年が入ってきた。ケイとサツキが反応する。

 それよりも早く動くキャロル。あっという間に接近。

「話しました! ……褒めてください」

 すこし頭を傾けた。流れるような金髪が揺れる。短髪の少年は、すこし恥ずかしそうな表情。

「あ、はい。よく頑張りましたね。偉いですね」

 笑顔を返す。頭を撫でた。微笑ましい光景に、多くの者から笑みがこぼれる。

 しかし、一人だけ様子の違う人物がいる。

「おい、アサトお前! こいつに、何か変なことされてないよな?」

 ケイは、少年に対し敵意をむき出しにしたあとで、キャロルに優しく聞いた。

「……されましたわ」

 フリルのついた青い服の少女は、さらりと言った。

「え? そういう関係なわけ?」

 頬を染めて、たじろいだケイ。近くに来たサツキは、不思議そうな顔をしている。

「ああ。最初に、吃音のことを話すときに、僕がたまたま近くにいたんだよ」

「なんだよ。そうなら、最初に言えって言ってるだろ。いい加減にしろ!」

 ケイが強い口調で言って、そのあと笑った。よく分かっていない様子のサツキも、つられて笑う。

 キャロルは、見ていた。アサトがみんなに自己紹介をする。

 対戦がおこなわれた。

 キャロルが対戦していると、視界の端で、アサトとナイナが何かを話している。ちらちらと見ているあいだにHPはゼロ。対戦相手に行って話してこいと言われて、会話に加わった。

「明日は、手加減なしだぜ!」

 ケイがポーズを取った。

「ありがとうございました」

 サツキが手を振って、二人はその場を後にした。


 当然のように、そのあとも対戦がおこなわれた。

 アサトは、なぜか女性陣に人気だった。態度は普段と変わらず、落ち着いて話す。

「ええ。まあ、偶然会ったんですよ」

「そうなんだ。運命の出会いってやつ?」

 同い年くらいに見えるナイナは、興味津々な様子で聞いた。

「え? いや、偶然ですよ」

「……」

 キャロルもそばにいた。落ち着きがなく、口数もすくなかった。

「面白い話が聞けるかと思ったんだけどね」

 思っていた情報を引き出せなかったらしいボニー。呟いた。

「では皆さん。また明日」

 アサトは手を振り、部屋を出ていった。キャロルはすぐに追いかけて、同じエレベーターに乗る。

「……」

 金髪ロングヘアの少女は何も言わず、短髪の少年の手を握った。握り返される。

「まだ緊張しているんですか? もう大丈夫ですよ」

 アサトは優しい口調で話した。

「ありがとうございます」

 キャロルはお礼を言って、手を離した。

 エレベーターを降り、ロビーを通ってホテルの外に出る。日は大分傾いていた。

 川の前で立ち止まる二人。

「1ヶ月ほど前なら、桜の花が見られたんですけどね」

 川のそばに並ぶ木々を見ながら、残念そうに告げるアサト。

「……いつか、その光景を見たいですわ」

 隣の少年を見つめるキャロル。

「そうですね。ぜひ見てもらいたいですね」

 微笑んで、雑談で盛り上がる。距離の近い二人。

「そろそろ帰ります」

 名残惜しそうな少年。少女は、すこし悲しそうな顔をしたあと、笑顔で見送った。


 キャロルは、食堂で両親と夕食を食べ、和やかにお喋りをした。

 部屋に戻り歯磨きをして、和風の大部屋へ行く。

 そこでは、やはり対戦が行われていた。

 アサトがいたときとは違い、普段のテンションで話をする。ゲームのことになるとテンションが上がった。いつもどおりである。

 対戦を続け、話をし、笑い合ったあとで、家族のいる自分の部屋に戻る。

 いつのまにか、寝室には布団が三つ敷かれていた。

「随分、楽しそうですね」

 微笑みながら言った、父親。

「当然ですよ。お友達が沢山いるのですから」

 母親も笑っていた。どこか誇らしげな顔。

「……ありがとうございます」

 キャロルは、感謝の言葉を述べた。両親と同じような笑顔だった。

 家族は色々なことを話して、笑い合う。ブライアンが来ていないことを残念がった。

 イントッシュが早く彼女を見たいと言うと、ジャスミンはまだお友達だと言い、キャロルは笑った。

 寝支度をする家族。天井が高い不思議な感覚を共有した。

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