それぞれの戦い

 世界大会せかいたいかいの準備がととのいつつある、幕海まくうみドーム。

 雑談ざつだんが繰り広げられている。運営うんえいから、補欠全員ほけつぜんいん召集しょうしゅうがかかった。

 全員同じ場所にいたため、逆に運営うんえいの人が来ることに。話は、欠員けついんが二名出たため、誰か二人が大会たいかいに参加できるという内容だった。

「参加するより、全力で応援おうえんしたい。応援おうえんさせて」

 サツキが真っ先に言った。そのひとみには、ケイがうつっている。

「出たいやつはいないのかよ? オレが出てもいいか?」

 ヨウサクがたずねた。

「そうだね。出たい人が多ければ、ジャンケンか何かで決めればいいかな」

 ロクミチが提案ていあんした。

「マユミさんが出るなら、出る」

「いいのですか? 私は最初から、ほかの人におゆずりしようと思っていたのですが」

 マユミの言葉で、ユズサはもう応援おうえんする気満々きまんまんだ。

「実は、私も、そう思ってて」

 ホノリも、自分以外の誰かを優先ゆうせんしていた。

「よし。ヨウサクとロクミチに決定だな」

 ケイがまとめた。

 キャロルは、楽しそうな様子を見ている。

 それから、準備じゅんびがおこなわれ、トーナメント表が発表された。


 ケイ対ヨウサク。エリシャ対ヴィーシ。その勝者同士しょうしゃどうしが戦う。ここがAブロック。

 ジョフロワ対ユクシ。ナイナ対カクシ。その勝者同士しょうしゃどうしが戦う。そこがBブロック。

 アサト対ボニー。ダニオ対コルメ。その勝者同士しょうしゃどうしが戦う。これがCブロック。

 フリードリヒ対ネリャ。キャロル対ロクミチ。その勝者同士しょうしゃどうしが戦う。最後のDブロック。

 A対Bの勝者しょうしゃが、C対Dの勝者しょうしゃと戦う。その者が優勝ゆうしょうになると決まった。 


 試合開始前しあいかいしまえに、舞台ぶたいの上で記念撮影きねんさつえいが始まる。

 トーナメント表通りのならびで全員が写されてから、個別の撮影さつえい

 淡いピンクのワンピースを着た少女が、気合い十分でファイティングポーズを取った。羽織はおう赤いカーディガンに、つややかな長い黒髪が映える。

 十代前半の少年少女たちは、いいぞー! 可愛かわいい! などと思い思いの声援を浴びせた。

 ほかの参加者さんかしゃ緊張きんちょうがほぐれたようだ。

 グレーに近い紫色をしたワンピース姿のキャロルは、ずかしそうな表情をしていた。声をかけられて、長い金髪が揺れる。アサトの笑顔を見て微笑みを返す。

 撮影さつえいが終わる。選手せんしゅたちが、ひかしつへ移動した。

 見守ったあとで観客席かんきゃくせきへ向かう、補欠ほけつ面々めんめん

 ひかしつは、舞台ぶたいからすこし離れた通路の先にある。16人全員が入れる、大きな部屋。壁に沿うようにテーブルがある。上には、試合の様子が映し出されるディスプレイがいくつか。音量はしぼられている。周りにたくさんの椅子がならぶ。

 次々と人がおとずれている会場かいじょう。その中には、キャロルの両親、イントッシュとジャスミンの姿もあった。黒髪であふれる中、優雅ゆうがたたずんでいる金髪の二人。

 すでに椅子は埋まっている。立っている観客が、座っている人数を超えそうだ。

 子供からお年寄りまで、集まった人々の年齢層は幅広い。

 レトロファイトの盛り上がりが感じられる。


 大会が始まった。

 進行役しんこうやく司会者しかいしゃと、解説役かいせつやくのゲームに詳しい二人が現れた。ゲーム開発者かいはつしゃの中の二人に似ていた。本人たちは別人だと言う。

 説明と諸々もろもろ挨拶あいさつむ。

 ケイとヨウサクは、すでに移動していて姿がない。最初の試合しあい近付ちかづいていた。

 緑色の舞台ぶたいには、選手せんしゅ対戦たいせんする台が設置せっちされ、上にディスプレイが二つ置いてある。

 うしろは壁。すこし高い位置には巨大なディスプレイ。試合しあいの様子が映るため、離れていても観戦可能かんせんかのう

 試合しあいをおこなう選手せんしゅの名前が呼ばれ、歓声かんせい拍手はくしゅが起こった。

 二名の選手せんしゅは台の近くに行き、隣同士となりどうしの椅子に座る。ゲーム音を聞くため、ヘッドフォンをつける。

 コントローラーを握った。

 司会者しかいしゃ解説者かいせつしゃが何かを言っている。ひかしつのディスプレイは、音量がしぼられていて聞こえない。

 ケイは、能力の高さを見せつける。ヨウサクも必死で食らいつき健闘けんとうした。しかし、今はまだ届かない。

 会場をかせるためかせプレイをしつつ、ケイが勝利した。

「さすがですわ」

 グレーに近い紫色のワンピース姿のキャロルは、つぶやいた。

 ひかしつまで壁越しに伝わってくる、熱気ねっき

 試合しあいが終わる前から、次の試合しあい選手せんしゅは移動していた。

 ケイとヨウサクが、ひかしつに戻ってくる。試合内容しあいないようを振り返って、ほかの人たちと雑談ざつだんを始めた。

 金髪ロングヘアの少女は、みんなの話を聞いている。

 話したくないわけでも、話せないわけでもなかった。ときおり笑いながら、聞いていた。


 次の試合しあい

 エリシャはいつものように、すきが大きく当てるのが難しいドリルを狙う。

 1戦目はあきらめて、得意の中距離ちゅうきょり撃破げきは

 2戦目はドリルを当て、勝利しょうりした。

 会場かいじょういた。次の試合しあいをおこなう選手せんしゅは、すでに移動している。

「ここで、みんなでプレイできないのが残念だな」

 ケイは本気で言っているようだ。どんなときでもゲームは別腹べつばららしい。

「……うん」

 キャロルは、みんなの話し方を真似まねた。上手くできているのかは分からない。

 次々と試合しあいがおこなわれ、ひかしつで見守る。

 司会者しかいしゃ解説者かいせつしゃが何を言っているのか、気にしている選手せんしゅはいない。プロゲーマーの、ヴィーシたち五人も同様どうように。

 ジョフロワは、デコイしや射程しゃていギリギリで次々と射撃しゃげきを命中させた。会場かいじょうから驚きの声が上がる。

 最後の攻撃こうげきを当てたのは、ジョフロワだった。

 ナイナは、相手をけない、嫌らしいプレイを徹底てっていする。

 時間をかけ、危なげなく撃破げきはした。

 アサトとボニーは、互角ごかく勝負しょうぶを見せる。攻撃こうげきが当たるたび、会場かいじょういた。

 戦いは3戦目に突入。アサトは、最後に格闘攻撃かくとうこうげきを狙った。わずかに届かず、勝ったのはボニー。

 ひかしつ選手せんしゅが戻ってくる。

「やるじゃん、アサト。さすがおれのライバルだな」

 ケイは素直にみとめた。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、まだ何かが足りないって感じだ。僕はもっと上にいく」

 決意けついべたアサトは、さわやかに笑った。

 そして、すこし離れた場所にいたキャロルに、近付ちかづいていく。

「……」

 何も言わなかった。何を言えばいいのか分からないわけでも、何も言いたくないわけでもない。

「残念ですわ……もう少しでしたのに」

 キャロルが、悲しそうな顔で見つめていた。

「あなたには、笑顔が似合いますよ。レディ」

 少年は、真面目まじめな顔で言って、笑った。自分の言葉に笑ったようだ。少女も笑う。

 二人は移動し、みんなの輪の中に入る。


 ダニオは、ジャンプを多用たようしてノリで戦う。

 驚異的きょういてき操作精度そうさせいどがなければ、できないものだった。実力で勝利しょうりした。

 キャロルとロクミチが、舞台ぶたいの近くまで移動した。観客かんきゃくの声を聞きながら戦いを見守る。

 フリードリヒは、大会だというのに、いつものようにパージしていどむ。負ければ終わりの状況で、リスクの高い戦法せんぽうをあえて使った。

 機動力きどうりょくの上がった機体きたい制御せいぎょするにはテクニックが必要。会場かいじょういた。そして、相手を撃破げきはした。

 ひかしつに戻っていく選手せんしゅは、何も言わない。

 かなり短い髪の男性が、一瞬いっしゅんキャロルを見る。ただ微笑んでいた。


 会場かいじょうには、大勢おおぜいの人がおとずれている。

 座るのは千人。それ以上の人が、うしろで立って見守っている。キャロルの両親や、見知った少女たちの姿もあった。

 離れている人には舞台ぶたいがよく見えない。

 すこし高い位置に設置してある、壁の巨大なディスプレイを見ていた。様子がうつっている。

 キャロルとロクミチの名前が呼ばれ、歓声かんせいが起こった。

 金髪ロングヘアの少女と、七三分しちさんわけの少年が、緑の舞台ぶたいに現れる。ゲームの台に近付ちかづき、隣同士となりどうしの椅子に座る。ゲームの音を聞くため、ヘッドフォンをつける。

 コントローラーを握った。

 キャロルは、いつもどおり白色のロボット。腕がミドル、胴とあしがライト。左手にナイフ、右手にソード、両肩を使用する至近距離専用しきんきょりせんようビームナックルを装備そうび

 試合開始しあいかいし。ステージは、オーソドックスな荒野。

 相手は、全身ミドル一式。背中にあるトラップが射撃戦しゃげきせんでは厄介やっかい。キャロルには些細ささいなこと。

 ロクミチは、有利不利ゆうりふり装備そうびを選ばず、自分のスタイルをつらぬいたようだ。キャロルを接近せっきんさせないように、けんせいまじえて立ち回る。

 射撃しゃげきを受けながらも、ビームシールドを一瞬使用いっしゅんしようする白い機体きたい。ミサイルを無効化むこうかし、接近せっきん。相手を逃がさず、すきを見てビームナックルで撃破げきはした。

「……」

 キャロルは何も言わなかった。

 2戦目。

 いつもどおりキャロルが間合まあいを詰めると、相手は離れなかった。換装直後かんそうちょくごすきをなくす戦法せんぽうを使い、攻め続ける。

 激しい接近戦せっきんせんになる。

 キャロルは換装かんそうを使わず、ビームシールドを使い大きなダメージを防ぐ。

 ロクミチはねばりを見せたものの、キャロルが勝利しょうりした。

 選手せんしゅがヘッドフォンを外す。

 聞こえてくる歓声かんせい

 キャロルは、恥ずかしそうな顔をしたあと、舞台袖ぶたいそでに帰っていく。

完敗かんぱいです。ありがとうございました」

 ひかしつまでの道を歩きながら、ロクミチは清々すがすがしい顔で礼を言った。

「……有利ゆうり装備そうびを、お使いになっていたら、勝負しょうぶは分かりませんでしたわ」

「それは、キャロルさんも、でしょう。同じ装備そうびなら、やっぱりボクは勝てませんよ」

 七三分しちさんわけの少年は、ひかしつに戻ると、ヨウサクと何かを話して笑った。そこにキャロルも加わっていった。

「そうですね……わたくしのこだわりがなくなったなら、そのとき、同じ装備そうび対戦たいせんしましょう」

 アサトも近付ちかづいていった。真剣しんけんな顔をしている。

「そのときは、真っ先に対戦たいせんしたいですね」

「お覚悟かくごは、よろしくて?」

 キャロルは真剣しんけんに言ったあと、笑った。自分の言葉に笑ったようだ。それを見て、周りも笑った。


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