輝き

 トーナメント表。

 Aはケイ対エリシャ。Bはジョフロワ対ナイナ。

 Cはボニー対ダニオ。Dはフリードリヒ対キャロルに決まった。

 そして、A対Bの勝者しょうしゃと、C対Dの勝者しょうしゃが戦うことになる。その勝者同士しょうしゃどうしが戦い、優勝ゆうしょうが決まるという寸法すんぽうだ。


 8位入賞いにゅうしょうが決まったケイとエリシャは、互角ごかくの戦いを見せる。

 おたがいにドリルを狙う。ケイがドリルを当てて勝利しょうりした。

 歓声かんせいれる幕海まくうみドーム。

 選手せんしゅたちは、ひかしつのディスプレイで見ていた。ほとんどの人が椅子に座る。プロゲーマーのヴィーシたち五人も座っていた。キャロルからは、すこし離れた場所にいる。

「……」

 キャロルは何も言わなかった。試合しあいを見る目はかがやいていた。

 グレーに近い紫色をしたワンピース姿の少女。その輝きを、少年しょうねんが見つめている。振り向いた少女に微笑まれ、少年しょうねんは、一緒に会場かいじょうの様子をながめた。

 次の試合しあい

 ジョフロワ相手に、遠距離戦えんきょりせんいどむナイナ。じりじりとした戦いが続く。

 勝ったのは、デコイしに正確せいかく狙撃そげきをおこなった、ジョフロワ。

 キャロルとフリードリヒが、舞台ぶたいの近くまで移動した。

 二人は話さない。

 緊張きんちょうしているわけではない。試合しあいの様子を見ている。少女が微笑んだ。華奢きゃしゃな姿を視界しかいはしとらえ、長身の男性も、さわやかな笑みを浮かべる。

 舞台ぶたいには、ボニーとダニオの姿があった。

 ダニオはいつものようにんで、着地ちゃくちすき換装かんそうで消しつつ攻める。ボニーはあえて換装かんそうせず、着地時ちゃくちじの読み合いをメインに戦う。

 そして、読み勝ったボニーが勝利しょうりつかんだ。


 レトロファイト世界大会せかいたいかいが行われている、会場かいじょう

 緑色の舞台ぶたいを、大勢おおぜいの人々が見守る。キャロルの見知った顔もある。

 イントッシュとジャスミンは、黒髪の多い観客席かんきゃくせきで目立つ。娘を応援していた。

 座るのは千人。それ以上の観客かんきゃくが、うしろに立っている。

 サツキ、ホノリ、ユズサ、マユミも、キャロルを応援していた。少女たちは前を見ている。

 すこし高い位置に、試合しあいの様子が映される。巨大なディスプレイ。

 選手せんしゅ対戦たいせんする台は、上にディスプレイが二つ並ぶ。ゲーム機は台の中。

 トップ8のフリードリヒとキャロルの名前が呼ばれ、歓声かんせい拍手はくしゅが起こった。

 舞台ぶたいの中心へと歩く。

 立ち止まる、かなり短い髪の男性と、金髪ロングヘアの少女。椅子に座った。ゲーム音を聞くために、ヘッドフォンをつける。

 コントローラーをにぎった。

 試合しあいが始まり、ステージは平原。

 キャロルの装備そうびはいつもどおりで、白色。腕がミドル、胴とあしがライト。左手にナイフ、右手にソード、両肩を使用する至近距離専用しきんきょりせんようビームナックル。

 フリードリヒもいつもどおり、黒色。全身ライトタイプ。左手にナイフ、右手にビームナイフ、右肩に大型実体剣おおがたじったいけん

 1戦目。

 フリードリヒが全装甲ぜんそうこうをパージし、おたがい示し合わせたかのように直進。

 どちらも射撃しゃげきを使わなかった。

 キャロルは、機動力きどうりょくで勝る相手の攻撃こうげき寸前すんぜんでよけつつ、攻撃こうげきを繰り出す。

 相手も攻撃こうげき紙一重かみひとえけ、反撃はんげき。白い機体きたいがダメージを受ける。

 骨のように見える、フリードリヒの機体きたい。フレームがむき出しの姿。装甲そうこうを外しているため、どんな攻撃こうげきでも当たれば大ダメージになる。

 キャロルは、回避かいひすると見せかけて攻撃範囲こうげきはんいに入った。ビームシールドで攻撃こうげきはじいて、すきを作る。

 格闘攻撃かくとうこうげきを当て、撃破げきはした。

 2戦目。

 フェイントをまじえた動きを高速こうそくで続ける両者りょうしゃ。1戦目と同じような戦い。

 今度はフリードリヒが、ビームシールドで上手く攻撃こうげきはじく。キャロルはたおされた。

 3戦目。

 やはりフリードリヒは、全装甲ぜんそうこうをパージする。

 キャロルも射撃しゃげきを使わず、殴り合いの様相ようそうていした。

 最後さいごはクロスカウンターの形になり、わずかな差でキャロルが勝利しょうりした。

 ヘッドフォンを外す選手せんしゅ勝者しょうしゃだけではなく、自分のスタイルをつらぬいたフリードリヒにも、大きな拍手はくしゅ歓声かんせいが送られた。

「さすがは、おれのライバルだ」

 歩きながら、フリードリヒが相手をみとめて、笑った。

「……その台詞せりふ、そっくりそのまま、お返ししますわ」

 キャロルも同意どういして、笑った。

 二人はなごやかに話しながら、ひかしつに戻っていく。


 会場かいじょう熱気ねっきは、ひかしつまで伝わってきている。

 ディスプレイにうつ舞台ぶたいには、長い黒髪を綺麗きれいにまとめた少女と、白髪はくはつ年配男性ねんぱいだんせいの姿。

 4位以上いいじょうが決まっている雄姿ゆうしだ。

 その戦いの途中で、キャロルとボニーが舞台近ぶたいちかくまで移動していく。実況じっきょう解説かいせつの声がはっきり聞こえる。

 ジョフロワは、これまでのような遠距離戦えんきょりせんだけではなく、換装かんそうを使っての近距離戦きんきょりせんにも挑戦ちょうせんしていた。

 キャロルが舞台ぶたいの近くで見ている。勝ったのは、ケイだった。

 きあがる声。戦いを終えた二人が舞台袖ぶたいそで移動いどうした。

 たくさんの照明がいろどる緑色の舞台ぶたい

 会場かいじょうには大勢おおぜいの人がおとずれている。うしろの観客かんきゃくたちは、壁の巨大なディスプレイに注目。舞台ぶたいの様子がうつった。

 トップ4のボニーとキャロルの名前が呼ばれ、歓声かんせい拍手はくしゅが起こった。キャロルへの声援せいえんも飛ぶ。

 金髪ショートヘアの女性と金髪ロングヘアの少女が、舞台ぶたいの真ん中まで歩く。

 見つめるのは、ゲーム機とディスプレイの置いてある台。隣同士となりどうしの椅子に座る。ゲーム音を聞くためのヘッドフォンをつける。

 コントローラーをにぎった。

 試合開始しあいかいし。ステージは平原。

 ボニーの機体きたいは赤色で、全身ライトタイプ。左手にハンドガン、右手に中型ちゅうがたハンドガン、左肩に中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほう近距離射撃重視きんきょりしゃげきじゅうし機体きたいで、格闘かくとうでは相性あいしょうが悪い。

 キャロルのロボットは白色で、いつもの装備そうび射撃しゃげきを使わなかった。いつもどおりの格闘戦かくとうせんいどんだ。

 ボニーは、両手のハンドガンで戦えば有利ゆうり。だが、ほとんど使わなかった。

 違う攻撃方法こうげきほうほうにもかかわらず、まるで、同じ攻撃こうげきをしているかのような動きが続く。格闘かくとう射撃しゃげき、どちらも洗練せんれんされている。

 ダンスをおどっているようだった。おたがいにHPを削り合う。最後に立っていたのはボニー。

 2戦目も、一進一退いっしんいったい攻防こうぼうが続く。ビームシールドでたくみに攻撃こうげきはじくキャロル。

 わずかに届かず、負けた。

 選手せんしゅがヘッドフォンを外す。

「ありがとう。いい勝負しょうぶだったよ」

 ボニーが右手を差し出した。

「ええ。……こちらこそ、ありがとうございます」

 キャロルが、手をにぎって微笑んだ。やぶれたが、晴れやかな表情をしていた。

 会場かいじょうから割れんばかりの歓声かんせい拍手はくしゅが起こる。

 キャロルは、観客かんきゃくに向け軽くお辞儀じぎをして、ひかしつに向かった。


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