一つの決着

「ま……負けてしまいましたわ。慰めてください」

 控え室に戻ったキャロルは、アサトに向かって言った。笑顔である。

「表情と台詞が、合っていませんよ」

 グレーのシャツ姿の少年は、真面目だ。少女の魅力的な笑顔を見て笑う。

「頭を撫でてあげないの? 抱き締めてもいいよ」

 ナイナは、にやにやしていた。

「……」

 フリードリヒは、何も言わずに見守っている。ジョフロワも近くにいた。

「どっちもすごかったね。感動したよ」

 整えた髭を蓄えた男性が、話の流れとは無関係の感想を述べる。

「そうね。私もそう思う。だから、そっとしておいてあげて」

 エリシャが、ダニオを引っ張っていった。

 様子を見ていたヨウサクとロクミチは、アサトに手招きをされ、近付いていく。

「何で、大会なのに、縛りプレイしてるんだって話だよな」

 決勝戦まではすこし間があるため、ケイはまだ移動していなかった。話の流れとは無関係な話題を振る。

「全くだよね。何で、わざわざ相手と同じ装備で戦ってるんだろうね」

 アサトが攻撃を仕掛けた。

「……それで勝つのですから、すごいですわ」

 キャロルも乗っかった。

「いや、俺のことはいいだろ。みんな、こだわりのある戦い方してるだろ」

 話が盛り上がっている途中で、次の試合のため、ケイは呼び出しを受けた。

 十代前半の少年少女たちが見送る。応援した。歩いていく少女を見つめる少年を、キャロルは見る。

「……」

 そして、何も言わなかった。


 会場の興奮は、控え室まで伝わってきていた。

 舞台には、長い黒髪を綺麗にまとめた少女と、金髪ショートヘアの女性の姿。

 決勝戦、開始。

 ケイは相手と同じ装備だった。ハンドガンを軸に、ボニーと対等に渡り合う。わずかな差で、ケイは相手を倒した。

 2戦目。

 再びハンドガンの応酬になるかと思われた。だが、ケイが勝負を仕掛ける。お互いに換装を使って攻める中、あえて格闘で攻撃。

 攻撃の瞬間を狙われたボニー。真横に斬りつけられる。爆発が起き、ケイが勝利した。

「やっぱり人間やめてるね」

 控え室で試合の様子を見ていたアサトは、選手を褒めた。

「……どういう意味なのですか?」

 隣に座っていたキャロルが聞いた。答えを聞く前に、トップ8の選手が呼び出された。

「あとで話します。いってらっしゃい」

「……いってきます」

 キャロルは笑顔を返した。

「何だか分からないが、応援するよ」

 控え室の外に出てきたヴィーシが言った。

「ああ、そうだな。よく分からないが、やって来いよ」

 ユクシは何かを知っている風だったが、隠せていない。

「お前達なら、できる」

 カクシは相変わらず、喜怒哀楽を次々と表情に出している。

「だな」

 コルメは真剣な表情で言ったあと、豪快な笑みを見せた。

「負けるなよ」

 ネリャが自分の希望を伝えた。

 キャロルは、立ち止まってお辞儀をした。みんなと共に舞台へ歩いていく。


 優勝者は決まった。そして、まとめに入らなかった。

 キャロルたちは、舞台の近くまで移動した。何やら騒がしい。

 台が撤去される。

 レトロファイトのアーケード版の筐体きょうたいが八台、姿を現した。

 主催者からのサプライズで、アーケードの共闘バージョンを先行プレイするという。トップ8の面々が壇上に上がり、説明を受けた。

 ナイナは納得している。

「アサトの言ったとおりだね。やっぱり宣伝だった」

「無茶振りしやがって。やるからには勝つぞ!」

 ケイが気合いを入れて、キャロルたちが同意した。操作方法はアーケード版と同じ。問題ない。

 ボス敵についての説明はすくない。ヘヴィタイプより、さらに一回り大きい程度。脚が四つ。付け根に武器がある。あまり速く動けないが火力がある。という大雑把なもの。

 初見の上、八人で挑む敵。勝つビジョンは見えない。

「よろしくね」

 隣はボニー。会場の声が大きいため、顔を近づけて挨拶をするキャロル。

「ええ……よろしくお願いしますわ」

 八つの筐体きょうたいにそれぞれが座り、握られる横向きの操縦桿。左右の手が動く。ロボットのコックピットのような操作システム。

 みんな、いつもどおりの装備を選ぶ。

 サプライズの共闘が始まった。二名ずつ近くに配置され、ボスから離れた場所で囲む形になっているようだ。

 接近している途中で、雑魚敵が複数現れる。

 一人用モードで登場した敵を、ボニーがあっさりと倒す。キャロルは目の前の二体を倒した。

 フィールドは、通常対戦のときよりも広い。ベースは荒野と同じ。

 全員が、無傷でボスに近づく。

 巨大な敵は、濃い紫色で禍々しい見た目。への字型の脚に吊るされる本体。

 蜘蛛のようだ。

 反対方向に、大出力エネルギースナイパーライフルが発射され、誰かが避けた。

 会場の声が大きい。全員の詳しい状態は分からない。

 本来は両肩武器である、短射程エネルギー砲付きのドローン群が射出される。飛び交う弾。キャロルも含めた近距離組は接近を諦め、一時後退。

 ジョフロワは、遠距離から脚に的確にダメージを与えていく。

 初期装備のケイも、長距離エネルギー砲を命中させる。ボスの脚が一つ破壊され、動きが止まった。

 ドローンは、すでにボニーとナイナが撃ち落としている。

 これで接近できる、と思ったのも束の間。脚の付け根から現れた、別の武器。本来は、背中の左右と両肩を同時に使用する、マントのような形状の全方位中距離エネルギー砲。

「うかつに近づけませんわ」

 すぐに気付いたキャロル。距離を取る。

 近接戦闘の途中だったフリードリヒがマントに気付く。全力で後退しながら、迫る弾を避ける。さらに避けた。無駄のない動きを続け、紙一重で回避。無傷で間合いを離した。

「さすがは、わたくしのライバルですわね」

 ボスの脚が換装された。紫の巨体が再び動き出す。

 ドローンの追加が射出され、すぐに、ボニーとナイナが撃ち落とした。

 キャロルは、その隙に一気に接近する。格闘攻撃を叩き込んだ。攻撃中、流れ弾に当たる。次に備えて警戒するも、弾は飛んでこない。

 すぐに反応して攻撃を止めている味方。人間離れした反射神経。

 余裕が出てきたので周りを見る。

 ダニオは、相変わらずジャンプしている。エリシャは、当然のようにドリルを使っている。

 至近距離専用ビームナックルを当てたキャロル。緩んでいる口元。

「やはり、皆さんお強いですわ」

 皆ある程度被弾していた。それは味方の攻撃によるもの。

 ちなみに、味方の攻撃が当たることは、事前に知らされていなかった。

「そろそろですわね」

 キャロルが呟いてすぐ、ケイは突っ込んでいった。右腕の換装準備をする。

 残りHPがわずかになったボスの攻撃をかいくぐり、短距離ビーム砲を至近距離で直撃させた。右腕がミドルタイプに換装完了。隙を消したケイ。巨大な可変式実体剣を構える。

 攻撃範囲にいたボニーが、直前で回避する。

 八人の挑戦者たちは、ボスを撃破した。


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