第16話、敵中の作戦会議

 ダクトの中で待つ事、小1時間。

 ヤベ… ソフィーが、コックリコックリし始めている。

「 こらこら、寝るなソフィー…! 」

「 オジちゃん… ソフィー、眠たいよおぉ~…… 」

 …そりゃ、見れば分かる。

 でも、寝るな。 イザという時、お前さんを、おんぶして行かなくちゃ、ならなくなるじゃないか。

「 …う~~… カエルさんの歌、歌っていい……? 」

 何じゃ、そら? ダメに決まってんだろ? そんなん。

 人差し指を口に当て、ソフィーを制す、俺。

「 じゃ、カード持ってるから、ゲームしようよ。 ね? 」

 ……あのな。

 敵に見つかれば、即刻処刑かもしれないのよ? この状況にして、カードゲームかい? 発見した兵士も、どういうリアクションをするのか、ある意味、興味があるわ。 それに… 君、いつも持ってんの? カード……

 俺は、指先でバッテンを作り、ソフィーに見せた。

 再び、ソフィーが言った。

「 オジちゃん、おしっこ…… 」

 ……ぬうぅ~……!

 元帥が、下で、引き笑いをしている。 何か、俺… 全然、緊迫感が無くなって来たんだケド……?


 やがて、無線のバイブレータが振動した。

『 グランフォード殿、お待たせ致しました。 ブルックナーです。 シュタイナー伍長が配電室のヤツを買収し、5分ほど、明かりのみ切ります。 B16の、エリア21と22の間の廊下を左舷方向に行くと、ダクトの点検扉があります。 アントレーとシュタイナーが、大きめのバスケットを台車に載せ、待機していますので、 それに元帥閣下とソフィーには入ってもらい、336号まで戻って来て下さい 』

 助かった…! また、あのダクト内を延々と戻るのかと思い、憂鬱になっていたところだ。

「 了解した。 カウントダウンは、あるのか? 」

『 しばらく、お待ち下さい。 …シュタイナー、イケそうか? コッチは、OKだ 』

 どうやら、シュタイナーとは、携帯でつながっているようだ。 幾分、声の音量が落ちたブルックナーの声が聞こえる。 やがて、明瞭なブルックナーの声が返って来た。

『 グランフォード殿、宜しいですか? やります! 3・2・1…! 』

 フッ、と明かりが消えた。

「 閣下…! 」

 そう言うと、俺は、前もって外しておいた金網をどけた。 無線をかざし、パネルの明かりで下を照らす。 元帥は、素早くベッドのへりに足を掛け、両腕を上げた。 その腕を掴み、引っ張り上げる。

「 そりゃっ! 」

 元帥は、意外に軽く、簡単に引き上げる事が出来た。

「 おじいちゃんっ! 」

「 ソフィー…! 」

 抱き合う、2人。

 俺は言った。

「 長居は無用だ。 ソフィー、Bの16のエリア21と、22の間の廊下って分かるか?」

「 任して。 こっちよ! 」

 俺たちは、急いで移動を開始した。


「 グランフォード殿…! こちらです……! 」

 金網越しに、ダクト内を移動して来た俺たちを見とがめ、シュタイナーが声を掛けた。

 点検扉を開け、外に出る。 ブルックナーが言った通り、大きなバスケットが台車に乗せられ、用意してあった。

 シュタイナーが言った。

「 閣下! ご無事で何よりです…! 」

「 おお、シュタイナー。 手間を掛けたな。 すまん! …これに入るのだな? ソフィー、早くおいで! 一緒に入るんだ 」

「 今度は、イチゴ無いの~? 」

 悠長なコト、言ってんじゃない。 早く、入りなさいってば……!

 バスケットの蓋を閉めると、俺とアントレー、シュタイナーは、何食わぬ顔をして台車を押し始めた。

 俺は言った。

「 シュタイナー。 先頭を歩いてくれ。 雑役をさせている下士官が、業務員と一緒に歩くのは、おかしい 」

「 了解です……! 」

 アントレーが、前を向きながら、小さな声で言った。

「 うまくいったな…! ソフィーも、よくやったぞ? 」

「 へっへっへ~…! 」

 バスケットの中で、自慢気なソフィー。

 俺は言った。

「 腰が痛いぜ……! 早く、部屋に戻ろう。 ソフィーは、トイレだし… 」

 俺たちは、336号に戻った。


 アントレー、ブルックナー、シュタイナー、ソフィー、元帥に、俺…… まあ、新兵に混じってニックもいるのだが、今のところは、頭数に入れないでおこう。

 主要メンバーが一同に会したところで、シュタイナーが『 新人 』を紹介した。 シュタイナーが現在、従事しているバウアー大佐だ。

 彼が、俺に向かって言った。

「 第8ブロック、戦闘指揮 副官のバウアーです。 お目に掛かれて光栄であります、グランフォード殿…! 」

 敬礼するバウアーに、俺も敬礼しながら答えた。

「 頼りになりそうな戦力が増えて嬉しいですよ、バウアー大佐 」

 バウアーは笑顔を見せると、元帥の方に向き直り、言った。

「 閣下、ご無沙汰しておりました。 シュタイナーから、全て聞いております。 ご無事で何よりでした……! 」

 歳は、50代後半くらいだろうか。 落ち着きのある、いかにも将校といった雰囲気の男だ。

 元帥は答えた。

「 心配掛けたな、バウアー少将。 …いや、今は、大佐か。 グランフォード君のお陰だよ。 こうして、ソフィーにも会えた… 感謝するよ。 アントレー君も、よくやってくれた 」

 ソフィーは、元帥に会えて満足したのか、元帥の膝の上でスヤスヤと寝ている。

 俺は言った。

「 大変なのは、これからです。 何せ、仲間は… これだけですからね 」

 バウアーが、胸を張って言った。

「 グランフォード殿。 私が管轄する第8ブロックの将兵は、全て、閣下を敬愛していた者たちです。 いざとなったら、ゲーニッヒ打倒に一役、買いましょうぞ…! 」

 心強い。 最悪、乱戦となった場合は、第8ブロック内でした方が良さそうだ。

 早速、俺は、今後の作戦を検討する為の会議を始めた。


 カーペットの床に、車座になって座る面々。

 元帥に将軍、将校もいると言うのに、座談会のような雰囲気…… 町内会の寄り合いのような雰囲気だ。 酒でもあれば、1曲出そうである。


 シュタイナーが説明した。

「 現在、シリウス乗艦のゲーニッヒ派将官は、元、第1艦隊副官のリッター准将、航空参謀のライヒ中佐、1等警務官のタイラー少佐に、シリウス副艦長のラインハルト少将… あと、特務軍医のカトウ中尉でしょう。 カトウ軍医中尉は、シュタルト提督の従兄弟に当たります。 ろくすっぽ、治療も出来ないクセに、コネで入って来たヤツです 」

「 そいつらが、裏切りの首謀者メンバーか…… 」

 俺の問いに、バウアーが頷くと、元帥に提案した。

「 作戦会議で、全員が顔を揃えたところを抑えてはいかがでしょう? カトウ軍医中尉だけは列席しませんので、別働隊が必要かと… 」

 ブルックナーが尋ねる。

「 将官の側近たちは、どうなんでしょうか? 会議にも、同行すると思いますが 」

 バウアーが、腕組みをしながら答えた。

「 う~む… シュタルトの息の掛かったヤツがいる可能性は、否定出来ん……! 見極めが厄介だな 」

 元帥が、寝ているソフィーの頭を撫でながら言った。

「 ワシも、ゲーニッヒには、注意をしていたのだが… まさか、ヤツの側近のタイラーまでもが、シュタルトに通じていたとは気が付かなかったな 」

 バウアーが言った。

「 ……バークレー中将には、残念な事でしたな。 貴重な人材を失いました… 」

 元帥は答えた。

「 バークレーと共に、数多くの将兵たちが命を落とした。 ワシは、その償いをしなくてはならない。 グランフォード君たちのお陰で、その道は開かれつつある。 神の思し召しだ。 感謝しよう……! 」


( くすぐったいな… 俺だって、崖っ淵なんだ。 元帥救出は、成り行きだぜ。 そう感謝されても、コッチは困る。 礼を言うなら、膝の上で寝ているソフィーに言ってくれ )


 ブルックナーが進言した。

「 バウアー大佐の案で、やってみませんか? 私は、親衛隊員として、勤務監視の命令で乗艦しております。 当然、会議にも同席致します。 拘束する際、私も同様に拘束して下さい。 そうすれば内通者がいても、後で拘束出来ます……! 」

 シュタイナーが言った。

「 なるほど……! それは名案です! いかがですか? 元帥閣下 」

「 うむ。 保険付きか… イケそうだな 」

 バウアー大佐も、同意して言った。

「 やりましょう! まさか、親衛隊員がこちら側だとは、誰も気付かないでしょう。 うまく行けば不穏分子をも、一掃出来ますぞ! 」

 計画は決まった。 後は、カトウ軍医中尉だ。

 俺は、ブルックナーに提案した。

「 ブルックナー。 軍医さんについては、俺に案がある。 ニックを呼び出してくれ。 あいつが適任だ 」

「 了解しました。 でも… どうやって呼び出します? 何か、呼びつける為の理由が無いと…… 」

「 お前さんは、勤務監視で乗艦している親衛隊の士官候補生なんだろ? 勤務怠慢でも、服装風紀違反でも… 何だっていいよ。 あいつなら、呼び出しを食らったら、その理由を指折り数えて確認するだろうよ。 疑問に思う事すら無いだろう 」


 ……そんなヤツが、俺のクルーだなんて……

 自分で言っていて、恥ずかしいぜ、全く。

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