第9話、座すれば、妙案あり
「 ♪ カエルさん~、カエルさん~ お目めをキョ~ロキョロ、お散歩ね~ ピョンピョン、ぴょんっ。 ピョンピョン、ぴょんっ ♪ …ねえ、まだあ~? 早くしてよ、カエルさ~ん 」
「 うるせえんだよ、お前っ! その歌、ヤメろ。 気が散るんだよっ! …ええい、コレでどうだっ? 」
「 残念でしたぁ~! ソフィー、2カード持ってるもんねえぇ~ 」
「 なっ? そんなん、ありかよ! インチキしてんじゃねえだろな? ホラ、お前の番だ 」
「 コール! 」
「 けっ、エラそうに。 ええっと~…… 」
「 ♪ カエルっさん~、カエルっさん~ おっ目めをキョ~ロキョロ、おっ散歩ね~ ピョンピョン、ぴょんっ。 ピョ… 」
「 うるせえっちゅ~に、このガキ! そら、コールだ! 」
「 わ~い、当たったぁ~! そのカード、待ってたんだよ~? 」
「 何だとっ…? 」
「 これで、連続18回、ソフィーの勝ちだよ? カエルさん、ホントに弱いのね! 」
「 …ああ、もォうっ! 頭、撫でるなって~のっ! 触んなって! …ちっくしょおぉう、このガキ… もう1回、勝負だ! 」
「 あ、グランフォードのオジちゃん! お帰りなさい 」
「 何だ、ソフィー。 クーパーと、遊んでたのかい? 良かったな 」
俺はフロントで、クーパーと向かい合って、カードゲームをしていたソフィーに声を掛けた。
「 うんっ! カエルさんと、カードゲームしてたの。 ソフィー、強いんだよっ? 」
ソフィー… クーパーが、弱過ぎるんだよ。 コイツは、俺にも勝ったコトが無い。
クーパーが言った。
「 けっ、まぐれだよ! 」
お前… 子供相手に、ムキになるなよ。 遊んでたんじゃなくて、遊んでもらってたんじゃないのか?
「 オジちゃん。 この人たち、お友だち? 」
ソフィーが、ルーゲンスたちを見とがめ、尋ねた。
「 ああ、そうだよ。 今から、オジちゃんの部屋で、大事なお話しがあるんだ。 もう少し、ココで、クーパーと遊んでいなさい 」
「 はあ~い♪ 」
クーパーは、親衛隊の連中を見て言った。
「 おい… キャプテンG、冗談だろ……? コイツら、部屋に入れるんか……? 」
俺は答えた。
「 事情があってな… とりあえず、宿泊検査ってコトにしといてくれ。 頼むよ 」
クーパーは、エンリッヒやブルックナーを、じろりと見渡すと言った。
「 まあ、オレは構わねえが… 他の客は、怯えるだろうな。 おい… 早く、上がってくれ、あんたら。 そんなトコに突っ立ってもらってちゃ、迷惑だ 」
「 悪いな、クーパー 」
俺は、ルーゲンスたちをフロントから招き入れた。
「 カエルさ~ん。 早く、やろうよぉ~! ねええ~、ねええ~ってばぁ~ 」
ソフィーの小さな手で、頭をペチペチ叩かれながら、クーパーは、俺に言った。
「 ああ、キャプテンG。 先客が、部屋にいるぞ? クエイド人だ 」
アントレーか… そう言えば、酒を持って、訪ねて行くとか言ってたな。
「 バイア部族長のアントレーだ。 赤いバンダナ、してたろ? 」
俺は、部屋に向かう狭い廊下で、クーパーの方を振り向きながら聞いた。
クーパーが答える。
「 ん~… そんな名前、名乗ってたな。 …ああ、もォうっ! 頭を叩くなって言ってんだろっ、このガキ! よし、今度は負けんぞっ! 」
「 ♪ カエルっさん~、カエルっさん~ おっ目めを、キョ~ロキョロ… 」
「 その歌、ヤメろって~のっ! ナニが、キョ~ロキョロだ! 早く、カードを配らんか! 」
部屋の中では、アントレーを中心に大テーブルを囲み、酒宴が開かれていた。
「 あ、お帰りなさい、キャプテン! 先に、盛り上がらせて頂いてますよ? 」
カルバートが、上機嫌な顔で言った。 ニックも、ヘルスから戻って来ている。 幾分、赤い顔だ。 マータフとビッグスも、ほろ酔い気分のようだ。
「 お邪魔してるよ、キャプテンG。 どうだ? 一杯 」
ガラス製の酒ビンを片手に、酒を勧めるアントレー。
「 みんな、客だ。 …おい、ルーゲンス。 クエイドの知り合いが1人いるが、構わないか? 」
俺は、後ろに控えていたルーゲンスに聞いた。
「 君が、信頼のおける人物だと思うのなら、構わない 」
ルーゲンスの答えに、俺は小さく笑うと、3人を部屋に招き入れた。
「 ……!! 」
彼らの姿を見た途端、ニックとカルバートの顔が引きつった。 ビッグスなんぞは、口にしていた酒の入ったコップを、ポロリと落とし、彼らを凝視している。 さすがに、アントレーもびっくりしたらしく、小さく言った。
「 し… 親衛隊……! 」
ルーゲンスは、踵をピシッと合わせると敬礼し、言った。
「 情報局 情報1課の、ルーゲンスだ。 以後、お見知り置きを…… こっちは、部下のエンリッヒと、ブルックナー 」
ビッグスが、しどろもどろで言った。
「 キキキ… キャプテン……! なな… ナニしたんスか? タイホですかっ…? 」
ニックが慌てて、テーブルの上に置いていたヘルスの割引券をポケットにしまい込む。 マータフは、じっとルーゲンスたちを見つめ、警戒した。
……俺は、全てを話した。
アントレーが持って来た地酒を飲みつつ、皆は、じっと聞き入っていた。 いつもは陽気なニックも、さすがに今回は真剣な表情だ。
全てを説明した後、マータフが、ため息をつきながら言った。
「 デービスに、ロイド… フィンチ、ベイル、ゴンザレスに… キャンベルのヤツまでも、シュタルトの策略で死んだのか……! 」
俺は答えた。
「 間違い無い… とは言えんが、その公算が大だ 」
マータフは、続けて言った。
「 ワシが、『 赤城 』の機関長だった頃も、各艦長たちは、事あるごとにシュタルトと対立しておったな…… ヤツは、自分の出世の事しか、頭に無い。 独りよがりな作戦には皆、閉口していたようだ 」
テーブルの向かい側に座っていたエンリッヒが、マータフに尋ねた。
「 貴殿… 『 赤城 』に乗艦でおられたのか? ウィルソン提督時代の……! 」
マータフが答える。
「 いかにも。 ウィルソンとは同期じゃ。 数年前、ガンで死んだがな… いいヤツじゃった。 ベッドの上で死んだ、数少ない将官じゃ…… 現在の『 赤城 』の艦長は、ワシの後輩の、クラウツ少将じゃ。 あいつも、偉くなったモンじゃな。 第1艦隊の、艦隊副司令じゃからのう 」
エンリッヒが言った。
「 自分は、ウィルソン提督の後輩であります。 士官学校では、随分とお世話になりました 」
マータフは、酒の入ったコップを持ったまま、エンリッヒを指し、言った。
「 ……思い出したぞ…! エンリッヒ…… そうだ、エンリッヒ少佐! ウィルソンの軍籍40周年記念パーティーに、第2連合艦隊からの来賓で招かれておったろう? 確か、第4艦隊…! ウィルソンと、出身が同じとかで……! 」
エンリッヒが、嬉しそうに答える。
「 はい! 同席させて頂いてました。 懐かしいですなあ! 貴殿も、その席に? 」
「 いや、ワシは孫の結婚式があってな…… あとで、座席カードの記録をウィルソンから見せてもらって、あいつが、そう言ってたのを覚えてたんじゃ 」
ウィルソン提督は、第1連合艦隊きっての名将だ。 その敏腕に憧れた将官も数多い。
マータフは続けた。
「 ウィルソン提督の前任者を知っておるか? 初代『 赤城 』艦長、連合艦隊生みの親で、第1連合艦隊 初代長官の… 」
…おい、マータフ。 やめろ…!
エンリッヒは、自慢げに答えた。
「 もちろん。 名将、フィリップ・フォン・グランフォード中将ですな。 お会いした事は、無いですが… 」
マータフが、ニヤニヤしながら言った。
「 その、ご子息には、会えるぞ? お前さんの、目の前にいる……! 」
エンリッヒが、俺の方を向いた。 怪訝そうな顔をしていたが、やがて理解したらしく、驚愕の表情で言った。
「 …こっ、これは、何とっ…! お名前が同じである事は、気付いておりましたが、まさか… いや、恐れ入りました、グランフォード殿っ……! 」
慌てて立ち上がり、最敬礼するエンリッヒ。 ブルックナーも立ち上がり、敬礼した。
「 やめてくれよ、2人とも…! 確かに、親父は英雄だったが、俺は駄作だ。 足元にも及ばん 」
俺は、2人を座らせた。
ニックが、ビッグスに耳打ちする。
「 ……おい、聞いてたか? お前 」
「 軍人だった、ってのは、聞いてたケド… そんなエライ人の息子だったなんて、オレも初耳だ……! 」
アントレーが言った。
「 血は、争えんな… キャプテンG。 我々、クエイドにしてくれた行動そのものが、お父上の血だ 」
ここでまた、そんな、くすぐったい話しを出すな、アントレー。 みんな、この俺を過大評価し過ぎだってば……!
俺は、話しを戻した。
「 過去の逸話話しは、またの機会だ。 …現状を、再認識してくれ。 俺たちに残された選択肢は、今のところ、2つしかない… ルーゲンスの話しに乗るか、トンズラするかだ……! 」
カルバートが言った。
「 戦争なんて、オレたちにゃ、カンケーないですが… 功績を挙げる為に、仲間をエサにしたのは許せんですねえ……! 」
ニックが言った。
「 でも、キャプテン。 断わっても、この話し… これでシメ、ってワケじゃ無いっスよね? 」
酒をひと口飲みながら、俺は答えた。
「 まあ、そんなトコだな。 カタルスの片田舎辺りで高粒子ミサイルを打ち込まれ、消されるのが順当なコースだ 」
ビッグスが、空になったコップを『 ゴン! 』とテーブルに置き、言った。
「 やりましょうよ、キャプテンっ! 放っといても消されるんなら、コッチから仕掛けましょうや! 」
カルバートも同調した。
「 やるしか無いでしょう、キャプテン! シケ込んだって肩身の狭い思いをするくらいなら、コッチから仕掛けるべきです! 」
……どうやら、意見は一致したようだ。
俺は、ルーゲンスを見つめながら言った。
「 ルーゲンス。 問題は、シリウスの潜入だ。 どうする……? 」
ルーゲンスは、持っていたコップをテーブルに置くと、言った。
「 まず、君が、いつ出航するか… だ。 それによって、シリウスの出航も決まる。 おそらく、出航スタンバイはしているだろうが、生鮮食品などは、直前に運び込まれる。 私が手引き出来るのは、その時だな…… 部下の厳選をしているところだが、これといった逸材がいない。 いざとなったら、エンリッヒとブルックナーを、勤務監視の名目で乗艦させるつもりだ 」
エンリッヒが言った。
「 ……ルーゲンス殿。 覚悟は出来ております。 なんなりと申し付けて下さい。 刺し違えてでも、ゲーニッヒは拘束致します……! 」
「 私も……! 」
ブルックナーも身を乗り出し、志願した。
俺は、ルーゲンスに言った。
「 後で、酒場辺りを廻って来るよ。 港にあるフリゲート級の輸送船は、俺のトラスト号だけだ。 デカくて目立つだろうから、荷を頼みたいヤミ商人共が、俺を探してる事だろう。 決まったら、連絡するよ。 …で、シリウスは今、ドコに停泊しているんだ? 」
ルーゲンスが答えた。
「 私も、それについては憂慮している。 シリウスの行動予定は、機密事項に関する事柄だけに、情報局の私にも詳しくは分からない 」
「 シリウスだったら、港のCドックにいる……! 」
その声に、一同は、一斉にアントレーを見た。
ルーゲンスが、いぶかしげに言った。
「 Cドックだと……? 」
AからCまでのドックは軍専用で、外からは見る事が出来ない。 メンフィスの内部、奥深くに設置してあるからだ。 搬入業者でも、ごく限られた者しか入れない。
ルーゲンスは続けた。
「 まずいな……! 私でも、Cドックは、立ち入る事は出来ない。 ううむ… これは当日、緊急に勤務監視の申請を出し、エンリッヒたちに乗艦してもらうしか手は無いな……! でも… なぜ、君がそんな事を知っているんだ? アントレー… とか言ったね? 」
アントレーは答えた。
「 積んで来た野菜を、軍に買い取ってもらったのさ。 明日、納品だ。 Cドックに係留されている、その… シリウスとか言う軍艦に納品してくれ、と言われた。 購入に来たのは、本部 主計課の曹長だったぞ? 」
マータフが補足した。
「 クエイド人だからな… 警戒していないのだろう。 それに、野菜は、艦内の最下部にある保冷庫まで運ばにゃならん。 そういった雑用に、手を汚したくないんじゃろう。 …ったく、下士官までセレブのつもりでいるのう 」
アントレーは言った。
「 …ルーゲンスとやら。 オレを、シリウスの調理課に配属出来んかね? コックとして 」
「 コック? そりゃ、出来ない事は無いが… どうするつもりだ? 転職でもするのかね? 」
「 オレが、あんたの部下を手引きしてやるよ。 ただし、殺しはゴメンだ。 ゲーニッヒとやらを拘束するのも、オレ以外の人間でやってくれ 」
これは、頼もしい助っ人だ……!
俺は言った。
「 …いいのか? アントレー 」
「 恩人への恩返しだ。 気にするな 」
アントレーは、小さな目を、更に小さくして笑った。
クエイド人なら、何の警戒も無いだろう。
ルーゲンスは言った。
「 ご協力、感謝する、アントレー。 隊に戻ったら、すぐに手続きをしよう……! 」
「 まあ、一度、軍艦ってヤツにも、乗ってみたかったしな。 しかも、皇帝軍 最大級の戦略空母だ。 こりゃ、良いみやげ話しが出来そうじゃわい 」
酒の入ったコップを傾けつつ、アントレーは、笑いながら言った。
マータフが、呟いた。
「 後は、艦内の見取りですな…… 」
俺は、腕を組みながら答えた。
「 こればかりは、な… M―46までは、2日かかる。 その間、エンリッヒたちに歩き回ってもらうしか無いな…… 」
その時、部屋のドアが開いた。
「 オジちゃん! カエルさんに、ビーズの首飾り、もらっちゃった! キレイでしょ? これ 」
……おい、いるじゃないか…! シリウスの艦内に、超、詳しい者が……!
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