第18話、期は、来たれり……!
イスに縛り付けられたカトウが、目を覚ました。
「 ……ここは…? 君らは、何だ……? 」
辺りを見渡す、カトウ。
傍らのイスで、タバコをふかしていたニックが言った。
「 お目覚めですか? カトウ軍医中尉 」
「 …お前は、ニック… これは、どう言うことだ? 私を… どうする気だ? 」
俺は、カトウの後ろから、後ろ手に腕を組みながら、彼の前に歩み出ると言った。
「 少々、お前さんに、聞きたい事があってな…… あと、我々の作戦が終了するまでは、ココに居てもらう。 騒がず、我々に協力すれば、命は保証する 」
……後で軍法会議に掛けられ、皇帝軍を追放になるだろうがな。
バウアー大佐が、俺の横に出て仁王立ちになり、カトウを怖い顔をして見つめている。 その横には、シュタイナー、ブルックナーの姿があった。
カトウは、ブルックナーを見とがめると、生唾をゴクリと飲み、言った。
「 親衛隊……! そうか… お前たち、潜入兵だったんだな…? 親衛隊のガサ入れか……! 」
違います。 茶目っ気ソフィー提督配下の特殊精鋭部隊です。 この作戦が成功したら、おやつが貰えるの……
まあ、勝手にカン違いしとけ。 その方が、手っ取り早い。
俺は、傍らにあったイスを引いて来ると、カトウの前に置いた。 背もたれを前に、跨ぎながら座る。 カトウを脅すような視線で睨み、背もたれの上に両腕を乗せた。
「 さて…… 」
ゆっくりと、両腕の上にアゴを乗せ、少し上目遣いにすると、静かに言った。
「 ブツのばら撒き先を全部、喋ってもらおうか? 」
「 …… 」
無言の、カトウ。
俺は言った。
「 まあ、すんなり喋ってくれるとは、思っていないよ。 …おい、ニック! 」
「 ……へい 」
「 喋りたくないと、おっしゃってるんだ。 お相手してやってくれ。 なめらか~に、お喋り遊ばすまで、永~遠になァ……! 」
「 へええ~ぇぇぇ~い……! 」
気色悪い返事をしたニックが、チャキッ、と飛び出しナイフを取り出した。 冷たく光る刃先を、ゆっくりと人差し指でなぞり、カトウを見ると意味ありげに、ニヤ~っと笑った。 それを見たカトウの顔面から、ス~っと、血の気が引いていく。
ニックが、刃をなぞりながら、うつろな表情で言った。
「 軍医さんよぉ… 人間って、どれだけ血を出すと死ぬのかな? んん~…? 教えてくれよ。 なあ……? 」
ナイフの刃先を、カトウの首筋に、ピタピタと当てる。
「 ひえ… や、やめ… やめろぉ~……! 」
「 凄んげ~、イタいよ? これ…! ほおぉ~ら、ほらぁ~…! ぷすぅ~って、刺さっていくぜえぇ~? んんん~……? 」
……お前、エゲつない脅し方するじゃねえか。 しかも、妙に手馴れた感じがするのは、気のせいか……?
「 や… やめ… やめろおぉ~っ! 言う、言うっ! 言うから、やめろぉ~っ…! 」
カトウは、あっさりとオチた。
ブルックナーが、もう1つ、イスを引いて来てカトウの横に座り、ボイスレコーダーを出した。 俺も、ソフィーの落書き帳を手に取り、その横で筆記の用意をする。
ブルックナーが、ボイスレコーダーの電源を入れながら言った。
「 カトウ軍医中尉、どうぞ 」
カトウは、10名以上の名前を喋った。 下士官・士官に始まり、何と、将官の名まである。
俺は、可愛らしいピンクのインクで印刷されたソフィーの落書き帳に綴られたリストを、ブルックナーに渡しながら言った。
「 これでも、そのレコーダーと合わせれば、立派な公的調書だ。 全員、階級剥奪の上、懲罰だな。 あとは、お前さんの仕事だ 」
「 了解です…! 軍律の引き締めに、一役買えましたね! 」
メンフィスを出航し、海王星を過ぎる。
航行が落ち着いた頃、シリウスの作戦会議は召集された。 各ブロックごとに、指揮官とその側近・書記官らが出席する。
ブリッジの上層にある、広い第1会議室…… 総勢、約30名近くの将官たちが集まっていた。
バウアーが、隣の控え室に、信頼出来る部下20名ほどを武装させ、待機しているが、先の、元帥の事もある…… 俺はバウアーには告げず、シュタイナーを、その隣の部屋に待機させた。 もし、バウアーの部下に、内通者がいた時の為の用心だ。 更に、その保険としてニックに、会議室の階のトイレ掃除をさせてある。 勤務態度不良の名目だ。 ヤツにも、自分の拳銃がある。 イザという時には、約に立つだろう。
俺は、例によって通気口を使い、会議室の上に来ていた。 金網越しに、まさに高見の見物である。
やがて、副艦長のラインハルト少将が議長となり、作戦会議は始められた。
「 諸君。 会議、ご苦労だ。 始めに通達事項がある 」
このラインハルトは、俺も面識が無い。 以前は、第2連合艦隊所属の第1艦隊司令官だったそうだ。
俺が、第7艦隊にいた頃もそうだったが… ラインハルトの第1艦隊は、作戦に参加した事はあっても、実際に、戦域に進出した姿を見た事が無い。 いつも、シュタルトの旗艦『 アンタレス 』を護衛しているだけだった。 要は、そういう間柄なのだろう。 コイツも、身の安泰しか頭に無い、無能指揮官だ。 ラインハルト家は名門だからな……
ラインハルトが続けた。
「 本日、出航して間もなくの事だが… 先の、逆賊事件の首謀者として幽閉していた前任 連合艦隊長官 バルゼー元帥が、個人房から脱走した。 おそらく、手引きをした者がいる。 警ら隊が捜査しているが、今のところ、発見出来ていない 」
出席者たちが、ざわつき始めた。
「 …静粛に! 元帥を見つけ、拘束した者には、階級に関係無く、報奨金を出す。 この際、元帥の生死も問わない。 また、情報を提供してくれた者にも、同じように報奨金を出す。 諸君らからの情報を待っている……! 」
( 報奨金の替わりに、鉛弾をくれるんだろ? お前らの考えてる事は、見え見えだぜ……! もし、情報提供者が将官なら、後日の作戦で、艦隊ごとエサにされるのがオチだ )
ダクトの中で聞いていた俺は、毎度の事ながら、段々とハラが立って来た。
やがて、静かになった頃合を見計らい、ラインハルトが言った。
「 では、今回の作戦を説明する。 目的は、M―46 第12番惑星『 アーウィン 』の解放軍前線基地の攻撃だ。 これを、全滅せしめる事にある。 現在、解放軍の物資を積載した民間輸送船『 トラスト号 』を追跡中であるが、この輸送船は、解放軍の諜報機関に所属し、我が皇帝軍を、脅威にさらす反逆者が操船している。 物資を受け取りに来た解放軍共々、粉砕せよ! 」
うへっ…! 逆賊設定かよ…! しかも、諜報機関に所属と来たか。 メチャクチャだな。 例によって、作戦の方も、順序もナニもあったもんじゃない。 とにかく、目標設定したら、ブッ放すだけじゃんか…… あんたらには、参謀は要らんわ。 多分、ソフィーの方が、もっとマシな作戦を立てるぞ?
「 攻撃は、キャノン砲で行いますか? それとも、ミサイルで? 」
1人の将校が尋ねた。
ラインハルトが答える。
「 キャノン砲だ。 その方が、早く終わる。 一斉射すれば、充分だろう。 艦載機でやりたいのかね? リッター准将 」
……コイツが、リッターか。 カイゼル髭を生やし、いかにも貴族出身といった風体だ。
リッターが答えた。
「 航空参謀のライヒ中佐が、ヒマで困ると申しております 」
隣にいた太っちょの将校が、苦笑いをしながら頭をかいた。
……てめえの作戦は、第2連合艦隊の中でも最低、との批評と聞くぞ? ライヒ中佐。 大体、戦闘機に触った事も無いヤツが、何で、航空参謀やってんだよ? もしかして、爆撃機と、雷撃機の区別もついてないんじゃないのか? …士官学校在学時代も、ほとんどベガの高級クラブに入り浸っていたって話しらしいな。 親分のシュタルトに、コネ効かせたな? ……まあ、いい。 どうせ、お前さんもカトウ君リストに載っておるわ。 せいぜい、あと数時間の『 我が世の春 』を謳歌していてくれたまえ。
ラインハルトが言った。
「 今回の任務は、6日だ。 帰りの行程を考慮すると、戦闘は、なるべく早く終息させねばならん。 今回は、砲撃にて任務を遂行する。 ゲーニッヒ長官のパーティーが、8日後に迫っておるしな 」
そう言ってラインハルトは、隣に座っていたゲーニッヒを見た。
満面の笑顔を湛えると、ゲーニッヒは答えた。
「 シュタルト提督の依頼とは言え、面倒くさい作戦だ。 早く終わらせて、パーティーの準備をしなくてはならない。 ライヒ君。 君の華麗なる指揮は、また今度の機会にお願いするよ 」
( ヤツの指揮が華麗なら、俺の指揮は、神業だぜ。 パーティーの準備だと? 聞いて呆れるわ。 戦闘任務より、ソッチの方が大事らしいな……! )
聞いた話だが、パーティー券は、30万ギールくらいするらしい。 そんなモノを社交辞令で購入させられるのは、ハッキリ言って迷惑以外の何物でも無い…! 政治家か? お前ら。 配下の将兵たちの苦労… 心中、察し余るぜ。
俺は、首脳陣席と思われる一角の、長テーブルに着席している幹部連中の顔を確認した。
ゲーニッヒにラインハルト、ライヒ中佐、リッター准将…… 一番、隅の席に、少佐の肩章を付けた将校が座っている。 会議の書記官を務めているようだが、どうもコイツが、1等警務官のタイラー少佐らしい。 他にも、ゲーニッヒ派はいるだろうが、メイン連中は欠席者も無く、全員いる。 長テーブルの、やや後方の特別席には、ブルックナーの姿も見えた。
やるなら、今だ……!
俺は、無線の呼び出しボタンを押した。
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