第26話 『ヘンゼルとグレーテル』をリメイクしてみた

「私、理解したわ」

「何をだ」


 願わくば、リメイクが既に不毛なものとなっている事実を理解していてほしい。


「リメイクって話の中を変えるだけじゃだめだと思うの」

「と言うと?」

「タイトルも変えます」

「待て」


 そこはアンタッチャブルな領域ではないのか。


「だって『現代版○○』って表現よく見るじゃない」

「だからってタイトルを変えたら元の話が分からないだろ」

「あ、大丈夫。その辺はちゃんとわかる程度には残すから」


 さて、一体どんな話を作るのか。


「じゃあ行くわよ」

「ああ」

「『ヘンゼルがグレてる』」

「ちょっと待て」


 最初からおかしい。


「物語は、グレた兄に手を焼いた親が兄妹もろとも森に捨てる所からスタート」

「部分的に踏襲した上で現代版かよ」


 元ネタはグリム童話。言うまでもないが『ヘンゼルとグレーテル』だ。

 飢饉で生活が立ち行かなくなった家が子を捨てる話だ。父親は優しかったのだが意地悪な継母が兄妹を邪魔に思って捨てたんだったか。


「『ふう……穀潰しが居なくなって清々したわ』『ただいまー』『グレーテル、なんで帰ってこれたの!?』『お兄ちゃんが月明りで光る石を落として目印にしてたの』」

「そこは原作を踏襲するのか」

「『おいコラ、森に置いていくとはどういう了見だ、ああん!』『ああ、なんと言うことでしょう。継母ままはははヤキを入れられてしまいました』」

「物語風に言われても怖いわ!」


 昔話でヤキという言葉が登場するとは思わなんだ。


「『うぉら、こんの◎△$♪×¥●&%#?!』」

「日本語を話せ!」

「あまりに汚い言葉なので、放送できませんでした」

「表現規制に抵触させるな!」


 ヘンゼルが無敵すぎるだろ。


「それでも継母ままははは二人を捨てることを諦めませんでした」

「そりゃ逃げたくもなる」

「『今度は両親に連れられて兄妹は森の中へ入りました。ヘンゼルはポケットの中でお弁当に持たされていたパンを砕き、道しるべとして落としていきました』」

「ここは原作通りか」

「『しかし途中で足りなくなったので両親のお弁当からもパンを拝借して利用しました』」

「鬼かお前は!」

「『暴力による恐怖が染みついた継母ままはははヘンゼルのすることに何も言えなかったのです』」

「むしろ早く逃げろ!」


 逃がしたい。このヘンゼルから。


「『そして森の奥で二人は置いて行かれました。夜になっても両親が迎えに来ないので二人はパンの目印をたどって帰ることにしました』」


 だがこのパンは森の鳥たちが食べてしまって帰れなくなったんだったな。


「『パンが食べられてしまっていたので、ヘンゼルはパンを食べた鳥を捕まえて食べました』」

「ワイルドすぎるわ!」


 サバイバルにやけに慣れてるぞこのヘンゼル。


「『こうして森の獣を食らいながら二人は家に帰ってきました』」

「戻ってくんじゃねえよ!?」

「『ピー』」

「なんだその声は」

「『ヘンゼルの報復暴力シーンのため、しばらくお待ちください』」

継母ままははーっ!」


 放送コードに抵触しやがった。


「『その後、なんやかんやあって二人は森から帰れなくなりました』」

端折はしょるな!」


 適当が過ぎる。どうやったらこいつら置いてこれたんだよ。


「『二人はさまよった果てに、お菓子でできた家を見つけました』」

「でもまあ、やっと本筋に戻ったか」

「『うお、ヤバくねこれ。全部お菓子だ』『ほんとだ、ネットに挙げちゃお』」

「さらすな!」


 というか、グレーテルも結構ノリがいい方だった。


「『はい、今回はお兄ちゃんと一緒にお菓子の家を食べるのに挑戦しようと思いますー。拍手ー!』」

「配信してんじゃねえよ!?」

「『なんだい、騒がしいねえ』『二人が盛り上がっていると、中から目の不自由な老婆が現れたのです』」

「魔女の登場か」

「『老婆は二人を家に誘い、もてなし、寝床を用意してくれました。しかし実はこの老婆、子供をおびき寄せて食べてしまう悪い魔女だったのです』」

「そこは原作通りか」


 どこで変な改変をぶち込んでくるかわからんから油断できん。


「『ちなみに子供を食べるとは変な意味ではありません』」

「わかっとるわ!」


 こう言うところだよ!


「『翌朝、魔女は本性を現し、ヘンゼルを家畜小屋に閉じ込め、グレーテルに食事を作れと命令してきたのです』」

「確か太らせて食べるためだったか」

「『別にデブ専ではありません』」

「わかってるっつーの!」

「『しかしヘンゼルは魔女が目の不自由なのを利用して、食事で出された肉の骨を掴ませて自分が太っていないように見せかけたのです』」


 何故だろう。本編と同じなのにこのヘンゼルだとそういう悪知恵が働きそうな気がした。


「『いくら食べさせても太らないヘンゼルに業を煮やした魔女は痩せていても食べることにしました』」

「クライマックスが近いな」


 確かグレーテルも焼いて食べてしまおうとかまどに入れようとしたら逆に閉じ込められて焼かれるんだったか。


「『おや、なんだか外がうるさいね?』」

「ん?」


 なんだ、知らない展開だぞ?


「『子供たちを救えー!』『なんと一部始終がグレーテルのスマホで中継されていたのです』」

「そっちの炎上かよ!?」

「『老婆は逮捕され、ヘンゼルとグレーテルの二人はこの配信の広告収入でひと財産を築いたのでした』」

「ちゃっかりしてんなこの兄妹!?」

「『そして、二人はまたお父さんと継母ままははのいるおうちに帰ることができたのです』」

継母ままはは逃げて!」

「『めでたしめでたし(血文字)』」

「めでたくねえよ!?」


 主に継母ままははが。というかなんだそのカッコ書きは!?


「『エンディング』」

「は?」

「『柔らかな風が吹くこのーばーしょでー』『いまふたり、ゆっくりとあるきだすー』」

「ちょっと待て」


 なんでエンディングテーマ。

 そして、何故その歌なんだ。


「いや待て、歌ってるのはまさか」

「ヘンゼルとGLAYグレイTERUテル

「そこをコラボさせるな!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る