第20話 『マッチ売りの少女』をリメイクしてみた
「社会悪を取り上げてみたいわ」
「昔話でか?」
昔話は現代だと子供の教訓になるものが多いが、さらに一歩踏み込んだな。
「そう、リメイクするなら現代社会の抱える問題も浮き彫りにしなくちゃいけないって気づいたの」
「随分と遠回りだったな」
確かこれで20作分近くは作ったか。
「と、言う訳で今回は『マッチ売りの少女』を」
「また難儀な話を」
こいつはアンデルセン童話の一つだ。
年の瀬にマッチを売り続けていた少女が寒さのあまり暖を取るためにマッチを擦ると、色々なものが現れて最後には天に昇っていくと言う話だ。
「救いがない話は確かに社会悪を取り上げるには持って来いだな」
「でしょ?」
しかしこの話で社会悪と言うなら少女の貧困か無茶な労働を子供に課すことに対する問題くらいしか取り上げられないのではないだろうか。
「まともな話になるんだろうな」
「荒唐無稽な物にはならないわよ」
そんな訳で今回もリメイクが始まった。
「大みそかにマッチを売るのはそのままか?」
「まー、タイトルはちゃんと守らないとね」
となると、火を点ける辺りがリメイクか。
「『そうだわ、マッチを擦って温まろう』『マッチの火はとても温かでした。少女はいつの間にかストーブの前に座っているような気がしました』」
だがこれは幻影だ。
少女は次々とマッチを擦り、やがて死に至る。
「『家の中では人々が美味しいご飯を食べている。何故このようなことになったのか……』」
「ん?」
こんな件があったか?
「『それもこれも、こんな日にマッチを売れと言いつけた父親のせいだ』『売れなければ彼は少女をぶつのだ』『彼はどうせ家で酒を飲んでいるのだろう』」
やはり児童虐待の方向性か。
まあ、リメイクの範疇と言えるだろうか。
「『少女は激怒した。かの邪智暴虐な父を除かねばならぬと決意した』」
「走れメロスになってるぞ」
「『御伽ニュースです』」
何か始まったぞおい。
「『本日、少女が父親を刺し殺すと言う悲しいニュースが入ってきました。彼女は日ごろから暴力を振るわれており……』」
「バイオレンス方向はやめろ!」
油断も隙も無い。
「『評論家としてはどうですか?』『最近の子供はすぐにキレますからね。やっぱりゲームやアニメの影響でしょう』」
「関係各所に物議を醸す発言はやめろ」
ある意味、何でもアニメに結び付ける奴も確かに社会悪だが。
「ちゃんと本筋の流れに沿ってやれ」
「うーん」と、しばらく考えた後、部長は話を展開し始めた。
「『少女がストーブに手を伸ばすと、マッチの火が消えてストーブも消えてしまいました』」
「そうだ。それでいい」
「『次に少女がマッチを擦ると、御馳走いっぱいのテーブルが現れました。次のマッチで大好きだったおばあさんが……』」
そして、クライマックスに近づいていく。
「『御馳走の上に落ちてきました』」
「何で同じ場所に登場させた!?」
そこは別個の場所にしてあげろ。
「『……ぷっ』」
「笑ってんじゃねえか!」
「『御伽ニュースです』」
「また出た!?」
「『本日、マッチに火を付けながら幻覚を見ている少女が保護されました』」
「薬物問題みたいになってるじゃねえか!」
確かに薬物も問題だけど!
「『少女は保護された時、「私は天に昇ってる!おばあさんと一緒ー!」と、意味不明な事を口走っており……』」
「そう言う意味で天に昇るのはやめろ!」
ハイになってんじゃねえか。
「『これはアニメの影響ですね』」
「他に言うことないんか評論家!?」
「クスリ、ダメ、ゼッタイ!」
「うるせえよ!」
毒がありすぎる。
薬物と言うより、話の中自体に。
「もうちょっとこう……元の話みたいに少女が可哀想な感じに終わらないのか?」
そして部長は思案して、もう一度やり直す。
「『マッチの火が消えることを恐れた少女は慌てて持っていたマッチに火を付けました』」
「よし」
「『そして、焚き付けも用意し、火が消えない様に見事なキャンプファイヤーを作り上げました』」
「すげえな!?」
「『御伽ニュースです』」
今度は何だ。
「『本日、街の一角から火の手が上がり、ひと区画を全焼する大火災に発展しました』」
「大惨事じゃねえか!」
「『警察は、付近でマッチを擦っていたとみられる少女を逮捕しました』」
「おい!?」
「『少女は取り調べに対して「寒かったので火を点けた。燃え広がるとは思っていなかった」と供述しています。この件について評論家はどう見ます?』『これは貧困が招いた結末ですね。この事件は社会に問いを投げかける……我々の心に火を灯す結果になればいいと思います。火事だけに』」
「上手い事を言ったつもりか!」
「後日、この発言が不謹慎だとSNSが大荒れに」
「炎上してんじゃねえか!?」
「火事だけに」
「やかましいわ!」
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